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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
13/24

12:手を繋いで

 休日だと言うのに、都内は本当に人が多い。

 待ち合わせ場所に向かうために乗った電車は、満員とまではいかないものの、かなりの人がいる。小学生で小柄なアヤは人々に揉まれつつも、棒に掴まる事が出来ているので、何とか転ばずに済んでいる。これで掴まる所が無かったら、もっと大変だっただろう。


 ちなみにナンナンは混雑してきたと同時にさっさと上方へ逃げ、荷物置きの上にゆったりと寝そべっている。

 うんざりしながら電車に揺られ、ようやく目的の駅に着いたら今度は降りる人に流され、外へと押し出される。

 このまま流れに従っても良いが、アヤの足では流れに付いて行くのに精一杯になってしまうし、人々の頭で案内板も見えない。それでは困るので、一旦ホームの中ほどまで進み、人の流れが収まるのを待った。


「すっごい人ナンねぇ。皆、何しに来てるナンか」

「それを言ったら私達もだよ」

「アヤは目的があるナン」


 今日の目的は衣装の買い出しだ。

 帰宅後、母・希保に事情を話したところ「買ってきなさい」と資金をくれることになった。すぐさまナギに報告して、ナギの買い出しに一緒に付いて行く事にしたのだ。ちなみに、兄達の服も念のため着てみたが、やはりぶかぶかだった。


「ママさんにお小遣い貰えて良かったナンね」

「うん。やっぱり頼りすぎるのも悪いしね」

「これで予算の追加を申請しなくて済むナン」


 心底ほっとしたように、ナンナンは長く、深く息を吐く。


「経理に立ち向かうのは、胃が痛くなるナンよ」

「ねぇ、ナンナン。妖精のくせに、何で所々世知辛いの?」


 ちょいちょい現実的な感じが見え隠れしていて、ファンタジーじゃないのかと突っ込みたくなる。


「仕方ないナンよ。妖精さんも近代化の波には逆らえないナン」


 ため息交じりに言われるが、何だかよく分からないので流して置くことにする。


「ところで、大人の服って、いくらくらいするのかな? お金足りるかな?」


 希保に渡されたのは現金ではなくカードだ。これで決済が出来るらしいが、初めての事なので緊張する。


「ママさんはいくらまで使って良いって言ってたナン?」

「十万」

「じゅっ!?」


 アヤが答えるとナンナンは目玉が飛び出てきそうなほど驚いた。


「え? 少ない?」

「アホ言うんじゃないナン! ママさん、こんなガキんちょに、一体いくら使わせるつもりナン! そんな金があるならナンナンに銀座の数量限定、スペシャルモンブランケーキを買って欲しいナン!」


