7 散策
これは一体どういうことだ?」
その荒れた部屋は何とも興味深いものがあった。それは自らの想定を遥かに超えている光景が目の前に広がっていたからである。病人のいないベットや倒れたセージ、さらにはその荒れ果てた部屋で、自身はただ使用人に代わって食事ができたことを伝えにいtっただけなのに。。
「なぜこの部屋はここまでボロいんだ?この屋敷の規模からしても修繕はそこまで手間取るようなことはないだろう?」
ヴィンセントははじめ、彼はてっきり寝室のようなところで寝ているのではないかと思っていた。それが最も彼の体に適任な場所だし、何よりほかの環境など論外であるからだ。しかしながら目の前にあるのはどう見ても倉庫のような広く、寒く、そして埃臭いとこだった。
「ん?床に魔法陣?じゃあこの部屋の有様はそれによる影響か?まぁともかくセージを起こせばすべて解決するはずだ」
そう思った彼はさっそくセージをたたき起こすと、彼に質問した。
「アウタースレーブはどこだ?」
「いたた・・・わからん、転生と思ったら急にどこかに消えて・・・いや、殴られたのかもしれません、どの道にせよそのあとのことは私には」
「転生!?お前今転生といったのか!?」
「あ・・・」
しまったとばかりに口を開け、ただ茫然とするも、その朦朧とした意識下ではまともな判断もできなかったようで渋々といったように話をつづけた。
「え、ええ・・・アマーリア卿の指示ではありますが、彼を転生することになりまして・・・」
「お、お前!あれがどういうものかしっかりと知っててやったのか?禁忌である由縁がどういうものなのか?」
「そのようなこと知らぬはずがありませんでしょう、しかしながら我々も立場を利用されては抗えません、このような時の貴族の権利はあなたあが一番知っているのではないですか?」
「く・・・それで奴は?」
「さぁ、私にはまったく、しかしながらまだ出来立ての体故そこまで遠くに入っていないでしょう」
少し朦朧としながらも、セージは話だし、静かに立ち上がった。
「いてて、まったくなんて奴だ、こちとらわざわざ足を運んできてやったというのにも関わらず、礼の一つどころか、まさか蹴りの一発でことをかたずけよってからに・・・」
少し嫌味たらしくいった後、カバンを手に取り、自身の埃を払った後、ヴィンセントにこう言った。
「まぁとりあえずアマーリア卿にお伝えください、治療は成功したので、約束の報酬はもらっておくということと、今度は急な呼び出しをするときは『緊急性』のあるときだけにしてください、家畜の治療など、私のやることではありまあせんからね」
「あ、ああ伝えておく」
「ありがとうございます、それでは私どもはこれで失礼させていただきます」
そう言って一礼すると玄関の方に行ってしまった。
「まさか転生など・・・アマーリア卿はだれを使って?」
「チ、セージめ余計なことを・・・」
突如後ろからアマーリアの声が聞こえとっさに振り返った。
「まさか、余計なことはお互いの明日のために言わないと思っていたのに・・・まさかこんなことになるとはな、せっかくの食事もこれでは味がわからんじゃないか」
「アマーリア卿、これは一体どういうことだ?なぜだ?なぜそんなことを?」
少し怪訝な顔をしたのち、アマーリアは返答する。
「言っておくが私は目的のためならば手段は択ばない女ということを忘れないでくれヴィンセント殿、その認識がお互いの生存を大きく左右することになる」
緊張した空気が場をしはし始める。それはヴィンセントの発汗からっ見ても明らかなことである。
「つまりこういうことか?あ?自らの私欲のために一つの命を奪ったと?」
「貴族として当然の権利だ、占有権は古今東西貴族のためになるということは百も承知ではないのか?意外と、武勇のために散々生き血を吸ったのにそこは真面目なのだな」
「それは戦場での話だろう?・・・俺が言いたいのはその私欲のために『貴族の血』が流れたことについていっているのだ!平民で済ませればよかっただろう!?」
「それは無理な話だ、知っての通り平民は貴族のように必ずしも記憶を共有できない、つまり転生は難しいのだよ、おそらくわが領地の平民すべてを受け皿にしても、転生の成功はできなかっただろう」
「だから禁忌何だろうが!転生には受け皿となる人間を生贄にしなければならないこと、忘れたとは言わせない!誰だ?一体だれを殺したんだ!」
