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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
12/24

11:問題発生?

 事務所への申請は無事に通り、曲が決まった。

 早速ハルが振り付けを作り、出来た所から皆に教えていく合間に、歌の練習も行っていく。準備は順風に思えた。


「衣装についてなんだけど」


 レッスンが終わり、片づけを始める皆にルイが呼びかける。


「お揃いのTシャツを用意するから、ボトムスは各自で準備しておいて。色は黒が良いわ。ストール巻くのは良いけど、何か羽織るのはナシでお願い」

「了解」

「わかった」


 自分の持っている洋服を思い返しながら、それぞれが了承していく。

 そんな中、ナンナンがふよふよと肩を落としながらジュンに近づいて来る。


「あー……ジュン?」

「どうしたの、ナンナン?」


 ドリンクを飲みながら横目で見やれば、ナンナンは肩を落とし、視線を彷徨わせている。


「衣装の事ナンが……」

「うん、どんなの出してくれるの?」


 レッスン着しかり、ダンスシューズしかり、ジュンとして必要な物は全てナンナンが用意してくれている。なので、今回の衣装も任せるつもりだ。


「それが……出せない……ナン」

「え!?」


 驚きのあまり、ドリンクが気管に入ってむせてしまう。せき込むジュンにメンバーの注目が集まるので手を掲げて大丈夫だと示す。ナンナンは背中をさすってくれるが、手が小さすぎて効果は薄い。


「大丈夫か、ジュン?」


 唯一ナンナンの姿が見えるナギは、異変を察知して寄ってくる。


「う……うん、大丈夫。かなぁ?」


 頷きつつナンナンに視線を向ければ、避けるように目を逸らされた。


「とりあえず片付けて、人の居ないとこ行くぞ」


 声を潜めてナギが言うので、ジュンは黙って頷いた。







 帰ったフリをしてメンバーと別れたジュンとナギは、階段の踊り場にいた。移動にはエレベーターを使う人が多い為、ここなら人気も無く、密談には最適だ。


「で、一体どうしたんだ?」


 早速ナギが口火を切り、ジュンを見やる。


「えっと……ナンナン?」


 ジュンも困り顔でナンナンに問いかける。


「衣装が出せないってどういうこと?」

「出せない?」


 訝しげに眉を寄せたナギに、必要な物はナンナンが用意してくれていたと説明し、同時に衣装の用意が出来ないと言われたことも伝える。


「ナンナン、どういうこと?」


 ずっと押し黙るナンナンに、つとめて平然を装って尋ねる。


「――実は」


 ナンナンはやっと重い口を開く。


「予算が無いナン」

「は?」


 ジュンとナギは同時に声を出す。


「予算? 予算って、予算?」

「そう、予算ナン」


 ナンナンは頷き、言葉にしたことで吹っ切れたのか、続けて話し始める。


「エージェントとなる妖精には、それぞれ予算を与えられてるナン。それで必要経費を賄うナン」

何と、ジュンが使っている物は魔法などで出したのでは無く、買ってきたものらしい。まさかの事実にびっくりだ。


「で、その予算がそろそろ尽きそうナンよ」

「ということは、つまり?」

「お金が無いナン」


 端的な結論にジュンは目をしばたかせる。

 お金が無い。

 世知辛い現実の中ではそういう事もあるだろう。しかし、それを口にしているのは妖精というファンタジーな存在で、あまりにもあべこべな気がする。だが、問題はそこでは無い。


「そしたら私、衣装どうすれば良いの?」

「あー……残念ながら、衣装ナシってことで――」

「そんなのイヤ!」


 一人、ズボンも履かず、パンツ一丁で踊る姿を想像し、ぶるっと体を震わせる。


「ナンナン、どうにかしてよ!」

「そんな事言われたって困るナン!」


 睨み合い、言い合う二人にナギは頭を掻きつつ、止めに入る。


「とりあえず、落ち着けって二人共」

「だって……!」


 価値を認めさせなくてはならないのに、衣装も無しでは話にならない。これは死活問題だ。


「えっと、ナンナン。予算は追加できないのか?」

「出来なくはないけど、経費削減が叫ばれている今日、そう簡単に追加の申請は通らないナン。第一、あの経理のお局ときたら、いーっつも重箱の隅をつつく様にねちねちねちねち――」

「わかった! わかったから!」


 ドス黒い空気を吐き始めたナンナンを遮り、ナギは深く息を吐く。


「そしたら自分で用意するしかないな」

「自分でって言われても……」

「ジュンは兄貴がいるんだろ? 借りれないのか?」


 そう言われて、兄の顔を思い浮かべる。

 三人の兄は歳が離れており、既に三人とも家を出ているが、荷物は家に残されている。その中に洋服も当然あるだろうが、問題が一つ。


「サイズが合わないと思う」


 兄達は皆、山登りやら筋トレやらが趣味で、遊ぶと言えば体を動かす事な、アウトドア派だ。全員、背が高く、がたいも良い。ジュンも男の姿になったとはいえ、どちらかと言うと華奢で小柄で、兄達の服ではぶかぶかだろう。


