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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
14/24

13:カフェブレイク

 買い物は色々と衝撃的だった。

 まず連れられて行った店で何気なく見た服の値札に、目玉が飛び出ていくかと思った。

 自分で買い物してもお菓子とか文房具、ちょっと高くて単行本の小学生としては、初めて見るゼロの羅列に慄かざるを得なかった。


 当然、おいそれと買う気にもなれず尻込みしていたら、次から次へとナギに引っ張られ、色々な店を巡って行き、最後の方では麻痺していったのか、五千円位なら安いもんだと思ってしまっていた。しかし、ジュンはともかく、ナギも何も買っていない。


「まずは一通り見てから、気に入ったのを買うんだよ。まぁ一目ぼれしたヤツは即買いだけど」

「なるほど」


 流行ものも、定番の物も、それぞれの店で少しずつ違う。いくつも見て、一番良いのを選んでから買った方が後悔は無いだろう。


「まぁ最初に行った店は完全に冷やかしだけど」


 さすがに高価すぎてお手上げらしい。

 更にいくつかの店を回り最終的にジュンは、幼い外見に似合うクロップドパンツやハーフパンツ、ハイカットのスニーカー、普通のパーカーとジャケットパーカーを買い込んだ。どれにするか絞りきれなかったので希保に電話してみた所、「全て買ってしまえ」という指示が出たため、大漁と相成った。


 ナギもカーゴパンツとトレッキングブーツを買い、目的は達成できた。

 用事が済めば気も抜け、疲れも出る。遊んでいくにしても、さすがに大荷物を持ったまま動くのは大変なので、一旦、駅のコインロッカーに荷物を預け、カフェで休憩を取る事になった。

 二人はテラス席を選んで座り、メニューを開く。普段友達と行くファーストフードの店などとは全然違い、全てがおしゃれで格調高く感じ、少しだけ緊張してしまう。お客さんも洗練された人達ばかりに見える。


「ジュン! ケーキ! ケーキが食べたいナン!」


 膝上に潜り込み、一緒にメニューを見ながら、ナンナンが指さす。バニラアイスと生クリームが添えてあり、ベリー系のソースがかかっているガトーショコラは確かに美味しそうだった。


「うん、ケーキとオレンジジュースにしよう!」

「カフェでジュースとか。ジュンはお子様だなぁ」


 同じくメニューをめくりながら、ナギがからかってくる。


「じゃあナギは何を頼むのさ?」


 むくれて尋ねればナギはふふんと鼻で笑った。


「カフェオレ」

「変わんないじゃん!」


 大人ぶるなら砂糖もミルクも無しで飲んでほしい。カフェオレならアヤでも飲める。


「ブラックは苦いだろ」

「じゃあ、ナギだってお子様じゃん!」


 さも当然という顔で返してくるナギに突っ込みを入れ、二人はむくれて睨み合う。数秒そのままでいた後、どちらからともなく笑い出した。

 頼んだ物が来て、口に入れれば幸せが広がり、「美味しいんだからそれで良し」ということになる。和やかに会話をしながらならば、更に美味しく感じると言うものだ。もちろん、時折ナンナンの口に放り込んであげるのも忘れない。

