表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

仲直り

作者: 楢崎 藤子

 いわゆる転勤族の家系に生まれ、小学生のうちに六回は引っ越しを経験した日々。

 中学で七回目を迎え、人見知りを拗らせそうになっていた俺が【その人】と出会ったのは、転校してから一週間ほどしてからだった。


 気難しい性格で生傷が絶えないことからか、周りから遠巻きにされていた【その人】と隣同士だった偶然を利用して距離を詰めてみれば、なかなか可愛い人であることが判明し、きづけば夢中になっている自分がいた。

 当時の話を聞いた母曰く「初恋」だったのだろう。

 けれども、穏やかで幸福感に満ちていた日々は海外への転勤、という形で終わりを迎えてしまい。――不満より先に沸いたのは「もう二度と会えなくなるんじゃないか」という焦燥感の方で、相手の記憶に自分を留めたい衝動のまま、少ない知識と貯蓄計算を総動員させて選んだのが、花だった。

 引っ越しの当日、手渡した花束と入れ替わりに貰った手作りのブレスレットは、家庭を持った今でも、大切に保管している。


 ***


 愛する妻と子どもたちに問い詰められ、白状した《初恋のエピソード》に我ながら未練がましいと思いながらも、突きつけられたブレスレットを箱にしまう。

「ごめんなさい。無遠慮に聞いてしまって……」

「ごめんね。パパ……」

 うつむく妻と子どもたちの頭をなでて、近所で起きた重婚事件に憎悪を割り増しさせながら俺は「最近、仕事ばかりだったからな」と、家族間のコミュニケーション不足を痛感する。

 そして、こういう何気ない箇所から、ほころびは生まれるのだと先人たちが教えてくれている。

「よし! 今度の週末、レストランでも行こうじゃないか。仲直り記念だ」

 提案するのと同時に泣きながら抱き着かれ、何とも言えないフワフワした気持ちになった。


「そういえば、何の花をプレゼントしたの?」


 子どもたちを寝かしつけ、久しぶりの晩酌を楽しんでいた中で受けた質問に、甘苦い気持ちで答えると途端に妻の表情が固まった。

「それ、プレゼントに向かないダントツ第一位の植物だけど……。大丈夫だったの?」

 聞いた瞬間に過った記憶の断片で、ココアの甘みが、消えたように感じた。


 とある偉い人が言った。

『花に罪はない、花に意味を求める人間の方が罪なのだ』と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