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僕は、感覚を奪われてしまった。あんな強烈な実験をされていたのにも関わらず特別痛いわけでもなくかといってなにも感じないかというとそうでもない、僕は理解に苦しんだ。今の意識は完全に覚醒しているにもかかわらず、何も行動がとれず、五感は奪われ、はてさてなにがおきているのか皆目見当がつかない
ここは、どこだろうか。下手をすると死んでしまったのか?それに、ルッツのあの最後の笑みは何だ?思いっきり僕を人間としみている顔ではないぞ。
思い出すだけで憎たらしくてしょうがない。あの男は今になって思えば僕を笑っていたわけではない、僕の使った実験に満足して笑っていたのだ。
いわば、僕には無関心、あんな人体実験はまったくの善意も感情もなく、ただ作業のようにやったに違いない。こんな屈辱ははじめてだ!次あったら殺してやろう。ごもっとも、次に会うことがあればの話だが。
彼は煮えたぎる感情を消化するまで、何度も何度も軽蔑の念や、愚痴悪態をこぼした、その時間は彼も時計も太陽も見れなかったため、よくはわかってはいないが、その憎しみから察するに短時間の者とは思えない。その後、彼はひと段落つく(つけるわけないが、実験の影響か体力の消耗が激しかったため)いったん冷静になり、落ち着いて考えるようになった。
そういえば、男の受けた拷問がこういう結果だったそうだが、なぜ男はあんなにピンピンしていたのだろう?僕ですらこうなっているのにも関わらずあの地獄のような、あたかも時空に迷い込んだ湾曲の世界で、体を焼かれたなんで生きていたのだろう。
そうこう考えるともう一つ疑問に残ることがある、受付のセージだ、彼女はこんなことを言っていた。
【だってそうでしょ?私たちも人間、同族同士でやっていいことの度量ぐらいわかっているわ、でもそれ以上のことを強いなければならないことが時としてあるのよ、ね、分かって】
あれはどういう意味だったんだ?本来であればルッツが言いづらいことを代弁しているようなもの言いだったはず。しかしながら、ルッツはそんな性格でもなかった、それどころか、同族とは思っていないはず。
その考えに彼は疑問を抱いた。
いや、そもそも同族とかいっていたが、まず言って同族ではないだろ?奴隷は同族かもしれないがアウタースレーブは異界からくる人間、ここの人間とは血縁関係も何もあるはずがない。そもそも、ここの奴らが人間なのかも怪しいものだろう。
いや、一つ考えることがあるとすれば彼女は「異界の人間」なのではないかということだ、それであったらその理屈は、いや、でもあの言い方は間違いなく代弁しているようだった。なぜなら彼女は言いにくいこともある、そういったのだから、それは誰が言いにくいのか?間違いなく質問されたルッツであろう。ということは、ルッツが異界の者だというのだろうか?それとも、ただの言葉の綾なのか?
「うう」
途端に聞こえた?声?を彼は見逃しわしなかった。
ん?今人の声が聞こえた気がしたのだが気のせいだろうか、今度は聞き漏らさないよう、注意して聞いてみる。
「うう、ふうふう」
「はぁはぁ」
なんということだ、今まで僕は聞こえないものだと思っていたが、この耳は大きな耳鳴りをしているだけで微かにではあるが聴力がまだ残っていた。ということは体も残っていて
彼は考え始めた、彼は実験前には悪い方向に考えをループするような少年だった。ともあらばその逆希望のある思考のループも、彼は持ち合わせていたのだ。ループの算出結果は以下のとおりである。
僕は生きているかもしれない!
何たる奇跡!何たる幸運!これで奴を殺すことができるかもしれない!
