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悪党のすすめ  作者: と
政党奮闘記
63/63

62 英雄の生還

数百騎の騎士たちと重厚長大なモンスターが駆ける速度に迷いはなく、ただまっ直ぐ赤霧の教会連合へと駆けて行った。間もなく始まるであろう接敵に備え教会本陣は各地より招集した連合騎士の戦隊を前に出し戦闘への準備を整えている。。


「ふ~、しかし驚きっすね。連中まさかパラディン迄従えているとか本物じゃん」


教会の本陣よりも側面に布陣していたマーズ騎士団長の悪党への関心はたいしてなかったが、彼らの騎士団が形だけのものでないと知り驚いた。曲がりなりにも騎士は騎士かと弓を強く握る。


「余り先行しすぎないでね、私達の進行はあくまで敵本陣のみなんだから」


「わかってるよベルダチャーン。せっかく生きてまた会えたのにそんな冷たい反応されると困るっすよ~」


「・・・」


再び始まる静けさに咳払いをする彼はすぐに話題を変えた。


「それよりも、本当なんすかねぇ?」


「何の話?」


「向こうに国崩しがいるって話っすよ」


紫煙軍の伝令の話す言葉が正しければ間違いなく存在するらしいが、彼女はもはや伝説の存在として扱われており既に死んでいると誰もが思っていた。仮に生きているとするならば最大の脅威であり、アマーリア卿への態度を再認識しなければいけなくなる。


「いや、理屈としてはアマーリアの配下なんで合ってますけど、ユッタ騎士団が精鋭無比の名をほしいままにしたのも結局は国崩しの手腕あってこそというし、生きているなら脅威っすよね~」


「聞く話ではユッタは戦傷が原因で死んだと聞いているわ。恐らくでデマじゃないかしら?」


「デマであれば、良いんすけどねぇ」


騎士団長もベルダも半信半疑であったがわずか数分後にはそれを否応なく理解することとなった。本陣方面より乾いた銃声の小さな音がパチパチと聞こえたかと思ったら後に見えた戦煙が事態をすぐに悪化させ、側面の部隊はすぐさま本陣へと引き返す羽目になったのだ。


「何故伝令はこなかったんすねぇ~」


「それよりも騎兵が突入できるような環境であることの方が問題だわ、向うにはパイク兵の部隊もいたはずよ」


パイク兵とは言葉通りパイクを装備した兵士で長い槍で騎兵の突入を妨害し歩兵としてはマスケット兵に並ぶ数少ない騎兵への抵抗が可能な兵種だ。彼らは騎兵同様密集して騎兵に槍を向けることで突撃を妨害し動きが鈍ったところを刺し殺すか、至近距離であればサーベルなどを抜刀して攻撃する、また彼らの行進は多くの長い槍が槍が空を向いて動くために非常に特徴的な立法形に見えることから騎兵としてもすぐにわかるため真正面からは侵入することは難しい。


「パイク兵を突破するとすれば側面からの攻撃が定石っすけど、こっち来てなかったっすよね~」


「・・・ふふふ」


「ん?」


「もしかしたら翼を付けた馬でも持っているのかもしれないわねぇ」


マーズ騎士団長は空を見た。荒れ狂うドラゴンの戦いの隙間に見える竜騎兵の姿の視線は空にあり、決して地上ではないことを確認すると安堵の息をもらした。


「ごめんなさい、貴方はやっぱり面白いわ」


我慢できずに笑うベルダの笑顔にしてやられたと思う反面先ほどの失態を取り戻せたと騎士団長は余裕のある笑顔でベルダを拝んだ。


「ま、パラディン相手に、それも『烈火のパラディン』相手に戦いを挑む馬鹿はいないっすよね」


彼は自らのひび割れた焼ける手を見ながら余裕の笑みを持つ、それはまごうことなく烈火のパラディンである証である溶岩のような手だ。途端、弓を構えて息を殺す。誰にも見えない強い集中力が周りの時間を遅れさせ、マーズ騎士団長と狙いを定めた竜騎兵を残して姿を消した。