 ナギはお腹が減っていたらしく、頼んだサンドウィッチを早々に食べ終わり、遅れてジュンも食べ終える。

 ふと会話も途切れて、心地よい風が吹いた。


「ねぇ」


 思い切って口火を切る。


「サキさんってどんな人?」


 ジュンの質問にナギは目を丸くし、カップから口を離す。


「どうしたんだ、急に?」

「実は今日、サキさんと会ったんだ」

「サキと?」


 ジュンは頷く。


「正確には会ったのはアヤナン。迷ってたら連れて行ってくれたナン」


 その姿はジュンが知っている彼とは違っていた。

 それなりに顔を知られている有名人なのに、そういうことを一切気にせず、無条件で困っていたアヤを助けてくれた。


「そっか……。サキらしいな」


 つぶやくナギの顔も柔らかな笑みを浮かべている。


「サキさんって優しい人なの?」

「ああ、サキは優しいよ」


 はっきりと断言される。


「仲間を大切にするし、他人の事も自分の事みたいに考えたり、気を遣ってくれたり。だからジュンの事も心配してくれたんだよ」

「心配ね……」


 そこがどうしても引っかかる。

 今日のサキを見れば優しいというか親切なのは理解できるが、だからと言ってほぼ関わりのないジュンを助ける理由にはならない。

 そしてもう一つ気になることもある。


「何で、サキさんはStatelyを抜けたの?」


 ルイはジュンのせいではないと言ってくれた。

 しかし、やはりあの場にジュンが迷い込まなければ、サキが勘違いすることも、脱退を宣言する事も無かったのではないかと思ってしまう。

 そんなジュンの思考を読み取ったのか、ナギは深くため息をついた。


「サキが抜けたのは俺のせいなんだ」

「は?」


 思いがけない告白に、目を(しばた)かせてしまう。


「すっげぇ情けない話なんだけどな。ジュンが責任感じてるのも申し訳ないし、無関係ってわけでも無いし――」


 一気に残ったカフェオレを飲み干し、テーブルにカップを戻す。


「俺とサキが同期ってのは知ってるよな?」


 確認にジュンは頷く。


「最初に仲良くなって、レッスンもずっと同じで、一緒にデビュー出来たらっていつも言ってた。だからユニットを組んだんだ」


 それがStatelyの始まり。

 事務所から言われたわけでも無く、自発的に作ったユニットで、いつ無くなってもおかしくないユニットだった。しかし、そこにセンが加わり、ルイが、ハルが入って、事務所からも認められ、正式なユニットとなった。


「たまにライブも出させて貰ったり、そこそこ活動させて貰えてた。いつかこのユニットでデビューするんだって、皆で頑張ってた。そんな時、CMに出る事になったんだ」


 そのCMはジュンも覚えている。

 これぞ青春という感じの演出で、少年達がストリートバスケのコートを掛けて対決し、互いの実力を認め合って仲良くなる。そして宣伝する商品である炭酸ジュースで乾杯をするのだ。

 最後に笑い合うたくさんの少年達の中で、サキは多くの人の目に留まった。


「あれ、俺も出てたんだ」

「え!?」


 思わず驚いてしまったジュンに、口の端を持ち上げて、ナギはシニカルな笑みを浮かべる。


「ジュン、覚えてないナンか?」

「えーあー……」


 ナンナンにもじとりと見られ、ジュンは視線を彷徨わせる。

CMはもう放映していないし、何回も見たはずだがナギの姿は覚えていない。申し訳なく思いつつも、頷かざるを得なかった。


「ごめん、覚えてない」

「まぁサキはテレビや雑誌で特集組まれたりしたからな。俺達はそういうの無かったし」

「俺達?」

「ハルも出てたんだよ」

「あう……」


 やはり覚えておらず、項垂れてしまう。


「で、知っての通り、サキは色んな人に知られるようになり、デビューが決まった」


 活動に制限はないとは言え、研究生は影の存在で、メインとなる者は他に居る。ならば注目を集めている今、デビューさせようということになったらしい。

 ただ、それには問題がある。


「サキはユニットを組んでた。でも事務所が決めたのはサキのデビューでユニットのデビューじゃない」

 くしゃりと顔を歪めて、ナギは続ける。


「でもサキはユニットでデビューする事を希望した。俺達と、Statelyとしてデビューしたいと事務所に言ったんだ」

「え!? じゃあナギ達もデビューするの!?」

「しない」


 端的な答えが返ってくる。


「サキの主張は認められたけど、一部だけだ。ユニットもデビューするなら、メインは当然サキで、サキの名前を前面に出す事になる」


 たまにアーティストがソロ活動をする時、From何々~とかWith何々~とか、おまけ的に付ける場合がある。Statelyもそうなる予定で、まるでバックダンサーの様な扱いだ。


