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やらかしたようです

「ねえ? ベルってさ、実はどっかの国で貴族令嬢だったでしょ?」


 村の案内をしていたララナが、悪戯っぽく笑い訊ねた。ポルタにいた時点で、ほぼエストロニア王国と思われるのだが、あえて曖昧にしてくれている。


「な、なんですか? いきなり」


 僅かに動揺するベルフェルミナを見て確信したのか、ララナが目を輝かせた。


「それも、男爵なんかより爵位が上の伯爵令嬢とか?」

「はっ、初めてお会いした時にも言いましたが、わたくしは商人の娘です。伯爵令嬢なんてとんでもありません。小さな村で生まれ、平民として育ってまいりました」


 ズバリ当てられ焦ったベルフェルミナが、必死になって平民アピールをする。


「だって、私なんかよりずっと貴族令嬢っぽいんだもん。御上品な立ち居振舞いとか、おしとやかな歩き方とか?」


 それを聞いてベルフェルミナの歩幅がほんの少し大きくなる。自分なりに荒々しく歩いているつもりだ。


「フフッ。じゃあ、魔法はどこで覚えたの?」

「気が付いたら、使えるようになっていました」

「え? 独学で? すごーい、天才だよ」

「いえいえ。そんなことないですよ。大して役に立たない魔法ばかりですので。わたしが本当に習得したい魔法は、しっかりとした場所で学ばなくてはなりません」


 照れ隠しでベルフェルミナが苦笑いする。


「ふ~ん。でも、ベルに来てもらえてよかった。冒険者ギルドの連中は横柄でさ。あまり関わり合いたくないんだよね」

「カフェテラスで、突然『弟たちの魔法の先生にならない?』と声をかけられた時はびっくりしました」

「最初はお洒落な人がいるな~って思っていたんだけど、ベルとマリーが魔法の話を始めたから、つい声をかけちゃった」


(お、お洒落? ……フフフ)


 思わずベルフェルミナがニヤける。マリーから散々派手だなんだと注意されたが、そんなことはすっかり忘れていた。


「それに、冒険者ギルドで『黒髪緋眼の魔女』の噂を聞いていたから、もしやと思ったんだよね。でも、ベルはぜんぜん悪そうな人に見えないし、すぐに別人だと思ったよ」

「え、っと? こくはつひがん……?」

「知らない? 私たちが出会う少し前に『黒髪緋眼の魔女』って人が、伝説の聖女が祀られた聖なる柱を、跡形もなく吹き飛ばしたらしいよ」

「聖なる柱……ですか?」

「うん。高さ三十メートルもある巨大な岩だって」

「――――っ!」


(わ、わたくしなのでは? どうかお許しください、伝説の聖女様。ワザとじゃないんです。門番がやれと言ったから仕方なくやったんです。すみません。嘘です。ついカッとなってやってしまいました。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)


 額に冷や汗を滲ませがら、ベルフェルミナは心の中で懺悔しまくった。


「しかも、聖女様を消し去った後に、腹を抱えて大笑いしたんだって。いったいどんなふうに育ったら、そんな極悪人になるんだろうね?」


(はううっ。大笑いしていたのは、マリーなんですけど。ていうか、聖女様を殺したみたいに言わないでっ)


「あーっ、あのっ、ララナ様? あの店は何を売っているのですか?」


 居た堪れなさ過ぎて、ベルフェルミナは涙目になっていた。


「いや。あれ、ふつうの民家だから。どうしたの? ベル? 様子が変だけど」

「す、すみません。知らない土地に来て、舞い上がっているのかしら……」


 しゅんとするベルフェルミナを見て、ララナが優しく肩を抱いた。


「そっか、ごめん。ポルタから三日も馬車に揺られて、今さっき着いたばっかだもんね。私は慣れているからいいんだけど、ベルは疲れが溜まっているよね。村の案内はまた今度にして屋敷に戻ろっか」

「は、はい、そうですね……」


 身体的な疲れはもちろん、精神的ダメージがことのほか大きい。村の中央広場を迂回して屋敷へ戻ることにした。広場には子供たちの他に、薄汚れたローブを纏った魔導師らしき男がいる。


「……あの方は?」


 ベルフェルミナは魔導師と目が合った。長身の痩せ型で彫の深い三白眼、白髪交じりの無精髭を生やしている。ずいぶんと老けて見えるが、まだ二十代後半だ。


「スタンレーさんよ。あの人、冒険者だったの。数年前に討伐の依頼で村に来てから住み着いているのよ」


 ララナは挨拶どころか目を向けようともしない。


「冒険者でしたら、彼に魔法の先生をお願いすればよかったのでは?」

「無駄よ、あまり人と関わりたくないみたいなの。話しかけても無視されるだけよ」

「そうですか」


(よほどこの村が気に入ったのかしら)


 にこりと微笑みベルフェルミナがお辞儀をするも、スタンレーは表情ひとつ変えず佇んでいた。 

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