【一場面小説】ジョスイ物語 〜官兵衛、佐久間を挫くノ段 賤ヶ岳の戦い其ノ四
密かに動き始めた柴田勢。合戦の流れを思弁する黒田官兵衛は、敵の泣き所を探り当てる。
既に柴田は動いている、そう観るべきだ。では、如何に動くのか。官兵衛は秀長へ柴田動くの使者を送ると、杖に顎を乗せて暫し瞑目した。
そして官兵衛は寝入る雑兵どもを叩き起こし、速やかに朝までに陣を払えと命じた。黒田配下の明石勢を率いる官兵衛が義弟、与四郎則実は突然の命令に泡を食った。
「。。して、兄者、何処に陣を移されるのか?」
そこだ、と官兵衛は指をさして戯笑した。則実は呆気にとられたが、くるりと北から南に振り返った官兵衛の姿に、その狙いが漸く解った。
曙光と共に鬨の声が湧き上がり、怒涛の突撃が谺する。佐久間盛政率いる柴田最強の猛者どもが大岩山砦に雪崩込んだ。三里の密行は図に当たり、備えの未熟な中川勢は蹂躙された。
盛政勢は瀬兵衛清秀はじめ中川の武将を悉く討ち果たし、余勢をかって今度は岩崎山に乱入。守将の高山右近は防戦も果たせずに、砦から退かざるを得なかった。
返り血と汗にべっとりと塗れ、極度の躁状態にある鬼玄蕃盛政の怒号が響く。
「大岩、岩崎、山を押さえタリ!狼煙を上げぇ、叔父貴に知らせい!」
狼煙を合図に柴田勝家が呼応、本陣を南下させて最前線の堀秀政を引き付ける。その堀勢を我ら佐久間勢が背後から殲滅する。我らが勝った、柴田が勝ったのだと盛政が確信した時、急報が届く。
「未だ、敵がおります!堀勢を護る体で、逆に柵が、わ、我が方と対峙して待ち構えております!」
「なにっ!我らを待ち構えていただと!!」
柵を背に官兵衛は足軽大将どもを叱咤する。明け方に始まった戦だが、既に日は高い。おそらく夜半に出陣し、二つの砦で奮闘した敵は相当に消耗しているはずだ。
「堀殿を護る、護れば柴田方は必ず一度引く。ここが我らの死線だ!」
つづく