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帝国の太陽

 帝国と国境を接するランドール北部地方。同盟を結ぶ帝国との貿易が盛んに行われ、様々な恩恵を受けている。

 その北部を治める有力貴族の一つ、マーカス・フォスター公爵の屋敷に、三台の豪華な馬車が訪れた。宰相として王宮に仕えるマーカスは、妻と長男を連れて王都の別邸に移り住んでいる。久しぶりの客人を出迎えたのは、次男のキリウスであった。

 馬車を降りた金髪に青い瞳の美しい男に、当主代理のキリウスがうやうやしく頭を下げる。艶やかな銀色の長髪を後ろで結び、大きく胸の開いたシャツに甘いマスク、如何にも遊んでいそうな風貌だ。


「おお、これはこれは、グランデイル帝国第二皇子レオンハルト殿下。遠路はるばるよくぞおいで下さいました。帝国の太陽と称えられる殿下にお会いできて光栄でございます」


 所作は優雅で礼儀正しく見えるのだが、物言いが軽くワザとらしい。まるで、相手がどのような反応をするか楽しんでいるかのようだ。


「すまない、キリウス。連絡もせずにいきなり押しかけてしまって」


 帝国の太陽の浮かない顔を見て、キリウスも僅かに表情を曇らせる。もう少し茶番に付き合ってくれるのを期待したのだろう。


「どうした? いかにも心配してほしそうな顔をして? さては、エストロニアに残してきた女が恋しくて、帝国に帰るのが嫌になったのだな? 真面目そうな仮面の貴公子メイソン様も、案外やることはやっておりますな」

「お前と一緒にするな」


 キリウスのあたらずとも遠からずな考察にレオンハルトが弱々しく微笑む。一年以上も前からエストロニア王国に素性を隠して潜入し、第二皇子自ら非同盟国の情勢調査をしていたのだ。


「べつに無理して帰らなくてもいいんじゃないか?」

「もういいんだ」

「まあ、あの国は今たいへんらしいからな。さて、積もる話はお茶でもしながらゆっくりと聞こうじゃないか」

「――お久しぶりでございます。キリウス様」


 最後尾の馬車から控え目なデザインのドレスを着た少女が現れた。淡い栗色の髪におっとりとした顔つき、肌は薄っすらと日焼けしている。


「おお~、レオンハルト殿下の妹君、シエラ姫ではありませんか。少し見ない間に、また一段とお美しくなりましたな。どんなに煌びやかな宝石も、可憐で美しいあなたの前ではガラス玉の如く霞んでしまうことでしょう。ああ、我が愛しのシエラ姫。あなたを想うと愛で溢れ胸が張り裂けそうです。いつになったら私との婚約を受け入れてくれるのですか?」


 歯の浮くような台詞をスラスラと吐き、キリウスは跪いてシエラの手を取った。


「……申し訳ございません。私には殿下の護衛という大事な使命がありますし、そもそも殿下の妹という設定ですがレオンハルト様より四歳も上なのです。てゆうか、毎回このやりとりしていませんか?」


 帝国近衛騎士団でも三本の指に入る剣の使い手シエラが苦笑する。王子に近づく不審者を排除するため、スカートの中には短剣とナイフが仕込まれていた。


「もちろんだとも。いつかはシエラちゃんがOKしてくれるかもしれないからね。レオの護衛なんてさっさとやめて、俺のところにおいでよ」

「残念だが、返事は永遠にNOだ」

「レオには聞いちゃいねえんだよ。シエラちゃんの気持ちが変わるかもしれないだろ?」

「シエラは頭が良いから大丈夫だ」

「どういう意味だよ、ったく。ところで、ダグラス爺さんの姿が見えないようだけど、どこか具合でも悪くしたのか? もう歳なんだから、あまりこき使ってやるなよ」


 一応、ダグラスが世界に名だたる大賢者だということを、キリウスは承知の上で発言している。


「人聞きの悪いことを言うな。ダグラスには先に帝国へ帰ってもらったんだよ。ランドールは同盟国だし、護衛はシエラがいれば十分だ。あと、僕だって腕を上げたからね。少なくとも君に負けないくらいは――フンッ!」


 レオンハルトがエアーの剣を構え、真一文字に振り抜いた。すかさず、キリウスもエアーの剣で応戦する。


「へえ~、少し見ない間に言うようになったじゃないか。いいぜ、後でどんなものか見てやるよ」

「たしか、試合の決着がまだだったね」


 同い年で共に次男という二人の関係は、十年来の親友でありライバルでもあった。


「……はあ、お二人とも、くれぐれも怪我をしないようお願いしますね」


 睨み合うレオンハルトとキリウスの脇を、あきれ顔のシエラが通り過ぎていった。

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