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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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41/68

 41 なんだったっけ?

「あ、そうそう、忘れないように買っておかなくちゃ」


 ふいに思い出した買い忘れをメモしておこうとした時、テレビから私が昔大好きだった歌が流れてきた。

 いや、今も好きだし、今でもなんやかんやと使われている名曲だ。

 世代を超えて、時代を超えて、自分が好きだった曲がこうして歌番組で流れるのはとてもうれしい。


 それでテレビと一緒になって歌ってしまった。

 そうして歌い終わってこう思った。


「あ、何をメモするんだっけ?」


 私のこのつぶやきを聞いた連れ合いが大笑いして、


「気持ちよさそうに歌ってたもんなあ」


 とからかってきた。


「だってしょうがないじゃない、大好きな曲なんだもの。それよりもね、私が買っておかなくちゃと思った物ってなんだったっけ?」

「そんなの分かるわけないし」

「そうよね」


 口には出さず頭の中で思っただけだ、そりゃ他の人間に分かるはずがない。


「う~ん、なんだったっけかなあ……」

「まあそのうち思い出すよ」


 連れ合いは笑いながらそう言ってお風呂に入りに行ってしまった。


「うーん、思い出せない……」


 私はPCの前に座り、友人たちが会話しているSNSに仲間入りして今しがたあったことをつぶやいた。


『ぷっ! らしいらしい』

『だいじょうぶか~そろそろはじまってんじゃないの~』

『忘れたことを覚えてるうちは大丈夫、忘れたことを忘れたら危ないけどってじっちゃんが言ってた』

『その前にやってたことやり直したら思い出すんじゃないの』

『あーあるある、そういうことある』


 友人たちは好き勝手なことを言って返す。


『まあとりあえずなんかしてたら思い出すかも』


 私もそう思ったので、後は適当な会話を楽しんでから寝ることにした。


 翌朝、


「う~ん、やっぱり思い出せない」

「何、まだ悩んでるの?」


 連れ合いがあくびをしながらそう言う。


「うん、わかんない」

「まああんまり気にしない方がいいよ。仕事に遅れる」


 連れ合いは完全テレワークの自営業、私は職場に出勤する勤め人。


「そんじゃ行ってくる」

「いってらっしゃーい」


 そうして一日仕事して帰ったけど、まだ思い出せない。

 ずっと一日中考え続けてたわけじゃないけど、何かした時にふっと思い出すのよね。


「ただいま~」

「おかえり」


 帰ってきて荷物を置いたり着替えたりして、洗面所でメイクを落とそうとして、


「あ、クレンジングかなり減ってる、って、これか! そうか、これ……うーん……」


 そうかなと思ったがいまいちピンと来ない。


「洗顔料も減ってるな。でもこれでもない」


 その後も同じようにして、


「あ、これかな」


 と、とりあえず減っていて買わないといけないなと思っていた物をいくつも思い出したけど、やっぱりあの時思い出したのとは違う気がする。


 夜、またSNSに入ると友人たちにどうだったか聞かれた。


「うん、色々買わないといけないのは思い出したけど、どれも違うみたい」

『え、いくつあるの』

「うん、クレンジングに洗顔料、台所用漂白剤、マヨネーズ、麦茶、お風呂洗いの洗剤」

『ちょ、ちょっと待て』

『いくつあるのそれ』

「えっと、14か15?」

『なんじゃそりゃー』


 友人たちが呆れるのも無理はない。


『そんで、その中のどれだったのよ、昨日言ってたの』

「いや、それが分からない。というかどれもいまいちピンとこない」

 

 友人たちはすっかり呆れてしまったようだが、


「まあ今度は全部メモしてるから大丈夫よ」


 そう言って会話を終えた。


 翌日、また出勤し一日働いて帰ってきて、夜またSNSに入る。


『買い物でけた?』

『思い出せた?』


 友人たちが色々聞いてくれる。


「いや、買い物できなかった」

『なんで?』

「メモ持ってくの忘れた」

『マジか!』

『おいおい!』

『分かってんのだけ買ってくりゃよかったのに』

「スーパーは駅の南で、私が帰るのは北だからね。一部だけ買うために遅くなるのは嫌だったからまっすぐ帰ってきた。どれもまだ余裕あるし」

『おいおい』

『それで例のやつは?』

「思い出せない」


 友人たちはもう飽きてきてしまったようだ。


『ま、そのうち思い出すって』


 そりゃそうだな、私だって自分のことながらそろそろ飽きてきてるんだから。


 翌日、ちゃんと仕事の帰りにメモした物は全部買って帰ってきた。


「よし、これで今のところ買わないといけないものはなくなった、と」


 それはそれでいい。

 だがしかし、そうなるとやっぱり気になってくる。


「こんだけ全部整ったってことは、そんなに買わないといけないって思うような物じゃなかったのかなあ」


 考えるが、あの時はかなり切羽詰まった感覚だった。


「ってことは、なくて困る物なのかな」


 考えながら家中を一回りしたけれど、やっぱり「これ!」と思う物は浮かばない。


「うーん、気になる」

「何、まだ悩んでるの?」


 連れ合いがちょっと心配した顔で聞いてくる。


「うん。あ~気になるなあ、なんだったんだろう。歌なんか歌わなければよかったなあ」


 がっかりしてそう言うと、


「それで君が歌わなくなる方が僕は嫌だな。まあ僕のことを忘れてくれなければそれでいいって」


 そう言って頭をよしよししてくれた。


 そうか、これより大事なことはないものね。

 とりあえず今はどっかにやっておこう。

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