表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まじめと魔人の冒険奇譚 (再編集版)  作者: 春牧大介
王都ラヴィニエスタ
27/27

王都ラヴィニエスタ 3-9

          9


 一夜明けた。

 快気祝いを利用したネズミ捕りは成功といえた。

 場内に入り込んだ、憤怒の誓いは、二割程度が捕われた。その他は戦死、もしくは自刃して果てた。

 城内での戦闘でのこちらの損害は、死者が出なかった。致命傷を負った人間すらも、異常な治癒力を発揮し、助かった。

 エルフィーナの影からの強力な支えがあった為だった。

 

 憤怒の誓いの息のかかった施設への襲撃も、シルバーエールの助勢もあり、無事成功したという。

 ただ、やはり捕捉えることが出来た敵兵は一割にも満たず、殆どが戦死、もしくは自刃であった。

 捕らえた関係者も、有力な手がかりを持っていなかった。殆どが焼き払われ、めぼしい手がかりも挙がらなかった。

 結局、憤怒の誓いと器動衆とのつながりを決定付けるものが得られなかった。

 街中に搬入された積荷の不自然さから、憤怒の誓いに繋がりのある人間が、器動衆を運び入れた。もしくは憤怒の誓いの動向を知っている人間が、彼らの動きに合わせて器動衆を行動させた。いずれも憶測の域を出ない。

 それについてヴィヴィアンはわりとあっけらかんとしたもので、


「そのうち何とかなるんじゃない? シルバーエールとのつながりも強固になったし、荷物の点検も厳しくしたし、何より陛下と妃殿下は人間に戻ったんだし、狙われる理由が無いし、ね」


 と、楽観的であった。

 魔人たちがこのヴィヴィアンの態度にため息をついたのは言うまでもなかった。


 城内がまだまだ慌しい中、一つの別れがある。

 イリアナがレオンとカーチャの元を離れ、八門徒として正式に行動するときがきた。

 ここでの別れはレオンが切り出したものだった。

 ずるずると行動を共にすると決意も鈍るだろうということだった。

 イリアナもこれに反対はしなかった。

 彼女自身、八門徒となることを決めた時からこうなる事は分かっていたからだ。


 ヴィヴィアンが自身の執務室でささやかな送別会を開いた。

 訪問してきた人物は宮廷魔術師筆頭マドーラ、ヴィヴィアンの同僚となる宮廷魔術師のマーカスとリッチモンドの三名。

 レオン、カーチャ、イリアナに労いの言葉と協力に対する謝礼が支払われた。

 カーチャはもろ手を挙げて喜び受け取った。

 だが、相場以上の金銭は受け取れないと、レオンとイリアナは断った。

 マドーラは、魔人たちを運んできた事と八門徒を身内から見出したことへの謝礼と助成金であると言われ、これ以上断るのも失礼と判断し受け取った。

 イリアナだけは相場通り受け取った。これは魔人たちの意向であった。


「贅沢は敵!」


 この一言で、エルフィーナは皮袋いっぱいの金貨から十枚ほど抜き取って、そのまま口に放り込んだ。あまった金貨はそのままマドーラに突き返した。


「イリアナには別のご褒美があるんだ」


 ハヤテマルの言葉にイリアナは首をかしげた。 

 執務室の隣に通じる扉をヴィヴィアンが開けた。

 中からクラフトとアンナが出て来た。

 突然の王と王妃の出現に、イリアナとレオンたちは慌てて平伏した。


「いいんだ。今日は君たちに御礼をするための席なんだ。さぁ立ってくれ」

「ホレホレ、早く立つ早く立つ」


 ハヤテマルが、羽を手のひらに見立ててパンパン叩き、一行が立ち上がるのを促す。

 イリアナは顔を下げたまま、申し訳なさそうに立ち上がった。

 そんなイリアナの前にクラフトが歩み寄った。


「イリアナ君」

「ひゃひっ」


 クラフトの言葉に上ずって返事をした。顔は耳まで真っ赤である。


「君と君の家族がハヤテたちを連れてきてくれて、私たちをヴァンパイアの血の暴走から救ってくれた。君たちのおかげで私達はこうして日の下に出られるようになった。とても感謝しているよ」

