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白波の騎士物語~滅ぼした世界を救う~  作者: 555
第二章 終わりへの分岐点
28/45

2-13 白波に逢うまで②


 多くの生き物が私を見て逃げ出すのに、その男は抵抗どころか迎え入れるように両手を広げた。

 だから私は遠慮なく飲み込んで、溶かそうとした。でも──


「なるほど。これがスライムか。恐ろしい魔獣と聞いていたが……」


 男は溶解液に浸されながら平然としていた。

 栄養は取り込んでいる。私たちの質量が膨れ上がっていく。

 だから喰っているはずだ。なのに男の肉体は傷つくこともなく健全な状態を維持していた。

 呑み込んだ騎士を鎧ごと融かした実績もある。装備や体格が良いだけでは耐えれない。

 そもそもそれだけではちゃんと喰えている事実が説明つかない。

 きっと男の命の総量が桁違いなのだ。

 一見すると削れていないように見えるだけでその実は削れている。

 ただ命量(ヒットポイント)が膨大すぎて分からないだけ。

 超常の存在のような男は、平凡な人間のようにがっかりして呟いた。


「これは魔獣ではなく人だな。だが実験には使えるか」


 男が今まで誰も脱することができなかった溶解胃から抜け出る。

 まるで毛布を剥がすようにいとも容易く。

 そして男はこびりついた粘液を払いながら右手をこちらへ伸ばした。


「“星の十相”」


 それは魔術だった。

 私たちの液状の肉体が沸騰する。体の質量が減っていく。

 泡となって浮かんでは消えるのは取り込んだ人の魂だ。


【────────】


 私たち(スライム)が忘れていた死と痛みと恐怖が氾濫した。

 悲鳴は出せない。苦しみを表す顔はない。逃げ出すための足も、食いしばるための歯もない。

 それらなしでこれは耐えがたい。

 みんなが消えていく。そして遂に私の出番になって網で上げられる魚の如く意識が浮上する。


「ほぅ、斯様な少女があれほどの狂気を放っていたとは驚きだ」


 まず視界が開けた。目を開くという久しい感覚に思わず声が出た。


「ひ、か……り……」


 視線を動かすと指があった。手があった。腕があり、一糸纏わぬ自分の体があった。


「か、ら、だ……」


 かつて生きていた頃の姿で私は地面に横になっていた。胸に穴はない。

 ペタペタと自分の顔に触るとやはり知っている感触だった。

 信じられないという気持ちでいっぱいになる。

 私は死んだはずなのに生き返った。それも驚きだしスライムから人に戻ったことも驚いた。


「どうして、わたし、生きているの?」

「なるほど。スライムに生命を与えればこうなるのか」


 男は興味深そうに独り言ちて私に毛布をかけた。


「命……あなたが私を生き返らせてくれたのですか?」

「生き返りなどとは大げさな。ただ実験してみただけだとも」


 実験と男は冷たく言い放った。

 男にとって恐るべき魔獣ですら実験動物に過ぎないということなのだろう。


「あなたは、何者ですか?」

「吾輩の名は魔術師モーゼス。姓はない。

 実験に付き合ってくれてありがとうスライムのお嬢さん。あとは好きにいて死ぬがいい」


 マリアを気まぐれで生き返らせた男はそういって去っていった。

 暗黒時代の先触れ、ヴァンピレスを生む赤い星が落ちてきたときのことだった。


 それから私は故郷へ戻る旅をしつつスライムの体を使いこなし始める。

 体は私が動かしているけど今まで食べた人たちの意志が消えたわけではない。

 彼らは自我が極限まで薄いがやっぱり存在している。自分の中に何百人もいるような状態だ。

 人間の頃だったら気持ち悪いと思ったのかもしれないけどスライムになってから十年以上も経って慣れていたせいか特になんとも思わなかった。


 旅の途中で私の知っている世界は滅んだのだと知った。

 天使教の総本山であるグアメレはヴァンピレスになれなかった亡者の侵攻で滅びさったという。

 古代都市エレオノーラも同様に亡者たちに滅ぼされ、生き残った人々は北か東へ逃げたんだとか。

 ざまあみろという気持ちが湧く一方、泣くほど悲しいという気持ちも湧いてきた。

 恐らく食べた人間たちの中に天使教の信徒がいたからだろう。


(いらない、いらない。こんな気持ちいらない)


 私は自己嫌悪に悩まされながら廃墟になった故郷に辿り着く。

 放置され、風雨に晒されて崩壊が進んだ故郷は人の気配が残っていなかった。

 何もかもなくなったという現実が私を打ちのめし、また涙を流した。

 でも亡者たちの呻き声が聞こえる。血を吐き散らし、故郷の土を穢し、徘徊している。


「でていけ。出ないと──」


 ここには何も残ってない。でもここはやっぱり私の故郷なのだ。


「喰い殺すわよ」


 私の怒声を無視して亡者たちが襲い掛かった。




 肉体を得てさらに長い年月が経った。

 私は喰い殺した亡者の血に冒され、ヴァンピレスになっていた。

 魔力による脳や脊髄の再構築が始まり、真の意味で蘇生を果たした。

 なし崩し的にヴァンピレスの覇権争いに参戦し、今の王に敗北したが四大貴族の立場に落ち着く。


「やっと妹を探せるわね」


 そして初志でだった妹を探す旅が始まった。

 四大貴族の当主ともなればヴァンピレスの領域内でも幅を利かせられる。

 そうして探した結果わかったことは、天使教会はヴァンピレスに滅ぼされた後、東にあるガルプ帝国へと逃げたということだ。

 聖都は廃墟になり、そこにあった資料は枢機卿たちと共にガルプ帝国へ持ち出されたという。ならば行くしかないだろうとマリアはガルプへ向かった。


 さらにその後、いくつかの天使教の施設や帝国騎士団、ちょっかいをかけてきた連中を壊滅させたが、肝心の妹に関する情報は全く手に入らなかった。

 当然といえば当然なのかもしれない。私が死んでから現代の暦法で二百年近く経っている。

 普通の人間なら三、四回は死んでる計算だ。

 パピルスや羊皮紙だって経年劣化の末に破棄されていてもおかしくない。

 諦観と挫折の日々が続いたある時、私の下に白波と名乗る騎士が訪れてきた。

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