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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
16/24

15:本番

 今日のタイムテーブルとにらめっこをしつつ、ジュンは唸る。

昼食の時間という事で仕出し弁当を食べている最中だが、箸は止まっている。


「どうした? 早く食べないと時間なくなるぞ?」


 そう言うナギは既にお弁当は食べ終え、足りないのか自分で持ってきた栄養補給のゼリーを飲んでいる。

ちなみに、既に食べ終えたハルは荷物の所で仮眠に入り、センとルイは開場した表の手伝いに借り出されており、今は二人(と妖精)だけしかいない。他の研究生もいるが散らばって座っているので、ナンナンもあまり周りを気にせず振る舞っている。


「食べないならナンナンが食べてあげるナン」

「ダメ!」


 から揚げに伸ばされた手からお弁当を避けさせる。


「ナンナンはさっき一個食べたでしょ」

「一個じゃ足りないナンよ。もっと寄こすナン!」

「ママが作ってくれたお弁当があるでしょ!」


 出演者であるジュンはお弁当が出るが、他の人に見えないナンナンの分は当然あるはずが無い。しかも長丁場になる可能性もあるということで、希保がおにぎりとナンナン用にお弁当を用意してくれている。


「午前中に食べちゃったナン」

「いつの間に……」


 リハーサルが終わった後も控室隣の練習室で、ジュン達はずっと練習をしていた。その場にいないと思ったら早弁をしていたらしい。


「ジュンには大人のお弁当は多いナン。だからナンナンに分けてくれても良いナンよ」

「お断りします」


 きっぱりはっきり断れば、ナンナンは頬を膨らませ、二人は睨み合う。


「ほら、ナンナン。俺のお菓子やるから落ち着け」

「さっすがナギ! イケメンナン!」

「おう。もっと褒めて良いぞ」

「ひゃっほう!」


 ナギの放り投げたスナック菓子の袋をキャッチして、ナンナンは次々とナギを褒め称えながらアクロバット飛行を披露する。そして机に戻ってくると遠慮なしに袋を開けて食べ始める。


「甘やかさないでよ、ナギ」

「良いからジュンもさっさと食っちまえよ」


 ジュンの訴えを歯牙にもかけず、ナギは促す。仕方なしにジュンは食事を再開した。


「で、ジュンは一体何を見てたナン?」


 ポテトチップスのカスを顔中に付けたナンナンは首を傾げる。

 ナギも気になっていたのか、ジュンへ視線を向けた。

 注目されたジュンは無言のままタイムテーブルの紙を机の上に置き、指を差す。示したのはステージで最初にパフォーマンスを行う人の名で“サキ”と記されている。


 事務所のイベントで、デビュー前の大事な時期ということで、当然出演すると踏んでいたが、やはり出演者に含まれていた。しかし、デビューの日も決まったサキは、研究生から除外されているらしく、この部屋にはいない。おそらく個別とまではいかなくても、少人数の控室を与えられているのだろう。

なので、ジュンは提案する。


「サキさんを捜しに行こう!」

「は?」


 ナギは目を丸くする。


「サキさんも今日いるんでしょ? 仲直り出来る良いタイミングじゃん」

「お前、まだ気にしてたのか?」


 呆れ顔のナギにジュンは頷く。

 気にならないわけがない。

 散々世話になっているナギにとって大事な人であり、今の関係に寂しい思いをしているとあれば、どうにか解決したいと思う。


「そんな事より自分の心配をしろよ。もうすぐ本番だぞ?」

「だって、ここまで来たら後は自分を信じるだけじゃん。今更ジタバタしないよ」


 リハーサルもしたし、午前中も練習した。これ以上はオーバーワークになりかねないので、午後は本番ま

で体が冷えない程度にしか動く予定は無い。

 ジュンの言葉にナギは深く息を吐く。


「大物なのか、鈍感なのか」

「鈍感ナンよ」


 すかさずナンナンが口を挟んだので、お菓子の袋を取り上げた。


「ねぇ、行こうよ」


 願いを込めて誘う。しかしナギは首を横に振る。


「行かない」

「何で? 仲直りしたくないの?」

「前にも言っただろ。頑張ってからだって」


 食い下がろうとしてもナギは首を縦に振る気は無さそうで、ジュンは項垂れる。その頭にポンと手が乗せられる。


「確かにサキの事は気になるし、早く元の関係に戻れたら良いと思う。だけど、今は目の前の事に集中するべきだ。ジュンの未来が掛かってるんだから」


「私の事ばっかり考えてないで、ナギこそ自分の事を考えなよ」


 机の上に顎を乗せ、口を尖らせる。


「考えてるよ。だからまずはジュンの事をやるんだ。もうジュン抜きじゃStatelyは完成されない。お前が必要なんだよ、ジュン」

「ナギ……」


 その言葉が嬉しくて、でも優先されるという事が申し訳なくもあって、しかし、やはり喜んでしまう。ナギの顔をまっすぐに見返せなくて、変な表情になっていないか不安になる。


