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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
15/24

14:けじめ

「うわぁ!」



 ジュンはあんぐりと口を開け、眼前の光景に目を輝かせる。頭の上ではナンナンが同じ顔をしている。


「すっごいね!」

「すっごいナン!」


 ついにやってきたイベント当日。

会場となるホールは前日の内に設営を終わらせ、各ユニットのブースには販売するグッズが並び、展示コーナーには衣装やパネルが飾られている。そして何よりも目を惹くのが会場内の一番奥に設置されたステージだ。


「あそこでやるんだよね?」


 ジュンは振り返ってナギに確認する。


「そーだよ。緊張するか?」

「全然!」


 今日まで必死で練習をしてきた。完璧なんて嘘でも言えないが、やればやる分だけ上達していくのが分かった。それは確かな自信となって、自分を支えている。


「むしろ早くやりたい!」

「上等」


 ナギはニッと笑うと軽くジュンを小突いた。


「なら早くセン達と合流しないと。開場する前にリハがあるし」

「うん! 早く行こう」


 ジュンは頷き、二人は会場裏のスタッフ通路へと入っていく。

表もそうだったが、こちらでも最後の準備と確認にスタッフ達が忙しなく動いている。その中には研究生の姿もあった。


「思ったより、手伝う人多いんだね」


 感じたままの感想をそのまま漏らせば、ナギが頷いた。


「顔を売るチャンスでもあるからな」


 研究生でもステージに立たず、尚且つ高校生以上であれば希望により、運営の手伝えるらしく、販売員や誘導係、もぎり等をやることになる。ナンナンいわく「研究生を使って経費削減をするとは、あの社長、中々のやり手」とのことだ。それでも少しでもファンを獲得するためなら、やる価値はあるのだろう。


「ステージに出るヤツも出ないヤツも、研究生は同じ部屋を使うから、問題起こすなよ」

「人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ」


 むくれて言い返すが、ナギは肩を竦めて「その通りだろ」と言わんばかりの目をする。

 そんな会話をしている内に二人は控室に付き、既に来ていたセン、ルイ、ハルと合流し、挨拶もそこそこに荷物を降ろす。


「よし、これで全員揃ったな。じゃあ軽くアップして、ステージに行くぞ」


 センの指示にメンバー達は返事を返し、早速行動に移る。

ステージの場当たりも研究生は早い者勝ちらしく、空いた時間を見付けてやらせてもらうしかない。あちらこちらにある格差に、芸能界の厳しさを実感するばかりだ。


 幸いステージはちょうど前の組が終わったところだったらしく、待つことなくリハーサルに入れた。

 メンバーは各曲ごとの立ち位置を確認し、その後、通すために音響スタッフに音楽を流して貰う。何度も何度も繰り返し体に染み込ませた動きは安定しており、多少の修正をしつつも問題無くリハーサルは終わる。もう少し続けたかったが、他にも順番を待つ組はたくさんおり、一組に多くの時間は割けないのだ。


 Stately(ステイトリー)がステージから降りようとすると、下にQuartz(クォーツ)がいるのが見えた。ミヤを先頭に後ろにはタマキとレイが並んで立っている。


「ジュン」


 センの呼びかけにジュンは頷く。


「わかってる。タマキに謝るんだよね」

「えー謝るナンかー」


 漂いリハーサルを見ていたナンナンが頭の上に乗っかり、不服の声を上げる。

 その主張には同調したくもなるし、心情的には謝りたくない気持ちもあるが、やはり手を出したのは悪い事で、公にもジュンが悪いことになっている。形ばかりでも謝罪をしておいた方が今後の為にも良い。