「サイズか……」

「ナギの服は貸してくれないナン?」

「俺の?」


 腕を組んで考え込んでいたナギは顔を上げる。


「俺のでも良いんだけど、黒のボトムスは持ってないんだよ。だから買いに行こうかと思ってて……」


 そこまで言って、ナギは手の平にぽんと握った手を叩く。


「そうか。俺が買ってやるよ」

「え!?」

「つっても貸してやるだけな。終わったら返せよ。それなら問題ないだろ」


 名案とでも言わんばかりにナギは晴れやかな顔で頷く。


「でも良いの?」

「だって無いと困るだろ」

「そうだけど……」


 ナギは何でもないことの様にしているが、やはり恐縮して俯いてしまう。そんなジュンの頭をナギは乱暴に撫でる。


「今更、気にすんなって! あ! それとも気にしてるのは丈の事か? 確かに余っちゃうかもなぁ」


 イタズラっぽく笑うナギに、ジュンは頬を膨らませる。


「むしろ足りないかもね!」


 ふんっと息を吐きつつ言いかえし、それから二人で笑い合う。


「――ありがとう、ナギ」


 正直、助かるのだから、ここは素直に甘えてしまうことにして、お礼を言う。


「どういたしまして」


 また二人で微笑みを交わす。


「イチャついてんじゃないナン」


 にょきっと二人の間に割って入り、ナンナンは半目で睨みつけてくる。


「BでLな展開はノーサンキューナンよ」

「またナンナンの意味分かんないヤツが始まった」


 ジュンは肩を竦める。

 ふと訪れた合間の静けさに、足音が響く。


「誰か来るナン」


 音は階下から聞こえてきており、段々と近づいて来る。

 角を曲がり、姿を現したのは見覚えのある顔だった。


「サキ」


 ナギが名前を呼ぶ。

 サキは二人の姿を見て目を見開いた後、視線をジュンだけに移し、それから微笑んだ。


「辞めなくて済んだんだ。良かったね」

「ふぇ?」


 一瞬、何の事だか分からず、変な声が出てしまう。


「社長、許してくれたんだ?」

「何でその事知って――」

「僕も現場に居たんだけど?」

「あっ!」


 そういえば、あのライブにはサキも参加していた。問題の場に居たかは覚えていないが、あれだけ騒いだのだから何があったかくらいは知っているだろう。


「サキも心配してくれてたのか。ありがとな」


 今度はナギの言葉にぎょっとする。それはジュンだけでなく、サキもだ。

 はっきりいってサキがジュンの心配をするいわれはない。まず出会いが悪かったし、その後も関わることも無く、話したことすらない。そんな人物の心配をどうしてするのか。

 困惑するジュンをよそに、ナギは心配していた前提で話を進める。


「もしかして、お前も社長に取り成してくれたのか?」

「えぇ!?」

「僕は見た事をそのまま報告しただけだよ」


 そしてサキも否定はしなかった。


「えっと……ありがとうございます?」


 何故かは分からないが、一応かばって貰えたらしいし、とりあえず頭を下げてお礼を言っておく。するとサキはまた目を見開き、頭をあげたジュンとしばし戸惑いつつも見つめ合ってしまう。


「やっぱりサキは優しいな。ありがとな」

「別に優しくなんか……。優しいのはナギの方でしょ」


 晴れやかに笑うナギに、サキは渋面を作る。


「いつでも仲間を大事にするもんね」


 褒めているはずなのに、言葉にはどこか棘がある。その真意が分からず、ナギは困惑し言葉に詰まった。


「仲間達と仲良くね」


 綺麗な顔立ちに笑みを浮かべて吐く当てこすり。毒を含む声色にジュンはたじろいで一歩下がり、その空いた空間をサキは通り抜けようとする。


「サキ」


 ナギが腕を掴んで引き留める。息を呑んだサキは、その瞳にナギの姿を映した。


「お前も大事な仲間だ」


 告げるのは真摯な言葉だが、どこかナギの顔は苦しそうだった。

 サキはしばしその顔を見つめた後、そっと目を伏せ、腕を振り払った。


「ウソツキ」


 ぽつりと漏らした言葉を残して、サキは振り返ることなく去っていく。ちらりと見えた表情は怒りというよりは寂しそうな、泣きそうな顔をしていた。

 そして、その後ろ姿を見つめるナギも同じ顔をしていた。


ナンナンは現場の担当なので、事務員さんとはいがみあったりしなかったりするんです。

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