中二病はあざといくらいがいい
ゆうきの順応性が化け物になる回です。
二人の視点で同じ場面を巡るので少ししつこいと感じるかもしれません。
〜アリシア視点〜
ダンジョンをさまよいようやく出口を見て安堵感にひたった、次の瞬間上から何かが降ってきた、気づいた時には何かが自分の左側に振り下ろされた。
自分が膝から崩れ落ちるのがわかった、こいつが何で何をしたのか、そしてどうなるかも、しかし理解したくない、故に彼女は観客になった、自分がどうなっているかを見ている観客となった、継ぎ接ぎだらけの映画を見ているように記憶を見ていく。
『アリシア!大丈夫か?!』
『”我が手に集え水撃よ”』
『アリシアごめん”地に逆らえ”』
色々な場面を見ていく中、私はまた助けられるのか、良かった助かる、そんな事をぼんやりと、それこそ映画の感想を言うような、他人事のような考えをしていた。
しかし、一つの声で全ては鮮明に色づき、彼女は観客から演者へと引き戻される。
『ぐああぁぁぁぁああ』
(私は……私はまた見殺しにするのか?駄目だ!そんなことは二度と起こさない、起こさせないぞ!ましてや彼女はまだ若い、殺させはしないぞ!動け私!二回目だ私はやれる!)
自己暗示が如く自分に言い聞かせ、笑う膝を無理やり動かし、彼女は走り出す、しかしそれはどう見ても手遅れであった。
(間に合わない……)
カマキリの鎌は既におおきく振りかぶっていた、そして慈悲も躊躇もなく鎌が振り下ろされた、がカマキリの鎌は不自然な動きをして、彼女から見て左側の床を大きくえぐった。
カマキリ自身も不思議そうに自身の鎌を見つめていた。
(あれは、スキル……なの?そんな事より今しかない!この距離なら担いで逃げられるっ!)
彼女の元につくとすぐさま小脇にはさんで連れ出していく、少々乱暴だが仕方ない。
そうして無理やり手足を動かしてダンジョンの外へと出るがまだ足は止めない、何度も何度も転びそうになる、しかしカマキリが追いかけて来るかもしれない、いや間違いなく来るだろう、絶対に生き残ってやる、そう思っていた。
しかし予想に反してカマキリは追っては来なかった。ちらりと後ろを見るとカマキリはまだダンジョンの中でウロウロしていた、運が良かった、この時はそう思っていた。
こうして無事近くの森まで入り、身を隠せそうな場所を見つけるとすぐさまゆうきを地面に下ろし、バッグから薪を出して火をつけて、状態の確認を行おうとした、しかし、その時彼女は何故カマキリが追ってこなかったのか、なぜ自分たちが助かったのか、その残酷な現実を知ることとなる。
彼女の、ゆうきの左腕の二の腕から先がなくなっていた、傷口を良く見ると、火で炙ったような跡があり、止血されていた、ゆうきが自分でやったのだろう、だからこそ出血がなくアリシアもここに来るまで気がつけなかった。
そしてこの事からアリシアは、この少女が自身を守ったのだと気づいた時、頭がクラクラとして呼吸が荒くなり、足元がおぼつかなくなり遂には膝をつき涙を零してしまった。
それは戦うものとして弱きものを守るプライドも、保護者としての責任も、自分の正義と強さも、何もかもが無い、空白であると指摘されたようだったからだ。
そして何より一人の少女のあるはずだった未来を奪ってしまったことが何よりも彼女の心をそして戦うものとしてのプライドを傷つけた。
「私は……私は……」
何を言おうというのか、言うこともないのに言葉が出ない、許しの言葉か?懺悔の言葉か?それともただひたすら叫びたいだけだったのかもしれない。しかし、その思考は遮られる。
「おぉ……おはよう…………何、泣いてんの?」
「ゆうき?!」
「助かったみたいだね……最後来てくれなかったら危なかったよ……ありがとう」
「でも私は……あなたの腕を……」
「ま、自分でやったようなもんだからね、気にしないで……それに義手とかってかっこよくない……?」
「……軽いな」
(だがそれが今は救いになる……助けられてばかりだな私は……)
「えへへ、僕はそんなに軽かったですかぁ?」
その言葉を聞いた時心が少し軽くなった気がした、少しだけ落ち着きを取り戻すと、最初の会話を思い出し静かに笑いながら私は呟いた。
「……違うわ」
しかし、ゆうきは次に最初と違う言葉を口にした。
「僕にも魔法使えるんだね、やっと笑ったよ、助かったんだから笑わなきゃね!」
ゆうきはそう笑顔で答える。その瞬間アリシアはその笑顔に見惚れてしまった。
(かっ……かわいい!って駄目でしょ、相手は女の子よ、でも可愛い……)
それが今後彼女の人生を大きく変えるとは知らずに……
そんなアリシアをゆうきは笑顔のまま赤くなった顔を不思議そうに見続けていた。
〜ゆうき視点〜
場面はダンジョンを脱出した時に戻る。
