出会い
この場所に飛ばされてから1ヶ月が過ぎた。
くよくよしていては笑われるので、今は気持ちを切り替えて自給自足の生活をしている。
僕はこの1ヶ月に起きた出来事を振り返る――
まず生きる為に食料と水の確保を優先した。
食糧は木実と魚の毎日だ。1週間で飽きたがこれしか食べ物がないので仕方がない。肉は焼く為の火を起こせないので諦めている。水も魚がいた川から拝借した。
住む場所については、とっておきの場所を見つけた。
森の中を探索していたら奥行きが丁度いい洞窟を発見したのだ。火が使えず暗いのは怖いが外よりは安全であると思っている。
衣に関しては服が一着しかなかったので、朝に川で洗濯をして乾いたら着るという日々を繰り返している。それまでは全裸だ。陰部だけは葉っぱで隠している。
因みに夜に干さない理由は服を着ないと寒くて寝られないからである。
数百年も前の文明の人々が見ても驚かれるようなサバイバル生活をしているという実感がある。しかし、こうするしかないのだから仕方がない。
そういえば、心臓にあたる位置に身に覚えのない痣のようなものが出来ていた。
花のような模様である。真ん中を中心に翼を彷彿とさせる花びらが渦を描くように外に流れている。
最初は病気や呪いを疑ったが、身体に支障がなかったので段々と気にしなくなった。
――とこれまでを思い返しつつ今は森の中を探索をしている。
今いる場所が何処なのかも分かっていないが、木実や動物など今までと変わらなかったので特に深く考えていない。
僕は現在村を探しているのだ。
この生活もいよいよ限界を迎えようとしている。ストレスが過剰すぎた。1人だと何も出来ないと強く実感した。
悲しきかな、父のゼムが1人で成長することは至難の技だと協調性について常々語っていたことが自分の身に降りかかるとは思わなかった。
――僕はもっと強くならなければならない。
こんなサバイバルゲームをしている時間はないのだ。
筋トレや体力トレーニングは欠かさず行っているが、武術や剣術、ましてや魔法の知識ですら知らない。
こんなことだったらお母さんを無理やり説得してでも魔法の事を聞いておくべきだったなと昔の幸せな日々を思い出して感傷に浸る。
歩き続けて足に負担を感じ始める頃、微かに人の声を耳が感じとる。
僕は期待に胸を膨らませて声のした方に向けて走り出す。
助けを呼んでいるのだろうか? 声がだんだんと大きくなっていく。
――しばらくすると人影が見えてきた。
僕は草木に隠れて恐る恐る向こうの様子を探る。
するとそこでは何故か少女がツタに絡まって逆さ吊りにされていた。
「うわー! 誰かたすけてー! 死にたくないよー!」
予想だにしてなかった状況に少し呆気に取られたが、やっと出会えた第一村人なので助けることにする。
「おい、大丈夫か? どうしてそんな状況なんだ」
少女は僕を見ると嬉々として助けを求める。
「よかったー! 魔力が無くなっちゃって空から落ちちゃったの。たすけてください!」
僕を見るなり助かったと安心しているのか、身体を揺さぶってゆらゆらしている。こいつ本当は助けなくても大丈夫なんじゃないか……?
少女を降してあげると、身体に付いた葉っぱを払い自己紹介を始めた。
「たすけてくれてありがとう! 私の名前はルスっていうの。あなたが居なかったら今頃獣の餌になっていたから命の恩人だね!」
随分と大袈裟な感謝を伝えられて苦笑いになる。
改めて容姿をよく観察すると、水色の透き通った瞳と目が合って目を奪われそうになる。整った顔立ちは黒色でセミロングの髪型と合わさって見ていて気持ちがいい。綺麗と言うよりは可愛いといった表現が適切な明るい雰囲気が醸し出されている。
身長は自分より少し小さいので、僕の身長が大体170センチぐらいだから160センチぐらいかな?
ずっと顔を見ていて返事をしていない事に気付いたので慌てて自分も自己紹介をした。
僕の名前を聞くとルスはなにやら考え込んでいる。
「ん? ラトって名前……どこかで……」
でもすぐにどうでも良くなったのか、話題を変えてきた。
「この周辺で見たことない顔だけどラトは何処から来たの?」
「少し旅をしててさ、食料とか道具を切らしてしまってて……もし良かったら村に案内してくれないかな?」
僕は率直な気持ちを伝える。村に行きたいと。
「いいよ! 命の恩人様だし村のみんなに紹介するね!」
二つ返事で了承をもらえた。やっとまともな生活が送られそうだ。あんな洞窟なんて心残りのかけらもない。
そうと決まれば善は急げである。早速村へ案内してもらおうと思ったら。ルスはこっちに向けて両手を伸ばしている。
「何をしているんだ?」
流石に意味がわからなかったので問いかけると、ルスは少し恥ずかしそうに答えた。
「実は私の右足は義足でさ……普段は一人で歩けるんだけど、今は魔力を使い果たしてまともに歩けないんだ……おんぶしてくれないかな?」
言われて足元をよく見ると右足の足首が無機質な光沢を放っている。確かにこれで一人で歩けというのは酷だろう。
義足で歩きにくいのに、どうしてこんな所に1人で来ているんだ、とか疑問に思ったがそれは村に向かいながらゆっくり聞くとしよう。他にも聞きたいことは沢山あるしな。
そう思って僕は少女を背負って胸を弾ませながら村に向かった。




