遺されし事実③「……待ってて、いま、治すから……」
城崎は震える声を隠すようにして言葉尻を荒げる。
「俺の個人情報は、性別以外は全部偽造だ」
感情を抑えこんで話し終えると城崎は嘆息し、膝の間に顔をうずめる。
「あの女は、俺を自分が生んだ子だと言っていたが、どうだか。彼女はあきらかに白人だった。俺とは違う」
子供のころから母親と自身の外見の差異に違和感があったが、城崎を育てていた女性は亡くなる最後まで自分が産んだ子供だという主張だけは崩さなかった。そして今となってはその根拠を探すことも、否定することもできない。
「大佐は、俺の出生証明書がなかったから、どこからか別人のものを用意してそれを堂々と提出してしまった。俺はその時から、これまでの名前を捨て、城崎カズマになったんだ」
隣で倒れたままのハルは珍しく何の言葉もはさまずにいる。身体の再生に意識を割いているのかもしれない。短時間でほぼ元通りになっているが、まだ断裂している個所が目立つ。
聞いているのかいないのかわからなかったが、城崎は流れ出した水を止められないように言葉を吐き出し続ける。
「だが俺に拒否権はなかった。当時の俺は、それこそ別人になる必要があった。他人の名前を名乗り、新人訓練キャンプという、外部と隔絶された僻地に飛んで軍事訓練の毎日だ。証明書では入隊時の俺の年齢は一八歳だったが、実際は一五六かそこらだったはずだ。よくばれなかったものだよ」
最初の顔見せで指導教官どころか他の幹部候補生もあきらかに異質な城崎に揶揄することも忘れて驚愕していた。ただその教官は、東洋人だから若く見えるのだろう、で片づけてしまうくらいに考え方がおおざっぱだったので、その場で返品は免れたが。
「大佐は、一五歳が一八歳と主張するのは無理があるが、十年後、二五歳が二八歳と言うのは誰も気にしない。十年、嘘をつき通せば本当になると」
顔を上げると、近くにあった結晶柱に自身の姿が映る。ただ鏡ほどきれいには見えない。ゆがんでぼやけた鏡像では年齢なんて判別つかなかった。
「確かに、今の俺が記録上の年齢より少々若かったところで誰も疑問には思わないだろうな」
ほとんど独白のまま語り終える。隣のハルはようやく下半身の形ができてきたが、まだ起き上がれないようだ。
立ち去るなら、今だろう。そんな考えがわき上がるが、肝心の立ち上がる気力がわかない。
「……ああ」
ハルの吐息のような声に顔を上げた城崎は驚愕し、別の意味で立てなくなる。
「来たね」
眼前に少女が立っていた。
今の今まで誰もいなかったはずだ。だというのに、瞬きの合間に空から落ちてきたように、少女は長い枯れ葉色の髪と赤いワンピースをひるがえし彼らの前へ降り立った。
アメリカのある都市に結晶柱が現れたと聞いて、折よく近くの海上を飛んでいた海里たちは調査に向かうことを決めた。近いといっても現場は内陸部なので直線距離でも数百キロ先になる。
音速を誇る戦闘機で大陸を横断し、該当の都市直上を旋回して様子をうかがう。
高空から見下ろした都市は、柱を中心にクレーターが出現していた。柱から半径一キロほどの建造物が根こそぎえぐられているのだ。クレーター内の生体反応の有無はわからない。周辺の電波が乱れセンサーを阻害しているのだ。これでは柱に近づいた海里の状況もわからなくなるので今回はシリウスも同行することにしてクレーター内に直接着陸した。
なるべく開けた場所を探して着陸したが、路面の凹凸で機体が跳ねる。滑走路どころか平らな場所がない瓦礫の山なので、翼の端が結晶やビルの残骸に当たってしまった。とはいえ、そこは戦闘機自体に意思のある機械知性体なので、多少ふらつきつつも着地に成功する。
海里が戦闘機から降りると、二足歩行形態となったシリウスが続く。
周囲には奇妙な光景が広がっていた。