しかし、感覚のない僕が、いったいどうすれば自らが生きていて、体が無事なのかを証明できるだろう、感覚がないため、手足を動かしても分からない。
思考ゲームが得意な彼はすぐに思いついた。
そうだ、動かしてみてから何か聞こえたら、体があることになるのではないだろうか。少なくとも、今僕は脱力しているから床か何かに寝そべっているはずだ。
試しに、体をゆすってみた。
「ぞりぞり」
聞こえる、ということは体はあるのか、これは良い、次は首だ
「ぞりぞり」
まぁ、考えることができる時点であるのは当然か。次は右足
「・・・」
ふう、もう少し力を入れてみよう
「・・・」
おいおい
「・・・」
このことに対する彼の考えることは単純だが、それに伴う感情の起伏、さらにはショックの大きさなどは肉体的にも、身体的にも、複雑に彼に絡んできた、だが、その考えは徐々に洗練されていき、起伏はやがて定常波のように怒りと悲しみの繰り返しへとつながっていった。それは火山より熱く燃え上がり、時には深淵のように光を失うが、最後にはアドレナリンの働きか、短絡的に考え、また非現実だと錯覚し怒りの強い感情となった。
ふざけなんよ・・・本当かよ・・・糞、これが現実なのか、頭がおかしくなりそうだ!こんな目に合わせやがって!絶対ルッツは殺してやる!いや、施設そのものをなかったことにしてやる!
刹那、手足ではない音、とても親しい音が聞こえてきた。
「よお、お目覚めだなアウタースレーブ、ようこそ養豚場へ、やっぱり生きてたか、お前、三日寝ていたぜ、ま、手当のほうは俺がなんとかしておいたから、ありがたく感謝して貴族で、しかも高貴なるパラディンである者に対する礼儀をわきまえろよってな」
その声には聞き覚えがあった。間違いなく戦争捕虜の貴族、おまえも生きていたのか!
「ま、俺はもう、貴族ではないがな、どうだ?少しは体は良くなったか?ごもっとも、ルッツの魔法を取り消して包帯を巻いて、痛覚を取り消す秘薬をかけてやっただけで、こんな吹き曝しのところに放置されちまったらいつ死ぬかわからんがね、でもよ?その秘薬つったって俺が危ない時のためにとっておいた奴なんだからな、本当感謝してほしいぜ」
確かに君とは決して長い時間いたわけではないが、それでもいろいろしてくれたことは感謝しざるを得ない、これからは貴族に対する評価も、君がいるおかげで幾分か改善できるだろう。
彼は、この一連の事案は捕虜貴族による恩情によるものとは思わなかった。彼は本当に同等と見てくれている、そう思えるほどだ。この短期間でなぜそこまで友情というか真情で語り合えるのか、はじめは気の迷いだと思っていた彼も命の身が危ないこの環境では、同じ境遇でさえいれば、彼でも誰でも深くかかわりあえることを理解し、それが偽りではないと簡単にわかるのだ。
現に捕虜はそのあと、ひたすら自らに対する感謝をしろと言いつつ、自らが与えた秘薬の重要性を説明していたが、それらに対する報酬については実に簡単な答えだった。
「ま、話し相手になるなら帳消しにしてやるよ」
そこまで、なぜそこまで・・・
彼は涙した、それは勿論、彼のその優しさに感動したからでもあるが、それよりも、初めてこの世界で手に入れたやさしさでもあったからだ。階級も、民族も価値観も、何もかもが違うこの世界で、よりによって満身創痍である今、そんなものが慰めの足しになるかと思うと疑問でも、彼にとってはそれを払拭するほどの、少なくともその時はそれほどの希望だったのかもしれない。
「へ、ようやく貴族への尊敬が感じられるな、まぁ、どうでもいいけど、これも騎士道にのっとった当然の範囲だしな」
彼は満足げに語り、その後、フット思い出すように、聞いてきた。
「なぁ、どうせ、目が見えないんだろお前、体がどうなってるのか知りたいのか?」
おお!意思疎通はかなわないと思ったけど、まさか察してくれるとは!
願ったりかなったりとはこのことか!そうだ!教えてくれ!僕の体は今どうなっているんだ!
