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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

古城での出会い。僕は、少女にもう一度逢いたい。

作者: 青月―闇
掲載日:2019/10/09


 季節は夏。

 熱帯夜になるとニュースで聞いたのを思い出しながら、大通りを歩く。

 昼に熱せられたアスファルトから立ち上る熱を斬り裂き、走る車。

 信号が赤に変わったことで車の速度が落ち、停車していく。新たな熱を発する存在に視線を向け、苛立ちを覚えながらも笑みを浮かべていた。

 横断歩道を渡りながら、隣を歩く彼女へ視線を落とす。

 彼女はカンが鋭いというか、なんというか、僕のちょっとした行動を一つも見逃さない。

 視線が合い、何か言いたそうにしたが、軽く笑みを作って視線を前に向ける。

 昼間にかいた汗の匂い。先程からジワりとかいている汗でシャツが張り付く。スラックスも太腿に張り付くので非常に気分が悪い。

 早くシャワーを浴びたいな―――

 営業担当のサラリーマンには仕方無いことだった。

 就職して数年。

 幸いなことに良い先輩に恵まれた。仕事も順調に覚え、最近では仕事を任せられるようにもなった。順風満帆は良い過ぎかもしれないが、苦労はしていない。

 大学時代の友人は、職場の人間関係で悩んでいる。一度相談を受けたが、あまりにも自分と差が有り過ぎて、適切なアドバイスは出来無かったと思う。

 だが、僕も悩んでいた。

 矛盾した思い。

 満たされない日常を何とかしたかった。


 最近、頻繁に思い出す―――


 十七歳の時、両親と一緒に行った国。その国の古城で見た少女。

 スカートの丈は短く、フリルが沢山付いた服。色は全て黒で統一してあり、風に吹かれたら綺麗な音がしそうな金髪。切り揃えられた前髪の下には青い瞳。当時は少女が着ていた服が何なのかは分からなかったが、今は分かる。ゴシックロリータと言われる服だった。

