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初めての戦い

 僕の目の前には2人の悪漢が獲物を見るような目でこっちをジロジロ見ている。

 

 実際に王国に悪者として手配されているのは僕なので傍から見ればどっちが悪者なのか分からないが……


 僕は冷静に自分の実力を客観視する。


 正直に言って今の僕は弱い。人と戦ったことがないので分析するのが難しいが、技術も特技もない、装備もまともじゃない、そんな自分が目の前の大人に正々堂々挑んで勝てる気が全くしない。


 武器は1ヶ月間お世話になった手作りのナイフだけだ。岩を砕いた破片をそのあと暇があれば磨いていた。魚を支障なく捌けたから人も問題ないだろう。

 

 僕は願掛けの意味を込めて自慢の逸品を優しく撫でる。


 ナイフを持ってる男は腰に剣を提げている。ナイフだけで大丈夫ってことか? 舐めてくれている方が助かるが、それに安堵してる自分の弱さが悔しい。


 もう1人は弓を手に持っている。こちらは剣は持っていないが、おそらくナイフくらいは非常用に持っているだろう。


 呼ぶのが面倒くさいからナイフ男と弓男と呼ぼう。

 

 自分で言うのも恥ずかしいけど、唯一運動神経だけは自信がある。どれくらい通用するか分からないが、身軽さで撹乱して舐めている隙を突くしかない。


 情報をある程度まとめて覚悟を決めた僕は男達に突撃する。


 基本的に弓男の直線状にナイフ男が来るように動き、時々ジグザグに動いてフェイントをかけてみせる。


 ナイフ男は余裕の表情を崩さずひたすら待ちの姿勢でいる。弓男は的を狙いにくいのか小さく舌打ちしたのが聞こえた。


 自分の作戦が思い通りにいって少し嬉しくなる。


 ナイフ男の一歩手前まで来た。相変わらずニヤニヤした表情でこちらを馬鹿にしている感じがする。


 僕は先手必勝とばかりに左手に隠し持っていた砂を相手の顔に投げつけた。男は驚いたように少し目を開き、顔を守ろうと両手が少し反応する。

 

 僕はその隙を待っていたと口角が上がる、ナイフを両手でしっかりと握って前に突き出し、右足で土を全力で踏み込んで相手の胸に向かって飛び込んだ。

 そのナイフは男の胸に刺さろうとして――

 

 

 ――僕を迎えたのは、お腹に響く重たい鈍痛だった。


 その衝撃になされるがままに飛ばされる。


 ほっぺに冷たい土の感触が伝わる。僕は地面に伏していた。


 何が起きたのかを確認すると、ナイフ男が足を突き出している。前蹴りをくらっていただけだった。


「突っ込んでくるだけの馬鹿は単純で分かりやすいなぁ! もっと楽しませてくれよ!」


 ナイフ男は大声で僕を煽ってくる。


 お腹がズンズンと鈍い痛みが響いているがまだ全然大丈夫だ。そう思いもう一度ナイフを握りしめて立つ。


 しかし、立った瞬間に視界に矢が飛び込んできた。避けられるわけもなく左腕に刺さる。


「ぐぅっ……」


 めちゃくちゃ痛い。傷口が存在を訴えてくる。鋭い痛みが僕の心を端折りにくる。というか立った瞬間に射ってくるとか狡すぎる。もうすこしフェアな戦いにしようとは思わないのか。と痛すぎて逆恨みのような感情が湧いてくる。


