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モフ★クマ ~怪獣戦闘記~  作者: 功野 涼し
安寧の音を求め
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化かし合い

 瑠璃は寧音の部屋から運び出した荷物を廊下で受け取ると台車に載せ1階にある倉庫に一旦保管する為段ボールの載った台車を押していく。


 エレベーターに乗り込み1階のボタンを押し閉まるドアが閉まること止め再び開き始める。


「あの、私も一緒に行って良いですか?」


 開いたドアから翠が乗り込んできて瑠璃に訪ねる。瑠璃は短く「ああ」とだけ言うと翠が閉まるボタンを押す。

 下がるエレベーターの中は沈黙で支配される。フワッと浮かぶような感覚は重い空気を持ち上げてくれることなく1階にたどり着くと無言で瑠璃が台車を押すのでその横を翠がついていく。


「翠」

「は、はい!?」


 突然止まると瑠璃が翠の名前を呼ぶ。


「翠はこの間基地内で活躍したって聞いたがMOFU KUMAには乗らないのか?」

「え、ええ私は操縦の才能がありませんから乗ることはないと思います。それに活躍したと言っても諸星教官たちの協力があったからこそです」

「そうか……翠は生き残れよ」


 翠が瑠璃の袖を引っ張ると潤んだ瞳を向けてくる。


「瑠璃さん。皆が生きてないと私嫌です。前の戦いで寧音ちゃんや諸星教官を始め多くの方が亡くなりました。私そんなの嫌なんです……

 だからそんな……私だけ生き残れるから良かったみたいな言い方しないで下さい」


 瑠璃の袖を掴んだまま下を向き涙を溢す翠を見て戸惑いの表情を浮かべる。今まで無表情だった瑠璃の顔に変化が生じる。

 たとえ負や戸惑いの感情であっても変化があると心に触れるチャンスが生まれる。


 それを知る者は言う。


「瑠璃さん。私は瑠璃さんのことが好きです。でも私を好きになってくれとは言いません。

 ただあなたを好きな人がいて、あなたがいなくなると悲しむ人がいる。それだけ知ってて欲しいんです」

「翠……」


 戸惑いを隠せない瑠璃の瞳に少し光が戻る。


「私が好きな瑠璃さんをずっと好きでいさせてくれるためにも生きてくれませんか。側にいなくてもいい、瑠璃さんが生きていれば思い続けることは出来ますから」


 泣き出す翠の肩に触れたところで穂花から声がかかる。


「瑠璃くん、三滝指令がお呼びですよ~。私も呼ばれてますから一緒にいきましょ~」

「あ、ああすぐに行く」


 翠の方を見てどうして良いか戸惑う瑠璃の手を穂花が握ると少し強引に引っ張る。

 少しだけ進むと何かを思い出したかのように穂花は翠の元へ引き返し翠の顔を覗き込むと囁く。


「翠ちゃん、私にも生きて欲しいって言ってよ~。それとも~ 死んで欲しいとか?」


 穂花の鋭い目と翠の潤んだ瞳が互いを映し出すと一瞬の沈黙が訪れる。


「穢れなき翡翠(ひすい)の鳥の名前が聞いて呆れますね」

「……」


 最後に小さな声で1言だけ穂花は呟くと瑠璃の元に戻り手を引いて歩いていく。その姿を見つめる目に涙はもうない。



 ***



 三滝が通信のログを再生する。聞こえてくるのは寧音と瑠璃の最後のやり取り。

 3回聞かされ三滝が瑠璃と穂花の顔をじっと見てくる。


「瑠璃くんに聞こう。寧音くんは最後に自分を『羽衣』だと名乗った。そして君はそれを呼んだ。間違いないね?」

「はい、間違いありません」


 瑠璃は素直に頷くのを見て三滝が続ける。


「本当の名前とはどういうことかね? この会話の意味が私には分からんのだよ」

「申し訳ありません。おれ……私も分かりません。いまだになぜ寧音があのようなことを言ったのか」

「ふ~む、穂花くんはどう思う?」


 三滝に訪ねられ首を傾げる穂花はのんびりした口調で答える。


「寧音ちゃんは~ 混乱していたんじゃあないでしょうか~ あの切迫した状況で記憶が混乱し昔の遊びで名乗った名前と~ 瑠璃くんを~ 誰かと間違えたんだと思います~

 そうですよ~ 私も~ あの場面なら間違うと~ お思うんですよね~。

 あっ、それとも~ 死を前にして~ 疑似人格を形成して~ 恐怖からの~ 脱出を~ 計ったとも考えられませんか~?」

「あ~分かった。もういい」


 三滝は咳払いをして2人の顔を改めて見る。


「いいかね、アネットくん、寧音くんと我々は大切な仲間を失った。だがもう一踏ん張りすれば活路が見出だせるかもしれん。

 すまないが君たちに頼る他無いのだ。頼まれてくれ」


 三滝が頭を下げるのを見て穂花が首を傾げる。


「三滝指令は~ 何で~ もう一踏ん張りって思うんですかあ?」


 穂花の質問に三滝はすんなり答える。


「ああそれはだね、最近のモドラーは多種多様化してきているだろう。それはモドラー自体が我々人間に対抗する為にもがいているという見解があるのだよ」

「はあ~ そんな見解が……そうなんですね~」


 ここまでの穂花と三滝のやり取りを見ながら一言も発していない、いや発することが出来ない瑠璃は額から汗が伝うのを感じるが拭えない。


(2人共に本当のことを知っている。平気で嘘をついて牽制しあい探り合うか。俺には出来ないが今の俺たちにこんなことが必要なのか)


「勉強になりましたあ~ 三滝指令は博識ですのでタメになります~」


 穂花は微笑むのを真顔で見返す三滝。


「ところで~ 諸星教官のご遺体は見付かりましたかぁ~?」


 三滝の頬が一瞬痙攣するように動く。


「炎による特攻とプラントンの酸で溶けて遺体が見つからないって聞きましたけど~ 遺体の一部すら見つからないなんてあり得ますかね~」

「何が言いたいのかね穂花くん」


 訪れる沈黙に瑠璃が息苦しさを感じるそのときに警報が鳴り響く。


「あらあらモドラーですかね~ タイミング良すぎて誰かが呼んでるみたいですね~?」


 そんな穂花の言葉は聞こえていないとでもいうように三滝は内線を通じ電話相手と話を始めるので瑠璃と穂花は指令室を後にする。



 ***



 管制室の持ち場に座る翠はモニターを見る。


(後2体。どんな結果を見せてくれるんですかね、人間は)

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