 よだれでも垂らしそうなほど口を開き、ナンナンは財布の入ったかばんを凝視するので、そっと背中に隠す。


「あ、ほらナンナン。人も空いてきたし、行こう」


 ホームから階段を降りて行けば、構内はかなり大きく広がっている。あちこちに向かう人で溢れ、せっかく空くのを待ったが意味が無かった。


「西口ってどっちかな?」

「とりあえず適当に進んでみれば良いナンよ?」

「やだよ。そんな事したら迷子まっしぐらだよ」


 そう言ったものの近くに見取り図も見つからず、案内板を見ても“西口”の文字は見当たらない。


「どっちに行けば良いんだろ?」

「だから、とりあえず行ってみるナンよ。冒険心が無いナンね」

「こんな都会で冒険も何も無いでしょ。駅員さんとかいないかな?」

「どうしたの?」


 ふいに話しかけられ、アヤは振り向く。

目深に帽子を被り、メガネもしているが、その美しい顔は完全には隠せていない。加えて今は見たことない天使の様な笑顔も浮べているが、その顔は間違いようがない。


「サキさん!?」

「あ、バカ」


 反射的に叫んでしまえば即座にナンナンのツッコミが入り、慌てて口を押える。しかし飛び出した言葉が戻ってくることは無い。


「僕の事、知ってるの?」

「――し、CMで見ました!」

「そっか。ありがとう」


 苦し紛れの誤魔化しだが、合点がいったのか、更に顔は綻んで、キラキラしている。


「さっすがアイドル。眩しいナン……」


 目を細め、短い手をキラキラを遮りつつ、ナンナンが感想を漏らした。


「それで、どこに行きたいの?」

「えっと、西口に……」

「西口ね。分かった。ここの駅、複雑だから一緒に行こう」


 そう言うとサキは当たり前のように手を差し出してくれ、流れる様な立ち振る舞いに思わず手を取ってしまう。ぎゅっと握られた手は優しい。


「こっちだよ」


 歩き出すサキに連れられて、アヤも足を動かす。人にぶつからない様、上手く誘導してくれ、歩くスピードも合わせてくれている。


「かーっ! スマートナン! こりゃ慣れてるナンよ」


 後ろを付いて来るナンナンの鼻息が荒くなっていく。


「スケこまし! スケこましナン! アヤ、気を付けるナンよ。男は狼ナ――ぶぎゃっ!」


 一人興奮していたナンナンは向かいから来る人を避けられず、ぶつかり、人並みに飲まれていった。もう、あの妖精には掛ける言葉も無い。


「――……たの?」

「え?」


 ナンナンの気を取られていて、全く話を聞いておらず、聞き返してしまう。けれどもサキは別段気にした風でも無く、繰り返してくれる。


「一人で来たの?」

「あ、はい。西口の改札で仲間と待ち合わせしてて」

「仲間と?」


 そのフレーズにサキに瞳がわずかに揺れる。


「良いね、仲間」


 微笑みはどこか寂しげで、思い出すのは先日の一件だ。

 ナギはサキを「仲間」だと言った。しかし、それに対してのサキの返答は「ウソツキ」だった。

 サキとメンバー達の確執について、アヤが知っていることは少ない。

 デビューが決まっていたサキが、Statelyから抜けた。けれどもサキは追い出されたと思っている様だということだけ。しかもジュンという存在によって。

 メンバー達が未だサキの事を想っているのは、一緒に居れば分かる。しかし、サキはどう思っているのだろうか。


「何の仲間なの?」

「えっと……」


 どう答えれば良いのか悩む。

 スポーツチームとか適当に嘘をついても良いだろうが、ボロを出してしまいそうなので、素直に本当の事を口にする。


「一緒にダンスしたりする仲間です」

「ダンス!」


 サキは顔を綻ばせる。


「ダンスかぁ。良いね。楽しい?」

「楽しいです。難しかったり、出来ない時もあるけど、仲間に教えて貰ったり、一緒に練習して、出来たら嬉しいです」


 話しながら浮かんでくるのはメンバー達の顔。

 ジュンはまだ正式なメンバーではない。むしろ抜けさせられる可能性の方が高いくらいだ。しかし、そうならない為に、皆も応援してくれている。だから期待に応えたい。


「一緒に居たいから、頑張ります」


 こっそりとジュンの言葉を混ぜて告げれば、サキは「そっか。頑張って」と優しく微笑みながら応援してくれた。


「さ、あそこの改札を出て、右に行けば西口だよ」


 サキの指差す先には改札があり、奥には案内板もあるので、もう迷い様も無いだろう。


「ありがとうございました」


 お礼を言って頭を下げれば、サキは天使の様な微笑みを浮べた。


「じゃあ気を付けて。仲間にもよろしくね」

「サキさん!」


 手を振り、去って行こうとするサキを思わず呼び止める。


「はい?」

「あの……」


 まっすぐ見据えて、ジュンは口を開く。


「サキさんにも仲間が居たんですか?」

 行きずりの、全く知らない子が尋ねるには、不躾かもしれない。しかし、聞かずにはいられなかった。

「――うん」


 サキは驚いた表情から柔らかな笑みへと表情を変える。


「居るよ」


 答える必要もない質問にも、気を悪くした素振りもみせずに答える。


「今は一緒に居れないけど、大事な仲間が」


 それだけ言って、サキは踵を返して人混みに紛れて見えなくなってしまった。それでもアヤは視線を戻せなかった。


「アーヤー! とぅっ!」

「わぶっ!」


 弾丸の様な勢いでナンナンが突撃をかましてきたので、アヤは転びそうになる。ぬいぐるみの様な柔らかい感触で無ければ、確実に倒れていただろう。

 本当にこの妖精はしんみりとか、シリアスな感じを全てぶち壊してくれる。


「ナンナン! もう、どこに行ってたの?」

「置いてった癖に、ひどいナン!」

「いや、はぐれたのはそっちじゃん」

「なにぃー!?」


 憤慨するナンナンを引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。


「どうしたナン? サキにいじめられたナン?」

「ううん、優しかったよ」


 サキはずっとアヤを気遣ってくれた。ただ連れて行くだけでも良いのに、わざわざ話しかけてくれたのだって、気まずい思いをしない様、気にしてくれたからだ。


「サキさんって不思議」

「不思議? どこがナン?」


 初めに会った時は怒っていた。次に会った時も怒りは収まりきっていなくて、けれどもそれをおくびにも出さない完璧なパフォーマンスを見せつけてきた。三度目もつれなかったけれど、ほとんど関係のないジュンを心配してくれていて、しかもかばってもくれていたと知った。そして今、アヤには見たこともない優しい姿を見せてくれた。


「そりゃ人間だれでも多面性はあるナンよ」

「ためんせい?」

「色々な顔ってことナン」


 ナンナンは物知り顔で語りだす。


「向かい合う相手や場所、場合、色々な物によって、立ち振る舞いは変わるものナン」


 女子供に優しい人は多く、ましてや初めて出会う女の子相手に、いきなり突っかかってくる人間がいたら、それはそれで問題だ。


「あれもまた一つのサキの顔ナンよ」

「別の顔か……」


 アヤの――ジュンの知らないサキの顔。

 それはきっと、Statelyのメンバー達には見せていた顔なのだろう。


「ジュンにも、いつかあの顔を見せてくれるかな?」

「さぁ? そればっかりは何とも言えないナン」


 正直ジュンへの好感度は低いだろう。何かきっかけでも無い限り、仲良くはなれない。


「そこは“きっとなれるよ!”とか言う所じゃないの?」

「ナンナンは現実的ナンよ」

妖精(ファンタジー)のくせに現実的って……」


 またもやアヤは呆れてしまう。


「それより、早く行かなくて良いナンか?」

「そうだね」


 時間を確認すれば、もうすぐ待ち合わせの時間になってしまう。

 何だか今、とてもメンバー達に会いたい。


「さ、早く行こう。ナギが待ってる」


 そう言うとアヤは歩き出した。


サキもたまたま仕事で同じ駅に来ていました。

用事があるのは別の出口なので、別れてそちらに行きました。

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