 待ったと言いたい所だが、次の矢が飛んできたら不味いので、直ぐに心を持ち直して走る。


 自分の勝ち筋がどんどん減っていることに、心が潰されるようなえも言われぬ不安が僕を襲う。


 必死に頭を回転させて相手の動向を探る。


 ……駄目だ。突っ込むぐらいしか勝ち方が分からない。


 ナイフ男と2メートルぐらいの距離まで来て足が止まる。


 僕から来ないと悟ったのか、ナイフ男はゆっくりと近づいて来てナイフを振りかぶった。


 慌てて僕はナイフを構える。男のナイフを受け止めたが、あまりの衝撃と重さに耐え切れず、横に軽く飛ばされる。


 そのままナイフ男にお腹を蹴り飛ばされ、再び地面と顔を擦り付ける。


 身体中が痛い、今にも胃液が吐き出しそうだ。自慢のナイフもさっき受け止めたせいで割れてしまった。これでは刺すことしか出来ない……



「やっぱりただの雑魚じゃねーか。おい、もうこいつ殺していいか?」

 

「ヒヒヒ、いいぞ。俺ら本当についてるぜ、これで大金持ちだ」

 



 ――男達が会話をしてるのが聞こえる……


 勝ち方が分からなくなった。僕はこいつらに勝てない。


 身体の節々が痛い。俺は力の限りを出し尽くした。弄ばれただけだ。最初から無理だったんだ。


 もう殺されるだけだ……。


「――!」


 俺の心が完全に折れかけた時、女の子の声が聞こえてくる。


「――めちゃ駄目! ラト! 希望を捨てないで! まだ負けてないよ!……」


 声の主を探すと、ルスが必死に応援してくれている。


 戦いに集中していて気づかなかったがずっと応援していてくれたのだろうか。今も泣きそうになりながら応援してくれている。


 そうだ……。ルスは僕を信じてくれた。きっと今も僕が勝つことを信じているのだろう。


 僕が負けたら確実にルスは酷い目に合ってしまう。そんなことは絶対に駄目だ。


 こうして僕は同じことを繰り返して何も出来ず死んでしまうのか……? 違う。そんなことが許されるはずがない。


 今度は僕がみんなを護る番なんだ……!


 もう僕は負けるわけにはいかないんだ……!



 




 ――奇妙な感覚だ。心臓を中心に全身が芯から熱くなってくる。


 身体中が熱い。全身が燃えている気分だ。


 でも、不思議と元気が湧いてくる。


 熱が僕の心を温めてくれる。


 まだ、大丈夫……


「ああああああああ!」 


 ――僕は叫びながら割れたナイフを握りしめて、再度走り出す。


 まるで、自分の身体じゃないみたいだった。


 身体がとても軽い。それなのに大地に力強く踏み込める。


 スピードがどんどん上がる。既に以前の倍の速さは出ているが、まだ限界は感じない。


 あっという間にナイフ男にたどり着いた。


 僕を見てナイフ男が剣を抜刀しようとしていたが、抜ききる前にナイフを胸に突き立てる。


 男が抜きかけていた剣を奪って弓男に向けて走り出す。


 弓男は慌てて矢を射ってくるが、先ほどまでより遅く感じる。


 軽く身を捻って躱し、そのまま流れるように男の首を断ち切った。


「なんだ……こいつ……いきなりどうして……」


 後ろでナイフ男が苦しんでいる。


 僕は後ろからもう一度剣で心臓を刺して、男を楽にしてあげた。


「僕の身体……どうしたんだろ……」


 自分でも何が起きたのかよく分かっていない。でも勝ったことだけはわかった。


「ルス……大丈ーー」


 そう言ってルスの元に戻ろうとしたとき、全身に壊れるような痛みが襲う。


「ぎぃっ……ぐうっ……なに……これ……」


 あまりの痛さに意識がぼんやりとしてくる。


 これは耐えられない。直感が告げる。先程の蹴られたり矢が刺さったときの比ではない。


 遠くを見ると僕の異変を感じたのか、ルスが慌ててぎこちない歩き方でこっちに近寄ろうとしてる。


 倒れたら駄目だ。でも抵抗しようにも周りの景色が暗くなってくる。


「ルス……ごめんね……村まで運んであげられそうにないや……」


 僕はルスが無事である事を確認出来ると目の前が真っ暗になった。

 


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