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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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 30 スイカ様バンザイ!

「ああ~いらいらするー!」


 今日のことを思い出すと、ただでさえ暑いこの季節、ますます頭がカッカカッカと煮えたぎるようだった。


 上司に怒鳴られた。

 それが納得できる事情なら反省もする。だが結果的には上司が自分の失敗を人のせいだと勘違いしてみんなの前で私をきつく叱責、覚えがなかった私は言われていることに「なんのこっちゃ?」とクエスチョンマーク連発しながら、訳が分からないだけに何をどう答えていいのか分からずに首を捻っていたらさらに激怒。


「おまえはそんな無責任で社会人がつとまるのかあ!」


 そうして散々人のことを生ゴミよばわりしてたくせに、他の人が「それは……」と声をかけてやっと「ああ」と思い出したみたいで、こちらにはろくに謝りもせず、照れ笑いだけして「お疲れ様」の一言で終わらせた。


「なんじゃそりゃー!」


 思い出し怒り。思わず声を出してしまい通行人に振り返られた。 

 

 このまま街に繰り出して飲んで憂さ晴らししたいぐらいの気持ちだが、明日も仕事、そんなことしたら自分の明日がつらいだけ。

 そんじゃお酒でも買って帰って飲みつぶれて気絶するように寝てやろうかとも考えたが、私はそれほどお酒が強い方ではない。これも明日二日酔いになって自分がつらいだけ。


「う~!! スイーツバイキングでもあったら突撃して食べまくってくれるのに……」


 そう思うが、残業帰りの今はもう時間も遅く、そんなお店はあっても閉店している。

 それにまだ早い時間だとしても、私が住むアパートのある最寄り駅からその周辺はそれほどの都会ではないので、そんなお店はないと思われる。

 住宅地と農地がちょこちょこ。やや田舎寄りの住宅地、住むにはなかなか良いところだが、華々しさには欠ける地域だ。


「くそっ、せめてスーパーでなんか甘いもんでも買って帰ろう」


 この時間だったらもう半額シールのついたスイーツの1つや2つぐらいあるだろう。それ買ってヤケ食いぐらいしかできることがない我が身の哀れさよ。


 そんなアンニュイ半分戦闘モード半分な気持ちで、駅からの帰り道、アパートから徒歩10分ほどの一応チェーン店のスーパーへ足を向けた。


 入り口でカゴを取ってカートに乗せ、さてめぼしいものをと思ったら、入ってすぐの野菜売り場で、


「スイカ1個2980円(税別)よく冷えてます」


 という紙がピラピラと目に入ってきた。


「なにぃ、スイカ一個丸ごと冷やして売るだと!」


 驚きました。

 このご時世に、小家族化が進むこの時代に、私みたいな独り者が増えているという今に、なんつー怖い物知らず! なんという豪胆さか! 

 そんなもん丸ごと売られても冷蔵庫に入らない家多いっつーの!

 

 それにこのへん農家も多いから、丸ごと一個冷蔵庫に入るようなご家庭は、自分ちで作って食べてる気もする。

 思った通り、冷やした丸ごとスイカはまだ多少売れ残っていて、その姿に私はまた我が身と同じ哀れを感じた。


 実は私はスイカに命を救われた過去がある。

 小学校のある冬、インフルエンザで胃腸までやられ、水も飲み込めなくなった時に唯一喉を通ったのがスイカだった。

 母が何かないかと買って帰ってくれた冬のカットスイカ。それで水分とミネラルを摂取できて、なんとか命をつないだのだ。

 スイカ様バンザイ!


 見ていると目の前でスイカに「2割引」のシールが貼られた。

 ますます我が身と重なって見える。


「ここで会ったのも何かのご恩返し、おっしゃ、買ったるわい!」


 と、思い切りよくスイカ1個買ったった。


 えっちらおっちら。幸いすぐ近くのアパートに抱えて帰る。

 元々あまり料理もせず、空っぽに近かった冷蔵庫の中の棚を外し、スイカ様に鎮座いただく。そうしておいてお風呂上がりにさあ、ご対面だ。


 真横にすっぱり真っ二つ。

 下半分はラップして冷蔵庫にお戻りいただき、上半分をお盆に乗せて、ど真ん中からスプーンでいただきます!


「う~ん冷えてる~おいし~」


 染み渡るスイカの甘み。

 

「えい、この、この、あのハゲ課長め!」


 カレースプーンでガバッとほじくってはゴクリと飲みこんでスッキリしていく。


 そう言えば「頭が池」という落語だったか昔話だったかがあったなと思い出す。

 ある男がさくらんぼの種を飲み込んだら頭に桜が生えてきて、春に満開になったら人が花見に集まってきた。うるさいと木を引っこ抜いたら今度はそこが池になってやっぱり人が集まってきた。絶望した男は確かその池に飛び込んでしまうのよね。

 不条理極まりないがちゃんとオチがついた話だった。


 私はざくざくスイカを食べながら、課長の頭からスイカが生えて、それをみんなで引っこ抜いたところを想像した。

 課長の頭から生えたスイカなど食べたくはないが、残り少ない髪の毛をザクザクと踏みにじり、毛根よろしくスイカを収穫する様子はなかなか快適だ。


 そうしてほじくってほじくって、スイカを半分あっという間に平らげてしまった。


「はあ~満足した!」


 2980円(税別)の2割引のさらに半分だから……まあ1300円弱か。

 それでスッキリしたのだから、かなりのお買い得だった。


「ああ、またスイカ様に救われた」


 これで明日課長を殴ってクビになる事態は防げた。

  

 残りはまた明日のお楽しみ。

 スイカ様バンザイ!

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