 お互いの視線が合い、どちらから話し掛けたかは覚えていないが、ありきたりの挨拶をしたと思う。


「あ、こんにちは……」


「こんにちわ」

 微笑みながら少女は言った。


 僕はその表情を見た瞬間、身体の中心に奇妙な感覚を覚えた。

 鋭い何かが刺さった痛み。顔を顰めるはずが、その痛みは既に快感に変化していた。

 だから、慌ててた様に身体に触れてしまう。


 えっ、なんだ? 今の感じは―――

 奇妙な感覚を覚えた場所を掌で触れていると、少女は口元を隠しながら可愛らしく笑っていた。


「そんなに不安そうな顔をしないで、アナタが私の鎌に反応しただけよ。嬉しいわ……私が此処に来たいと思った理由がようやく分かったわ」


 少女の言葉に反応してしまう。

「鎌? 此処に来たいと思った理由……?」


「疑問は少ない方が良いわよ。でも、それは時間と共に理由が分かるから、今は私と会話をしましょ?」


 言い終わると、窓際に立っていた少女が目の前に立っていた。


「うわっ!?」


 スッと腕が伸び、手を掴まれる。

 柔らかい感触。動いたことにより、付けられた香水の匂いが鼻腔を刺激する。

 薔薇の香り―――

 ―――良い匂いだ。


「驚き過ぎよ、フフフフ。……アナタ、綺麗な顔をしているわね。さあ、こっちに来て一緒に会話を楽しみましょう」


 腕を引かれ、窓際まで二人で移動する。靴のヒールが鳴らすカツ、カツという音が響く。

 景色を見ながら他愛も無い会話を続け、僕は少女との時間を楽しんでいた。

 この時、気づかなかったが、僕は彼女が話す言葉を理解していた。ニホンゴ以外は得意ではないのに。


 別れの際に「アナタが私を必要とするのなら、私は必ずアナタを迎えに行くわ」と、見上げられながら言われた。


 抱きしめたい気持ちを抑え、言葉を返す。

「ありがとう……嬉しいよ」


 嬉しい話だったが、実現しない事だと諦めていた。

 古城での出来事から数年が経ち、僕は大学を卒業し、普通に就職し、勤務年数が二年になり、同僚の女性から好意を抱かれ、そのまま付き合い始めた。

 そして今、満たされない思いが身体と心を蝕んでいた。

 あの日―――

 身体の中心、奇妙な感覚を覚えた場所から―――

 ―――思い出の少女が口を開いているような気がする。

 白い肌。口元を隠しながら笑う姿。薔薇の香り。可愛らしいお菓子が好き。静かな場所が好き。

 今の僕が好むモノが多い。

 あの日からチョコが大好きになった―――


 隣から声が聞こえて来る。

「ねえねえ、次の連休に温泉に行かない? 結構良い所見つけたんだよ」

 腕を組み、身体を近づけて来る。


「温泉か~良いね。行ってみようか」

 笑みを浮かべ、心の奥底から溢れる言葉と正反対を口にする。

 こんな生活がいつまでも続くのか―――

 少女に逢いたい。一緒に過ごしたあの短い時間をもう一度―――

 突然世界にビキリと、ガラスが歪む様な音が響く。

 時が止まった世界で、何も無い空間に亀裂が入る。真っ赤な液体を垂れ流しながら広がっていく傷。そこから漂ってくる薔薇と甘い香りが混ざった匂い。


「お久しぶりね、○○○」

 古城で出会った時と変わらない声と姿。一つだけ違うのは、少女は大鎌を握っていた。豪奢な装飾は全て漆黒。絡み合う蔦が青白く輝く刀身に伸びている。


 鼓膜から全身に響いていく音に、自然と涙が溜まって溢れそうになる。


「私を呼んでくれてありがとう。さあ、私と行きましょう。アナタが望むモノは、全てコチラ側に有るわ。その前に一つしてもらう事があるの」

 喜びの言葉の後、声が少し低くなった。


 僕はその低さに不安を感じる。

 気持ちが表情に出ていたのか、少女に微笑みかけられる。


「そんな顔をしなくても大丈夫よ。ただね、アナタの覚悟が欲しいの。それがこれから生きていく世界での武器になるわ。でも……これはあくまでも選択」


「選択……?」


「そう、選択よ。あの古城での続きを楽しみましょう」


 古城での続き―――

 この言葉だけで十分だった。僕の中から未練が消える。


「なんでもするよ。僕は、君と一緒に居れるのなら何でもするよ」

 言いながら、組まれていた腕を抜く。


 大鎌を握ったまま一気に近づき、唇を重ねる。

 小さな熱が伝わり、ゆっくりと目を閉じていく。

 短い時間だったが、言葉以上に少女の気持ちが伝わり、僕の心は信じられないほどに落ち着いた。

 離れていく唇、開いた目で追ってしまう。

 視界の端でゆっくりと持ち上がっていく大鎌。その切先が、腕を組んだままの体勢で停止している彼女に突き刺さる。


「願って、強く、強く、更に強く願って。選択が過ちではない、過ちは選択しない。強い意志、意志の強さ、アナタの存在、私の存在、出会った事に意味がある。世界は意味の無いものと、意味あるものを選択し、生き続ける。そして……アナタの選択は正しい」

 少女の言葉が大鎌に伝わっていく。円形で、奇妙な文字が書かれた光が彼女を包む。


「これで最後、アナタの言葉を聞かせて。今、心に浮かんだ言葉を」


 僕はもう一度目を瞑り、深呼吸をした後、口を開く。

「捧げる」


 彼女の身体に光の線が走り、ゆっくりと解体されていく。

 肉が焦げる匂い、血、切断された骨、内臓。解体されていく過程で、彼女が身に付けていた物や鞄が光の粒子となって消える。

 僕は、崩れる彼女をただ見ていた。

 恐怖、悲しみなどを一切抱かず、ただその光景を見続ける。

 崩れた肉体の山。赤黒く、汚らしい山。その上に二つの眼球が落ち、しばらくすると輝きながら消滅。

 願う―――

 願う―――

 ―――強く願う。

 少女と同じ大鎌が欲しいと。

 肉の山が再構築を始める。

 目に見えない鍛冶屋によって作られ、鍛え上げられた大鎌。少女の物と形が同じ。唯一違うのは刀身の色。淡く黄金に光る刀身。

 今度は、僕の身体に変化が起きた。

 着ている物が全て消滅し、影から生まれた漆黒の帯が身体に巻き付く。全てを飲み込む闇を切り取った布を繋ぎ合わせるベルト。合わせて伸びる髪。

 全ての変化が終わり、僕は大鎌を握り締めて少女の前に立つ。

 彼女だったモノで作り上げた武器。

 僕の彼女だし、結構我儘も聞いたから別に問題無いでしょ―――


「本当に素敵……私への愛情が強く激しく伝わってくるわ」

 握った大鎌に身体を絡み付ける様にする。


 その姿に僕は嫉妬してしまう。

 苛立ちが伝わったのか、勝手に僕の大鎌が動き、少女の大鎌を攻撃する。

 素早く攻撃を弾き返す少女。


「嫉妬も良いけど、私には優しくしてね」


「ご、ごめん! 悪気は無いんだ」


「本当に嬉しいわ。アナタの気持ちは、私だけが独占出来るのね……さあ、私の世界へ」

 嬉しそうな声音の後、スッと腕が伸びて掴まれる。


 強すぎない圧力と心地良い体温に導かれ、一歩、また一歩と進んで行く。

 何も無い空間に出来た亀裂へ向かって。

 次の瞬間、轟音と共に全身に感じる浮遊感。そのまま速度を上げ、上下左右の視点が移動する間、様々な光景を見えた。誰もが絶望した表情をしていた。しばらくすると、四方八方から襲って来ていた衝撃が消失する。ゆっくりと目を開くと、視界に広がる景色は荒野だった。

 約百メートル先、甲冑を来た戦士達が雄叫びを上げながら迫って来る。

 少女の両手が僕の顔を掴み、向きを変える。視線が合い、少し恥ずかしくなる。


「綺麗な瞳。アナタが『コチラ』に来れたという事は変化が起きるということ。さぁ……行きましょう。私達にしか咲かせることが出来ない真っ赤な花を、沢山、沢山咲かせましょう」


 少女の影から飛び出した大きな塊

 二匹の黒馬が引く、黒色を基調とした金で華美な装飾がされた馬車。

 馬の両目が青白く輝き、嘶く。


「私とアナタの最初の戦い。存分に殺して上げましょう」


 その声に僕の心がゆっくりと歪み、美しく整ったサディストの心が出来る。

「そうだね、殺そう殺そう。僕は首だけを刈り取るよ。君は好きなように殺してよ、その光景を見たら僕はもっと君を好きになりそうだ」


「素敵な愛の言葉ね。私達だけが理解出来る言葉と意味。二人の間にはそれしかいらないわね」


 乗り込んだ馬車が一気に加速。

 戦士らの距離を潰し、振り下ろした二本の大鎌が、首を十ほど空高く飛ばした。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミステリアスな世界観で、惹き込まれました。 主人公が古城で少女を見ることができたのは、もしかしたら主人公の中に眠る死神?の素質を少女が見出したからかも知れないなと思いました。 主人公の彼女は…
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