ゆうきはアリシアに抱えられているのを確認した後、すぐに自分の腕が無くなっていることに気づいた、取りに戻ろうと言いかけたがそれをやめた。
なぜならあのカマキリが自分の腕を食べているのがチラリと見えてしまったからだ。
自分の腕が食べられているという光景に一瞬頭がパニックになるが深呼吸をして落ち着き、腕は諦め、命あるだけまし、と思い治療に専念することにした。
このままでは血を辿られてしまう、そこで血を止めるために思いついたのが焼灼止血法というものだ、かっこよく言ってはいるが用は、火であぶって血を止める過去の地球で行われた療法だ。
簡単で特別な器具もいらずに効果的なのだが、その後の手当をしっかりしないと感染症や破傷風になってしまう、ここは雪が多く寒いので地球と同じならば感染症は大丈夫だろう。
そう判断するとすぐに治療に取り掛かる、アリシアに心配を掛けないように歯を食いしばって傷口に魔法で出した火を当てる、しかし、寒さと痛みと貧血のせいで感覚が曖昧になり、ほとんど痛みも無く(痛いには痛いが)傷口を塞ぐことが出来た。
そこで無事傷を塞いだ安堵と貧血のせいで意識を深い闇の中へと落としてしまう。
次に目を覚ますと隣でアリシアが泣いていた、何が起きているか分からず、思った事を口にしてしまう。
「おぉ……おはよう…………何、泣いてんの?」
(やべぇ、面倒臭いこと聞いたかも)
「ゆうき?!」
「助かったみたいだね……最後来てくれなかったら危なかったよ……ありがとう」
(これは本心)
「でも私は……あなたの腕を……」
「ま、自分でやったようなもんだからね、気にしないで……それに義手とかってかっこよくない……?」
(氷の魔法とか使って出来ないかな?)
「……軽いな」
これあの流れかな、心の中で最初の会話を思い出して言葉を口にした、今思えばかなりあざといセリフだな、なんて思いながら。
「えへへ、僕はそんなに軽かったですかぁ?」
アリシアは何かを察したような顔と少しスッキリしたような顔をして、少し笑いながら。
「……違うわ」
「僕にも魔法使えるんだね、やっと笑ったよ、助かったんだから笑わなきゃね!」
(くっそはずぃぃぃぃいいいぃぃぃ、だが安心しろぉぉぉぉ僕は今多分可愛い)
根拠のない自信と、こういう時はむせ返るような臭いセリフを吐くのが良いと知っていた、ムードって大事。だがしかし本当に恥ずかしかった。
相手の反応を伺うために、顔を見てみる。
(あれ?なんか予想と違う反応?顔赤くなってるしあれ?変な扉を開けてしまったかもしれないけど、まぁ大丈夫……か?)
自分の可愛さを過小評価していたのだが、そんな事には今は気づかないゆうきだった。
そうしてアリシアが落ち着いた事を確認すると左腕がジリジリと痛くなってくるのを感じた。
すぐさまアリシアにそのことを伝え、どうするかも教える。
「アリシア、疲れてるところ悪いけど焚き木を集めてくれないか?それからガーゼとか清潔な布を頼む、傷口が痛み始めた」
「分かったわ、すぐ用意する」
彼女は役に立てるのが嬉しいのか張り切っている、こうしてキャンプの設営と傷口の手当を開始した、と言ってもすることは簡単、消毒などはせず、そこにある雪を魔法で出した火で溶かして水にして、更にお湯にする。
それをガーゼに浸して患部に当てて固定する。
そんな方法を初めて見るのかアリシアが尋ねる。
「消毒とかしなくてもいいの?」
「あぁ、今ならこっちの方が治りが早いからね、感染症のリスクがないのなら傷口は濡らした方が治りが早いし、傷跡も目立ちにくくなる、逆に消毒すると菌は殺せるけど、一緒に傷口を治す成分まで壊しちゃうからね」
勿論この治療法にも欠点はある、例えば治ったら三ヶ月間は直射日光に当てない方がいいとか、今回はガーゼを使うので常に湿らせておかなければならない、本来はそれ専用の絆創膏があるのだがここは異世界、そんな甘っちょろい物はない。
ガーゼで代用しても大丈夫か分からないがとにかく治療は着々と進んでいった。
またそのついでにガーゼの為に作ったお湯でアリシアにお互いの身体や防具を綺麗にしてもらった
そうこうして説明を聞きながらアリシアが焚き火を作ってくれた、焚き火には兎のような動物の肉が焼かれていた、アリシアが焚き木を持ってくるついでに狩ってきてくれた。それを見ると自分がとても空腹であることに気づいた、治療が終わるとすぐさま、うさぎの肉を手に取り夢中で頬張る、食べ終わるとゆうきは疲れからか、そのまま横になった。
「お疲れ様、今日はありがとう」
最後にアリシアがそうつぶやくのが聞こえたあと、夢の世界へと誘われていった。
アリシア暗黒時代が始まります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
”〜だからだ”と打ちたいのに”〜だ体”となってしまうのが悩みです