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白波の騎士物語~滅ぼした世界を救う~  作者: 555
第二章 終わりへの分岐点
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2-6 終わりの始まり①

 二人が来るまでの時間は約三分。

 狭い部屋の中で剣の波状モードは使えない。

 つまりリーチは短くなった分、先の異形二体のように即座にバラバラにすることは難しい。

 敵は強大、状況は悪い。それでも過去最高の高揚が白波の中で湧いていた。


「俺は世界を救うんだ……」


 使徒の生首がニタァと悪意ある笑みを浮かべた。

 そして意味不明な声を発した。


【&w|Ax%!】


 それを合図として白波が疾駆する。

 迎え撃つ使徒は背中から新たに身長の二倍はあろう腕が生えて部屋全体を薙ぎ払った。

 白波はそれを屈んで回避し、全力の逆袈裟斬りを放つ。

 鎧すらも断つ斬撃である。だが使徒の肉体を断つことができず肋骨で受け止められていた。

 その触感に白波は兜の下で表情を曇らせた。


「硬い……やはり……」


 剣から伝わった触感は肉というより鉱物だった。

 全力全開で放った一撃が骨まで届かず肉で止められている。

 その傷口からにょきっと白い尖った何かが生え、それを見た白波は体ごと横に身をそらした。

 次の瞬間にはその白い何かが射出され、爆音と共に壁を大きく抉った。


「そんな貧相な体でそんな攻撃ができるのか……栄養失調でくたばれ」


 射出されたのは尖った金属混じりの骨だ。腕を生やすだけに飽き足らず骨を飛ばすこともできるらしい。

 そして第三の長腕が上から振り下ろされ、今度は虫でも潰すように白波へ振り下ろされる。

 それも半身で回避すると反撃にその腕へ刃を突きさすが胴体と同じ、あるいはそれ以上に硬い(ほね)が刃を阻んだ。

 舌打ちして距離を取ると使徒の頭部の鉱石が音を発した。


【LSJIX&$LS>XIA%&MXM!】


 妖精の言葉の意味は分からない。しかし怒っていることは何となくわかる。

 痛覚があるのか、それとも虫を潰せないことに苛立っているのか。


「人間の言葉を話せ」


 激昂する怪物に白波は冷ややかな言葉を投げつつ突貫する。

 怪物が指が二本しかない右手を槍のように突き出す。白波は拳槍を避けてすれ違いざまに手首を剣を刺す。すると今度はすんなりと刺さった。


「やっぱり関節は脆いか」


 そのまま上に振りぬくと怪物の右手首の半分が裂かれて床と天井が真っ赤に染まる。

 血臭が充満し、痛みに怪物が絶叫する。


【MLSKJLI&&%L#?──!】


 痛みにわめく怪物にトドメを刺すべく白波は剣を構える。

 狙うは宝石のような鉱物が生えた首の関節部。もう一度首を断てば死ぬだろう。

 そして白波が足に力をこめたと同時、石頭が呪文を唱えた。


【“赤の奔流”】


 床に飛び散った怪物の血が一斉に動いて白波の靴底に集まり、地を蹴らんとした彼を滑らせて転倒させる。そこへ長腕の裏拳が叩き込まれた。


「が、はァ!」


 肋骨が数本圧し折れるのを感じながら壁に叩きつけられる白波。

 間髪いれず手刀が落ちてきた。兜で受けても白波の頭蓋を叩き割るだろう。

 だがダメージが足に来ていて回避は間に合わない。

 ゆえにここで白波はあえて攻撃を選択した。

 落ちてくる手の指の関節に向かって逆袈裟に剣を振る。

 無論、簡単な技ではない。高速で落ちる死の一撃を見極める胆力と視力、そしてそれを正確に切る剣の腕が必要である。


「──────」


 だが終末世界で鍛えられた白波の剣技は使徒の指を斬り落とした。

 五本の指が藁のように宙を舞い、白い鎧に血がべっとりとついた。

