6 転生
とことこ、僕は揺られている様で中中どうして悪くない。感触がないので浮遊しているようだが、それでも、あの冷たい治部手で皮膚をさらしていたことを想像すれば、まだ、ましなのである。
「それは良かった、私もアウタースレーブを見たときはダメかと思ったけど、こうして助けることができて本当によかった」
しかしながら、これが果たして自らの身を安全にしたのかと聞かれれば疑問があるのも事実である。僕が考えるに、どの道にせよこんな体の状態では、到底何かできるわけでもないし、まぁ、流れるだけという暗示ではないだろうかと思う。
「それは安心してくれ、必ず私が責任もって直すから、あと、君もヴィンセント殿も、気軽に話してくれていい、公の場でぐらいしか私はああ言う風には語りたくないからな」
「お、おう、ずいぶんオープンだだな、アマーリア殿、俺は確かに貴族だが、それでも敗戦国の貴族だぞ?本当にいいのか?」
「ああ、一向にかまわない、むしろ私などは婿を取れなかった行き遅れ伯爵家のしがない跡取りだ、武勇に優れたあなたに話ができること事態、大変名誉なことだと思っているよ」
彼女のご厚意に甘え、その後彼らはいろいろと話し合うことにした。
それにしてもこのテレパシーとかいう奴はいささか邪魔な気がしてならない、僕の心を赤裸々に公表するので、考えてしまうとすぐに伝わってしまう。
「まぁ、我慢だぜ、お前との意思疎通が限定的な今、そうやって会話するぐらいしか考えつかねぇからな、しばらく我慢してもらわねぇと何もできないぜ」
ヴィンセントは何とも怪訝な態度だった。それは自らが置かれていることに少々信じられないことが一つ、もう一つはなぜ同じ馬車に伯爵家の貴族が乗っているのか、それが彼の理解を超えたようである。
「しかし、ヴィンセント殿も大変だったな、よりにもよってこのような生活を二年も続けていたとは、捕虜として身代金は払われなかったとは、やはり共和制というのもあながち信用できないな」
「しょうがない、それが集合体というものの性質だからな、それに俺はこの国ではなかなか悪さをしちまったし、こうやって今日まで生かしてもらったこと事態、奇蹟みたいなもんだ、神に感謝しないとな」
話しているところ悪いが、僕はいつまでこの調子でいなければいけないんだ?ええと、ヴィンセント
「あ?ああ、そうだろうな、聞く話によれば治療団がもうすぐ来るって話だし、とりあえずはこの伯爵家の屋敷に行くのまでってのが無難ってところじゃないか?」
なるほど
「しかし、このアウ・・・失礼、君はすごく冷静だね?普通こんなになってまでそんなまともな性格でいられるのは、今まで聞いたためしがない、いくら感情抑制の魔法と痛み止めの秘薬を受けているからって、ありえるのか?」
少しおびえながらも、興味があったようだ。
「へ、まぁ俺は貴族としてはそこそこ優秀な治癒・再生のガーディナルだったからな、こんくらいのことはできる、ごもっともこういうのはアフターケアが大切だから、しっかりと治療に専念しておけよアウタースレーブ」
得意げそうにヴィンセントは言った。
まぁ、そうさせてもらうさ。
「しかし助けてもらってなんだがどうして助けたんだ?こんなことを言っては何だが俺もこいつもも捨て駒みたいなもので、あんたが助けてくれる理由が見当たらないんだが」
それには僕も同意せざるを得ない。いったいどうして助けてくれたのか、ぜひとも聞かせていただきたい。
「ふむ、まぁ、そう思うのは当然のことだろうな、まぁ、これには理由がいくつもあるのだが、それの中で代表的なものを上げるとしよう、はじめに言っておくが、諸君らを助けたのは、理由はもちろんあるんだが、あまりにも複雑でね、とりあえずなぜ私が施設にいたのかから順を通して話してみるよ」
口調から察するに、嘘は言っていないようだから話の続きにも少なからず信頼性のある話をしてくれるに違いない。
「まぁ、諸君らならばわかると思うが、あのルッツとかいう男、彼があまりにも目をつむるにはでかいことをするような男で、わが伯爵家としても、彼の研究施設への投資、そして自治領での損害を出す前に、彼の横暴を止めようと思っていたのが一つ、彼は少し研究が偏っていた、それは・・・いや、諸君らに行っていいものか・・・まぁ、君たちが聞いても、どうせすぐにほかの者にも広がるのは目に見えてるしいいか、でも、広がるのを遅らせたいから無論他言無用だ、いいね?」
っずいぶん真剣な話らしい。
「ああ、わかってる」
無論、話すすべもないし、約束は守るよ。
「そう、まぁ、あまりにも人道から外れたような実験をしているってこともあるし、それ以前に王に報告しないで勝手にやる研究が露営し始めたというのが、最も今回の騒動を引き起こすことになった原因だね、彼が個人でやっているのか、はたまた別の機関、例えば他国からの要請で極秘にやっていたのか、どれでも危ないけど特に後者の場合の危険性は無視できないこと、そうは思わない?」