クレーター内の町並みは、爆風か津波で押し流されたように中心から外側に向かって倒れ、瓦礫と化している。アスファルトも根こそぎはがれ、地面が露出していた。建材の群れに混じって犠牲者の姿がそこかしこにのぞいている。まだすべてが結晶に飲みこまれるまで間があるらしく、身体から結晶を突き出したまま息絶えた遺体が点在、あるいは引きちぎられたような部分も多くあった。
無音の町の外周では救助活動が始まっているらしく、サイレンが鳴り響いている。
「俺たちが手を貸すより、人間側の救助体勢を信じよう」
ぽつりとシリウスが告げる。このまま調査と称してふらついていいのか悩んでいた海里の内心を察した物言いに、彼は振り返って濃紺の巨体を見上げる。
「シリウス……」
「もちろん、生存者を見つけたら助けるぞ」
現状、救助活動はクレーター内部にまでは及んでいない。人員の都合や足場の悪さなどがあるので後回しになっているのだろう。
それなら、と海里は顔を上げる。機械知性体にとってこの程度の悪路など大したことはない。それに人間形態の海里でも膂力は人間とは比較にならないので下手な重機よりも働けるだろう。
「……行こう」
ここで足踏みして迷っているよりも、先へ。
彼らは周囲から助けを求める声を聞き逃さないよう慎重に歩を進めた。
中心へ向かうにつれ、足元から銀色の結晶が増え、次第に背丈を大きくしていった。気づけばシリウスの頭上も越えるほどになり、巨体の彼はすりぬけるのに苦労する。気を抜けば地面が彼の重さに耐えきれずに割れ、足首まで埋まってしまうことがあった。海里の方は特に障害にならず先へと進み続ける。
シリウスは迫ってくる結晶の壁に辟易し、軽く結晶の構造物を殴ってみた。
「……割ともろいな」
大した抵抗もなく結晶の表面が砕け散った。見上げると空が狭くなってきている。伸びた結晶柱が互いにからんで屋根を形成しているので、ふさがれてしまうと退路が少なくなる。この程度の強度なら最初に機銃掃射を仕掛けて砕いてから飛び出すことも可能だと考えるが、それでも油断はできない。
「トラスト、どうする……」
このまま先へ進むか、一度戻って周辺を調査するにとどまるか。元ビルだった瓦礫の角を曲がった海里の背を追ったシリウスは、向こうが開けていることに気づいて早足になる。
広場の中心に、ぽつりと赤い影が立っていた。
無機物だらけの町の残骸の中、人影があることに気がついたシリウスは足を止める。それは海里も同様だった。
赤い影の正体は少女だ。まだ幼い顔立ちを枯れ葉色の長い髪が覆い、赤いワンピースの裾が揺れている。
少女は構造物の隙間にできた広場の真ん中に立ち、こちらを見つめている。どこかくすぐったいような笑みを浮かべている様は瓦礫の中ではあまりにも不釣り合いだった。
「……人間か?」
だがクレーターの端に下りてからここまで生きた人間には会わなかった。生き残りか、あるいは迷いこんで出られなくなったのか。どちらにしても問題があると考えるが、そこで動かないでいる海里に気がついた。
「……トラスト?」
彼もまた、少女から視線を外せないでいる。隣に立つと呆然とした横顔が目に入った。何をそんなに驚く必要があるのかまるでわからなかったが、彼がこぼした名前に顔を上げる。
「アウラ……」
まさか、とシリウスは記憶にある仲間と眼前の少女を見比べる。当たり前だがどこにも共通点は見受けられない。そもそもアウラはすでに滅びたと聞かされていた。
「アウラだと、馬鹿な、いや……」
トレトマンから受けた説明を思い出す。地上調査に出たアウラはイノベントに発見され、襲撃を受けて致命的な損傷を受けた。だがかろうじて残っていたアニマは実験途中の筐体に移植され、そうやって生まれた機械知性体がいた。
六番の少女。
ただその少女もイノベント内の分裂の際に滅びた。とはいえすべては伝聞なので、何も証拠はない。
だからといって、実は生きていて感動の再会になったと安易に考えられる状況でもなかったが。