「それでも、ずっと燻ってたセンとかルイはすげぇ喜んでたし、サキのワガママとも言える意見が、どんな形であれ通ったんだ。御の字ってもんだ」


 誰もが目指し、それでも全員が辿り着くわけでは無いスタートライン。それがどんな形であれ手の届く場所に見えたのなら、誰だって嬉しいだろう。


「ナギは? ナギは嬉しく無かったの?」

「俺も最初は嬉しかったよ。でも――」


 感情が言葉にならないのか。それともなりすぎてしまって、抑え込んでいるのか。ナギは何度か口を開きかけ、閉じるのを繰り返した。


「――でも、喜べなくなった」


 ずっと一緒で、共に歩んでいたはずの姿が前にある。そして、その背中は酷く遠く見えた。


「俺はサキに嫉妬したんだ。同じだったはずなのに、サキが前で、俺達は後ろで一まとめ。呼ばれるのも、掲げられるのも、サキの名前だけ。それが悔しかった」


 元々サキの為のデビューで、ナギ達がデビュー出来るのはサキの口添えのおかげ。妬むなど、不満に思うなど、おこがましいにも程がある。それを理解しても浮かび上がってくる感情を抑えられず、そんな感情がある事を知られたくなくて、親友(サキ)の顔を見ることが出来なくなっていた。


「いつか全てをぶちまけて、サキを傷つけちまいそうで怖かった。だから俺はデビューしないことにした」


 ジュン達が初めて会った日。あの日が最終決断をしなくてはならない日で、集まったメンバー達にデビューしないことを、ナギは告げた。


「きっとサキは俺の感情に気付いてたんだ。だから、あんなに怒った」


 告げた時のサキの顔を忘れない。

 そんなつもりは無かったが、拒絶された様な蒼白な顔をしていた。「お前はいらないのだ」と思わせてしまった。いつか黒い感情が爆発して、傷つけてしまうのを恐れての決断だったが、結局傷つけてしまった。


「世話がねぇよな」


 自嘲気味に笑うナギの顔が段々とぼやけてくる。


「お、おい!」


 気付けばジュンの頬を涙が伝う。


「な、何で泣いてんだよ」

「だって、だってぇ……!」


 きっと短く無い時間を悩み、苦しんだんだろう。

 大切なサキの事を素直に喜んであげられない、応援できない自分を、ずっと責め続けていたんだだろう。嫉妬なんてしてしまっても仕方がないことなのに、それをナギは許せなかったのだ。そして、自分だって辛いのに、こんな時でも相手の事を案じている。ナギはサキの事を「仲間を大事にする」と表したが、それはナギも同じだ。


「仲直りしよう」

「は?」


 ジュンは涙を拭って、もう一度はっきりと口にする。


「サキさんと仲直りしよう!」

「そうだな、いつか出来たら良いな」

「良いな、じゃないの! するの!」


 脳裏には先程サキへと投げた問いの答えがある。

 サキは仲間が“いる”と言った。“いた”じゃなくて“いる”と。

 まだサキの中でナギ達が大事な存在なら、互いが相手を想い合っているのなら、きっとちょっとしたきっかけがあれば、元に戻れるはずだ。


「そうだな。でも、その前には俺も頑張らないと」


 誰かのおまけでは無く、自分の力でデビューを掴み取れる様に。堂々とサキと向かい合える様に。その為にも一歩一歩進んで行かなくてはならない。


「まずはイベントを頑張ろう」


 ナギが浮かべるのは、いつもの安心させてくれる、明るい気分にさせてくれる笑顔だ。

 瞳に宿る意思は確かなもので、決して諦めない強さがある。


「うん、頑張ろう! オレも一緒に頑張る!」


 オーディションで、ユニットに参加させて貰ってからも、ずっとナギに助けられていた。今度はジュンが手伝う番だ。


「じゃあ泣き止んでくれ。すげぇ注目されてる……」

「あ……」


 気付けば、店中の人がジュン達を窺っていた。

 ジュンは顔を拭ってにへらと笑えば、ナギは呆れ顔でため息をつく。


「全く、女じゃないんだからベソベソ泣くなよ」

「本当は女の子だもん」


 ジュンは頬を膨らませた。


アヤの目には大人に映っても、ナギもまだまだ子供です。

ちょっとカッコつけたい年頃なんです。

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