「じゃ、黄金の矢でも撃っておきますか」


放った矢はすぐに飛び立つも臭いを嗅ぐように右往左往してなんとか竜騎士をとらえた。ただ、騎士の乗るイバーンはその奇怪な動きをする矢に機敏に反応しすぐにへし折らんと自ら近づき、食べた。


「あ、あ~。ちょっとかわいそうなことしたな」


「どういうこと?」


「あの竜の腹破って矢がね、出ちゃうんすよ」


その言葉はまさに的中した。ワイバーンの背骨から突き出した矢じりは勢いよく竜騎士を貫いた。それに呆気を取られてか無残にもワイバーンの背から落ちて落下する騎士の顔には不思議と安堵と喜びの感情がうかがえ、何一つ恐れることなくかつ派手に地上にたたきつけられて死んだ。


「さすがは烈火のパラディンね」


「・・・まぁ、殺す気はなかったすけど」


「?」


「あれ、キューピットの矢で射抜かれると激しい恋愛感情を覚えるだけなんで、矢で死ぬことはないんすよねぇ」


優しく笑っていたベルダもさすがに強張り、何も言えなくなってしまった。


「・・・ともかく、仮にユッタが本当にいるとするならば彼女も烈火のパラディンよ。必ず仕留めて頂戴ね」


「お、おほん!そうっすね、任せてくださいよ!」








ユッタの表情は呆気にとられ、走り出したはずの馬の脚もすでに止まっていた。マンフリートも唸りつつ頷きながらも余りの事のあっけなさに驚かざるを得なかった。それは初めての体験であり自身の対応のしようがなかったのだ。


「う、うむ。まぁこちらに犠牲がなくて良かったですな」


マンフリートは足元に転がる無数のパイクと亡骸を眺めては事の衝撃、特に『騎士の活躍』なしにおきた英雄的活躍に舌を巻かざるを得なかった。


「どうだべ連隊長!」


今度は誇らしげに農騎兵の男がユッタに尋ねた。農騎兵の者たちが騎士団に合流したときはこれ以上の歓喜を言い表せず、勝利万歳だの悪党万歳だのとわめき散らかしていたものだが、依然として騎士団の者たちはそれを受け入れられずにいたのだ。


「おらたちがパイク兵倒したおかげで皆無事だべさ!」


「え、ええ」


「なんだべ?何か不満でもあるんけ?」


「いえ、そうですね。確かにマスケットの特性を考えれば最も効果的な攻撃であったと思います」


「んだんだ!これも訓練の賜物ってやつだ!」


ユッタは考えもしなかった。自身がパイク兵の存在に気づき急にとまったのもつかの間、農騎兵による騎兵戦隊がマスケット両手に突破して見せたのだ。パイク兵とて至近距離からマスケットを撃たれては逃げようがなく、さらにいえば長いパイクが原因で動きようがないため、数百に分裂した各戦隊による発砲に成すすべなく蹂躙され、混乱した隙を見計らって指揮系統を討ったことでより崩壊した。


「しかし、私はマスケットはあくまで自衛ないしは補助的役割にのみ使い、基本はサーベルか槍を使いなさいと教えたつもりなのですが・・・」


「そんな!銃あるんだから皆で撃って相手がひるんだすきに攻撃した方が良いにきまってるべ!」


「た、たしかに」


「あれか?連隊長はカイコシュギってやつだべか?」


「な!」


なんだとといいそうになったが、それもそうかと逆に納得してしまった自分をユッタは悔やんだ。ともかくとして周辺に敵の軍隊がいなくなったのを確認したユッタの行動は早かった。すぐさま望遠鏡をもって事態に気付いたものがいないかと確認したところ、左右よりこちらに向かう大小の騎士の軍団が両端から来ているのに気づいた。


「包囲される前に突破!すぐに突入しましょう」


「了解、皆聞いたな!これより我らは敵本陣中央部に向かい突入を行う!」


マンフリートの合図により農騎兵義勇連隊と合流した全騎兵連隊は前進を開始した。自分たちの軽装が効を成すことをマンフリートは知っていた。本来であれば軽騎兵でもない限りこんな装備はしないのだがおかげで馬の脚はより早くなっている。それに引き換え連中はご丁寧に重装備で馬の脚を遅くさせ、包囲をより困難にしているのだ。