「それをこの場で答える義務はない、それよりも、彼を探す方が急務だろう、急いで馬車を用意しなければ」
そう話を終わらせて、彼女もまた、玄関の方に行くのであった。
「・・・話は馬車の中でたっぷりと聞かせてもらうぞ冷酷女め、アウタースレーブだってそんなこと望んでないはずだ」
月のみが道を照らすその世界では、ずいぶんと周りが暗く、下手をするとすぐに獣道に待っ寄ってしまいそうで、注意が必要だ。だが、そんな注意より僕は追手が来ることを警戒すべきだとお言うことをしみじみ感じながら、漆黒の闇を走り続いていた。いけどもいけども何も変わらないその闇は、僕を少しずつ不安にさせていき、その軌跡は、僕に何度もここでの記憶を反芻させてきた。それはある種、僕を平静にさせ今後のことを視野に入れるくらいに冷静になれた。
「今頃、屋敷の方では俺がいなくなったことが分かってもうすぐ追手が来るはずだ」
奴らがどういう目的で僕を助けたのか、それはよくわからないしわかりたくもない、よくよく考えてみれば胡散臭い話なのは当然のことである、ぼろ雑巾のような奴隷を助けるまでならまだしもあまつさえそれに体を与えるなどということはルッツよろしくまた地獄のような実験をすることはもはや避けられない運命といっても過言ではないからだ。彼女・・・アマーリアとかいうやつはよほど僕を気に入っているようだが貴族の考えなど、奴隷市場でも、どこでも体験できた。基本的に屑まみれで腐ってただれたエイリアンと考えるべきだろう。無論、彼女も全く同等だ。
「そもそもの話、僕の体はもう・・・クソ!奴らめ!思い知らせてやる!」
今思い出しても涙を止めることを禁じ得ない、このわずかな時間あれど、自らにされた屈辱は人の尊厳にかかわることばかり、こんなことが続く世界ならばいっそ自ら絶つことは当然の権利である。
「だが、ただでは死なない、絶対にだ!こうなれば死ぬまでに誰かを同じ目に合わせて地球人の生きざまを残してやる・・・」
このようにした世界、このようにした連中、連れてきた連中、そしてルッツのような屑どもをなぶり殺しにしなければ、腹の虫がおさまらない。そう思えば思うほど、荒い息はうめき声を混ぜ、やがて咆哮のように吠えていくのだった。
「あれは…町」
やがて見える街にのような明かりがゆらりゆらりと燃えていた、それはまさしく自らの復讐を始めるにはてっとりばやいもので、それと同時に、不安の種でもある、何も持っていない上、さてはてどうやって殺せというのだろう、こんなことになったのは奴らのせいだというのにもかかわらず、今しがたその復讐の方法もさらには自らの自衛の方法すら持ち合わせていないのだ。というかそもそもの話、これをどうやって始末するのかも分からないところがある。まさかこん棒一本で町を壊滅するなど、剣豪ですらない自分にできるわけがない、ともなれば他の方法を使って乗り切るしかない。
「放火・・・」
放火、これは古今東西もっとも重い罪の一つであり、その効力たるや、消火設備が整った現代社会ならいざ知らず、短期間でわかる文明度の低さからせいぜい中世ヨーロッパ程度のこのような世界ではもしこれが木造住宅の群衆で行おう物であれば壊滅は免れない、特に近くに河川のないこのようなところでは二次災害である山火事ですら起こす危険性があるほどだ。
「失敗すれば焼死体、成功したら自殺・・・案外悪くないな、だが火はどこから入手すればいいんだ?松明か?」
松明ならば町中の明かりとして利用しているんのを使えばいいが問題はそれで本当に町がつぶれるほどの放火などできるのか?もし対策として家の間隔が広いような作りの町であればそれは難しいだろうし、かといいってそれ以外にめぼしいものはない、森を燃やすのも悪くはないが、どれでは風向き次第では町が燃えない可能性がある。つまるところ現状では行うことができないということだ。が。
「ここまで来てあきらめるのも、それにいつまで見つからないで済むのかわからんし、こうなればとりあえず入るだけ入ってしまってそのあと調達しよう。」
つまりは潜入、この町に入ることはもはや必須で、それが追手からもいい隠れ家として機能することだろう。そう思って門まで来てみたんだが・・・
「さすがの我々も全裸の男を入れるわけには・・・」
「ぐうう」