「トラスト、あれがアウラだという確証はない」
油断するな、と小声で伝える。海里もこの状況に不信感を抱いているのは確かなのでうなずきを返す。
少女は彼らの疑念などわかっているとばかりにさらに笑みを深いものにすると、ふぃっときびすを返して結晶林の中へ飛びこむ。小柄な身体は一瞬で見えなくなってしまった。
反射的に海里が追いかけようとしたが、寸前で思いとどまったらしく足が止まる。表情には苦悩が浮かんでいた。
「何なんだ……」
「追いかけるぞ」
後ろから海里の身体を抱え上げるとシリウスは周囲を警戒しつつ歩き出す。いつもなら止めるはずの彼が動いたことに海里が不思議そうに見上げてきた。
「あっちは、いかにも来いと誘いをかけてきている」
だから、何かはあるのだろう。言いながらシリウスは脚部に収納していた銃を抜き、いつでも撃てるようにしておく。静かに進むことは最初からあきらめた。一歩踏み出すだけで足元が盛大に割れ、ここにいますよと大仰に宣伝してくれる。
ばきばきと結晶と瓦礫を踏み砕きながら進むと、すぐに赤い背中を見つける。
その向こうにいる、別の人影も視界に入った。
「今度は何者なんだ」
これ以上面倒ごとはごめんだとシリウスは吐き捨てる。
「あの二人……」
そこにいたのは知り合いというか、一応、顔見知りではあった。
だが予期せぬ再会だったのは向こうも同じだったらしく驚いた様子を見せる。
「あー……何か、近づいてくると思ったら君たちか」
やあ、と軽く手を掲げて挨拶してくる人物に、海里たちは意表をつかれて言葉を失う。
機械知性体のハルと、人間の城崎。なぜ彼らが行動を共にしているのかは不明だったが、地下空洞で見失ってから約二ヶ月。まさかこんなところで顔を突き合わせるとは思ってもみなかった。
「なになに、観光? いま、ちょっとすごいことになってるよね」
楽しそうに笑うハルの言葉を、シリウスの踏みこむ音がさえぎる。
「これは、いや、ここだけじゃない、町の結晶化はすべておまえの仕業か!」
答えを聞くまでもなく激高したシリウスが銃を構える。海里はとっさに彼の肩に飛び乗り、振り回されて落ちるのを防ぐ。
「前は逃がしたが、今度こそっ!」
「シリウス、やめろ」
止める声には耳を貸さない。シリウスは以前、ハルに身体を両断された過去がある。その恨みもあるのだろう。もっとも、身体を壊されたというなら海里も同様なのだが。
ひとまず海里はシリウスの肩から飛び降りた。怒りに我を失っている彼の説得はあとにし、どうする、と振り返った海里は赤いワンピースの少女と視線がかち合う。
「アウラ……シス?」
どう呼んだものか迷う。そもそも、ここにいる少女には違和感があった。確かに目の前にいるはずなのに実態が伴わない。緻密な幻影を見ているようだった。
注視していると、奇妙な部分に気がつく。
少女の足元には影がない。そして先を歩いている間、足音がまったくしなかったことに思いいたる。
「シン」
虚像か錯覚か。ますます存在について疑問符を浮かべる海里を揺らすように少女が声を発した。
「シン、あたしたちを探しに来て」
お願い、と語りかけてくる声には痛切さよりも遊戯に誘うような軽やかさがあった。
「探して、そして、殺して」
悠然と立つその姿がかしいだ。身体の芯が抜け落ちたようにして崩れる様に海里は思わず手を出そうとしたが、指先が触れる前に少女の姿はかき消えた。
あとには青白い光の粒が燐光のように漂うだけ。それらもすぐに消え、少女の存在を示す証拠は何もなくなった。
「……アウラ」
そして探す間もなく、怒りに我を忘れたシリウスが猛然と進み出る。今度は地下空洞の時と違い、警告ではなく本当に撃つ覚悟があった。
「逃がさない、いや、この場で滅ぼしてやる」
「見た目が青い割に、激高しやすいタイプみたいだね」