「あ、ありがとうございます!」


 クラフトの謝辞に謝辞で返す。


「お礼を言っているのは私たちよ」


 アンナが笑った。

 イリアナはいっぱいいっぱいで、余裕が無かった。


「君の働きも見事だった。遠目に見ただけだが、エルフィーナの紋章を良く使いこなしていたと思う。それに私の剣も。見事だった」

「あ、ありがとうございます!」

「私たちに出来ることは助成金を出すことだけかと思っていたんだが、もう一つ君にあげられる物があった。これを貰ってくれるかい?」


 イリアナは、クラフトが何かを出すことを察して、下を向いたまま頭を下げ勢い良く手を差し出した。


「あ、ありがとうございます!」

「おまえは、同じことばかり言ってオウムか」


 ハヤテマルは呆れて言ったが、そんなものはイリアナの耳には入らなかった。


「重いから気をつけてくれ」


 イリアナが差し出した両の手にずしりと重い何かが乗っかった。


「うわっ」


 イリアナは思わず顔を上げた。そしてぺたんと座り込む形で、なんとか荷物を落とさずに抱え込んだ。

 ほっと息をついた。


「さぁ、あけてごらん」


 クラフトの言葉にイリアナは、ハヤテマルの顔を見た。

 ハヤテマルはうれしそうに頷いた。

 膝の上の大きな袋の紐を解き、口を広げた。


「ガントレットと……グリーヴ」


 イリアナが好んで使っている重装備用の防具だ。

 ガントレットは腕につける小手。グリーヴは脛回りを守る防具だ。

 どちらも重装備らしく重厚だが、ごてごてしているわけではなく、シンプルでスリムなデザインだ。だが、腕と足回りを隙間無くカバーしている。そして双方とも魔力を発している。


(動きやすそう、それに……高そう)


 イリアナはついそんな風に思ってしまった。

 魔法のかかった装備は、珍しいものではない。大抵の鍛冶屋や武具店には一つ二つあるものだ。だが、高価なのは間違いない。


「気に入ってくれるとうれしいな。私のお気に入りなのでね」


 クラフトの言葉に、ついさっきまで真っ赤だったイリアナの顔は、みるみる青ざめていった。


「お前は赤くなったり青くなったり忙しいやつだな」


 ハヤテマルが笑った。

 それにつられて、その場にいた一同が全員笑った。


「そ、そんな大切なもの、いただけません!」

「いいんだ。実はその二つの装備とセットだった鎧と兜は、もうこの世に無いんだ」

「え?」

「ガントレット、グリーヴ、アーマー、ヘルム。これで一揃いの装備なんだ。すべて揃っていると強い魔法による強化がかかるようになっていたのだが、ヘルムとアーマーが戦いで全損してしまってね。魔法の効果が五割程消失してしまって、置物になっているんだ」


 イリアナはクラフトの話に平静を取り戻し、真剣に聞き始めた。


「八門徒の戦いは過酷だ。装備を買い換えなければならなくなった。だが、長く生死をかけて戦ってきて愛着もあってね。手放す気に慣れなかった。しかし、防具の本懐はやはり主の身を守ること。兜と鎧と違い、彼らはまだ戦える。君から彼らに新たな戦場を与えてやってはくれないか。君の身を守るという戦場を」


 イリアナは戸惑った。高価な上にクラフトの思いも込められた代物だ。壊したりしたらと思うと気が引けた。でも、自分の思い出深い宝物を託すということは、その想いに応えて欲しいということ。


