最底辺から頑張ってみました
イリスは、孤児だ。10歳までフォルトゥナ教会で育ち、今日から、この国唯一の教育機関であるアカデミーに通う。
「ふわぁ…」
シグザールの首都ザールのほぼ中央に位置するアカデミーは、北にそびえ立つ王城の次に巨大な建物。その建物をすっぽりと覆うように、侵入対策の結界が張られている。大きすぎる制服を着、地面に着きそうなほど長いマントを付けて、これから寮生活するには少な過ぎる荷袋一つ持って、受付に並ぶと、あたりは同じ立場であるはずの、新入生が沢山いた。皆、自分より身長が高いので自然と見上げる形になる。というのも、殆どの生徒が15~6才で成人してから入学して来るからだ。ちなみに上限は二十歳。
ちょっとドキドキしながら待っていると、やっと自分の番が来た。
「受験番号をおっしゃって下さい」
「あ…あの、私…推薦で、入れて頂けると」
自信なさげにそう言うと、受付の女性は、軽く頷く。
「イリスさん、ですか?魔力推薦で入学すると学園長より伺っております。荷物を置いて10時までに体育館に入って下さい」
封筒を受け取ると、中に数枚の紙と、鍵が入っていた。ちゃんと名前も書いてある。
「やったー!ほんとに入学出来たー!」
万歳して、その場でくるりと回る。自分は、最難関といわれる試験も受けていない。ただ、学園長と、自分を育ててくれた神父様が仲良いらしく、半年前に少し喋っただけだ。だから今日まで、信じられなかった。ただ、人より魔力が高いってだけで、自分の属性だってよく分かっていない。光側…四属性の火か土。その上位の光か、もしかすると太陽…はないかな。あるとは言われているけど、国に一人居ればいい方らしいし、真逆の月属性然り…それもアカデミーでちゃんと魔法を習って勉強すれば、分かるし魔物退治にも役立つはず…今まで制御すら難しくて、神父様にも散々苦労かけちゃったからな…うん、頑張ろう。
入学式が終わり、貰った教科書を置くと、イリスは着古したローブに着替え、寮を出た所でちょっと顔をしかめた。
「お、イリス!入学おめでと。今から採取?」
片手を上げて近づいてくるのは、四年前に北の小国カリエルから教会近くの安宿に引っ越して来て以来の顔なじみ、ダグラス(馬鹿)だ。
面倒見が良くて子供達にも優しいけれど、はっきりいって脳筋馬鹿。試験は一回落ちたから、今度三年生だろう。
「うん。森で薬草採取だよ。みんなと」
「なら俺も行く。あそこスラゴブだけじゃなくて、たまにウルフも出るだろ」
「要らないよ、ていうか三年生の勉強の予習、しなくていいの?それともやっぱり?」
ダグラスは、髪をくしゃっとつかみ、
「くあー!言うなー!落ちたよ!これもなんとなくの呪いだー!」
「呪いとか、人聞き悪い」
勘、というか時折ふっと分かるのだ。しかも100%ハズレなし
「森の入り口付近だから、大丈夫だよ。教会の子供達も、大っきい子たち連れてくし。ていうか勉強したら?」
項垂れるダグラスを残し、自作の木製の杖を手に、南に向かって走る。イリスも、別に嫌いではないのだ。ダグラスの事。ただ隣に立つと50㎝位の身長差が凄く悔しい。見下ろされるだけで、馬鹿にされてる気がするから。
「いつか絶対、大きくなって踏んでやるんだから!」