「俺も一緒に謝るし、ミヤもいるから安心しろ」

「大丈夫だよ。もう短気は起こさないから」


 心配げなメンバー達に笑顔を向ける。

 先の一件で短絡的な行動がどれだけ人に迷惑をかけるかを知った。そしてメンバー達の想いも理解しており、甘えも捨てると決めた。二度とあんな面倒は起こさない。


「ナンナンも付いてるナンよ」


 ジュンの頭をぽすぽすと叩き、ナンナンも励ましてくれる。

 声には出せないが感謝の気持ちを込めて、こっそりと頷いた。

 視線を交わらせながら足を進め、Quartzの前に立つ。先に口を開いたのはミヤだ。


「やぁ、セン。やっぱりStatelyも出るんだね。それで――」


 ミヤは視線をジュンへと向ける。

 怖気づきそうになる気持ちを抑えつけ、ジュンは一歩前へ出てセンの隣に並ぶ。Quartzからの視線を集め、特にタマキには睨まれているが、早々に頭を下げて視界を遮る。


「先日は申し訳ありませんでした!」


 一息で言い切り、頭を下げたままにする。


「メンバーの不始末はリーダーである俺の責任でもある。申し訳なかった」


 隣でセンも頭を下げ、追うようにしてナギ、ルイ、ハルも謝罪を口にして一緒に頭を下げてくれる。

「皆、頭を上げて」


 ミヤが心地よい低い声で告げる。


「謝罪は確かに受け入れたよ」


 顔を上げたジュンはちらりとタマキを見る。

ミヤは許してくれたようだが、当事者であるタマキはふて腐れた顔でそっぽを向いている。


「タマキもそれで良いね?」

「勝手にしろ」


 念押しされたタマキは言葉を吐き捨て、一人、荒い足取りでステージへ向かっていく。


「レイ、付いてってやってくれ」

「わかった」


 指示を受け、レイが後を追っていく。その後ろ姿を見送りつつ、ミヤは深く息を吐いた。


「あれでも悪いヤツじゃあ無いんだけど」

「わかってるよ」


 同じリーダーとして苦労が分かるのか、センが同意する。


「そのうち反抗期も収まるさ」

「そうだと良いが」


 肩を竦めたミヤは困惑顔のジュンへ視線を向ける。


「一応、これで決着となる。けれど、君がしたことは無かった事にはならない。どんな理由があれ、君の取った行動は褒められるものでは無かった」

「わかってます」


 それは社長にも言われた事で、もう自分でも理解している。


「今後は気を付けて」

「はい!」


 感謝と誓いを込めて、大きく返事をする。


「あ、そうだ! ありがとうございます」


 もう一度深く頭を下げ、今度はお礼を口にすれば、ミヤの切れ長の目が丸くなった。


「社長に話をしてくれたって聞きました。だから今回のイベントにも出られるんです。だから、ありがとうございます」


 ジュンが説明すれば得心がいったミヤは頷いた。


Quartz(クォーツ)のリーダーとしては叱らざるを得なかったけど、僕自身としては君の仲間を大切にするのは好ましいよ」


 イタズラっぽく笑ってウィンクするミヤは色っぽく、真正面から見てしまったジュンの頬が紅く染まっていく。流れ弾を受けたナンナンも頭の上から落ちそうになっている。


「もう! ミヤったらウチの子を誘惑しないでちょうだい」

「やだなぁ、ルイ。僕はただ好意を伝えただけだよ。ねぇジュン?」


 頬に触れるのは手の甲で、妖しい微笑みと共に心臓の動きを早く、大きくさせ、体は金縛りにあったかの様に動かない。


「これ、は……魔性の色気……ナン……」


 息も絶え絶えと言った様子でナンナンは言葉を漏らし、頭の上から落ちて行った。


「だから、それをやめろって」


 ナギは動けずにいるジュンを無理やり引っ張って、ミヤから引き離す。


「こいつが使い物になんなくなったらどうすんだよ」


 口を尖らせ文句を言うナギ。ハルもかばうように立って、しきりに頷いている。


「いやだなぁ。そしたらきちんと責任取るよ」


 ミヤは口に手をあて、声を出して笑う。


「ウチの子はお子ちゃまだから、お前に対する耐性は弱いんだ。勘弁してくれ」

「センがそう言うんじゃ、しょうがないね」


 ミヤは肩を竦め「残念」と笑う。


「さて、そろそろ僕も行かないと、タマキが怖い」


 ステージの上ではタマキが不満げにこちらを見ている。


「お互い頑張ろう」


 そう言うとミヤもステージの上へと去っていく。


「さて、ひとまずはこれで決着だな」


 センは深く息を吐きながら告げる。

 兎にも角にも、謝罪は受け入れられ、この件は終わりという事になる。やっと憂いが一つ無くなったのだ。


「皆、ありがとうね」


 メンバーを見渡しつつ、ジュンは感謝を口にする。もう何度も伝えているが、それでもまだ足りない。


「良いんだよ、仲間だろ」

「そうよ。ナギの言う通り、仲間なんだから」


 仲間達は笑みを返してくれ、胸が熱くなる。


「でも本番はこれから」


 拳を握りしめ、ハルが言う。

 タマキとの問題が片付いても、まだ別の問題が残っている。そこを乗り越えなくては、メンバー達の本当の仲間にはなれないのだ。


「うん。頑張る。頑張って、ちゃんとStatelyの仲間になるからね」

「うん、その意気だ。じゃあその前に鋭気を養っておかないとな」


 センが頭を撫でつつ頷く。


 Statelyの出番は十四時からとなっている。まだ時間があるとはいえ、途中で昼食を取ったりもしなくてはならないし、少しでも時間があるなら練習していたい。


「よし、戻るか」


 ナギの言葉に皆で頷き、メンバー達は歩き出す。その背を送るように音楽が流れ始めた。

 振り返ればセンターにタマキが立ち、上手にミヤ、下手にレイが並んでいる。

 スタンドマイクを片手に掴むタマキは先程の不機嫌そうな顔はどこにやら、不敵な笑みを浮かべながら歌の始まりを待っている。そしてギターの音を合図に歌が始まり、タマキの力強い声が響き渡る。


「ああしているとカッコイイナンね」


 ナンナンの感想にジュンも同意する。

 音の取り方、滑舌の良さ、声の伸び。

どれを取っても、誰かがその上を行くであろう。しかし荒削りでも人を惹き付ける何かが、その歌声の中に確かにある。デビューというスタート地点に立てるだけの物がタマキにはある。


「練習不足なんて言って悪かったかな?」

「まぁ練習が必要なのは事実ナンよ」

「ナンナンは厳しいね」


 物知り顔のナンナンに苦笑してしまう。


「私も負けないようにしないと」


 ジュンは両手を握りしめ、息を吐いて気合を入れる。そして前を向いて歩き出す。

 後ろから聞こえてくるロックテイストの曲は、まるで応援歌の様に聞こえた。


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