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魔法少女★少年アイドル!  作者: 結はな
11/24

10:イベントに向けて

 社長への報告は一人で行った。正確にはナンナンも一緒だったが、社長と相対したのはジュンだけだ。

 ナギも付いて行こうかと言ってくれたが、正体がバレた事を秘密にしなくてはならないし、これは自分がやらなければならないことだと思ったので断った。

 もう甘えない。


 仕事に対する甘さが、自分の行いに対する責任への認識の甘さが、今回の騒動の発端だ。だから、それらと決別するためにも、一人できちんと社長と向き合い、宣言したかった。

 まっすぐ目を見て「イベントへ出ます」とだけ宣言したジュンに、社長も「頑張りなさい」とだけ返してくれた。


 価値を認めさせ、辞めなくて済むようにする。そんなジュン達の思惑はお見通しの様にも見えたが、否定も却下もされなかったので、勝手に頑張る事にする。




 社長とのことが終われば、次はメンバー達への報告だ。

 メンバー達は休憩室で待っていてくれていたので、社長室を出て真っ直ぐに合流した。待ちくたびれていたのか、ジュンが顔を見せれば皆、一様に顔を綻ばせてくれた。しかし、報告に伴って、表情も曇っていく。


 イベントには出られるが、それを以って辞めなくてはいけない。だからイベントで辞めなくても済むよう、活躍してみせる。だから一緒に頑張って欲しい。

 正体や契約の事は話せないので、他のメンバーにはそう報告した。

本当は他のメンバーにも正体を明かしたいが、社長との約束もあり、ナンナンもこれ以上、秘密が漏れるのは妖精的にも問題という事で、諦める事にした。


「そうか……。頑張ろうな!」


 辞めなければならない理由については話していないが、詳しく聞くことはせず、センは快活に笑う。


「ええ、頑張りましょう。私も出来る限り協力するわ」


 ルイもジュンの手を取って、請け負ってくれ、その横ではハルがしきりに頷いている。

 皆、ジュンの帰りを受け入れてくれ、当たり前のように応援してくれる。それはとても嬉しくて、やはり皆に報いたいと思う。


「そうと決まれば、さっさと色々決めちゃおうぜ。時間は無いんだから!」


 ナギが促し、センも頷く。


「そうだな。じゃあ、まずイベントについてたが――」


 ジュンがイベントについて知っているのは、渡された紙に書かれていた事だけで、センが補足してくれる。


 スピリッツ・フェスタ


 それがイベントの名前で、事務所の名前が掲げてあることから分かる通り、事務所主催のイベントだ。毎年開催しているファンへの感謝祭のようなもので、二日間かけて行われる。会場ではグッズの販売、展示、握手会なんかもやるらしい。


「で、会場には仮設ステージがあって、そこで色んなユニットがパフォーマンスをする」


 メインはデビュー済みのユニットだが、デビューを控えた若手や研究生のユニットも、合間に出演させて貰える。一枠三十分と短い時間だが、顔を売れるチャンスであり、そこから人気が出てデビューしたユニットもいるとなれば、出演希望者は山ほどいる。そんな貴重な一枠をStatelyは貰えるらしい。


「最終的な許可はいるが、基本、曲の構成、振り付け、衣装なんかは全部自分達で決めることになる。自己プロデュース能力も鍛えられるってわけだ」

「私達は去年もやらせて貰えたの。だから安心して頼ってね」

「うん。ありがと、ルイ」


 柔らかく微笑んで請け負ってくれるが、それに甘え過ぎない様にしなければ。


「曲は三曲ぐらいが限度で、一曲はダンスナンバーを入れる。ハルにも見せ場を作らないとな」

「俺、踊る」


 センの言葉にハルは大きく頷く。


「あと振り付けは俺が作る」

「そうだな。頼む」


 ユニットのダンス担当と言えばハルなので、誰も反対することなくお願いすることになる。


「曲も早い者勝ちだから四、五曲くらい候補を決めておかないとな」


 基本的には事務所所属のアーティストの曲を使う事になるが、もちろんメインでライブを行うユニットに優先権がある。となると必然的にカップリング曲やらファンならば知っている曲、等になる。

 いくつかの曲が挙げられ、絞り込まれていく。手慣れた様子で四人が決めていくので、ジュンはほぼ眺めているだけだ。


「そうだ! どうせなら一曲、ジュンをメインにしてやろうぜ」


 ナギの提案に、ジュンは目を瞬かせる。


「え? 良いの?」

「何言ってんだよ! お前のスゴイ所、見せつけてやるんだろ! な、皆も良いよな?」


 ナギが問いかければメンバー達は反論もせず、頷いていく。


「良いと思うわ。コーラスはきっちりやるから、音外さないようにね」

「かっこいい振り付けにするから、間違えないで」

「皆、やる気だな。責任重大だぞ、ジュン」


 センが大きな手でガシガシと頭を撫でる。


「うん、頑張るよ!」


 両手を握りしめ、ふんっと息を吐いて力を入れる。

 最終的にジュンがメインに一曲、メインボーカルはナギのダンスナンバーを一曲、皆で歌える曲を一曲という構成になり、予備の候補も揃えて決められた。


「曲が決まったから、次は――」

「衣装ね」


 モデルもやっているルイがずいっと前に出る。


「事務所からも借りれるけど、そうすると派手すぎるし、手続きも面倒だから、自前で行きましょう。ポップスばかりだからカジュアルにして、それぞれの個性を出しつつ、統一感があると良いわ」

