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白波の騎士物語~滅ぼした世界を救う~  作者: 555
第二章 終わりへの分岐点
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2-10 マリア・ドッソドーン③


「ほらほら息が切れているわよ」


 マリアは処刑斧を轟々と振り回しながら光の盾で防ぐアリアンロルデを攻める。

 アリアンロルデの猛攻撃はマリアに届かず、彼女に傷をつけたのは最初の頬に入った一撃だけだった。

 今度はマリアが息を切らしたアリアンロルデを叩き潰すべく猛撃を繰り出している。


 マリアが踏み込んだ床が割れ、武器を振るう度に散弾のように飛び散る血が壁を抉り、盾と斧がぶつかった際に生じた衝撃で天井にひびが入る。このまま彼女が戦い続ければ部屋……もしかしたら『孤児院』と呼ばれる封印区全体が崩落する恐れがある。


 それらすべてを把握していながらもマリアは一切気にしない。

 遥かな過去からマリアの心身や武具へ練り込まれた怨念が恨みを晴らさせろと絶叫しているからだ。

 ましてや相手が枢機卿ならば憎悪は加速する。

 もはや止まることなど不可能だ。

 暴走する馬のように後のことなど考えられない。


「最初の威勢はどこにいったのかしら?」


 追い詰められ、盾に身を隠しながら後ろに下がっていくアリアンロルデ。

 それを嘲るマリア。しかし嘲笑は次第に怒りの色を帯びていく。

 枢機卿は恐るべき敵のはずだ。憎むべき存在のはずだ。

 それがこんな風に縮こまっているのが許せなくて──


「殺す、殺してやるわ……震えて、縮こまって、無様に死になさい!」


 叫んで大きく斧を振りかぶった瞬間、マリアの左足を光の刃が貫いていた。


「な……床に杖を……」

「“我らは光の信徒なり。天の御心のままに剣を取り、敵を討ち、首級を捧げる僕なり。

 主よ、我らに光のごとく鋭く、斜陽のごとく眩い刃を与えたまえ──"


 光の刃は床に埋めこまれた短杖から生えていた。

 獲物がようやく罠にかかったことを知ると、アリアンロルデは詠唱を始めた。


「"聖なる刃”」


 詠唱を込めた光刃は一瞬で巨大化し、マリアの左の股関節から下を塵に変えた。

 重心を失い、斧を杖代わりにバランスを取るマリアへ更なる追撃が走る。


「“主の偉大なる威光をここに。

 あらゆる闇は退け。

 あらゆる悪は影の中で果てよ。

 主の見下ろす地上に汝らの居場所なし。

 我らはその恐ろしさを礼賛し、また拝跪する──天の聖圧”」


 マリアの頭上に翼を模した方陣が生じ、無詠唱時とは桁が違うレベルの重力場が発生した。

 床が方陣の広さの分だけ一メートルほど陥没し、その内側には細胞一つ一つを潰しかねない重力場が生じている。超高圧で圧縮された大気が熱を生じ、さながら地獄の業火の如くマリアを焼いた。

 だが、それでもマリアは健在だった。

 それどころか一切通じぬとばかりに不敵な笑みを浮かべている。


「この程度かしら?」

「これで死なぬことくらい織り込み済みだ。貴様へ落ちようとしている天罰の音が聞こえぬか」


 問答が合図だったというようにマリアの頭上、天井が崩れる。

 重力の奇蹟「天の聖圧」の効果範囲は方陣の下だけではない。上にも重圧を発生させられるのだ。


「土葬してやる」


 切り抜かれたように円柱状に落ちてきた岩盤がマリアを潰す。

 その円柱も天の聖圧によって重量を増し、マリアごと下へとめり込んでいく。

 勝負のカタがついたとばかりにアリアンロルデは肩の力を抜いた。


「今ので死なぬとしても、その質量の生き埋めならば脱出までにどれほどかかる? 

 数年、数か月、あるいは数実程度で脱出してくるかもしれんが、それまでにこの地区一帯ごと封印してやる。まずは逃げた連中からだ」


 逃げた三人、特に封印されていた少女の再封印を優先すべきだとアリアンロルデは判断する。


「『霄の少女』……拝海者の巫女は絶対に逃がさん。アレは海と会話できる危険な巫女だ」


 先史時代に起きたという大洪水は人類の遺伝子に海への恐怖を植え付けた。

 ゆえにこの世界の人は本能的に海を怖れるが、怖れるゆえに信仰する宗教が生じた。

 それが『拝海者』という邪教で、一度は天使教によって弾圧されたが、その末裔たちは南西の海原に逃げ、現在では海賊行為をしながら沿岸の集落でおぞましい教えを拡げているという。


 ルナ・バン・ハリイェーの両親は熱心な拝海者だった。

 その敬虔な祈りのせいか、ルナは特異な体質で生まれた。

 精神感応能力。物や動物と思念や言葉を交わすことのできる特異体質である。

 ルナは幼い頃より海と交信し、拝海者たちに巫女として崇められ、海からも加護を受けて不死身となった。

 海の正体が天使教暗部に知られている通りのものならば海は全てを知っている。

 この星の成り立ち、人間とは何なのか、そして海と生命がどこからやってきたのか。

 ゆえにルナは封印されたのだ。

 それを内外に語られては天使教、いや世界秩序の崩壊すら起こり得る。

 本人に喋る気があろうとなかろうと「永遠に」口を封じる必要があるのだ。

 アリアンロルデはカインたちが逃げた通路へと足を進めようとした瞬間、虫の報せが彼に舞い降りた。


「──ッ!?」


 アリアンロルデの表情が凍りつき、身体の向きごとマリアを埋めた方へ猛然と振り向かせた。


 ──ビチャビチャ。

 ──グチョグチョ。


 依然、円柱はめり込んだままであったがその下からは下水が氾濫するような汚らしい水音が生じていた。


(なんだ……?)


 警戒してアリアンロルデが杖を構えると同時、円柱が吹き飛んだ。


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