よほど目の上のたんこぶだったようで、アマーリアは一度大きなため息を吐きながら説明してくれた。
「ああ、グリーフラントは魔法もトップクラスだからな、あのジジイ、そこの研究所ということを分かっておきながらよくそんなことを平気でやってきたな」
すると又も、溜息と十にアマーリアがおよよ、と困ったように話してきた。
「ええ、もし本当にそのようなことが大々的に露営したら、他国との接触について【真偽問わず】かかわったことになってしまう。ほかの貴族から謀反だとか、監督不十分とかわめき始めて、一気に伯爵家の信用にかかわってくる、それで、そうなってからでは遅いと思ったわが伯爵家はルッツを施設の研究員から除籍する計画を発動させたってわけ、そんな中に今回のような精霊への侮辱を起こしたルッツが私たちに要請してきた、それも王を通すことなく、極秘にやってほしいなんて言われたら、もう解雇の大義名分を自らで作るようなものだから、計画を達成するのは今しかない、そういうわけで、私は施設に行くことにしたの」
「ふん、それと俺たちとの関係は」
ヴィンセントは理解しているようだが、確認のため訪ねた。
「だから、やっと伯爵家没落の危機を免れそうだって時にあなた、そう、特にあなたのような国際世論の火種になりそうな者が現れてこちらも大慌て、急いで回収したってわけだよ、アウタースレーブについては、個人的にニホンについて関心があったから連れてきた」
「なるほどね、ところで俺たちの今後は?」
ヴィンセントの言うことはもっともだが、彼女もそれについては最も悩んでいる様でさきほどから快い返事がない。悩ましい息漏れと苦悩の感情が渦巻くアマーリアは、しぶしぶといった顔だ。
「しょうがないから、わが伯爵家がしばらく保護したのち、母国へ送還・・・は難しいか、それについては屋敷で話し合いましょう、アウタースレーブも、それでいい?」
ああ、さっさと体を治してもらえれば僕は別にいい。
かくして、屋敷についた僕はすぐに部屋に移動され、捕虜貴族は服を替えるべく別室に移動した。かくいう僕は部屋に入るやいなやベットの上に寝かされた後、何人もの人が僕のベットを取り囲んだ、アマーリアの説明によると治療団とかいうのが到着したらしく診察を始めるらしい、しかしながらいつまでたっても治療が始められず、納得いくまで彼らはああでもない、こうでもないと話し始めるのだった。
「これは・・・想像以上にひどいですね、おそらく治癒魔法か何かで体は維持されていますが正直奇跡の所業と言ってもいいでしょうアマーリア卿、まず言って完治は不可能です」
「そうですか、彼の契約解除のほうはどうなっていますか?」
真剣に話し合うがゆえに場は緊張する一方だ。
「まず不可能ですアマーリア卿、これは契約した者が死ぬ時まで決して消えることも、契約解除も不可能です、今回は残念ですがあきらめてください」
「ふむ、ならば体の完治と契約解除を達成できる法は一つしかありませんね、あの方法しかありませんね」
もうそれを頼みに来たのだといわんばかりのアマーリアの言葉に医師は[はぁ!?]と言いながら数人がかりでアマーリアを説得し始める。
「おやめくださいアマーリア卿、あの術は禁忌だということをおわすれですか!?それに仮にやったとしても成功するかどうかは五分五分ですよ!?」
「ええ、でも今の状態よりはましでしょうし、何より私には彼が必要なのです、無理は承知で高い報酬を払っているんです、早くやってくださいこの野郎」
「ええ・・・この野郎って、無理なものは無理ですよ・・・:」
どうしてこうも治療が進まないのか・・・早くしていただきたいこちらとしてもいい加減しびれをきらしているのだ。
「はぁ?このアウタースレーブ、テレパシーなぞ、いや、それよりもかなり冷静だな」
御託はいいから早くしてくださいよー、僕は助かると思ったからここまで来たんですから失敗したら殺しますからね?
「な、アマーリア卿、この者本当に治療していいんですか?何やら私には魔王の卵と会話しているようにすら思えてきたのですが」
「ええ、ですから早くしてください、魔王の卵なのが事実でしたら、生まれてからでは遅いのです、早く【転生】を」
「はぁ、しかし禁忌で」
「そういえば、私治療団の私的援助団体の捜査を王から承っておりまして」
「よ!喜んでさせていただきます!おい!眠り草を早く!」
アマーリアの一言で、先ほどの自らの考えを改心されるが如く、医師はすぐさま診察を終了し手術に移行することを説明した。それよりもアマーリアとかいう奴、いったい何者なんだ?ルッツを支配下に置き、こいつらを脅す、こいつらは治療団と言って居た。つまり彼らは医者なのに変わりはないのだ。そんな者たちを脅せる、これが貴族というものなのだろうか?