少しくらいこっちの事情も考慮してよ、と立ち上がったハルは不安定に上体が揺らぐ。
「知るか。おまえさえ止めてしまえばいいんだ」
「だから、前にも言ったと思うけど、僕を止めても結晶化は止まらないよ」
だがシリウスは容赦なくハルを追いつめようと迫る。
「やれやれ、こっちはまだ本調子じゃないっていうのに」
ハルは横に飛ぶ。そこをめがけて銃口が動き、火を噴いた。巨体が掲げる重火器から吐き出された銃弾はひとつひとつが牛乳瓶ほどもある。それらが生み出す衝撃はすさまじく、弾丸を受けた瓦礫や結晶が砕け、猛烈な破壊の雨が降り注ぐ。結晶と化した町並みが、そしてかつて人間だった立像もアスファルトも、下の地面ごとえぐられ土砂と一緒に跳ね上がる。
ばらばらになって飛ぶ破片は凶器となり、対象のハルどころか海里にまで区別なく襲いかかってくる。障害物が多く壊れやすいものが密集している区画で放たれた弾丸はすべてを砕き、飛び交う破片の雨は複雑に散って手近の物体に突き刺さった。
シリウスは自分が生み出した破壊の嵐に一瞬、銃撃をゆるめる。と、そこに飛び出したのは海里だった。彼は乱れ狂う破片の群れの中へ飛びこむ。その動きに、シリウスが反射的に銃口を空へ向け、仲間を誤射することを回避した。
通常なら迫りくる破片を避けるべきだが、海里は逆に鋭い切片を身体に突き刺しながらも突進した。
「くっ……!」
腕に食いこむ衝撃を感じて振り返る。まるで何かの悪い冗談のように、自分の左腕のひじから先が身体から離れて空中に舞う。勢いと鋭さの乗った破片が運悪く海里の腕を寸断したが、彼は離れていく腕から意識を外し前へと進む。ひじのあたりから今さらのように痛みが流れこんでくるが、かまっている余裕はなかった。
大きな、それこそ人の半身を両断できるような破片が迫っていた。
立ち尽くす、城崎の元へ。
彼は驚きの表情を浮かべているが、とっさのことに動けないでいた。驚愕は海里も一緒だったが、基本的な反射速度は機械知性体の方に分がある。それに、身体の頑強さや俊敏さもだ。
海里は残った右腕を精いっぱい伸ばして城崎の身体を抱えこみ、一緒になって倒れこむ。途中、猛烈な速度で飛来した鉄板が肩をえぐった。
体表を硬化させていなかったことを悔やむが、今さらだ。海里は右手で城崎の頭を支えながら反転し、自分の身体を下敷きにして地面の突起からやわらかい人間の身体を守る。地面に叩きつけられ、二人分の衝撃に身体が跳ねた。鉄骨や鋭い破片が背中に食いこむ。
海里が飛び出したのは半ば反射的な行動だった。だが動いたのはハルの方が先だったのだ。ハルは銃撃が自分に向けて放たれると理解した瞬間、城崎から距離を取るようにして跳躍する。その視線の先にいた城崎の存在に気がついた海里は、そこにいるのがただの人間だと思いいたり、次に起こることを想起した瞬間、走り出していた。
どちらかといえば海里はハルに動かされた形になるが、抱えこんだ身体が震えていることに素直に安堵する。
(……生きている)
この人間の事情は知らないが、それでも目の前で破片に裂かれて肉塊になる姿は見たくなかった。
だがすぐに様子がおかしいと気がつく。上半身を起こすと、城崎の脇腹に細長い破片が突き刺さっているのが見えた。傷口から赤い染みが瞬く間に広がる。見れば他にもいくつか破片が突き刺さっていた。どれも即死するほどの怪我ではなかったが、急いで治療を施す必要がある。だが彼を抱えて立ち上がろうとした海里はよろめく。左腕を失っていたことを忘れていた。肩もえぐれている。二人で倒れこんだ衝撃に城崎が苦痛の声を上げた。
「城崎くん!」
かかった声に振り返ると、ハルがはってこちらへ向かってくるのが見えた。吹っ飛ばされた衝撃で破壊されたのか、腰から下が分離している。それでも海里と違って何の苦痛も感じていないのか、両腕を使って動き、手を伸ばす。
「待って、待ってて!」