「はは、ヴィンセント閣下の言いつけを守らずもし我らがいまだに重騎兵の装備をしていれば、間違いなく包囲されていましたでしょうな」


「・・・叶う事なら、もう一度着てみたかったものです」


いずれ倉庫の隅で朽ちるであろう自らの鎧を考えるとむなしく感じるが今はそれどころではない。既に見え始めている敵陣中央部は強固な守りでユッタの騎兵連隊を抑えようと迎えているのだ。先ほどまでの一重の一列隊形ではなく、予備兵を淹れた二重三重の隊列を組んだパイク兵や弓兵、そして浮揚艦から降ろされ始めている大砲が騎兵連隊に牙をむこうとしているのだ。


「やはり強固な守りを見せておりますな、どうするおつもりです団長」


「・・・」


「団長?」


「どうやら、逃げ切れなかったようですね」


「はぁ?」


マンフリートが首をかしげている合間にも尋常ではない速さで騎兵連隊へと向かう者の足音が聞こえ始める。それは馬のような四つ足ではなく、二足歩行特有の感覚の狭い足の組み換えが聞こえているのだ。それが連隊先峰部のユッタの元に姿を表したとき、騎乗している者たちは誰一人として姿を確認することが出来なかった。だからだろう、誰一人発砲することが出来なかったのだ。


「お覚悟いたただくわ」


女の声と共にユッタは落馬した、馬は足を斬られその場に伏せるように倒れ込み、続く騎兵連隊の足を大幅に止めることとなった。混乱して隊列を崩し前に突飛して静止する者たちも、マンフリートの周りを駆けていた者たちもユッタの落馬に幾分か、女の存在に気づくのにさらに幾分かかかってホルスターを抜く。


「撃て!うてぇ!」


「やめなさい!」


ユッタにしては珍しい甲高い声で騎兵たちを牽制する。皆が動揺を隠せない中、ユッタは身軽に立ち上がった。足を怪我した馬の元へ様態を見てあたかも興味のないような仕草を取る彼女はベルダの反感を勝った。


「随分と軽装で戦に出られているようだけど、貴方が指揮官かしら?」


「騎士であるならばまず名乗りなさいベルダ」


ユッタはベルダの死角になるようにホルスターを移動させ、マスケットを懐に隠した。


「!?・・・失礼、私はマーズ王国騎士団のベルダ。韋駄天のパラディンよ、貴方と私は面識があったかしら?」


「いいえ。私はアマーリア・ブルクスラー家家臣筆頭にして農騎兵義勇連隊連隊長のユッタ・シビレ・ブルクスラー。烈火のパラディンです」


途端にユッタは指打ちをした。マンフリートはそれを確認すると一度は渋ったが仕方なく騎兵連隊を下がらせ、包囲を敷かれる前に退却するよう騎兵を退けた。誰もが何故かと疑ったが、ユッタのまっすぐな瞳を見るからに勝ち目なしと判断し、早々に味方本陣へと走り出した。


「ふふふ、驚きを隠せないわね。本当に生きていたなんて」


ユッタを忠臣に回るベルダはユッタを舐めまわすように見ながらその姿を目に焼き付けた。


「光栄だわ、是非手合わせ願いたかった」


「そうですか、私としては余り望んではいなかったのですが」


「何故?」


「教え子が悲しみます、高野晴馬という男です」


その言葉を聞いたベルダは足を止めた。今度は凝視するような目でユッタを見つめ距離を置き始める。お互い目を合わせるも意思の疎通が図れているわけではなく、お互いが自己主張を強めいているかのように牽制しあっていた。


「ハルマ、貴方が騎士道を教えたの?」


「はい、落第ギリギリの成績でしたけど」


「でしょうね、さもなくばこんな組織にはいなかったことでしょう。彼は今どこに?」


ユッタは少し考え、自身の胸を指した。それがベルダにはとても衝撃だった。正しく理解するつもりは無い。する手立てもない。だから彼女はユッタが衒っているようにみえてならなかった。それがどれほどベルダの心を侮辱したのかは、彼女の釣りあがった眼を見れば一目瞭然だった。ユッタは彼女の学院での経歴を知っている。だから彼女の怒りはなんとなく感づいていたが、それをどうこうするという理由はなかった。