兵士のような臭い男が門前でそう言って初めて気づくという失態、そしてまたもや屈辱だ。そうだ、冷静に考えて体が変わったのならば〈服なんて持っているはずがないのだ〉だってその服も何もからも前の体において言っているのだから当然である。こうなればまずはこいつから殺すことにするか。嫌そんなことができるはずもなしここはひとつ耐えて好機を待つというのが模範的なやり方ではないだろうか。
「いや、じ、実はさっきここまで来るまでに盗賊にすべてはがされてしまって・・・」
「盗賊?ここらに盗賊がいたのか、それは災難だったな」
ずいぶんそっけない態度である、盗賊ですよ?あなたそんなことで大丈夫なんですか?ここはそんなに安全なんですか?こんな塀みたいなのに囲まれたところなんて盗賊の格好の餌食じゃないですかぁ?などと口には出さず、僕は心の中で罵倒しながらも話をつづけた。
「ええ、まったくです、それで逃げてきてたまたまこの町を見かけまして」
「町ではないのだが・・・」
ん?どういうことだ?ここは町なのでないのか?しかしながらすぐそこには明かりが・・・
「それはどういうことですか?」
「それは夜の森を全裸で徘徊しているお前にいう必要はない、だが服ぐらいなら貸してやろう、おい誰かもってこい!」
そういわれ服を渡されるも、はてさてどこで着替えればいいのやら、まぁ着替えてもどうせ返り血で血まみれになるのだから変わりないと言われればそこまでではあるが。
「着替える場所はどこです?」
「ここでも外でも好きなところでやってくれ、だがこの中には入るなよ?お前みたいな不審者を中に入れるわけにはいかないからな」
そういわれ僕は再び森の中に入り、服を着替えたのち、ずうっと町を観察していた。この町はどこから入れば効率よく殺せるのか、またその中でどう自らの生存を高められるかえお調査していたのだが、どうもここは静かな村のようだ、いくつかの小屋が乱立しており、そこを囲むように木製の壁が建っいる。さきほどから番兵のような役割をしている男は月の明かりがすべての視界なので何とも言えないが数えて5人、門番を入れれば6人といったところだろう。しかも彼らはみな兵士というには貧弱な装備ばかりで短剣を持っているのが一人だけであとは皆こん棒を持っていた。これから察するに彼らは教育された正規兵ではなく自警団に近い組織なのが見て取れる。これなら放火でも何でもやりたい放題だ。
「そうと決まればさっそく行動開始としようじゃないの」
闇夜に紛れどうにかこうにか壁まで行き、番兵の視界に注意しながらゆっくりと壁を上る、その高さおよそ二メートル程度、中にさえ入ってしまえば灯篭の日に注意して火を盗みみな燃やしてやるつもりだ。
「よし、入ることには成功したぞ、今度は松明から火をもらってくるか・・・しかし内部の様子は外からではわからなかったし、一度様子を見る必要がありそうだ」
まずは隠れる場所を見つけるのが先決だ。そう思いとりあえず近場の小屋の窓から中を覗いてみるも中は暗闇で何も見えず、人お気配あがないことから倉庫のようだ。これを利用してしばらく中に入り、だれか定期的に人が来ていないかを確認することができそうだ。そう思い、窓から侵入したが、それは後悔だけを誘発させるだけだった。
「なんだこれ?ぐちゃぐちゃだなぁ」
中にあったのはたくさんの木箱、そして黒い油の入った壺や剣のようなものが所せましおかれていたのだ。愚か者であったらここは武器確保ができてさぞ喜ぶかもしれない、しかしながらこれは見る限り百人分は有りそうな装備である。普通こんな村にだれがこんなものを置くだろうか。
「ふうむ、門番が言ってた町ではない、というのは村だという意味ではなく本当に人が住んでいるところではないということか・・・しまった、完全にやられたようだ」
思わずその場で倒れこむ、これがどういう意味を持っているかはいうに値しないところであるが、その情報の信憑性を上げるためにもさらにもの探しに励む。もしこの予想が正しければ事態は予想以上に深刻だ。
「旗、旗・・・ないか、よし、じゃあ問題ないな」
そう、探していたのは軍旗であった。軍旗は所属の部隊を証明するだけではなくそれ単体で正規軍だということを証明することになる。もしそんなものがあればここを燃やした途端に一気に増援が来ることになるだろう。ん?なんだどういうことだ?俺は助かりたいのか死にたいのか一体どっちなんンだ?
