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お誘い

 窓の外に広がる満天の星空を眺めながら、ベルフェルミナが就寝前の紅茶を口に含む。自分で淹れる紅茶もすっかりお手のものだ。


「はぁ、メイソン様はもう帝国に着いたのかしら……」


 溜息混じりに呟き、ブローチを小箱から取り出して見つめる。マリーに両想いだと言われてから、ますます意識するようになってしまった。メイソンから渡された時のセリフが『僕の代わりだと思ってくれ』と脳内変換されているくらいである。今さらだと思うが、勝手に想いを寄せるのは自由じゃないかと、自分に言い訳していた。


「やっぱり、ついて行けばよかったかな……でも、マリーの勘違いだったらどうしよう。うん、そうよね。あんな素敵な方に婚約者がいないわけないわ。帝国には婚約者に会いに行くのかも……でも、メイソン様のあの真剣な眼差しは……」


 大きな溜息をつくと、大事なブローチを小箱にしまった。あれこれ考えても仕方がない。おそらく永遠に答えはでないのであろう。しかし、メイソンへの想いは心の支えになっていた。


「さてと、今日からはようやく一人で眠れるわ。マリーの寝言が聞けなくなるのは、少しだけ寂しい気もするけど……ん~っ」


 天井に向かって両腕を広げ、思い切り伸びをする。伯爵令嬢だったころの半分にも満たない部屋の広さだが、それ以上の開放感があった。


 ――コンコン。


(こんな時間に誰だろう。マリーかしら?)


「はい、どうぞ」

「ごめん、ベル? ちょっと相談があるんだけど、入ってもいい?」


 返事も聞かず、すでにララナは部屋に押し入っている。部屋には小さなテーブルと椅子が二脚あり、ララナはその片ほうに腰掛けた。


「あ、すぐにお茶を淹れますね」

「いいよ、いいよ。すぐに出て行くから……」


 そう言ってから、暫く無言が続いた。話し辛そうにしているララナを見て、ベルフェルミナも緊張してくる。


「なんか、ごめんね。弟たちが反抗的な態度とっちゃって、根はいい子たちなんだけどさ」

「え? ああ、全然気にしていませんから、むしろ、魔法の先生なんてしたことないのに申し訳ないです」

「いいの、いいの、適当で。どうせ、あの子たちに魔法の才能なんてないんだから、誰が先生をやっても一緒だよ」

「いえ。それはさすがに……」


 ベルフェルミナが言葉に困る。また無言になってしまった。


「……あの、それで相談というのは、どういったことでしょうか?」

「えっ、ええと、今度ね。セルヴェール伯爵家が主催する夜会に、出席したいのだけど……」

「夜会に……」


 ズキンとベルフェルミナの心が痛む。思い起こされるのは、フレデリック、リーン、パトリックや貴族令嬢令息たちの嘲笑う顔だ。


「ベルも一緒についてきてほしいの」

「わたくし、ですか?」

「ダメ? 他に誘える人がいないのよ。貴族の友達もいなし、村の娘なんて絶対に誘えないでしょ?」

「お一人では出席されないのですか?」

「夜会とか苦手なのよね。だから、ずっと行っていなかったんだけど、今回は出席してみようかなって」

「でも、わたくしなんかが――」

「おねがいっ。このとおりよ、ねっ」


 ララナが身を乗り出し、ベルフェルミナの手を握る。


「……わ、わかりました」


 その迫力に、思わず返事をしてしまった。


「ありがとう、ベル。これで、わざわざポルタで買ったドレスが、無駄にならなくて済むわ」

「フフフ、ポルタへは、そういった事情もあったのですね」

「だって。こんなど田舎の村にドレスなんて売ってないもの」

「はっ! わたくしもです」

「なにが?」

「夜会に着ていくドレスが、ありません」


 そもそも、こんなに早くドレスを着る機会が訪れるとは思わなかった。


「そんなの、私のドレスを貸してあげるから大丈夫よ」

「いいのですか?」

「うん、遠慮しないで。二着買っておいてよかったわ。体型もほぼ同じだし、大丈夫そうね」

「……そ、そうですね」


 チラリとララナの胸元から腰にかけて視線を送る。ここのところ油断して食べ過ぎていたかも。明日からダイエットしようと強く思うのであった。


「じゃあ、そうゆうことで、よろしくお願いするわね」

「いえ。こちらこそ」

「また、ベルの部屋にお喋りしに来ていい?」

「ええ、もちろんです」

「よかった。今日はゆっくりやすんでね、おやすみ」


 ララナが出ていった後の部屋に静けさが戻った。隣の部屋でガタガタと物音がする。おそらく、マリーが仕事を終えて部屋に戻ったのだろう。


「なんだか、長い一日だったわ……」


 灯りを消して、ゆらゆらとベッドまで歩いたベルフェルミナは、そのままベッドに倒れ込み眠りについた。

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