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白波の騎士物語~滅ぼした世界を救う~  作者: 555
第三章 白波の騎士
32/45

3-3 始まりの終わり③

 カインは夢を見ていた。

 それは悪夢だった。

 夢と断ずるのは現実で起き得ないことだからであり、

 悪夢と呼ぶのは起きたことが最悪としか言えないことだからだ。


 まず現実と同じなのは孤児院にいるところだった。

 だが三頭騎士からカインを助けたのは白波ではなくマリアだった。

 斧の一撃で三頭騎士も異形の肉塊も真っ二つにしてカインを救うと使徒の首を刎ねて倒した。


 ルナを助け、部屋から出ようとすると首から上が宝石になった怪人が復活する。

 そこでマリアが足止めを買って出た。カインはルナを連れて孤児院を出たが、そこで天使教の枢機卿と首から上が人の上半身になっている毒猿に出くわしてしまう。

 アリアンロルデの一撃でカインは意識を失った。


 恐らく首を吹き飛ばされたんだろう。

 だが当の自分はヴァンピレスになったと気付いてないためただ気を失ったと思っていた。


 次に生き返った時、目の前にあったのは戦いの結末だった。

 体中に氷塊が突き刺さった毒猿。上半身だけになった枢機卿。

 そして宝石頭の怪人とそれに捉えられているルナだった、 

 黒赤緑の遊色反応を示す鉱物が生えた怪人は透明な触手を頭から生やしてルナの全身を掴んでいた。

 そしてまるで雑巾を絞るような何かが零れる音がしてルナが苦しむ。


「や、やめて……」


 カインはそれを見ていることしかできなかった。

 身体は治っている。武器だってある。

 怪人はルナから吸い取るのに夢中でこちらへ注意を向けていなかった。


 でもカインは怖かった。痛いのが嫌で、苦しいのが嫌で、怖くて怖くて仕方なかった。

 吸い取って満足したのか怪人は喜びの声を上げると怪人は森へと走り去る。

 敵が消え心の底から安堵した。次にルナを見捨てた自分に自己嫌悪し、言い訳じみた考えを巡らせる。


(だってしょうがないじゃないか。命は惜しいし、俺に何ができたっていうんだ)


 三頭騎士との戦いでカインは十分な絶望と痛みを味わった。

 二度と味わいたくないという思いが縛鎖となって彼を拘束したのだ。

 そんな自分がどの口で、と思いながらも心配してルナへ声をかける。


「大丈夫か?」


 少女は光の消えた目をこちらに向けた。


「どうして……わたし……もう一人……こんなのばっかり」


 顔からはあらゆる表情が消え失せ、口からは絶望を囁いていた。


「もういい……わたし、死にたい」


 その一言が合図だったのだろう。

 少女の体が干からびて一瞬でミイラと化した。

 驚くカインのすぐ前でポトリと小鳥が落ちて死んだ。

 一羽だけではない、次々と雨のように鳥たちが落ちて死ぬ。


【『死にたい』『死にたい』『死にたい』『死にたい』】


 呪いの声が輪唱する。

 声の主は先ほどの怪人だった。

 自分を始末しに戻ってきたのかと怯えるが様子がおかしい。


【『死にたい』『死にたい』『死にたい』『死にたい』】


 みるみる間に干からびていく。

 そして膝から崩れ、死んだ。

 頭部の貴石は光を放っておらず、ただのクズ石と化していた。

 だが怪人が死んだ後も輪唱は続いていた。


【『死にたい』『死にたい』『死にたい』『死にたい』】

「あ、ああああああ」


 カインは訳が分からないまま本能の赴くままにその場から逃げだす。

 どこまでも、どこまでも。行き先も分からないまま。

 森は大きく様変わりしていた。


 虫の鳴き声はない──既に絶滅している。

 鳥の囀りもない──既に絶滅している。

 獣の咆哮もない──既に絶滅している。


「ありえない! ありえない! こんなこと、あるわけがない!」


 森は死体の博覧会場と化していた。そこら中で生物が死んでいる。

 腐敗したもの、干からびたもの、白骨化したものが転がっていた。

 どうりで静かなはずだ。

 森の中の生物が息絶えたのだ、

 音を立てるものはカイン以外いない。


 でも、ずっとルナの声が聞こえる。

 『死にたい』と森全体から彼女の声が聞こえる。

 いいや、本当に死にたいだけか?


【『死にたい』『死にたい』『死にたい』『死ね』】


「く、あ、ははは、ははははははは」


 カインは意味も分からない笑い声を上げて森の中を走り続ける。

 何もかも吐いたはずなのに吐き気がこみ上げ、全身から冷や汗が止まらない。

 とにかく逃げよう──何から?


【『死にたい』『死ね』『死にたい』『死ね』『死ね』】


「あーはっはっはははははは!」


 呪いの声が少しでも聞こえなくなるように大声で笑いながら森を駆け抜ける。

 そして狂ったように──あるいは狂ったまま南の海岸線まで辿り着いた。

 南洋に辿り着いたとき、世界はどうしようもなく壊れてしまったと理解した。


「はは、はっはは。なんだよこれ……」


 海はなくなっていた。総て干上がって白い塩だけが残されている。

 波打ち際だった場所には魚や海棲生物の死骸が打ち上げられ、海鳥も死んでいた。

 世界に死が満ちている。だが未曽有の天変地異はそれだけにとどまらなかった。


「空が……赤く……」


 青い空が突如として赤く染まり赤黒い星が空から落ちてきた。

 それはカインの頭上を越えて西の方へ落下していき、遥か彼方から世界の終わりを示す鐘の音のような轟音が届いた。

 音が止むと大気が鉄臭くねばついた。

 空気が穢れる。呪いが満ちて肺が腐る。


「う、あ、あああああああ!」


 腐汁と血の混じったものを嘔吐する。

 息を吸いたくて天を見上げると太陽が血のように赤黒く変色していく途中だった。

 大地が震動して枯れ草が燃えるほどの高熱を放ち、次には大地から怪物が生まれてくる。


「竜……か?」


 その姿は本の挿絵のそれだった。

 地竜たちは圧倒的な魔力を周囲に撒き散らし、そこら中で山火事が発生した。

 徐々に『死にたい』と『死ね』の幻聴は小さくなっていった。


 お前のせいだと。

 お前が何もしなかった結末がこれだと誰かに言われている気がする。


「違う……俺のせいじゃない。俺は生きたかっただけだ。

 それでこんなになるなんて思わなかった!」


 不思議とこの光景はあのルナという少女が関係していると思った。

 彼女が死にたいと言った瞬間に多くの命が滅んだのだ。


 竜の魔力に当てられて意識が飛びそうになる。

 ここで倒れれば死ぬ。燃え滓か、竜の餌か、あるいは腐乱死体か。

 どちらにせよ終わりだ。


「大声でどこまで逃げるのかしら?」


 後ろから声をかけたのはマリアだった。

 怪人と戦ったのに目立った外傷はない。強いていえば少し顔色が悪いくらいか。


「どうやら世界の終わりのようね」

「どうしてこうなったんだ……」

「あの子のミイラを見たわ。それにこの干上がった海に死にたいって声。

 恐らくだけどあの子は『海』と繋がりが強かったのね」

「繋がり? どういう意味だ」


 海が干上がったのとこの状況。

 一体なんの関係があるのだろうか。



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