「そうだな。じゃあ衣装の監督はルイに任せて良いか? 事務所とのやり取りなんかは俺がやるから」

「ええ、もちろんよ」


 ルイは了承して頷く。


「はい!」


 ジュンは大きく手を挙げる。


「オレは何をすれば良いですか?」


 それぞれ得意分野というか、役割分担が上手くできている。甘えないと決めたのだから、ここいらの裏方仕事でも何か役に立ちたい。


「ジュンは――何もない」


 センは言い辛そうに、しかしキッパリと言い切る。


「そんなぁ! 何かやれることちょうだいよ!」

「つってもなぁ……」

「安心しろ、ジュン。俺も役割無いぞ」


 ナギが堂々と胸を張るが、何も安心できない。


「オレ、役立たず……?」


 しょぼくれてしまいそうになった背中を、ナギが思い切り叩く。


「何言ってんだよ。歌、覚えたり、やることはいっぱいあるだろ。そっちに集中するためにも、めんどくさい事はセン達に任せとけば良いんだよ」

「ナギの言い方には引っかかるが、まぁそういう事だな」

「そうよ。やる事ばかりでパンクしても大変だもの。こういう時は頼りなさい。仲間なんだから」


 そう言われてしまえば、これ以上反論するのも野暮だろう。


「わかった」


 ジュンは大人しく頷く。


「オレ、頑張る!」


 ぐっと気合を入れて、ジュンは拳を突き上げた。

 ぽんぽんっとセンが頭を撫でた。


「いやぁ、ジュンは素直で良いなぁ。ウチの怪獣共もこんなんだったら楽だったのに」

「怪獣?」

「ああ、弟達だ」


 センは指で三を示す。


「あ、オレと一緒! オレもお兄ちゃんが三人いるんだよ!」


 思わぬ共通点に顔を綻ばせれば、センの撫でる手は更に勢いを増した。


「ジュンの兄貴はきっと楽だろうな。こんな素直な弟で。まぁウチのも可愛いつっちゃ可愛いんだが、やんちゃでなぁ。まぁおかげで天使に目覚める事が出来たんだが」

「は?」


 話の飛躍に付いて行けず、ジュンは固まる。それはナギ、ルイ、ハルも同じらしく、訳が分からないと言う顔でセンを見ている。


「お? 何だ? 聞きたいのか?」


 どう勘違いしたのか知らないが、皆が興味を持ってくれたと思ったらしいセンは、喜色を浮べ、同意を得てもいないのに話し始める。


「俺が小学生の頃。ある日、子供だけで留守番をすることになった。当然、三人の弟の面倒も俺が見ることになる。しかし、奴らはいう事を聞かない!」


 小学生の弟ならば、当然小学生以下で、そんな年代の男子にやんちゃをするなと言う方が無理だろう。


「暴れ、喧嘩し、ちっとも静かにならない弟達と、一向に帰ってくる気配のない両親。俺は匙を投げ、テレビをつけた。そこに映っていたのが、そう! 天使だった!」


 尚もセンの力説は続く。


「あどけない笑顔で歌い踊る天使! その天使がふと動きを止めた! どうやら歌詞を忘れてしまったらしい。これは放送事故!? 泣いてしまうかもしれない。俺は思った。けれども彼女は少しはにかんで笑うと、ハミングで歌いだしたんだ! 失敗してもくじけず、頑張るそのいじらしい姿! うちの怪獣どもとは全く違う、儚く弱い少女の、芯の強さ! どうして涙せずにいられよう! そして俺はその時、決めたのだ! 少女を守る守護者になると!」


 高らかに突き上げられる拳と、言い切った清々しい表情のセン。一方メンバー達は置いてけぼりで言う言葉も無い。


「つまり、あー……。テレビで観たアイドル憧れたってことで良いのか?」

「違うぞ、ナギ! 天使だ!」

「ああ、うん、天使な。天使」


 どうやらナギは理解を諦めたらしい。


「そして俺は天使を守るため、事務所に入った」

「え? そんな理由?」


 まさかの志望理由だ。


「センは天使に会いたくて事務所に入ったの?」

「会うためじゃない、守るためだ。まぁでも会えなかったんだがな」


 センは肩を落としてため息をつく。悲哀を誘う様ではあるが、理由が理由だけに共感できない。


「センの嗜好の理由なんて、知りたくなかったわ」


 ぽつりと漏らされたルイのつぶやきが、皆の心を代弁していた。


「まぁ、センが頼りがいのある兄貴分なのことには変わりないしさ」


 ナギが苦笑いを浮かべながらフォローを入れる。


「あ、でも、お兄ちゃんっていうより、お父さんっぽい」


 ふと思いついて口にすれば、何だかとてもしっくりきた気がする。

 戻ってくれば「おかえり」と迎え入れてくれ、どんな時も応援してくれる仲間。それはとても家族と似ている。


「センはユニット内のお父さん! で、ルイがお母さん!」


 ジュンは楽しくなって続ける。


「で、残りは子供ってか。いきなり子だくさんだな、母さんや」

「いやよ、ロリコンの旦那なんて」


 にやりと笑いながらセンも乗っかり、ルイも口ではそう言いつつも楽しそうだ。


「俺、おじいちゃんが良い」

「えー。ハルもお兄ちゃんが良いよ」


 ちゃっかりと役割を主張するハルに、ジュンは頬を膨らませる。


「あ、なら俺、長男な。で、ハルが次男で、ジュンは末っ子。ということで、皆、俺の言う事聞けよー」

「いやいや、ナギよ。父の言う事の方が大事ではないかね?」

「あら、母親は偉大なのよ?」


 すぐさま覇権争いが始まり、やいのやいのと言い合う。

 他愛のないじゃれ合い見つめながら、ジュンは戻って来たのだと実感する。そして、ここに居続けられる様に頑張ろうと、もう一度しっかりと誓った。

結局ハルはおじいちゃんに落ち着きました。

もう一つの家族です。

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