曇天②「我々、人類に迫る脅威とやらについて」
世界防衛機構軍オーストラリア本部。
全員が、次に発する言葉に迷って沈黙が生まれた。
巨大な格納庫だった。そこに集まっているのは、胸に下がった星がそのあたりの星座よりも多い者ばかりだった。自動小銃を抱えた兵は壁に隙間が見えないほど並んでいたが、皆が皆そろって呆然としている。一体、何に対して銃を向けるか未だに決めかねている表情だった。
格納庫に集結している存在を前に、誰もが驚愕していた。
鋼鉄の巨人。
直線と曲線で構成された彼らの容姿や大きさは様々だったが、共通しているのは脚と腕が二本と頭部があり、おおむね人の形をしている点だ。
一番の巨体を有する巨人は格納庫内で膝を折っている。少しでも人間に目線を合わせようとしているのか、やや背を丸めていた。
その巨人は大きさ以外にも特徴があった。他の巨人はどこか工業製品のような外観をしていたが、大巨人は対照的に全身には優美な装飾が施され、肩や腰回りのパーツは羽根のようにゆったりと広がっている。膝を折って矮小な人類を見下ろす様には圧倒的な力があり、古代の神像のような気高さを有していた。
人間側は突如、防衛軍本部がある島の外洋から現れた存在に圧倒されていた。
出現の際に滑走路の一部を破壊、浸水などの被害を出した巨大な機械存在は、驚愕と混乱に陥った人間に攻撃の意思はなく対話を望むことを告げる。
彼らは自らを、機械知性体オリジネイターと称した。
衛星上からの他国の盗撮を警戒し、ひとまず彼らを格納庫へと案内したが、そこに集まった人類は誰も何も言えず、ちらちらと視線をさまよわせるだけ。
軍人の胸を飾る星は、それだけの敵を倒してきた勲章だ。だが彼らはときに、銃弾よりもたった一言の重みの方がより重大な結果をもたらすことも知っている。
硬直状態の中、歩み出たのは一人の男性だった。
五十代半ばの男は、大柄な体躯には似つかわしくないほど穏やかに歩み出る。
「あなたが、メールをくれたアトラスかい?」
親しげな笑みと仕草は、この場の緊張感を破壊するのに十分な威力を持っていた。
白銀の巨人もまた、子猫も起こさないほど静かに動いて男と相対する。巨人は優美な仕草で頭をたれ、次いで上げた顔は金属の塊のはずがどことなく柔和だった。
「初めまして。私がアトラス・〇二〇一。ユニオンの最高責任者になる。もしかすると……あなたが?」
そうだ、と男は楽しくて仕方がないとばかりに笑い、肩を震わせる。上がった顔は宝物を前にした少年のように輝いていた。
「そう、私がマクミランだ。機械エイリアンだという自己紹介には面食らったが、まさかここまで大きいとは思わなかったよ」
情報部長官ハワード・マクミラン少将。防衛軍の三つに分かれている部署、技術開発部、作戦部、情報部。そのひとつ、情報部のトップに立つ男は周囲の驚愕と疑惑の眼差しを受けても意に介さず、まるで旧知の友人に出会ったようにアトラスに笑いかけた。それどころか、これでは視線が合わない、といって保守点検用のクレーンにさっさと登ってしまう。
「ならば、私はあなたを驚かすことには成功したらしい」
「ああ、あれほど驚いたのは、娘が結婚相手を連れて来たとき以来だ」
ようやく巨人の顔の高さまで追いついたマクミランはもう一度笑う。彼についてクレーンを登って来た副官は逆に青ざめていた。場にいる全員が副官と似たような表情を浮かべ、笑い転げている男を気まずそうに注視する。
副官であるクリス・スター大佐は、階級が与える印象よりもずいぶんと若い表情をゆがめる。
「少将、あの、もしかして先だってから妙にうれしそうにやり取りしていたメールの相手というのは……」
「スター大佐、なんだ、まさか妻と娘以外の女性との関係を疑っていたのか? 紹介が遅れたが、オリジネイターのアトラスだ。例の地下空洞の巨人の仲間らしい」
スターは小躍りしそうなテンションの上官に驚愕のあまり二の句が継げないでいる。
「あの、巨人の仲間ですか……」
地下空洞の巨人。星の数が多い者は全員、この意味を理解していた。
百年前、アップルゲイト家の娘が地下空洞の崩壊に巻きこまれ、その偶然から見つかった存在。
眠れる巨人と、彼の者に付き従う巫女。
その後、発見された存在からもたらされた技術を元に様々な道具が、主に兵器が開発される。そして世界紛争を止めるために戦争を仕掛けるという大きな矛盾をはらんだ組織、世界防衛機構軍が生まれた。
フレイヤの仲間だと称するアトラスは、困ったように小首をかしげてみせる。
「顔も見せず、メールだけでいくつも不躾なことを言ってすまない」
まるで人間のような感情のある仕草に、周囲にいる本物の人間がざわめく。相対しているマクミランは、まるで旧知の仲間に十年ぶりに再会したように上機嫌だ。
「むしろ、よく私の個人アドレスがわかったな」
調べてもらった、とアトラスは傍らの白い巨人を示す。大きさはアトラスの半分以下だったが、腕を組んで胸をそらす態度の大きさはアトラス以上だ。
白い巨人はトレトマンと名乗る。
「私の友人に、防衛軍内で一番話のつけやすそうな人物を紹介してもらった。彼も個人アドレスまでは知らなかったが、なに、名前と所属さえわかれば、調べるのにそう時間はかからなかったぞ」
トレトマンの得意げな言葉にマクミランは笑い、最高のジョークを聞いたとばかりに手を叩く。
「その友人は人間か? もしかして防衛軍内にいるのか。私を売ったその友人も今度紹介して欲しいものだ」
そのうちな、とトレトマンは淡々と返す。ひとしきり笑ったマクミランは、すうっと潮が引くように笑いを収める。
「では、本題に入ろうか」
閃く眼光は巨体を前にしても揺るがない。射るほどに鋭く、同時に、射ぬいた獲物は決して逃がさないとばかりに。
「我々、人類に迫る脅威とやらについて」
そこから、人類と機械知性体との長い長い対話が始まった。
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こちらは7巻収録分です。
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関西コミティア、文学フリマに出没します。




