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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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 22 クマ太郎とクマ次郎

 ある日、ある山の中でクマ太郎とクマ次郎が出会いました。


 クマ太郎は東、クマ次郎は西から、どちらも暮らしていた山の餌がなくなり、仕方なく国を出てはるばる探して旅をして、ここでバッタリと出会ったのです。


「なあクマ太郎はん」

「なんだクマ次郎」

「この山にもな~んも食べるもんおまへんなあ」

「ああ、今年はどんぐりがどこの山でも不作らしい」

「お腹減りましたなあ」

「ああ、腹減ったな」


 二匹は少ない餌を巡って戦おうとしたのですが、もうそんな体力も残っていなくて、こうして一本の木の下に並んで座り、だらだらと話をし続けていました。


「なあクマ次郎」

「なんでっかクマ太郎はん」

「思い切って人里へ行ってみねえか?」

「ええっ!」


 クマ次郎は驚いてがばりと起き上がった。


「な、な、なんで!」

「いや、聞いた話なんだが、人里へ行きゃあ動物園ってところで食わせてもらえるらしいぞ」

「どうぶつえ~ん~?」


 クマ次郎は間延びした声を出して驚いた。


「なんでっかそれは?」

「なんだ、知らねえのかよ」


 クマ太郎は聞いた話だがとクマ次郎に話をする。


「人間ってやつは色んな動物を集めて世話してるらしい」

「それ、なんのためでんねん?」

「見るんだとよ」

「見る? 見るってこの」


 クマ次郎は自分の目を熊の手で指差す。


「お目々ででっか?」

「他に目があるかよ」

「ほなやっぱりこれで」

「そうらしい」

「はあ、そらまたけったいな」

「そこに行きゃあ俺らだってなんとか生き延びられるんじゃねえかな」

「う~ん」


 クマ次郎は少し考え、前に自分が聞いた話をクマ太郎にする。


「これも聞いた話ですけどな」

「なんだよ」

「うちのじいさんの友達のクマ助っちゅうのんが、人間にばーん! て鉄砲で撃たれて、そんで鍋にされたっちゅう話でっせ」

「ああ」


 クマ太郎も聞いたことがある話だった。


「そやから、人里に降りたらそないして食われてまうんちゃいまっか?」

「なんだ、それが怖えぇのかよ」


 クマ太郎がふふっと笑った。


「考えてもみな? ここでこうして座ってたってよ、いつかは日干しになっちまうってもんだ」

「そりゃそうでっけど」

「それとも何か、おめぇ、そのまま弱って俺の餌んなってくれるってか?」

「いやいや、そりゃ殺生な~」

「冗談だ」


 クマ太郎がそう言って笑ったのでクマ次郎も少しホッとしたが、それでもひょっとしてと警戒は続ける。


「だからな、このまま座って死ぬぐらいなら、一発勝負してみようってんだよ」

「う~ん」


 クマ次郎は少し考えていたが、


「そうでんな。このままおってもどんぐりの栄養になるだけだんな」

「じゃあ」

「ええ、いきまひょ」


 ということで、二匹でふらふら人里に降りてきて、思ったように麻酔銃で捕獲されました。


 そして――


「クマ太郎はん、うまいこといきましたなあ」

「おう、ほんとだな」


 二匹はクマ動物園へと運ばれてそこのメンバーとなりました。


「ええとこだんなあ、動物園っちゅうのんは」

「ほんとにな」

「なんちゅうても餌の心配することあらへん」

「ああ、のんびりしたもんだ」

「クマ太郎はんが誘ってくれはらへんかったら今頃と、ほんまゾッとしますわ」

「俺だって一匹だけならこんなことする気になんかなれなかったさ、おめぇと出会ってそれで勇気をもらえたんだ」


 二匹は若いオスということで、ここに着いてすぐにお嫁さんも紹介してもらっていました。


「ほんま、運命っちゅうのは分かりまへんなあ」

「本当だなあ」


 二匹の生活はのんびりしたものです。


 毎朝起きたら健康診断をしてもらい、その後はひたすらのんびり過ごせばいい。

 餌は時間がくれば出してもらえる、明日食べる物を探しに必死に山を歩き回る必要はない。


「幸せでんなあ」

「本当だなあ」


 お嫁さんと子グマとは別の場所で暮らしていますが、時々遠くから子グマがこちらを見て、


「パパ~」


 と、手を振ってくれるのもしんみりと幸せです。


「ほんま、幸せですわ」

「そうか」

「せやけど」

 

 クマ次郎がホッと小さくため息をついた。


「わて、一つだけすごい残念なことがおまんねん」

「なんだ?」


 クマ太郎は心配になった。

 ここにいるのは元はと言えば自分が言いだしたことだ。


「あのね、わて、冬眠が好きでしたんや」

「は?」

「ここな、年中あったこおまっしゃろ?」

「ああ、冬も温かいな」

「そしたらな、冬眠でけしまへんねん」

「なんだ、そんなことか」


 クマ太郎は少しだけホッとした。


「食うもんに不自由しねえんだから、冬眠する必要ねえだろうが。起きて楽しく過ごせる時間が増えたと思やぁ、それも結構なことじゃねえのか?」

「それはそうでんねんけどね」


 クマ次郎は言いにくそうに続ける。


「冬でもお客が来たで~って運動場に出されまっしゃろ? あれがもう面倒で」

「なんだよ、そりゃわがままってもんだ」


 クマ太郎は思わず吹き出した。


「そうだんねん」


 クマ次郎はまたため息をつく。


「今が満足とおもてもなんぼでも欲が出る。ほんま、生きるちゅうのんは難儀なもんでんなあ」

「ほんとだなあ」


 二匹は今日もそうしてダラダラと話しながら暮らしています。

 多分、それで幸せなんでしょう。

 冬眠はできなくなったとしてもね。

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