25 全自動
仕事から帰ると一番にお風呂に入る。
一日の汚れをくっつけた洋服は全部洗濯機に入れる。
入れてしまえば後は自動で機械が判断し、最適に洗い上げ、朝までに乾燥、たたむところまで全部やってくれる。
湯船に浸かると全身を細かい気泡が包んで隅々まで洗ってくれる。
お湯に入っている部分、頭まで全部だ。
顔だけは一緒に沈めてしまうと苦しいので後でシャワーを当てるが、後はゆっくりと浮かんでいるだけなのでお風呂タイムは本当にリラックスできる。
ゆったりと浸かっている間に健康状態も調べてくれる。
何か問題があれば自動で病院を指定し、予約も入れてくれる。
今日も問題はなかったようでホッとした。
バスタオルを巻いてドレッサーに座ると、自動で風が出てきて髪を乾かしてくれる。
次は食事だ。
好みを打ち込んでおけば自動で好きなメニューの冷凍や冷蔵パックが届けられる。それをレンジに入れてスイッチ・オン、最適な温度に温められた口にあった食事をとることができる。
自分で料理を作る時もあるが、メニューを決めれば材料や調味料が全部自動で届けられる。料理を楽しんで食事も楽しんだその後は、道具を全部食器洗い機にほうりこめば自動できれいに洗い上げて乾燥してくれるから、気分転換などに時々料理はする。
食事が終わると次はモニター画面とにらめっこ。
敵を倒しながらの冒険で主人公が成長していく、古い人気ゲームのリバイバル版だ。
経験値を上げるにはたくさんバトルする必要があるのだが、全部オートに任しておけば自動でどんどんと進んでくれる。ラスボスを倒してやった、とガッツポーズ。
就寝時間になってベッドに入ると自動で電気が消え、自動で最適な寝姿勢に合った状態を保ってくれて快適な眠りに入ることができる。もちろん温度湿度も全部自動で調整してくれる。
翌日は休日だった。
ほとんどの仕事は家でリモートでできるのだが、昨日のように職場に行く必要もある。
仕事と行っても大部分がコンピュータにデータを入力するだけのこと、そうすれば後は全部自動で仕上げてくれる。
だが今日は家でも仕事をする必要がない。
なのに職場からのメッセージが点滅している、なんだろう。
部長からだった。昨日の仕事の成果についてのお褒めの言葉だ。
もちろんAIが自動で部長の動画に合わせたメッセージを作成して送信している。
見た印に既読チェックを入れて終わらせた。
せっかくの休み、しかも恋人とデートだというのに部長の顔を長々と見ていたくはない。
車に乗って家から出る。
もちろん車は自動運転、
2人乗りのこの車は、私のライフスタイルに合わせて自動で選択されたものだ。
好みに合っているだけにお気に入りのマイカーだ。
車は自動で美容院まで運んでくれた。
店内に入ると自動で私に似合う服、似合うメイク、似合う髪型に仕上げてくれた。
うん、これで彼と堂々と会うことができる。
彼とは自動マッチングアプリで出会った。
互いの好みがぴったりマッチしてるだけに、会ってすぐに意気投合、付き合ってもう3年になる。
彼と楽しい一時を過ごした。
もちろんデートの内容も全部自動で決めてもらえる。
私は彼との時間を楽しむだけ、それでいい。
翌日、
「次はどうする?」
と、彼が聞いてきた。
もしもまた会うのならばこう言えばいい。
「スケジューラに入れておくわね」
これで一番会いたいと思うタイミングをはかってデートの日を設定してくれるだろう。そのためにスケジューラを共有しているのだ。
もしももう終わらせたいと思うのならば、それをやめればいいだけのこと。
自動的に相手の情報、データなどを削除して、後腐れなく別れることができる。
今日は帰りにふと映画に行きたくなった。
古い映画のリバイバルをやっているのだ。
そういえば、彼とはその映画が好きだと意気投合して一緒に映画館に行ったのが初デートだったなあ。
家でも好きな時に見られるが、やはり大きな映画館で見たい時もある。劇場に到着すると自動で予約された席に案内された。
映画を見終わって、なんだか少し違う気がした。
前ほど感激しなかった。
多分、私の好みが変わってきたからなのだろうか。
そんな反応をAIが察知して、私の中でこの映画のランキングが下がったと自動でデータが更新されているはずだ。
もう一度見る日が来るかどうかは分からない。
帰り道、私の好みに自動に調整された車内で好みの音楽に身を任せながら、ふとこんなことを考えた。
「今の生活、今の世界に私って必要?」
何もかもが自動で動く世界の中で、自分という人間だけがぽっかりと切り取られたようにいらない物のように思えてきたのだ。
何も考えることなく、自動で選ばれたことに素直に従うだけの生活。
私がいてもいなくても、何も問題がないように思えてきた。
そんな気分を察知したAIが自動で音楽を変える。
ああ、私の好きな歌だ。
この世界のすべての物はどこかの誰かが夢見て叶えてきたもの。
そう歌っている。
そうなのだなと思う。
もしも私がこの世に必要がないのなら、どこかの誰かが自動で消去してくれることだろう。
その日まで、便利で安寧なこの生活を享受すればいい。
ただそれだけのことだ。




