14 何事かをなす者
小学校の頃、短い間だがサッカーリーグに入っていた。
運動に全然興味がなかった私だが、当時、サッカーブームになっていたこと、小学校で新しくできたサッカーリーグに募集があったこと、それに男女関係なく友人たちが入ったことなんかが主な理由だ。
練習は主に土曜日。
学校が休みの日にリーグがグラウンドを借りてやる形だった。
それまで運動部に入ったことがない者たちまでが、新しくできた団体の一期生になるということがなんとなく自慢そうで、競ってリーグに入っていった。
「いーちにーさんしー」
練習はコーチの掛け声に合わせたストレッチから始まる。
それが終わると短い走り込み。
ボールに触るより、まずはそういう基礎練習からだった。
その後で順番にドリブルやシュートの練習、そんなことをやっていく。
「ああ、早く試合したいなあ」
「ほんとだよね」
友人たちとそう言って、テレビで見るあの熱いシーンを自分たちで再現することを夢見ながら基礎練習に励んでいた。
「今日は紅白戦をやるぞ」
コーチの声に子どもたちはわあっと沸いた。
「それじゃあ」
コーチが次々と名前を呼び、紅白戦第一戦の先発メンバー22名がグラウンドに並ぶ。
男女混合、初心者ばかりのにわか作りチームでの試合だが、それでもグラウンドが興奮のるつぼと化すには十分だった。
試合はコーチのチーム分けが良かったのか五分五分。
結局1対1で引き分け、15分ずつの前半後半30分はあっという間に終わった。
「よし、今日はこれまで」
「ありがとうございました!」
「来週から最後にはミニ紅白戦をするぞ」
「やったー!」
それから練習のたびにストレッチ、基礎練習、それから最後にミニ紅白戦が定番になった。
私もフル出場はなくとも、色々なポジションについては、交代まで試合の空気を楽しんでいた。
「今日はキーパーやってみろ」
コーチに言われ、心の中で、
(え〜)
とは思ったのだが、言われたからには仕方なくゴール前のポジションにつく。
(つまらないなあ)
これがプロだとか大きな大会ならゴールを守る者は重責だと分かるのだが、たかが小学生の練習の中でのミニ紅白戦、真ん中で白熱する選手とボールを見守りながら、ただただ退屈に思うだけだった。
特に、この時はうちのチームがあちらに攻めることの方が多く、私は完全にぼーっと立ってるだけのカカシみたいなもの。
(キーパー嫌だなあ)
そう考えていた時、相手の選手に交代があり、その途端、試合の流れが変わった。
相手チームに入ったのは女子で、飛び抜けてうまい選手だった。
素人の子どもの目から見ても、あの子はなんか違う、そう思ったことが何度もある。
そして、その子が入った途端、試合の流れが変わった。
15分の前後半戦、うちのチームがよく攻めてはいたが、点数には動きのない前半戦を終えて、後半戦ももう後残り少しになっての交代、このままどちらも無得点に終わるのかと思っていたのに、一気にこちらに向けての動きが多くなってきた。
そして、あの子が、飛び抜けてうまいあの子が、日に焼けたしなやかな肢体でドリブルをしながらこちらのゴールに来る!
それまでの退屈をどこかに引っ込めて、私は緊張しながらボールを待ち受ける。
シュート!
飛んできたボールを一度は胸で受け止めたものの、
「うっ!」
強烈な衝撃に思わず手をゆるめ、ボールがころころと向こうに転がっていく。
(取らなくちゃ!)
ゴールを割らせてなるものか、と急いでボールに走り寄った時、
ざあー!
なんだかそんな音がして、
「ああっ!」
足に激痛が走った。
痛みでぼおっとしながらも、何があったのかはなんとか見ることができた。
あの子、飛び抜けてうまいあの子がボールを蹴り入れようとスライドしてきたその足が、私のむこうずねに当たったのだ。
痛い!
むこうずねを蹴られるとそりゃ痛い!
「ううっ……」
思わず足を抱えて丸まる私の前でその子はさっと立ち上がり、
「大丈夫?」
そう声をかけてくれるとばかり思ったら、
ばしーん!
強烈なシュートを決められた。
(え、なんで、やめてくれるんじゃないの? ごめんって言ってくれるんじゃないの?)
私は痛みも忘れて呆気にとられた。
そしてそれからすぐ、サッカーはやめてしまった。
理由は、やはりこの時に足を蹴られたのが怖かったからだ。
また痛い目に合うかも知れない、その恐怖がかなり大きかった。
それからもう一つは、やはり自分にはそれほどサッカーの才能もなければ、ずっとやるほどの気持ちもないと分かったからだ。
今もサッカーは好きで、時に試合を見に行ったり、テレビで放送がある時にも見たりするが、もう自分でやろうと思う気持ちはなくなってしまっていた。
そしてあの時の彼女、飛び抜けてうまかった彼女は、今はなでしこリーグで活躍をして、
「未来の澤穂希」
とまで言われるようになった。
もうすぐ海外のチームに呼ばれるとの話もある。
あの時、小学生だったあの時、うずくまる私には目もくれず、ただひたすらゴールを目指した彼女の姿、すっくと立ち上がり前しか見ていなかった彼女の姿を思い出す。
そして、やはり何事かを成す者はそんな頃から違うんだな、そう考えながら彼女のことを私は応援しているのだ。




