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白波の騎士物語~滅ぼした世界を救う~  作者: 555
第三章 白波の騎士
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3-2 始まりの終わり②


 大爆発が湖畔の白い砂塵を巻き上げて視界を奪った。

 視界が真っ白の中、怪物から解放されたルナは立ち上がる。

 彼女には傷一つなかった。

 それは不死身の力が働いたのではなく妖精が庇ったからだ。

 その妖精はというと。


【カ……カカ……返……シテ……】


 妖精の五体が崩れる。

 徹底的に破壊されれば妖精だろうと死ぬ。

 ましてやコアである頭部が砕ければなおのこと。


【返……シテ……】


 だが妖精は食いしばった。

 どうしても捨てきれない願いがソレにもあったから、

 肉体の限界を超え、上半身にだけになった体で這って、湖上に落ちたルナへと向かう。

 彼女/彼は何を返してほしいのか。

 妖精たちは何を奪われたのか。

 それはもう、現代では誰も知らない。

 誰も知らないからこそ、せめて知っている自分だけはと足掻くのだ。

 妖精がルナへ手を伸ばす。


「ごめんね、小さなアーポ・アーク」


 さっきまで痛みに泣いていたルナは別の涙を流していた。

 自分を痛めつけた加害者へ怒りや憎しみではなく憐憫の情を浮かべている。


「私の、私たちの権能(ちから)じゃ、あなたは救えない」

【私タチ……ノ……】


 ルナの頬から涙が落ちた。

 宝石めいた頭部は砕け散り、灰色の肉体が塵となっていく。

 妖精が滅んだことで妖精郷の風景が歪んで、元の空間へと戻っていく。

 白い帳が消えて爆発の惨状が目に入った。


「カイン! カインお兄さん!」


 ルナが悲鳴を上げて駆け寄った先にはカインの心臓とそれに集う血液があった。

 心臓だけになっても生きているのはヴァンピレスの親であるマリアの特性を継いだからだろう。

 スライムには急所と呼べるものはないから肉片が残る限り死なない。

 とはいえカインはまだ完璧なヴァンピレスではない。

 不死性を除けば普通の人間と大差変わらない性能だ。

 その再生能力もやはり本家のマリアと比べれば脆弱といえる。

 その証に心臓の鼓動は徐々に弱まっていき、血液も床の染みへと変わっていく。

 全身の復元は今のカインには不可能な芸当であり、ゆえにこのまま死ぬだろう。

 何もしなければ、だが。


「大丈夫」


 ルナの後ろから白波が現れてなだめるようにルナの頭をなでる。

 そしてカインの心臓の前に立つと籠手を外した。

 生身の彼の手が露わになり、すぐに赤い液体となって滴った。

 それはカインの心臓の上に落ちると止まりかけていた心臓が強く鼓動する。

 次に逆の手の籠手を外すと同じように融けてカインの心臓に吸収された。

 それを見て、ルナは白波が何をしようとしているかを悟る。


「お兄さんは……それでいいの?」

「ああ。俺はどうやらここまでらしい」


 激闘で金具が緩んだのか、白波の兜が外れ、その下にあった顔が露わになる。

 白波の顔はカインと全く同じだった。

 日焼けしているし、髪は白く、眼は赤いが、それ以外は全てカインそっくりだった。


「マリアの眷属は五体満足である限り死なない。マリアがそういう魔獣(モノ)だったからな。

 でもここまで破壊されればどうしようもない。

 だけど裏技もある。スライムだから同じ血肉ならばくっついて元に戻せるってことだ」


 他者と融け合い一つになるのがスライムだ。

 それが同族を喰らったのならば最終的に強い自我を持つ方が主導権を握るだろう。

 だがカインと白波が同一人物ならばどうなるのかは分からない。


「あなたは消えてしまうの?」

「分からない……と言いたいけど多分消えるのは俺だ」

「どうして?」

「俺はこの世にいてはいけない存在だからな」


 白波の騎士は本来この世に存在しないものだ。

 そんなものが存在すれば辻褄合わせが必ずどこかで生じる。

 それが今なのだと彼の直感が告げていた。


「あなたはそれでいいの?」

「いいさ。君が生きていれば世界はまだ終わらない」


 人生とはやり直しのきかないもののはずだ。

 それでも自分にはやり直しがきいた。

 たった一度、この子を救うことができた幸運に恵まれればそれ以上の何を望もうか。

 そして何よりも確信があるのだ。


「確実に、俺の足跡は残るだろう」


 スライムは喰らった生物の業や想いを魂に蓄えていく。

 ならばこそ、ここで消える白波の人生もまたカインの中に刻まれるはずだ。


「こいつには力が必要だ。君とマリアを守るための力が。

 だから、俺の、ここまでの道のりは無駄じゃない」


 ゴーレムを粉砕した。竜の首を刎ねた。

 多くの亡者を葬り去り、ヴァンピレスの徒党とも渡り合った。

 その経験が引き継がれれば多少マシになるかもしれない。

 それに忘れてはならない約束もある。


「何よりマリアが残っている。俺はあいつと約束を果たせなかった」

「約束?」


 本来の世界だと毒猿はアリアンロルデと戦う。

 そしてマリアは使徒と対峙することになる。

 使徒は死に、妖精獣となって暴れ出し、ルナが食われた。

 そこで「何か」が起こり、世界中の命が枯れて死んだ。

 その時に彼女は言ったのだ。


"妹なら世界を救えるわ。あの子も海の巫女だもの。

世界を滅ぼした、いえ、ルナを見殺しにした責任を取るなら私と妹を探して"


 そして旅に出た。

 だが途中でマリアは死んでしまった。

 彼女の妹を見つけ出すという約束が果たせないまま白波にも限界が来ていた。

 だから過去へと跳ぶしかなかった。


「俺は旅をする中でもう一つ、やらなければならないことができた。」


 ルナを見殺しにした間違いを正した。

 世界が救われるかはわからないが、現状で希望は見えた。

 カインの罪は贖えただろう。だが約束は消えない。


「俺はただあいつに──何百年も妹を探してきた彼女に報われてほしいんだ」


 肉体の衰弱が限界まで来ている。

 意志の力ではどうしようもないほど白波は弱くなっていく。

 だからこそ、ここでカインに立ち上がってもらわねば困るのだ。


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