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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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 44 眠る季節

「それじゃあ寝るけど、言ってた本、買っておいてね」

「うん、分かった、おやすみ」

「おやすみ~」


 長女のあすかが「冬眠室」へと入っていった。


 地球のエネルギー不足がかつてないぐらい深刻になった頃、ある科学者が発明した薬で人間の冬眠が可能になった。

 何かの装置や複雑なシステムなしに調整した薬を飲むだけで脳に働きかけて冬眠できるようになり、人類が交代で眠ることで地球への負担を減らそうと、すぐさま世界的システムになった。


 半年までは安全に眠れることが確認されているが、万が一を考慮して一回につき60日までと期間が決められている。


「えっと、今日からあすかが30日冬眠と」


 スケジュールアプリの登録をチェックしておく。

 冬眠の間に売り出す予定のコミックスの購入を「お願いね」と書いてあった。

 今は大体が電子版なのだが、中にはどうしても紙の本を手元にほしいというものがあるのだ。売りきれないうちに忘れないように買っておいてやらないと。


一昨日(おととい)お母さんが起きてきたばっかりなのに、なかなか家族全員が揃うことってないわねえ」


 我が家は私と夫、長女と次女、私の母の5人家族だ。

 冬眠は家族単位、一年サイクルでスケジュールを組んである。


 大体一人が年に2回60日前後計算で、冬眠の通知が納税通知と一緒に役所から届く。

 冬眠は新しい形の税金の一種といってもいいかも知れない。

 それを元に、家族内で色々スケジュールを調整して、決まった日数を分け合うようになる。


「今年は次女のよしのが受験だから冬眠はなしとして、その分を4人で分け合わなくちゃいけないわね」


 うちの子は年子(としご)なので、昨年長女が冬眠なしで受験を乗り切った。


「なんかね、中には冬眠した振りでやらずにいた子もあったみたい」

「え、そうなの?」

「うん、そうしたら家族で割り振りが大変だからって」

「ずるいわねえ」


 昨年、あすかがクラスで聞いてきた話として教えてくれた。

 税金を脱税するように「脱冬眠」する家もやはりあり、役所も一応調べたりはしてるらしいが、まあそれでもやる人はやるんでしょう。


 見つかると厳しく罰せられることになる。

 何しろ地球のため、エネルギーのための冬眠なのだ。

 脱税の場合は罰金だが、「脱冬眠」の場合は「強制冬眠」の施設に連れて行かれ、罰則の期間分眠らされることになる。それこそその時にやりたいこと、やらないといけないことがあったとしても、罰なのだから許してはもらえない。


「うちは5人で300日だから、よしのの分の60日分を4人で割ると一人15日ずつ多く冬眠することになるわね」

 

 一応健康に問題はないとされ、実際にそういう事故もほとんどないことから冬眠自体は怖いとはそれほど思わないのだが、やはり起きていてやりたいこと、やらないといけないこともある。


「私がその分冬眠してかまわないよ、年寄りには特にやらなくちゃいけないこともないんだし」


 と、母が言う。


 だが、こういう言い方はしたくないが、それこそ家族で一番残りの人生が短いのだ、ずっと寝て過ごしてくれと言いにくいし、言いたくもない。


「お母さん、大丈夫だから。もちろんお母さんにも負担してもらうけど、過度に一人だけ背負おうと思わないで、気持ちだけもらっておくわ」


 母が申し訳無さそうな顔をするが、私だって娘として母との時間も持ちたいのだから。


「おかあさ~ん」


 次女のよしのが台所にひょこっと顔を出した。


「どうしたの?」

「うん、寝なくて大丈夫なのかなと思って」


 心配そうにそう言う。


 無理もない。

 娘たちが生まれた頃にはもう冬眠は一般的になっていて、小さな頃から年に何回か冬眠することが普通だった。

 今回高校受験で初めて冬眠なしの日々を迎えるのだから、なんとなく不安なのだろう。


「大丈夫よ、お姉ちゃんだって去年大丈夫だったでしょ?」

「うん、そうなんだけど」


 昨年は長女のあすかが同じことを聞いてきたなあと思い出す。


「お母さんがよしのぐらいの時にはまだ冬眠はなかったから、できた時に初めて寝る時の方が心配だったわよ」

「言ってたね。でもなんだかその方が不思議」


 そうなのだろうなと思う。

 生まれた時からあるシステム、それに慣れてしまうと、ないとその方が不安になるものなのだろう。


「中には冬眠しないと睡眠不足で病気になる、なんて言ってる人もいるから、本当に大丈夫かなあと思って」

「よしのは冬眠してその分勉強できなくても受験大丈夫? だったら冬眠してもいいけど」

「いや、それはちょっと心配」

「でしょ? だったら今年一年がんばって、そして受験乗り切ってちょうだい」

「はあい」


 次女は勉強をするために自分の部屋へと戻っていった。


「もったいないねえ」

「なにが?」

 

 母が次女の後ろ姿を見送りながらぽつりと言う。


「若いのに、楽しめる今だけの時期を寝て過ごすなんてねかわいそうでね」

「だけど時間は誰にでも平等だから、若い者も年寄りも」


 人に与えられた時間は平等だ。

 生まれてすぐの赤ん坊も、年寄りも、今、この瞬間の重みは同じだ。

 起きて動ける時間を大事にすること、冬眠することでかえってそのことを意識できたように思う。 


「今ではなくてはならないシステムよね」


 私は本心からそう思っている。

テレビで本当にそんな薬が発明されたというニュースを見ました。

もしかしたらいつかくる未来かも知れません。

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