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小椋夏己のア・ラ・カルト  作者: 小椋夏己


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17/68

 17 生きているから

「だってこの髪、何回か色抜いてから染めるんだけど、その時に頭の皮膚がピリピリするよ。それって生きてるからじゃん?」

「だから、死んでるのは伸びてる髪の毛の部分だってば。皮膚は生きてるでしょうが」

「あ、そうか」

「髪は生きてるのが毛根の部分だけだから切っても平気なんだよ」

「そりゃそうか」


 薄い金髪の、ストパーでストレートにした髪をフリフリしながら、夏海が言う。


「もしも髪の毛が生きてたら、カットするなんて考えるだけおそろしや〜」

「神経通ってたらいったいぞ〜」

「きっと血も出るね」

「髪の毛の先からぶしゅーっと吹き出す血!」

「いやーやめてよー!」

「すぷらったあ〜」

「やめ〜い!」


 そう言いながらみんなできゃあきゃあと盛り上がる。


 元々はおしゃれ番長の夏海が、


「見てー髪の毛こんな、そんでネイルもー」


 と、溜め込んだバイト代を一斉放出して薄い金髪にした髪と、おいしそうなスイーツがいっぱいくっついたネイルをうれしそうに見せてきたのを、


「すんごいね爪」

「それ、缶コーヒーの栓抜けられねえべ?」

「それはまあ、そばにいる人に開けてもらう〜」

「え、やってやんねえよ?」

「やってよ〜」

「コーヒーも開けられないような爪切っちゃえ!」

「いやだ、こんなかわいいのにかわいそうじゃん」

「かわいそうなことないって、爪なんて元々死んでんだし」

「やだやだ、気味悪いこと言わないでよ〜」

「だってそうだよ? 爪って根っ子の部分以外の皮膚から出てる部分はもう死んでるんだよ」

「いや、そりゃそうだけどさ、そういう言い方なんかちょっと、うーん、なんか違う」

「うわ、情報量ゼロ、どう違うか全然わかんね〜」


 などと、妙な方向に話が盛り上がったことからだった。


「でもさ、髪の毛も爪も死んでるんだってことはさ、それでいくとわしら、死んだ場所に力入れておしゃれしてるってこと?」

「言われてみればそうかな」

「まつエクだって死んだまつげにエクステくっつけてるんだな」

「うわ、そうなる」

「どこもここも死んでんだ、ゾンビ〜」


 キャアキャアと盛り上がっていると、夏海が透き通るような金髪と、カラフルでおいしそうな爪を情けなそうに見る。


「これ時間かかったんだよ。色抜いて色抜いて色抜いて、そんで金色入れて4時間。なんか、死んでる部分にお金と時間かけてるんだって考えるとびみょ〜」

「でもさ、その死んだ部分が生きた体にくっついてるわけだから」

「いや〜なんかその言い方怖い〜やめてよ〜」

「だって事実だし」

「そりゃそうだけどさあ」


 いよいよ夏海ががっかりと、 


「それだったらいっそ、古代エジプトみたいに坊主にして、そんで好き勝手なかつら日替わりの方が安くて楽で楽しい気がしてきた」


 そうつぶやく。


「なにそれ?」

「うん、文化服装学の時間に習ったんだけど、古代のエジプトのおかっぱみたいな髪あるじゃん?」

「ああ、あるある」

「おかっぱかカーリーだよね?」

「うん、そういうの。あれって頭そって、その上にかつらかぶってんだよ」

「ええー!」

「うそー!」

「クレオパトラも?」

「うん、クレオパトラもつるつる」

「ええー」


 思わぬ事実に女子たちが絶句、ではなく絶叫でもないが、まあそんな声を上げる。


「しかもね、エジプトって三千年の間ずっとファッション変わんなかったんだよね」

「うそー!」

「それはさすがに」

「いや、マジマジ」

 

 夏海はせっかく力を入れたおしゃれへの気持ちがパワーダウンしたのを取り返すように、習ったばかりの知識を皆に披露する。


「あそこ暑いじゃない? だから虫が湧いたりしないように髪もそっちゃうし、服も男は風通しがいい麻の腰巻1枚、女も同じ生地のすっとんとんの筒みたいなワンピースだけ。それがずっと」

「三千年かよ!」

「そういうこと。頭つるつるも暑いのと虫沸いたりしないようにみたいよ」

「えーショックー!」

「あの独特のアイシャドウも魔除けと、そんで虫よけ」

「ええ〜」


 おしゃれをしてるのは死んだ部分、そして古代のロマンも不衛生から。

 現代の女子たちには結構衝撃的な話だった。


「あ〜あ、なんだかなあ」

「ほんと、おしゃれってなんだろうって気になるよね」

「三代美女がつるつるの虫よけ……」

「現実って無情だ」


 ため息に次ぐため息。


「でもさ、でもさ」


 やはり口を開いたのは夏海だ。


「そうやってつるつるにしなくちゃなんなくてもさ、その上にかつら乗っけておしゃれしようって思ってたんだよ?」


 力説する。


「アイメイクだってさ、虫よけだったら適当に塗ればいいのに、それをあんな、なんてのかな、えっとエキセントリックじゃなくて」

「エキゾチック?」

「そうそ、それ。そんな風にしてったんだよ」

「言われてみりゃそうだ」

「でしょ? やっぱりおしゃれって必要なんだよ、生きてくのに!」

 


 夏海がふんっと胸を張り。


「だからさ、私ら女子は生きてる限り、そこが死んだ場所だって気を抜かず手を抜かず、おしゃれをしていかなきゃいけないのよ。いや、生きてるからこそ、死んでる場所もそうやって生かす! 私はこれからもおしゃれをしていくことを誓います!」

「おしゃれ万歳!」

「女子万歳!」

「おしゃれよ永遠なれ!」


おしゃれ番長の宣言に、みんながわあっと声を上げて拍手をした。

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