エピローグ①
ルナです。
マリアお姉さんとカインお兄さんと一緒に暗いところから出て何日か経ちました。
「ところでルナ。あなたは寝る前は何歳だったかしら?」
「十二歳です」
「孤児院に残っていた記録を漁ったらルナが封印されていたのは十年前みたいよ」
「ってことは……」
「今は二二歳ね。カインが一番年下ね。ルナを敬いなさい」
「その十年は成長が停まっていたのに年齢にカウントしていいのか?」
どうやらルナはカインお兄さんよりお姉さんらしいです。
でもお兄さんはお兄さんなのでややこしいカインお兄さんと呼びます。
そしてルナはお姉さんとして言いました。
「カインお兄さん。パンかってこい」
「どこでそんな言葉覚えたんだ!?」
「この前マリアお姉さんの小説で」
「おいコラ、マリアァ! 子どもの教育に悪いもん読ませてんじゃねえ!」
「うるさいわね。私の小説のどこに文句があるのかしら。今は不良騎士と被虐体質の聖女のタッグが流行っているのよ。私の中で」
「なんで不良の方の言葉を覚えさせてんだよ!? つーか聖女をパシる騎士ってなんだよ! 逆だろふつう!!」
「”いいから行きなさい”」
「てめぇ祖の命令を!! 覚えてろよーー!!」
本当にカインお兄さんとルナお姉さんは仲が良いです。
カインお兄さんはルナのためにパンを買いに近くの村へ行きました。あとマリアお姉さんの書いた小説は楽しいです。
でも「この蒼き空を駆け抜ける影の王として黄昏の天使に血貴族の鉄槌を喰らわしてやろう」──って感じの難しい言い方が多くて読むのが大変です。
なので途中で投げ出しました。
近くの鳥さんに話しかけるとどうやら今日は一日中晴れみたいです。こんないい天気なのに鳥さんも木さんも地面さんも凄い怯えていました。
声がない人たちの心はなんとなくしか読めません。鳥さんもさっさと行ってしまったので何が怖いのか分からなかったです。
カインお兄さんが買ってきたパンの上に焼いたベーコンを載せてくれました。
ひさびさにご飯を食べます。
「あれ?」
わたしは死なないので天使教の人たちはごはんをくれませんでした。
なので久しぶりに食べたものは何でもおいしく感じます。
それでも──どうしてでしょう。
──ごはんがおいしい。
──それだけなのに。
──涙が止まりません。
──おいしくて。おいしくて。
──あったかくて。やさしくて。
あっという間に二切れも食べてしまいました。
もっとゆっくり食べればよかったです。
二人はルナと同じものを食べません。
「いいなぁ。俺もベーコンを乗せたパン食いてぇなぁ」
「食料は一人分しかいらないわ。それともカイン。ルナから食べものを奪うつもりかしら?」
「そんなわけないだろ」
お兄さんがわたしのパンを欲しそうに見つめるものだからマリアお姉さんが注意しました。
「そのうち犬のように涎を垂らしそうね」
「うるせぇ! 嫌味ったらしくたしなめるな! 分かってるよ」
「そもそも胃袋が違うのだから血じゃないと生命力を摂取できないわ。パンを食べてもそのままウンコになって出るだけよ」
「綺麗なお嬢さんがウンコっていうな!」
だ、そうです。
二人は人の血を吸わないといけなくて大変そうでした。
二人とも血が必要だからどこからとってくるかで最初はもめてました。
誰にも傷ついてほしくないカインお兄さん。
何としてでも生きなければいけないマリアお姉さん。
お兄さんはお姉さんが人を襲うのをみたくないし、お姉さんは何としてでもお兄さんを生かしたいと思っています。
思っているのにぶつかってしまう。
まるでわたしのお父さんとお母さんのようです。
そこでルナの出番です。
ルナの血をあげるよといったらカインお兄さんもマリアお姉さんもすごい悲しそうな顔をしました。
それでもわたしの血を受け取ってくれました。
わたしは嬉しいです。
今までわたしがどれだけ痛い目にあっても悲しんでくれる人はいませんでした。
いつも二人の心はルナのことを真剣に考えてくれています。
だからルナは二人のために何かしたかったんです。
血を吸うとき、まずお姉さんがわたしから血を吸います。
首がちょっと痛いですがすぐに治るので平気です。
するとカインお兄さんが言いました。
「待てよ。スライムのマリアがルナの血を吸ったら若さも吸収して若返っちまうのか……!」
ブッと吹き出しそうになったお姉さんがとっさに口を手で覆い、血をゴクリと飲みました。そしてすごい咳をすると顔を真っ赤にして言います。
「そんなわけないでしょ! この姿は生前の十六歳のものよ! そこから変わらないわ!」
「でもその血を俺が吸ったら俺がマリアになっちまうのか……!?」
「だからそんなことないって言ってるでしょう! このお馬鹿!」
そしてお姉さんはお兄さんにちゅーして血を渡しました。
ちゅーが終わるとお姉さんの顔はもっと真っ赤になってました。
本当に仲がいいですね。