「いいか?これからお前は睡眠に入るが、その後はすぐに健全な体に戻れる、安心して眠ってくれ、ごもっとも、術後に何かあったら私が担当医のセージだから、この声の男を探してくれればすぐにでも駆けつけるよ」
その言葉を最後に、体全身が水袋になったような感触が感じられた。それはやがてシビレとなって体を包み込み、気付けば意識を失いそうになっていった。そのまま、脳が眠るように、呼吸が止まり僕は意識を喪失した。
僕が起きたとき少しのどに異物感があり、席をしたところ、急に覚醒し、僕は息をのんだ。まだ混濁の意識下でよくはわかってないが、脳は状況を瞬時に理解し混乱したのである。ないと馬鹿死に思っていた目からは世界から放り出されたまばゆい光を吸収し、鼻は自らの生まれたての赤ん坊のような体に匂いを潤わせ、手足が思いのほか、重いことを再確認する。
「気分はどう?最高の気分でしょう?」
医師が僕の顔を覗き込み、満足げに言う。
「意識はあるみたいだし、脈も問題ない、どうやらうまくいったようだね、おかげで私の懐が干上がるのを防げそうだ、今、感情抑制の魔法を解除する」
から笑いと安堵を混ぜたようなこえで医師は説明する。彼は何度もよかったよかったと繰り返しながら、僕に説明をし続けた。
「ところで、君自身は今何が起こっているかりかいできるかね?」
「へ?治療を受けて治った、という感じでないんですか?」
すると医師は渋い顔になり、悩みぬいた末に言葉を選んで話し始めた。
「うーんん、半分は正解なんだがもう半分は不正解だ、具体的に言えば君の体は直せなかったんだ、しかし、治せないで死なせてしまえば私の財布・・・失礼、今関係ない話をしてしまった」
なぜ最後まで行ってしまったのだろう、どうあがいてもばれてるぞ。
「まあl、何がいいたいかと言われれば、私は君に黙って、肉体を変えてしまった。もっと言えば魂を入れ替えてしまったということだ、私はセージでね、医療に関しては心得があったんだが、君のような重症の者はさすがに治せなかったのだよ、だから、これから、鏡を持ってくるから私が行ったことをどうか理解してほしい、君の元の体にできるだけ作っておいたのだが、もし不備があればすぐにでも改造しよう」
ベットに鏡が持ってこられ、それを除き音で見ると、何やら異様な光景が写っていた。金髪碧眼の男が僕をのぞいていたのだ。外形はここの人たちに非常に似ており、色は白く耳長くが立っている。しかしながら、体の身長はもとのままで、何とも貧弱で低身長といった感じだ。
まあ、そんなことはどうだっていい、なんだ?なぜこいつはさっきから俺と同じ動きをしているんだ?
「君はびっくりしているかもしれないが、とりあえず言っておこう、君は転生した、もうアウタースレーブではないし奴隷でもない、君は自由の身になったんだ」
「はぁ?そうなんですか?」
なぜだか怒りがこみあげてくるが、とりあえず隠しておこう。
「うん、アマーリア卿に言われて私は君を転生させたんだ、にわかには信じられないだろうけどその鏡に映っていたのは君さ、まぁ、すぐには慣れないと思うけど、とりあえずはその体で過ごしてくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
会話を一方的に一区切りしようとしたので、思わず叫んだ。
「びっくりしたな~、なんだい?」
「え、それじゃぁ、僕は治っていないじゃないですか、僕の体はどうしたんですか!?」
「ふぅー、それを言うのを避けて説明してきたんだが、しょうがないね」
そういうと、医師は椅子を持ってきて、僕の隣に座り始めた。僕が困惑しているのをよそに、少しでも、わかるようにとでも言いたいのか、紙に絵を書きながら説明を始めた。
「えっとね、君の体は先ほども言った通り、ひどく損傷していたのでね、こちらで保護しているんだが、そうなった場合きみはこう思うはずだ、それならいったい僕はだれ?ってね、まぁごもっともなご意見だし説明する義務が私にはあると思っている。シカシナガラ君に、そう、君にとってはよくわからない話になってしまうだろう、だが落ち着いて、よく聞いてほしい」
彼はそういって筆を動かしながら話を続ける。
「君は、魂だけを移され、血と肉塊の集合体を変化させ、君自身になったんだ、わからないよね?要は、君は知らず知らずのうちに躰を創りその魂が収まる器になるよう、私たちが手助け死ということだ、わかってくれたかな?」
何とも意味不明なことを言っている、そう僕は言うつもりだったのだが、この異世界で僕の常識が通用するはずがないだろうし、それ以前に鏡に映る自分がこんな感じになってしまっては信じざるを得ないというのが現実だ。
「さぁ、私からの説明は以上だ、何か質問は?もしなければ、アマーリア卿が食事を用意しているそうだから行きなさい」
「・・・質問はないです」
そうか、僕は入れ替わってしまったのか、僕はこれでもう地球の人ではなくなってしまったんだなと、ふいに思った。肉体は奪われ、人権をはく奪され、本人の意思に関係なく都合よく殺される。そんな記憶とそのたびに受けた感情、それらが凝縮し凝固して、僕の気を大きく起伏する、まるで呼吸するように、抑えたものが破裂するように。
途端僕の体は再び熱い憎しみの心を思い出し、医師を殴打した後屋敷を去るのだった。