「貴方が篭絡したのなら、死んでもらうしかないわね。彼にとっては有害なだけだわ」


「おそらく、私と晴馬は死んでも切り離せない質だと思いますが・・・」


渾身のベルダの振りがさく裂する、初めは大雑把に最後は緻密に精度を上げていく攻撃に一切の隙はない。ユッタはそれをグングニールで流すように避けるがきりがなく、自身が蟻地獄にいるアリであるかのような錯覚に陥っていた。こんな近距離ではグングニールでは戦いにならずお話にならない。刃を向ければ即座に跳ね返され、それを潰そうと余計に攻撃がきつくなる一方だからだ。


「驚きました。貴方はパラディンでありながら技への磨きもある様子」


「韋駄天たるもの常に鍛錬あるのみよ」


ユッタは即座に距離を置こうとベルダを振り払うもすぐに距離を詰められてしまう。それがとても窮屈な感触でユッタは強い怒りを感じていた。


「晴馬にもぜひ聞かせてやりたいものです」


「~ッ、その男の名を呼ぶなぁ!」


癪の種だったらしく柳眉を逆立てて怒鳴りつけたベルダはペースを乱すように力任せにグングニールを掴んだ。その怪力たるや押しも引きも叶わぬ様子で文字通り動くことはできないでいた。


「貴方が隊長と師弟関係であったことは分かった。だけど、私にとっては屑のほかに代替の言葉が見つからない男なのよ!」


「落ち着きなさいベルダ。自ら隙を作るのは良くない」


ベルダがはっと我に帰るときには既に遅く、兜越しでユッタの頭突きを受けた時には視界が漠然として、自身の武器が相手の手に取られていることにようやく気付いた。だがそれはユッタも同じことでグングニールは今ベルダの元へと渡っている。ただ、烈火のパラディンではないベルダにとってはそれはただのこん棒に等しい存在である以上、形勢はユッタに分が上がった。


「もう話すことも無いでしょう、グングニールを返しなさい」


「いいえ、それよりも貴方がすべきことは『手を上げる』ことよ」


気付いてなり響く馬の闊歩、この時間に既に諸国騎士団はユッタに集中して集まっており、形勢はあまり芳しくない。形勢逆転である事を自覚したベルダはマーズ騎士団長へと顔を向けた。彼は依然として警戒した面持ちで弓を引き、ユッタに近づいていた。


「ずいぶんと可愛らしい捕虜っすね」


「顔はそうでも性格は獰猛よ、ここで討たなければ後に響くわ。何を隠そう彼女こそがユッタ・シビレ・ブルクスラーよ」


「国崩し!?マジっすか!武功上がるわー」


騎士団長の行動は刹那的であるといっても過言ではなかった。ベルダが持っていたグングニールを拾い上げ、それを確認するとなお驚いたのである。


「うわ!これが噂の投げればあたるというグングニールすか」


「返しなさい」


ユッタは反射的に言った。


「噂じゃ主人の元へと必ず帰ってくるともいうし、これを携帯しているのはユッタしかいない」


「すぐに返しなさい」


ユッタは青筋の浮かんだ顔で騎士団長を睨んだ。それは脅しではなく、現実的に彼を殺せると確信した目で拝んでいると、観念したのかユッタに槍先を向ける。


「はいはい、仰せの通りに!」


騎士団長から放たれようとしたグングニールは離れる間もなくユッタに掴まれた。瞬間、烈火のパラディン同士の巨大な熱量がグングニールを膨張させ地面を焼いた。やがてその破壊が付近をチリチリと音を上げて乾燥させ始めるころには皆が退き始めていた。


