魔法と襲撃
僕は背中で鼻歌を歌っている少女に声を掛ける。
「なぁ、いくつか質問して良い?」
自分に話が振られてこちらに意識を向けてきたルスは鼻歌を中断して了承する。
「森のこんな所までよく片足だけで来ようと思ったな、歩くのが好きなのか?」
「違うよ! 私はね、飛んで此処まで来たんだ」
ルスはどうだ!と言わんばかりに得意げに語っているが、自分にはこの子が何を言っているのか理解できない。
「飛ぶって魔族じゃないんだから無理だろ」
「それがね、人間でも魔法で空を飛ぶことが出来るんだよ」
そういって実践してくれたのか少しだけ腰にかかる負担が和らぐのを感じた。
「うへぇ……これが限界」
凄い。魔法って飛ぶことも出来るのか。魔法に対する探究心がより一層くすぐられる。
「飛ぶことが出来るなんて凄いな。ルスは魔法が得意なのか?」
褒められて鼻を高くしているルスは嬉しそうに教えてくれる。
「私の村で飛ぶことが出来るのは私だけなんだよ!」
折角だからこの機会に魔法について聞いておこう。
「恥ずかしいんだけど、僕って全然魔法について知らないんだ。基本でいいし教えてくれないか?」
ルスは二つ返事で了承してくれる。本当にいい子だ。妹を持つならこんな子がいいな。
――話をまとめるとこんな感じだ。
まず全ての生命には魔力が宿っている。
魔力は身体を動かす為の原動力となっていて、手・腕・頭……など身体の至る所に魔力が集中しているコアポイントと呼ばれる部分がある。そこを結ぶようにして身体の四肢を動かしている。
この魔力を武器として外に放出するのが魔法なのだが。普通の状態だと外に出すことは出来ない。
ここで精霊が必要になってくる。何処かのコアポイントに住まわせる事で魔力を外に出すときの中継を担ってくれるのだ。
この時、精霊に捧げるコアポイントが広ければ広いほどいざと言う時の爆発力は高くなる。
しかし、注意しなければならないのは魔法を使うとそのコアポイントの魔力から中心に消費する為、使えば使うほど精霊を宿した部位が動かなくなってしまうのだ。
誰でも魔法を使えるのに魔法使い以外が魔法を使わない理由は――武器が握られなくなったり自由に動けなくなるからである。
長くなってしまったが、ざっくりと簡単に言えば魔法を使いすぎたら精霊を宿した部位を動かせなくなる――ということらしい。
他にも一つの属性しか宿せない、とか身体に範囲的に宿す場合にはコアポイントが繋がっていないといけない、など細かい制約はあるが、とりあえずはこれらを知っておけばいいらしい。
「で、ルスは魔力を使い果たして落ちてしまったと……」
呆れてものも言えない。後ろをちらっと見ると、顔を真っ赤にして僕の背中に顔をうずめている。
「私、飛ぶのが大好きで……小鳥さんと追いかけっこしてたら気がついたら落下してて……」
アホの子なのだろうか。僕が見つけなかったら本当に死んでた気がする。
「そういえばルスはなんの精霊なんなんだ?」
「そっか、それも知らないんだね。精霊も沢山種類があってね。火・水・雷が下級精霊、地・空・森が上級精霊、光と闇は特級精霊といわれてるよ。私の精霊は空の精霊なんだ!」
後ろをチラ見すると、私は上級精霊なんだよ! といわんばかりの顔が目に入る。もはや眩しい。
「私の精霊はね下半身の全てのコアポイントに宿しているんだ。片足が使えない私にとってはそれが一番効率いいからね」
なるほどなぁ……魔法って案外デメリットが大きかったんだな。
最後に精霊と何処で契約を結ぶのか尋ねてみた。
「それはね、私もよく分からないんだ。毎日、空を飛びたいと願っていたらある日急に声がして……会話してたら身体に宿ってくれたの。だからずっと願ってたら来てくれるんじゃないかな?」
精霊のきまぐれなのか……? 好きに手に入れることはできないということみたいだ。
その後はたわいもない会話をしながら暫く歩いた。
ルス曰く村はもうすぐそこらしい。
やっと人としての最低限度の生活を送られそうだ。
まず美味しい食べ物が食べたい。火打ち石とか道具も調達しないといけないなぁ。服ももう1着買うか……? でも嵩張りそうだしこれは諦めるしかないな――
そんな着いたらやりたいことリストを頭の中で製作していると、ルスが急に声を荒げて叫んだ。
「危ない! 止まって!」
先程までとは切羽詰まった声で叫ばれた僕は慌てて足を止める。
すると、目の前を1本の矢が殺意を持って通り過ぎてゆく。何だ今のは……あのまま歩いていたら確実に死んでいた。
「ちっ……下手くそ! 避けられちまったじゃねーか!」
「すまんすまん、女は先に譲るから許してくれ」
横の茂みの向こうから2人の男が出てきた。
手にナイフを持った男と弓を持った男がニヤニヤしながら近づいてくる。先程の矢のこともあり確実に悪意を持って近づいてきている。
ナイフの男はウエストポーチから紙を一枚取り出して僕と見比べている。
「やっぱりこいつで間違いねーよ! こんな所で出会えるなんて俺らはツイてるなぁ……」
「ヒヒヒ、このガキを殺してでも国に持ち帰ったら一生遊んで暮らせるぜ」
狙っているのは俺なのか……? 会話から察するにやっぱり指名手配でもされていたのだろうか。
僕のせいだと分かれば、なんとしてでもルスを巻き込むわけにはいかない。
僕は男達と離れてるうちにルスを近くの木の影にもたれ掛からせる。
「大丈夫だ、女には傷付けねーよ! 後で沢山楽しませてもらうからな、ヒャヒヒ」
気持ち悪い笑い方だ、気分が悪くなる。しかし、ルスはひとまず安全みたいだ。嘘の可能性もあるが僕が倒れない限り大丈夫だろう。
背中で担がれているルスが何か思い出したのか驚いている。
「思い出した! あなたってこの前村に来た国の人が探してた亜人の子だよね!? 凶悪犯で指名手配してるから見つけたら多額の報賞金を与えるって――」
やっぱり僕は探されていたみたいだ。というか凶悪犯って……どう考えても冤罪な理由に腹が立つが、とにかくルスを落ち着かせる為に説得する。
「ごめん! 理由はあとで全部説明する。今はどうか信じて欲しい」
ルスは少し考えていたが僕の目をしっかりと見つめて頷いた。
「私を助けてくれたんだから悪い人なわけないよね。わかった、信じてあげる」
木にもたれかかっているルスは優しい笑顔を向けてくれた。本当にいい子だ、この子の笑顔を壊させるわけにはいかない。
――大丈夫だ。勝てる。こんなところで死ぬわけにはいかない。
初めての戦闘に不安で押し潰されそうになる心を鼓舞で誤魔化す。
腰に付けた手作りのナイフを手に取って僕は男達の前に立ちはだかった。