痛みがないというより、何も感じていないのでは、と海里は必死な様に思う。何度かハルと相対していたが、ここまでなりふり構わずにいるのを見たことがない。それはこの状況を引き起こしたシリウスも同様だったらしく、彼らはみじめにはいつくばり、のろのろと移動するハルを見つめるだけしかできない。
ハルは城崎の側までたどり着くと、ざっと全身を見渡す。そしてあろうことか、一番大きな破片に手をかけ、躊躇なく抜いてしまう。
人間の身体の構造にうとい海里でも、破片が出血を抑えていることくらいはわかる。栓を失った傷口から今までとは比較にならない量の血液があふれ、一気に地面まで広がった。
「おい……!」
「……待ってて、いま、治すから……」
ハルは海里の制止など聞いていない。傷口を押さえるようにして手をかぶせると、もう片方は胸に、心臓のあたりに置いた。
何をするつもりなのか。見ている彼らの前で変化が起こる。接触している部位を中心に、青白い光が瞬き始めた。小刻みに散る光の粒が残像の尾を引き、しかし消えることなく滞留した。粒は重なり、点が線となって複雑な文様を描き始める。
それは魔法使いが描くような複雑で美しい文様だった。青い線が空中に走り、組み合い、別の形を成す。
いくつも浮かび上がる魔法陣は微細機械細胞が組み上げられていく際に起こる反応光だ。
そこまでは海里にも理解できたが、展開される構成が複雑すぎて何をやろうとしているのかわからない。先ほどの言葉を信用するなら、ハルは城崎に治療を施そうとしているのだろう。
ハルはどこか虚ろな瞳を瞬かせる。
「これで……っ!」
次の瞬間、周囲に展開していた魔法陣がひとつに絡み合い、青白い光がほとばしる。光はハルと城崎を飲みこんだ。そして、あろうことか光の中でハルの姿が溶け始める。熱せられた蝋のように形を崩していくハルは、視線だけは城崎から動かさない。溶けた末端は染みこむようにして城崎の中へと侵入していく。
今度は城崎の身体の方に変化が起きた。内側から押されるようにして細かい破片が抜け落ち、開いた傷口の周りが盛り上がり裂けた肉や皮膚をふさいでしまう。
微細機械細胞だ、海里は呆然とそう思う。
おそらく、ハルは自分自身を分解して城崎の内部へ入りこみ、内側から傷を、周辺の組織や血管を修復しているのだろう。
見る間にハルの上半身は崩れ、胸の上に残骸が倒れこむ。残った頭部が動き、視線が海里をとらえた。
「……あのさあ、このヒト、城崎カズマっていうんだけど、あと病院に連れて行ってもらえないかな」
城崎の状態は、見た目にはもう傷はふさがっている様子だったがかなり出血している。それにここにいるのは全員、人間ではない。大丈夫そうだから、と判断する根拠は誰も持ち合わせていなかった。
「……わかった」
ほとんど反射的に答えたが、ハルはそれでも満足そうに笑うと彼らの間に小さな魔法陣を形成する。
「お礼代わりと言ってはなんだけど、君たちにとって有益な情報をあげるよ」
くるくると空中で回転する魔法陣は何らかの情報集積体らしい。構成の読めないものに触れるのはためらわれたが、海里は制止の声を上げるシリウスを振りきって魔法陣に手を突っこむ。途端、海里を構成する微細機械細胞に直接、情報が流れこんでくる。情報解析が不得意な海里は激流のような情報量の多さに意識が寸断されそうになったがかろうじて踏みとどまる。記憶容量内に構成した別フォルダの中にひとまず全部放りこむ。
「これは……」
大量すぎて何なのかわからなかった。さまざまな実験データなどが羅列され、その結果の意味を考えると足が震える。
何なんだ、そう問いかけようとして顔を上げた海里は、ハルがすでに溶け崩れて消えてしまったことにようやく気がついたのだった。
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