「ッチ、今更生きたところで・・・なにもないくせに」
気を取り直して、作業をつづけるも特にそれらしきものはなかった。とんだ的外れである、どうやら集積場のようなところに侵入したらしくこの物品から察するに軍事施設なのは間違いない。何たる不運、何たる悲劇、この状況は間違いなくまずいと頭の中で思いつつもどうせ死ぬつもりなんだからいまさら軍事施設の一つや二つそうってことはないと思う自分もいた。要は何が言いたいかというとここまで来て覚悟が歪んできているということと、もう一つはこの基地の異様さに気づいてしまったことだ。
正規軍ではない、それはこの施設が盗賊ないしは反政府組織である可能性があるということだ。それならば旗がないこと、そしてこの大量の武器があることも納得できる。しかしながら不思議に思うこともある。それはこの武装や鎧が盗賊が持っていそうなものではなさそうだということだ。僕は武器の専門家ではないためそこまで詳しくはないがこの鎧にしたってチェンメイルのうえにうろこ状の金属板をかぶせた装備である、だれがどう見ても汎用のものでhないのにんなものがゴロゴロ・・・ありえない、盗賊がそんなものを持って居ようはずがない。となれば反政府組織の可能性もあるが、それならば僕が馬鹿みたいにのこのこと門に来た時にたたききっていてもおかしくない。そうしなければせっかくここまで規模を大きくしたのにばれてしまっては元も子もないからだ。ということはそれでもないということだ。
ほかにもファンタジーの世界から出てきたのかと思うような長い槍、兜、は見つかるがここで一つ疑問が出てきた。それは兜も剣もみな黒い油や油がついていたのだ。無論理由がわからないわけではない。これはいかにも古典的な金属の酸化防止の方法で、油を塗ることにより酸素と金属が直接触れることがないようして要はさび止めとしての効果を発揮する。ただし、そんなものを軍が使うかといえば疑問である。要は整備する人がいればもっとほかにも方法があるということだ。そうすればわざわざこんな鎧を汚すようなまねはしなくても済んだのだ。もしこれが身分の高い人のもだったりしたら、この世界から察するにまずきたがらないだろう。そうだとすれば本当になんなんだ?
「ここの小屋だけを探しても仕方ない、どこかほかのところも調べてみなくちゃならないな」
恐ろしいことに僕は本来の目的よりも自らの好奇心に駆られている状態だった。冷静に考えればそんなことはどうでもいいことでhないか。それが僕になんの影響も与えることもないしむしろ燃やして灰になるんだから価値すらない。なのになぜここまで惹かれるのか自分でもよくわからなかった。
「そういえば、ここは外から見ると町あと思うくらいの規模なのに防衛面では塀があるぐらいで貧弱だ・・・一体全体何の目的で作られたんだ?いやそれ以前にこの立地条件もおかしい、大規模であればあるほどこんな僻地に配置しないだろう?もっと町の防衛とか城とかそういうところにおいてもおかしくはないいやむしろそうあるべきだ」
外に出て警戒しながらもほかの小屋を散策する、近いところから遠くへ、一歩一歩しっかりと集中していく。
「がーがー」
来た、自らのレーダーに反応し、すかさず音源へ足を運ぶ、そこには寝ている男たちがところせましと詰め込まれており、みな筋骨隆々だ。だがこれはまだ予想範囲、他にも調べたいことがある。それは馬、その数で負担できる費用や能力がわかる。普通、馬は乗る人と飼う人が別にいて、それだけでも人件費がかかるのに奴らはめちゃんこ飯を食う、訓練を必要とする、手入れが必要などそれを上げればとんでもないことだ。もし馬がたくさんいるならばその時点でこの基地は盗賊の棲み処ではない軍事組織だとわかる。な次は馬小屋を見つけなければ・・・
「よし、次は馬小屋へ・・」
「ここで何をしている」
「ッ」
途端体中に電撃走る。思わず振り向くその視線、門番であった男が、完全武装ででこちらを見ていた。鎧のきしむ音を隠し、気配を消し、しかしながら堂々と建っているその気迫に、少したじろいだが。鎧の男の足の速さなどたかが知れているので、逃走した。
「ん?どうした小僧」
寝ていたはずの男たちがみなすでに外に出て、こちらを黙って凝視していた。もはや逃げ場などなさそうだ。