 間一髪。だがこれで終わりではなかった。


【“血濡れ火”】


 白波にかかった返り血が炎となって燃え上がる。

 使徒が使ったのは白波も使える己の血を炎に変える魔術である。

 白波はそれを爆炎にするが、使徒の場合は消えない獄炎となってまとわりついた。

 骨まで炭化させる魔性の炎は使徒の莫大な魔力が尽きるまで消えることはない。

 ゆえに白波は焼死体になる未来しかなく──


「は、はは」


 焼かれる激痛の中で白波は心底おかしそうに笑っていた。

 それが不快だったのか使徒が指を失った腕を叩き込み、白波の折れた肋骨が各臓器に突き刺さる。

 加えて使徒から血液(ねんりょう)を追加されて獄炎がさらに燃え上がる。


「この程度か。俺は、この程度……」


 かつて白波は全く同じ相手になすすべもなく敗北した。

 いや、おそらく眼中にもなかったのだろう。

 そして強くなった今も圧倒されている。


「この程度の……化物に!」


 だとしても、ふざけるなよという気持ちが強くなっていく。

 焼かれる激痛よりも、息ができない苦しさよりも。

 それよりも辛い未来を知るゆえに。


「俺は世界を滅ぼさせたのかアァッ!!」


 爆発する轟哮は物理的な衝撃波すら宿して大気を震撼させた。


【──────!?】


 使徒が気配の変わった敵を警戒して後ろに下がる。

 一方で火だるまになった騎士はゆっくりと立ち上がり、凍てつくような視線を怪物に向けた。

 人間であれば白波はとっくに焼死している。生きているのは白波がヴァンピレスだからだ。

 だが死なずとも死ぬほどの痛みはある。どんな者も自死を選ぶほどの痛みが白波の全身を覆っている。

 だが白波は死を望まない。考えない。その脳内を埋め尽くす想いは悔恨と憤怒だけだ。


「なんて惰弱だったんだ。死ぬ気になれば、いいや死んでいようがこの程度!」


 白波は未来を知っている。この先、辿り着きかねない未来を。

 その世界は盛大に終わっていてだからこそ止めたくてここまで来たのだ。

 この使徒の死骸こそが終末が始まる一因となっている。だからここで──


「全力で討ち滅ぼす」


 気合だけで殺しかねないほどの意気込みと共に白波は己の腹に刃を突き立てた。

 切腹である。


「うおおおおおおお」


 ただでさえ蒸発していた彼の血がさらに体から失われる。

 噴血が自らを燃やす赤黒い炎にかかるも消火される気配はない。

 白波の血に使徒の獄炎を消すような特別な力は宿っていない。

 だが切腹したのは消火が目的ではなかった。


「“血濡れ火”」


 同じく血濡れ火の魔術を発動させる。

 彼が流した血が全て燃料に代わり、白い炎が彼の身を喰らいながら現出し、まとわりつく獄炎を食い尽くした。それだけに飽き足らず白炎は無数の寄生虫の如く彼の血肉を喰らって熱量を増していく。

 その熱量たるや、怪人の指先から滴る血が地面に落ちるより先に蒸発し、床に転がっていた木くずが一瞬で灰に変わるほどである。


「やっぱり、行儀よく出口まで行くのはなしだ」


 使徒の持っていた人間の頭が炭化し、ローブも、宝石のような頭部も焼け爛れていく。

 白波は歩く太陽と化していた。

 陽光を注いで命を育むのではなく、近づいたものを滅殺する死の現象そのものに。

 彼のマントは燃え尽きたが代わりに白い炎がたなびいて火焔光背と化している。

 それが飾りではないことは次の瞬間に証明された。


「ここが出口だ」


 白波が光背を爆発させて加速する。

 かつて巨人を一瞬で消したように。

 その全力の一撃が使徒へと叩きつけられた。


 その日、孤児院の周辺で破局的な地震が計測された。


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