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心なき涙③(……君は、ますます人間に近くなるね)

 レックスがあそこだと示した場は星霜の間。静かに降り注ぐ星の輝きは命の光。光を受ける存在は、すでに命が消えた者達。

 オリジネイターの誕生の場であり、終焉の場でもあるそこは海里の気に入りの場所になる。ことあるごとに引きこもるので、レックスは行方をくらませた兄弟を探し当てるのに大した時間は必要なかった。

 レックスは足代わりの運搬車上から声をかける。

「隠れ場所、もう少し考えたら?」

 茶化すように小さな背中に声をかけると、海里は肩越しに振り返って来る。

 短く刈った黒髪、赤褐色の瞳。目の色さえのぞけば、彼は人間の基準では特に飛び抜けた個所のない容貌をしている。

 その外装設計は、構成する材質を変えてもデザインはいじっていないとトレトマンはレックスに説明したが、彼は見上げてくる海里を見て首をかしげてしまう。

(何か、違う)

 違和感から来る逡巡が、声を発するのをためらわせた。

「レックス」

 答えを出せないでいる間に、彼の方からレックスに近づいてくる。

「たくさん、心配をかけてしまったな」

 金属の腕に触れ、顔を伏せてくる。いつもの仕草にレックスは感じた違和感を無意味なものとして吹き飛ばした。

「……僕は、トラストが無事に帰って来てくれた。それだけでうれしいよ」

 それは嘘偽りのない本音だ。

 機械知性体にとって外装は衣服のようなもの。壊れても、アニマさえ無事なら何度でもよみがえることができる。それでも、不死身ではない。アニマの寿命もあるが、過去には外装交換時のショックに耐えきれずにそのまま目覚めなかった個体も存在している。

 海里は通常換装どころか、制作者すら未知だと言いきる物質での再構成から目覚めた。それは何の技術も知識もないレックスから見れば奇跡に相応しい。

「トレトマンも、君がどうやって再構成を果たしたのか気になってるみたいだよ」

「……俺にもよくわからない」

 海里は自信なく首を振った。ただ、と言って顔を上げる。

「声が聞こえたんだ。早く起きろって。その声が聞こえた途端、急に目が覚めたんだ」

 その声の主が即座に思い浮かぶが、レックスはあえて、あの赤いワンピースの少女が海里に会いに行っていた事実を伏せる。そしてその一件を知らない海里は、声が現実か、夢が見せた幻かわからないまま新しい眼差しで星霜の間を見渡す。

「……ここで、戦ったんだな」

 広間の中は様変わりしていた。床や壁はえぐれ、破壊は室内だけでなく安置されている仲間の身体にまで及んでいる。山が崩れたように崩壊し、普段は閉ざされている入口も、内側から大きく吹き飛んでいた。

 先だってシスが大暴れした傷痕は、未だに修復の予定もなく放置されている。出入り口がなくなっているのでレックスはいつもの隠し通路を使わず運搬車のままここへ乗り入れることができた。

 天井の淡い輝きだけが、変わらず彼らを照らしている。

「アウラは、生きていた」

 伏せたまま、漏れ出た声にレックスは我に返る。

「僕の声、聞こえてたんだ」

 上半身を起こした海里は、短く謝罪する。

「聞いた。けど、その後で意識がなくなった」

 そう、とレックスは返す。ではその後でトレトマンが殴ったことは言わないでおこうと決める。

「アウラがどうしてイノベント側にいるのか、何であんな姿なのか。そもそも、僕達のこともわかってなかった感じだし……謎ばっかりだよ」

「けど、生きていたんだ」

 黄色の腕に、海里はぶら下がる勢いですがりついてくる。

「生きていたんだ!」

 繰り返し叫ぶ海里に、レックスは鋼鉄の手でその背に触れる。そのまま隠せてしまいそうなほど互いの大きさは違っているが、彼らは同じ種族だと強く認識していた。

「うん、そうだね。希望はある」

 うなずくレックスに、海里は笑った。今までに見たことがないほど自然で、当たり前の笑顔だった。

 先ほどの違和感の答えを、レックスは不意に見つけた気がした。

(……君は、ますます人間に近くなるね)

 深海都市にいた頃の海里は、表情というものがほとんどなかった。彼の周囲には鋼鉄の巨人だけ。金属の身体は人間のような微妙な表情を作ることは困難な為、海里は感情を表に出す方法を学ぶ機会はなく、表情を作る必要性もなかった。

 それでも地上世界に出てから、周囲の人間によってずいぶんと感情表現が豊かになっていた。多少、表情が乏しくとも無愛想、不機嫌程度に思われるほどには進歩している。

 今はアウラの件で感情が動いているせいか、目に見えて表情やそれに伴う動きが大きい。

(外装が、微細機械細胞ってやつに置き換わったからかな?)

 自分よりも、人間の少年であるマイキの隣に立っている方がよほど兄弟らしく見える現実に、レックスは一抹のさびしさを覚える。

 鋼鉄の身体に不満を持ったことなどただの一度もなかったが、無邪気に笑う兄弟の様を見ると、一緒に喜びたいはずなのに、なぜか感情を共有できないような気持ちになり、レックスは情けない気分になった。


冊子版はピクシブのBOOTHで頒布しております。

こちらは6巻収録分です。

https://mutsugami123zero.booth.pm/

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