僕ば一心不乱に首を縦に振った。
「まじかよ・・・じゃあ言いうけど、まず言って体中重度の火傷、ところどころは皮膚がねぇ、おまけに体の末端、手足は右も左も炭化しちまって、お前が寝ている間に取れちまった。髪の毛もねぇ、眉毛もまつ毛も毛という毛がねえ状態だ」
遠慮がちにすべてを語っているわけではないことぐらいわかるが、なるほどかなりの者らしい。
もはや彼の心情など説明するまでもない。
そんな、いくら何でもひどすぎるじゃないか?それが本当なら、僕はどうやって・・。いや、でも、まさか、そんな、おかしい、間違っている、でも、確かに先ほどから動かしている『つもり』の手足は、この耳から、足の動く音も、手の動く音も、聞こえなかった。
「言いたいことはわかる、しかし、それが現実だ、でもまぁ、それが幸か不幸か、そうなったらルッツ達セージの実験には使われることはねぇ、無論、お前に対する実験は終わったのではなく、経過を見る実験に移行しただけだということも、しっかりと覚えておいたほうがいい」
何とも、客観的な言葉に、信じられないとばかりに怒りが込みあがる
無謀にも程があるだろう!?そんなことができるほど割り切れる人間なぞこの世にはいない!
「・・・せめて、お前ができるだけ平静を維持できるよう感情の起伏を抑えるようにしておいたが、それも俺の魔法じゃ、どこまで維持できるのか」
おそらく自分が何を言っているのかわかるのだろう、彼はそういうと、少し溜息を吐き、ノイズのはしる耳からでも聞こえるくらい不安な声を出していた。
「しかしびっくりしたよ、まさか俺が受けた拷問がまさかもう一回やられるとはなぁ、あんときは、ここまで大掛かりじゃなかったのに、まさかこんな大がかりになっているとは、さすがの俺も、ここまでだな、逃げようにも、俺もお前と大して変わらんからなぁ、後は、ここでいいようにされて人生はおしまいか、糞」
毒を抜くような思い呼吸で彼は言った。その声から察するに、彼も僕同様、無事で返されたわけではないらしい。
「っへ、実は俺はカーディナルって言ってなぁ、お前にはなじみがないとは思うが、これでも魔法が使えるんだよ、本当はお前にもその魔法の奇蹟ってやつを見せてやろうとは思ったんだが、そういうのはとくいじゃなくてね、わずかな治癒魔法と精霊との交渉ができるんだが、それもここにいては何の役に立たん、でも治癒魔法のおかげで、俺もお前も助かってるってことさ、ま、セージ共のほうが治癒魔法はより高度なものが使えるんだろうけどな」
なんだそれ、魔法使いの一種なのか?