「これがユッタの力、すげぇ!こいつは伝説級だ!」


「私の槍を潰そうものなら、貴方もただではすみませんよ!?」


「うるせぇなぁ、少し黙ってろ!」


ユッタは思い切り油断していた。グングニールに意識を集中しているこの瞬間を狙って騎士団長が矢を片腕で刺してくるなど想像もできなかった。そもそも、軽装とはいえ仮にも胸甲を片腕で貫くなどだれが想像できようか?それを理解したユッタの蒼白な顔も、既に自身の範疇に入ったことを理解した騎士団長の顔も、同じ笑顔だったことは理解しがたい事だった。


「俺っちのコレクションの一つ、万貫の矢グシスナウタルの味はどうっすか~?」


「っぐ、かは!」


えぐる様に矢を折った騎士団長はユッタの腕に光る炎のきらめきが弱まるのを確認した。一層強く自身の炎を輝かせグングニールの主導権を自分のものへとするべく強く握る。


「本当はキューピットの矢でもよかったんですけど、手持ちがネ~」


「く、くくくぅ」


ユッタはこらえきれなかったのか。思わず笑いが口から漏れてしまった。


「何がおかしいんすか?」


「いえ、貴方はまだ若いなと思いまして」


「は?」


ユッタは赤霧の諸国騎士団がまさか自分だけを追っていたことに、そして何より『それだけしか見ることのできなかった視野の狭さ』に苦笑する。そう、ユッタの騎兵連隊だけが敵陣へと向かって来たのではない。彼らだけではなくもう一つの軍団もまた既にに到着していたのだ。大きな影が諸国騎士を覆い微動だにせず岩のように一連の行動を確認していた彼らは再び行進を開始した。


「も、モンスターだ!」


既に臨戦の距離まで近づいていたその姿に唖然する彼らだがリーザドマンにしろサイクロプスにしろ大小問わず容赦はしなかった。突破力のない騎兵など的に等しく不意を突かれればアッという間に粉々になせる。ユッタはその混乱の瞬間を見逃さなかった。懐に隠していた拳銃を惜しみなく騎士団長に発砲しグングニールを取り返すとすぐに構えた。


「さぁ、馬など不要です降りてかかってきなさい!」


「い、いってぇ」


かなり頭にくる話だが形勢は侮れない。奇跡的に頭で理解していた騎士団長はすぐに馬を引き、部下に対し退却の命令を出す。それを音頭に退却を始める諸国騎士は兵力の損耗の抑制をすべく集団でジグザグに動いてかく乱を開始し、狙いが定まらなくなったところで集団で逃走を開始した。


「次は、こんな腑抜けたことはしないっス。覚悟するっすよ~」


「意外にも冷静ですね」


「俺っちこれでも騎士団長なんで、あんたも人の事を気にしている暇があったら止血をした方が良いっす。威勢でごまかしてんのバレバレすからね~」


騎士団長はユッタの震えた足を確認し、彼女に自身を追う能力がない事を確認した。それを境に彼の馬は勢いよく駆けだし始め、同時にユッタも足を降り、ごまかしていた荒い息遣いを露わにして倒れ込んだ。


「俺っちはデルフリア屈指の名門家、エルフリス・レパルス。また会おう!」


彼が去ろうとする傍ら、ベルダはユッタを見下すように見つめて剣を振り上げた。


「はぁ、はぁ!」


ユッタは止まらない血と共に吐き出す呼吸に死を感じる。それが顔に出てか、彼女はベルダをただただ見つめまるで懇願するように何かを訴えた。体力の消耗が激しいのかついぞ声が出せないまま苦しみ。気を失って倒れてしまった。


「呆気ないものね、これが国崩しとまで恐れられた女の末路なのかしら」


伝説とまで称えられたものの最後のみっともなさに呆れベルダは振りかざした剣を納め、団長の向かった本陣へと歩みを進める。だが、数歩進んで再び地面に倒れ込んだユッタの表情を確認すると先ほどまでの懇願した顔とは全く違う凛として死を待つ顔に代わっていたのに驚いた。


「・・・?」


ユッタの口から何かをしゃべっているのがわかるが、詳細が聞き取れないためにベルダはその場に留まることを止めエルフリスの元へと足を進めた。


「ベル、ダ。久しぶりだ・・・ね」

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