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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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 20 表と裏

ちょっとだけ嫌な感じを持つ方もいらっしゃるかも知れません。

一応セクハラ話です。

 もうすぐ夏休み、うちの大学の試験は休み明けなので、少し早めの長期バイトに入ってみた。

 

 この夏休みに入るのは、中小企業の事務所で、私が配属されたのは十名ほどの人がいる係だった。


 同じフロアに3つの係、1つの係で1つの作業を完了し、それをまた次の係に渡して

最後の係まで渡ったら作業完了。私はその最初の作業の係に配属された。


 うちの係の係長は五十前後の特にこれといって特徴がない、絵に描いたような中間管理職、普通のおじさんだった。


「分からないことがあったら僕でもこっちのおばさんたちにでもなんでも聞いて」


 と、係長が紹介したように、係長以外は全員が中年以上のおばさん、もとい、奥様たちであった。


「よろしく」

「よろしくね」


 先輩の奥様たちはみんな和気あいあい、紅一点(こういってん)ならぬ黒一点(こくいってん)の係長とも仲良くやっているようだった。

 夏休みの短い間だけど、過ごしやすそうな職場でよかったとホッとした。


 入ってすぐは届いた書類の分類が私の受け持ちだった。


「この届いた封筒を開封して中の書類を出してください。こうしてね」


 と、奥様の一人が封筒の上を開封するのではなく、三辺をハサミで切り開き、


「開きにしてください。そうしたら中に書類が残ってないことが分かるでしょ」


 と、教えてくれた。


 なるほど、こうすれば中身が残って事故を起こす可能性が減るんだな。


「開封したら封筒と書類は種類別に分けて、そして次に回してください」


 単純作業、一日中やってるには飽きるかもだが、職場はエアコン完備だし暑い夏に快適だった。


 その作業を数日やったら、また次の作業を教えてもらえることになった。


「あ、それは僕が教えるよ」

 

 係長がそう言った時、奥様たちがふっと何か言いたげな顔をしたように思ったが、すぐに元に戻ったので気のせいかなと思った。


 係長に連れられて別室へ行く。

 そこにはなんだか四角い機械があり、そこに書類を入れたら書類を番号順に並べてくれるということだった。


「まずね、一回目にここに入れてスイッチを」


 係長が一つのボックスに書類を入れてスイッチを押すと、紙がパラパラと流れて10ヶ所のボックスに分かれてでてきた。


「これでこの一番上の位が1から0まで分類されたわけ。次はそれをね、こうして桁を二番目の位に変えて」


 取り出した書類をもう一度入れて同じスイッチを入れる。


「こうして最後の桁まで繰り返したら、全部番号順に並んでるってわけ」

「便利ですね」

「でしょ」


 係長がうれしそうににっかり笑った。


「じゃあ、僕はこっちから書類を入れるから、機械が止まったら集めていって」

「分かりました」


 触ったことがない機械の触ったことがない作業は面白く、次々と並んでいく書類が気持ちよかった。


 そうして楽しく作業をしていたのだが、


(ん?)


 係長が後ろを通った時、さっとお尻を触られた気がした。


(え?)


 機械に向かって立って作業をしていたのだが、集めた書類を渡して通る時、どうも係長の手がお尻に当たった気がしたのだ。


 通路は広くはないが通る時に気をつけていれば当たるような狭さでもない。

 気のせいかと気にせず作業を続けていたら、また当たった。


(わざと?)


 次に係長が後ろを通る時、微妙に体を台にくっつけて、当たらないように気をつけてみた。


 係長は何度か同じ試みをしているようだったが、私が絶対に当たらないように身を避けるので、そのうちに諦めた。


「お疲れ様、じゃあ戻ろうか」


 本来なら気楽であろう作業をいらぬことに神経を使わされて不愉快な気持ちになったが、やっと奥様たちのいる部屋に戻れる。


「おつかれさま」


 奥様の一人が私から書類を受け取りながら、


「ねえ、係長にお尻触られなかった?」

 

 そう聞かれた。


「え、あ~あの~」


 どう答えようかと考えていたら、


「やっぱり」


 他の奥様が係長に向かって、


「係長、また若い子のこと触ったでしょう」


 そう言ったので驚いた。


 そうしたら係長が、


「いやいや、触ってないよ」


 と、両手を振りながら否定する。


「嘘! いつもそれで若いバイトの子がやめたりするじゃない」

「手はね、偶然当たることもあるんだよ」


 係長はすまして続けた。


「手をね、ほら、こう」


 と、自分の手の甲を指さして、


「こっちが当たったらそれは事故、手のひらの方だったらそれはセクハラになるから僕は絶対にこっちを外にして歩いてる。だから事故なんだよ、事故」


 と、得意そうに言った。


 やっぱりわざとだったんだ。

 家には娘が二人いるという、普通の父親に見える係長がそんなことをするなんて。


 おばさまたちが不愉快そうな顔をするが、証拠もなく、これ以上どうにもできないのかも知れない。


 さすがに来たばかりなので大人しそうにしているが、私はそういうことを黙ってされているタイプではない。これからもそんなことされようものなら、黙っちゃいない。 

 だけど、もしもおとなしい子だったら、黙ってされるがままになり、心に傷を残すかもしれない。


 自分の娘がそういう目に合ったらとこの人は想像する頭がないのだろう。

 そう思った。


 短期のバイトと割り切って休みの間をそこで働き、油断しなかったのでもう触られることはなかったが、私は普通のおじさんの表と裏を見てしまったことにため息が出た夏だった。

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