「しかし、お前も大した奴だ、俺は貴族たる覚悟があったからなんということはなかったが、平民共はみんな苦しんで発狂していたぜ?それなのにまさかあの実験を受けて気が狂わないとはなぁ、相当覚悟の座っている奴なんだろうな、はたまた、最後まで耐えきれなくて伸びちまったのかもしれねぇが」
僕が思うに、それが『良かった』つまり、気を失ったおかげで僕は狂わずに済んだのではないかと思っている。もちろん先ほどからこの体に起きている異変を信じられないし、ショックもでかいが、あの体験を【瞬間的に】でも体験したことにより、それに比べれば・・・とどこかで思うことができるのだ。
「はぁ、娯楽棟の食事でもしゃれこみたいもんだなぁ、施設は離れているのにここまで匂いが着てやがる、結局、歓迎会の時もそうだったがあそこで飯が食える奴は次の実験ができないようなボロクズ共の晩餐会っていうオチで、それ以外の奴はこの豚小屋でのんびり呻いてるってことか、どっちが良いのか、まったくわからんな」
呻いている?そうだったのか、僕は耳にノイズが走っているとばかり思っていたが、実際はうめき声の合唱が聞こえているだけなのかもしれない。もう一回、しっかりと聞き耳を立てる。
「はぁはぁ」 「うう・・・」 「へへへへへへへへ」 「飯は・・・飯はまだか」 「誰か・・・家族に伝えてくれ・・・」
聞かなければよかった。そう思うのは当然であるが、この経験は後に彼の死生観や倫理を改変し、変革させていくのである。
はぁ、心の許容からノイズだと錯覚していたのかもしれない。小屋は地獄絵図だ。怖い、怖くて震えてきたほど、心底身に染みる恐怖、もしかしたら戦争に行った人たちは、こういう非日常の価値観におびえて暮らしたのか・・・そう思えてならない。
一旦冷静になり、再び思考を変えようと努力した。正直僕は少し、おかしくなってしまったのかもしれない、一度僕は考え事をすると、他の事をあまり深く考えなくなるようだ。
そうか、そういえば話によれば三日たっているんだった。何も見えないと、日にちも分からんし何時かもわからん、相手に訪ねようにも、この調子だと声帯も焼き切れていそうだし。そもそも、匂いとか言われたが、まったく匂いなんて感じられない。ルッツの魔法は解けても、秘薬の副作用か何かが働いているに違いない。
「でも、今回は精霊の調和の儀式ってことで、グリーフラントの伯爵だかが、娯楽棟で飯食ってるんだよなぁ、ってことは、ボロクズ共の飯はお預けってことになるな、かわいそうになぁ、結局セージ共にとってはそれ程度の価値しかないのかねぇ俺たちは」
何とも軟弱なことを言うようになったなぁ、男、君の言う貴族の何たるかっていうのは、この二年で摩耗しつくしてしまったかのかい。でも二年か、そう考えたら摩耗してもこんな生活を二年生きていれば大儲けな気がするし、それで摩耗しつくしたというのなら本望ではないだろうか?少しづつ、彼があんなほかの貴族とは似つかない性格をしている理由がわかった気がした。
「お、セージ共が小屋のほうに来るなあ、次はだれが連れていかれるのかね」
ふう、そんなことはどうだっていいじゃないか、問題は、この人生にどうやって楽しみを見出すか、そこにかかってくる気がするよ。
にしても僕も、自分で言うのもなんだけどすごい奴になったなぁ、こんな状況なのにもかかわらず、こんなに冷静なんて、普通は発狂どころの話じゃすまないぞ。たぶんあの男のかけた魔法ってやつが効いているんだろうか、それともまさか慣れたのか?またいつものように慣れた?夢見心地のあの雰囲気が僕を維持してくれるのか?
「アマーリア伯爵家令嬢、今回の妖精との均衡を取り戻してくださり、本当にありがとうございました」
セージの声と二人の足音が聞こえる、どうやらまっすぐこちらに向かってくるらしい。
「それは一向にかまいませんよルッツ、しかしながらその原因があなたの研究による環境への浸食破壊が原因だというのはどういうことですか?私は金輪際、もうやるなと言ったはずではありませんでしたか?」