「もし……」


 イリアナは口を開いた。


「もし、この子達が防具としての人生を全うしたら、ご報告に伺います。それまで、ありがたく使わせていただきます」


 イリアナは精一杯の返答をした。これが今の彼女の精一杯。イリアナには少しの気後れも無く、しっかりと応えた。


「ああ。楽しみにしている」

「別にそうでなくても訪ねて来てね。あなたは私たちの後輩なのよ」


 クラフトとアンナの言葉は本心だ。


「本当はオキシダイトも託そうと思っていたんだが、ハヤテマルに止められてしまってね」

「当たり前だ、馬鹿。自分自身の身を守る最低限くらい確保しとけよ。ヴィヴィたちの負担を増やすんじゃねえ」


 ハヤテマルは呆れ気味に言った。


「それに、剣は先客がいてね」


 クラフトはそう言うとレオンを見た。


「あ、オレですか」


 レオンは少し恥ずかしそうにイリアナの前に歩み出た。


「これはオレとカーチャからだ」


 そう言ってレオンは自分の腰に吊るしている剣を差し出した。


「でも、これレオンが大枚叩いて買った大切な剣じゃ……」

「ああ。だがお前ずっとうらやましそうに見てたじゃないか」

「そ、そうだけど……」


 イリアナは顔を赤らめながら、今それを言ったレオンを恨めしそうに見つめた。


「金にうるさいカーチャが、この剣の値段の半分をオレに突きつけて、これをおやりって言うもんだしよ」


 レオンは頭を掻きながらイリアナから目線をはずした。


「いいの?」

「あたしたちからの選別だよ。ちょっと早い成人祝いって感じで」


 カーチャが豪快に笑った。


「まだかなり先だよ?」


 イリアナはため息をつくと、顔を上げて剣を手に取った。


「ありがとう。大切にする」


 レオンとカーチャは二人そろって「おう」といった。その顔からこぼれたのはとびきりの笑顔だった。

 イリアナは手甲と脛当てと剣を抱きしめた。そして涙が頬を伝った。


「ところで、ハヤテたちは何かプレゼントしないの?」


 アンナが意地悪そうに言った。


「何で私たちが、今何かしてあげなきゃいけないのよ。これから山ほどいろんなことを教えてあげるわよ」


 エルフィーナが不満タラタラに言った。


「そうだそうだ。プレゼントをするならヴィヴィアンが何かやるってよ」

「えええ?」


 ハヤテマルの突然の振りにヴィヴィアンは仰天した。


「いきなりそんな無茶振りしないでよ! 何も用意してないよ!」


 ヴィヴィアンは自分の机に駆け寄り、机の引き出しを漁り始めた。


「イリアナ」


 ハヤテマルが涙を流すイリアナの頭に乗った。エルフィーナは肩に乗った。


「これからもよろしくな」

「よろしくね」


 二人の言葉はイリアナの心に沁みた。簡単な言葉だが、彼らの思いが込められている。

 これから過酷な戦いが始まる。

 長い旅になるかもしれない。でもこの二人を信じた。この二人についていこうと決めた。レオンとカーチャが独り立ちする為に背中を押してくれた。

 迷いはもう無い。

 イリアナは涙を腕で拭って顔を上げた。


「はい!」


 力強く応えた。短い言葉にすべての思いを込めて。


「あ、あった!」


 ヴィヴィアンが声を上げた。


「これ!」


 ヴィヴィアンがイリアナに小さな箱を差し出した。イリアナはそれを受け取り箱を開けてみた。

 小さなピアスが二つ入っていた。


「イヤリ……ピアスですか?」

「そう。昔、イヤリングと間違えて買っちゃったんだ。耳に穴あけるの怖くてさ、ユアにあげようと思ったんだけど、耳に穴あけると校則違反で指導室直行だから要らないっていわれて。結局ほったらかしだったやつ。結構高かったはずだから、路銀に困ったら売ればいいと思う」


 ヴィヴィアンはなんの悪びれた様子も無く、笑顔であった。


「あ、ありがとうございます」


 イリアナは受け取り挨拶はしたものの、自分も校則に縛られている生徒の手前、困ってしまった。

 身に着けるたびに穴を開けるわけにもいかない。


「おまえなぁ。人に要らないもの押し付けてプレゼントとかねーわ」


 ハヤテマルが呆れていった。


「ひっどぉい! これ高かったんだからね! だいたい、おとんが無茶振りするからでしょ!」

 

 これにはヴィヴィアンも口を尖らせる。

 

「はじめから用意しとけよ!」

「このくっそ忙しい中、食材手配したり料理したり忙しかったんだからしょうがないでしょ!」

「お前が任せとけって言ったんじゃねーか!」

「陛下と妃殿下が見えられるのに、毒見無しの料理とかだとあたしが作るしかないでしょうが!」

「料理なら俺もエルも手伝えただろ!」

「信用できない!」

「親に向かって何だその口の利き方は!」


 ハヤテマルが怒りをあらわにし、ヴィヴィアンの前でわめきだした。

 当のヴィヴィアンは、鼻息荒く不貞腐れてそっぽを向いた。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて……」


 クラフトが二人の間に割って入った。二人をなだめすかしている姿をエルフィーナはじっと見ていた。

 懐かしそうに。


「なんか、ああいうの見てると、クラフトって昔と変わらないわね」

「そうね」


 エルフィーナとアンナが呆れ顔で言った。


「でもまぁ、この子にいろんな体験をさせてあげられたのは、今回良かったわ。ありがとう」

「ありがとうございました」


 エルフィーナの言葉に続いて、イリアナも頭を下げた。


「さっきも言ったでしょう。お礼を言うのは私たちなのよ」

「そうね。この辺にしておきましょう。何度も何度も繰り返しでおなか一杯だわ」


 エルフィーナも困ったように笑った。

 アンナも笑った。

 イリアナはずっとハヤテマルとヴィヴィアンを見ていた。

 どんなに離れていても、再び出会えば遠慮が無い関係。

 理想的な家族の姿なのかもしれない、と二人の喧嘩を見ながら思っていた。

 開け放たれた窓から響く蝉の鳴き声も、二人の喧嘩も、夏の暑さも、今のイリアナには「こういうものだ」と、受け入れられた。


「イリアナちゃん。さっき貰った防具の付け心地確かめてみたら」

「はい」 


 イリアナは、エルフィーナに促されソファーに座ると、ガントレットとグリーヴを袋から出し始めた。

 エルフィーナとアンナには、その顔はどこか楽しげに見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