「何か告白みたいナンねぇ」


 いつの間にか袋を取り戻したナンナンが、ポテトチップスを頬張りながら半目で呟き、ジュン達は動きを止める。


「ばっ……なっ……! 何、言ってんだよ!」

「そうだよ、ナンナン! 変な事言わないで!」

「ほら、ふざけてないで、メシ食っちまえ」

「そうだね! そうしよう!」


 ジュンはお箸を持ち直し、から揚げを口に放り込む。

 ギクシャクしている二人を尻目に、ナンナンは引き続きポテトチップスを食べた。






 会場の方がある程度落ち着いたのか、手伝いに行っていたセンとルイが戻って来て、遅めの昼食を取り終えた頃、寝ていたハルも起きてくる。そろそろ出番がやってくる。

 メンバー達はいつも通り他愛の無い会話をしながら、衣装へと着替えていく。互いにおかしな所は無いか確認し合い、準備が終わればステージの脇にスタンバイだ。

 ステージ脇にはスタッフだけでは無く、見学や事務所の人もいて、その中にサキの姿もあった。


「ナギ」


 ジュンが袖を引くとナギは安心させるように頷いた。


「来たわね」


 Statelyが来た事に気付いた社長は、近づいて来るとジュン達の顔を順番に確認していく。


「準備は出来たかしら?」

「はい!」


 余計な言葉は言わず、ただ返事のみを返す。必要な事はこれから行うパフォーマンスで示せば良い。

 社長の視線が今は誰もいないステージの上へと向けられる。そちらからは会場の声が漏れ聞こえてきて、たくさんの人が集まっているのは分かる。


「ここにいるのは全てがあなた達のファンという訳では無いわ。全く興味を持ってない人もいる。そんな人達をも楽しませなければならない。とても難しい事よ。それでも、あなた達はやらなくてはならない。自分の全てを見せつけてきなさい」

「はい!」


 社長の激励を受け、ジュン達は更に気を引き締めて足を前へと出す。

 肩に乗っていたナンナンがそっと離れていく。


「ナンナンはここで見守ってるナン。ジュン――いや、アヤ。頑張るナンよ」


 その瞳は「信じている」と語っていて、ジュンは力強く頷く。


「サキ」


 ステージへ上る前に、ナギが呼びかける。それに応じる様にセン達も全員、サキへと向き直る。


「俺達を見ていてくれ」


 戸惑い瞳を揺らすサキの返事を待たず、ナギはセンに進むよう促し、センを先頭に五人はステージへと向かう。そ

 アルミの階段を静かに上り、ゲートの様になっている設備の間を潜り抜ければ、一気に視界が開ける。耳にはどこか遠くの事の様に聞こえていた喧騒が直に届いて、ジュンは目線を動かした。


 人、人、人――。

 

 会場内には見渡す限り人がいる。

 多くは女性で、世代も様々。男性や子供の姿もちらほらと見かける。ステージの前でライブを見ている人もいれば、こちらには目もくれず、グッズの購入している人や、展示を真剣に眺める人もいる。

こんなにたくさんの人の前に立つのだと、唐突に実感した。


「――っれ?」


 不意に足が床に貼り付いたように動かなくなる。引きはがそうとしても動かず、自分が竦んでいるのだと気付けば焦りが浮かぶ。先に出て行ったセン、ルイ、ハルと距離が開いて行く。


「ジュン、落ち着け」


 そっと背中に手が当てられる。

 そう言われても足はちっとも言う事を聞かず、焦りは募る。


「Statelyってどういう意味か知ってるか?」


 出し抜けの問いかけに、ナギを見上げる。

 そんな問答をしている場合では無いのに、何を言っているのだろうか。不安と苛立ち混じりに見つめれば、ナギはいつもの笑顔だ。


「堂々と」


 ナギは告げる。


「どんな時でも、どんな風に言われても思われても、俺達は“堂々と”していれば良い。これが俺達なんだって誇れば良い。大丈夫だ。俺達は、ジュンはしっかりとやってきた。きっと受け入れられる」


 ジュンの横を通り抜け、ナギは先へ出る。そしてジュンの手を引き、ステージの上へと連れて行く。

 歓声が聞こえる。

 笑顔が見える。

 わくわくとして、待っていてくれる空気が伝わってくる。

 すっとお腹を締め付けていた物が無くなる。

 振り返らなくても分かる。

 センはいつもの様にドシッと構えて支えてくれる。

 ルイは柔らかく、しなやかに援護してくれる。

 ハルはその動きで後押しをしてくれる。

 そして――。


「ナギ」


 ジュンは隣に並ぶ仲間を見る。

 いつでも応援してくれる大事な人。

 諦めるなと言ってくれた人。

 彼がいるから、アヤはジュンとしてここにいられる。

 二人は視線を合わせ、声には出さず、気持ちを確認し合う。

 大丈夫。

 皆がいるのだから、怖く無い。


「堂々と行くぞ!」


 ナギの掛け声で音楽が始まった。

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