その言葉がよほど身に染みたのであろう、声色がいっそう柔らかくなり、低頭な物言いがうかがえる。
「はは、申し訳ございませんご令嬢」
「それと、私は伯爵家を世襲したということを理解していないようですね?ここまでの無礼を許す私にも、貴族として問題がありますがそんなことも聞かない程外に出ていないあなたの生活にも、いささか問題があるのではないですか?一度研究職を離れて休養でも取られてはいかがですか?」
「はい!本当に申し訳ありません、以後気を付けますので、どうかお許しを」
なんだ、なんだ、あのイカレルッツが、敬語のみで話をしているだと?これは意外だな。こういうときばっかりにしか遭遇したことがないからか毎度毎度、貴族っていう奴らの威厳には恐れるばかりだ、頭にくる。
「あーあー伯爵とかいう奴、ガーディナルかよ、アウトスレーブ聞こえるか?あの糞ジジイがここまで謝りながら歩く姿は面白い以前に少し滑稽だぜ」
勿論、生涯にわたって聞くつもりだ。
「ところでルッツ?あなたは此度もその無礼なふるまいも、まさか言葉だけの平謝りで済ませるつもりですか?」
「いえ、まさかそのようなことは、無論アマーリア卿には、しかるべきものを渡すつもりでございます」
「そうね、この研究機関が誰の領地で運営されているか一度考えてくれたみたいだし、今回はこれぐらいでいいわよ?」
「はい!?無理ですよ!?そんな大金はいくら何でも持っておりません、せめてこれほどで・・・」
何やら今度は金銭の話になってきたようだ。
「あらそう、そういえば私一つ疑問に思ったことがあるのですけど、私が呼ばれたとき、王都の近衛兵が馬車で来るとばっかり思っていたのですが、なぜかセージが雇った者の馬車がきたんです、不思議な話だとは思いません?普通そういうことは、貴族かその近辺の行政をつかさどる平貴族の者が行うものではありませんか、少なくとも、研究機関が独断で呼ぶようなことはしないでしょう?貴方はどう思う?」
その質問は脅迫に近いものだったが、声色から察するに、相当起こっているのだろう。
「私、王党に呼ばれたとしたら大変名誉であると思うし、何より王への忠誠の表れだと思うのです。しかしながら貴族である私がなぜたかが研究機関に呼ばれる理由が見当たらないんですよね?無礼にもほどがあると一度はお考えにならなかったのですか?いいえ、それ以前にこれは王に対する叛逆だと、一度は思わなかったんですか?」
淡々と聞こえるその声に、気付けば多くの小屋の住人が聞き入っていた。その言葉から勇気をもらったものもいるだろうし、また、セージからの腹いせに恐れをなしているもののいた。
「あの伯爵気に入ったぜ、女の伯爵とは珍しいが、あのルッツをここまで痛めつけられるとは、ずいぶん肝っ玉の据わった奴だ」
関心するように男は言う、彼が言うくらいなのだから相当なものなのだろうが、僕が理解するには少し理解が足りなかった。
「はい、おっしゃる通りです、私は一度、王からの勧告を受けていまして、そのような時にこのようなことがあっては解任されるとばかり思っておりまして、それで関係のあったブルクスタラー家に独断で連絡を・・・」
「ブルクスタラー家だって!?あれは王都カンパレラの衛星都市を領土に収める一大派閥筆頭じゃないか!?」
男は驚き、度肝を突かれたような物言いであった。よくわからないが、それは要は日本の江戸時代で言う譜代筆頭のようなものだろうか、だとしたら伯爵とか言っているけどとんでもない権力者である。
「そうかそうか、わかったぞアウタースレーブ、思い出した、ブルクスタラー家は婿を取る予ことができず、そのまま正妻の一人娘が襲名したと聞いた事がある、となれば彼女がクーニグンデ・アマーリア・シビレ・ブルクスタラー本人というわけか、まさか奴をこの目で拝む日が来ようとはな」
え?なに?どれが名前なわけ?ていうか名前は初めに来る奴じゃないの?
