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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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 46 給食の時間

「好き嫌いが多くて給食の時間は苦痛だったわねえ」


 そういう話をすると銀色のトレイの上に銀色の皿、銀色の容器、瓶入り牛乳に銀色のスプーンが並んでいるのを思い出す。


 今は違うようだが、私の小学生の頃は残すのは絶対にだめだった。もしかするとうちの学校が特に厳しかったのかも知れないけど。

 残していいのはパンとマーガリン、ジャムだけ。銀色の紙に包まれたチーズも残してはだめで、チーズが大嫌いだった私はいつも泣きそうになりながら、ちびりちびりと牛乳で流し込んでなんとか食べ終えていた。


「パクっと一口で食べてしまえばいいのに」


 と、母に言われたことがあるが、そう言う母こそチーズが苦手で、それこそ1欠片(かけら)も食べられないのを大人になってから知り、よく言えたねと言ったら舌を出して笑っていたのを思い出す。


 私の好き嫌いの多さは母ゆずりだと言っていいのではないかと思う。

 子供の頃、ご飯の時に食べられる物がないと、数少ない食べられる物、目玉焼きやソーセージを自分で焼いて食べていたのだが、それを許してくれていた甘さは母が自分に好き嫌いが多かったからだなと、大人になってから気がついた。成長の後、私はほぼ好き嫌いがなくなったが、母は一生好き嫌いが多いままだったし。


「とにかく、どうしてパンとマーガリンとジャムが残してよくてチーズがだめだったのか、今でも釈然としないのよ。おかずは持って帰れないから衛生的にもだめだろうけど、チーズは包んであるからそのまま持って帰れるのに。本当にどうしてだめだったのかしら」


 とにかくチーズ一切れも残さず食べ終わるまで、昼休みになっても遊びに行ってもいけないし、1年生はお昼までの授業で給食を食べ終わったら帰れるはずが、残されて6年生のお兄さんお姉さんが掃除をしてくれている(ほこり)の舞う教室の中、いつまでも食べ続けることになっていた。


 大体いつも残される子は決まっていて、1年生の時は私と原田君という男子の2人が必ず椅子を引き引き教室の後ろまで下げられて、そのまま食べ続けていた。

 おかげで仲良くなって家を行き来するようになったけど、お互いの家で出してもらえるおやつは食べられたから、まあ両名とも好き嫌いの傾向が似ていたんだろう。


 2年生の時はクラスが変わり、今度は私と山瀬君だった。

 2年生になってからは午後の授業もあるもので、掃除の埃舞う中で食べることはなくなったが、食べ終わった子からお昼休み遊びに出かけるのに、私と山瀬君の2人は自分の席に座ったまま食べ続けていた。

 食べ終わったらもう遊び行く時間はなくなってる、なんてこともしばしばだったのだが、そうまでして残さず食べないといけないのかと、幼心に情けなく思ったものだった。


「それがね、小学校の3年だったかな、父のいなかに行ったら見たこともない食べ物がいっぱい出たのよ。地元のごちそうってやつ? それがなんでか食べてみようって気になってね、恐る恐る食べてみたら食べられたの。それでその時思ったのよ。食べられないと人生損するなって」


 そう、そう思った。

 今まで思いもしなかったのに、どうしてそんなことを思ったのかは分からないけど、とにかくそう思ったら他の食べ物にも興味が湧いてきたのだ。


「当時は何しろ食べられる物の方が少なかったから、それから目の前に出てくる物をちょっとだけ口に入れていくようにしたら、なんと、どれもこれも食べられたのよ。不思議だったわ。それまでは母と違って厳しかった父が、好き嫌いせずに食べなさいってお皿に入れてきたのを泣きながら飲み込んでた物が、おいしいって思えるようになっていったの。怒られて一応口にはしてたから、食べず嫌いではなかったはずなのに」


 子供が好きだと言われるカレーも大嫌いで、給食のカレーシチューなんて、給食係に「ちょっとにして」と頼んで減らしてもらってたけど、カレーは好きな子が多かったからみんな喜んで減らしてくれていた。


「私が一人前に食べるようになったらみんながっかりしてたわ、おかわりできる量が減るって」


 普通に入れてと言った時の係の子の絶望的な顔を思い出すと今でも笑える。


「大人になった今では給食、嫌いどころか大好きよ。自分では作らないメニュー、組み合わせにワクワクする感じ」

「へえ、羨ましいなあ。僕は今でもだめだな給食」

「もったいないと思って食べてみたらどうかしら」

「いやあ、だめだったなあ」

「でも先生は生徒の手本、残せないわよね」

「嫌いだけど、生徒の前だけはなんとか飲み下せるようにはなったよ」

「えらいわね、山瀬先生」


 なんという偶然か、2年生の時の残され仲間、山瀬君と私が今年から母校の職員室で机を並べることになったのだ。


「じゃあ今度、練習のために嫌いな物を作ってあげましょうか」

「できたら好きな物をお願いします」


 あの頃、嫌いな給食を並んで食べていた私達が、再会した今ではお互いの家で向かい合ってご飯を食べる仲になっている。


「好き嫌いがない方が人生色々楽しいと思うけど」

「僕は今でも好き嫌いが多くて好みがはっきりしてるよ。だから好きな物しか食べないしね」


 って、意味ありげに目配せしてきた人、ここは職員室だってこと忘れないでね。

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