「ハハーン、世間知らずルッツめ、よりにもよってそんな奴を連れてきちまうなんて馬鹿なことをするもんだ、こりゃ、あいつの天下もここまでだなぁ」
「はは、まさにそうだな、こりゃぁ、死に前にいいもの見れたぜ」
ほかの者たちもみなひそやかに笑い始める。ここまで笑いものにされてるとは当のルッツはしらないであろう。
「ルッツ、あなたの言いうことはもう聞きたくもありません、今回の独断は王に報告します」
「そんな!どうか、どうかそれだけはおやめ下さい!まだやり残した研究が・・・家それ以前に部下の申し訳が立ちません!」
「知ったことではありません、はした金でことは済ませろというわ、まともな話はできてないわ身分も知らないわ、いったいあなたは何がしたのか・・・私が下さなくとも、ほかの者が解任するのではないですか?」
「モーしわけありません!」
「うわ、打てば響くような反応で土下座かよ、もうプライドもへったくれもないやつだぜはっはっは」
男はそういいながら見ているようで時折大笑いしているのがわかった。
「さて、報酬は?」
「これほど・・・希望の額です」
「ん?そうですか?金貨が20枚ほど足りませんよ?」
「本当に限界なのです・・・これ以上は・・・」
「ふう、じゃあ、現物差し押さえと行きますか、今回は奴隷でいいです、早く開けなさい」
ん?奴隷だと?ということはこの小屋に来るではないか!
「やべぇ、アウタースレーブお前もひれ伏せ、ってうつ伏せしかできないか」
そうこう思ううちに、間髪入れず小屋の扉が開き、ルッツとアマーリアが入ってきた。
「うわ・・・これは予想以上の者ですね」
「ええ、まぁ、これも明日の魔法のためですから」
皆、動けるものはひれ伏し後は死人のように押し黙った。
「ふん、そういえば、あなたアウタースレーブを買ったとか、それは本当ですか?」
「へ?え、ええまぁ、金貸しから回ってきたようなものなので、使い物にならず、あそこで経過実験しているものです、確か、イーストアウタースレーブでニホンとかいう地域から・・・」
「へ!それは本当ですか!」
甲高く、興奮気味の声でアマーリアはしゃべりだす。
「それはどこのなんという地名かわかりますか!?」
「い、いえ、とくには、しかしニホンというのは確かです、ほら、こいつです」
足音が近づき僕の頭らへんで止まった。
「ふん、思いっきり使い物になりそうにないのですがいきているのですか?そこの者顔を上げなさい、お前に質問するが、そこの者は生きているのか?」
男が代弁してくれているようだ。
「は、はい、生きております、先ほど目を覚ましまして・・・」
「おい!貴様は話さなくてもいい、ほかの者が話せ」
焦ってせかすようにルッツは言った。
「待ちなさい、私は彼に聞いたのです、それとも、彼で何かやましい事でも?」
「ずいぶんと汚らしい服ですが・・・あなたの名前は?」
「ヴィンセント・エイブラム・ゴードン・エルトンであります」
「へ!?ちょっと、なぜ他国の貴族がこのようなところに?まさか戦争捕虜!?ルッツ!」
説明を求めるようにルッツを問いただす、がそこから聞こえるルッツの返答はいかんせん苦慮した声が時折漏れ、他にはなにも聞こえてこない。
「は、はて、彼は本当に貴族ですかな~、当人がその証を持っていないのであれば貴族ではないのではないでしょうか~?フルネームっていうのは貴族だけですが、彼が適当に言っただけでは?」
「その割には先の戦争で一世を風靡した国の伯爵家の姓なのですが!?貴方、少しなにか証に証明できることをやってみなさい。
すると男は僕の体を抱きかかえ、少し手に熱を持つような感覚を覚えた。
「【テレパシー】、今、テレパシーの魔法を使いました、これで彼は話せるはずです」
アマーリアは少し唸り、ルッツは冷汗をかいた。
「ふむ、もし本当ならあなたはガーディナルですか、治癒・治療の魔法とは、平民の超能力者ではできない代物ですもんね」
「う、嘘だ!現にこのアウタースレーブは何も話していないじゃないか、そ、それに、っは!だから二年前の拷問も回復して生還したのか・・・」
おいおい、これはどういうことだ
「!!確かに声が聞こえた!ルッツ、この者たちは私が預かります、あとルッツ!あなたはすぐさま国家治療団の要請を!後ルッツ!」
「はったはい」
「お前はクビです!」
どうやら、僕はまた流浪の旅に出るようだ。