58 何のために戦うか
木の葉の掠れた音しか聞こえない夜。ユッタは砦の寝室で横になっていた。彼女は珍しくドアにカギをかけて誰も入らないようにしてぶつぶつをつぶやいている。
「何が、どうすれば農騎兵の皆が目的を持てるのでしょうか?」
彼女は目下の問題である農騎兵の士気向上をどうすれば誘発させられるかを考えていた。ちらつく戦争という文字が事を複雑にし焦りを生むが、それも振り払いまた位置から考え直す。そういった作業をずっと繰り返している。彼女にとって、農騎兵の言った「自分たちは役に立たない」という発言はお門違いに思える。これから起こる現実を見ておらずその時にどう行動するかは想像するまでもなかった。だからこそ焦っているのである。
「ふふ、前の騎士団の時はこのようなことは考えもしなかったのに。今回は難関ですね」
何から生まれた笑みかはわからなかったがとりあえず笑った。それが聞こえてかドアからノックが聞こえる。
「団長、ローレです」
「ローレ?このような時間にどうしましたか?」
ローレは砦には住んでおらず、基本的には研究所で寝泊まりする生活を送っている。そんな彼女がこのような時間に何故現れたのか。ユッタはドアを開けて迎え入れた。
「団長ぉ~、ぎゅうううう」
ローレは子供のようにユッタに抱き着いて甘えてきた。一向に離そうとせず考え事をしているユッタは迷惑がりながらも頭をさすりなだめながら廊下に追いやった。タイミングの悪いことに、今日は先約がいるのだ。
「ローレ、少し考え事をしたいので一人にさせてください」
「それは無理よ団長。私が退いてもきっとアマーリア様は退いてはくれないわ」
ローレの向ける視線の先にはアマーリアが布団をもって待機している姿があった。アマーリアはしまったと言わんばかりに廊下に追いやられぬよう強引に部屋に侵入する。それをユッタは抵抗なく入れた理由は、彼女が先約だからである。
「私はここで寝るよユッタ!君がなんと言おうとだ!」
「ええ、どうぞ好きなところで寝てくださいお姉さま」
「何でよ!?アマーリア様が良くて私が駄目なんて不公平だわ!」
ローレも力づくで部屋に入ろうとするが、相撲を取るかのようにユッタは部屋にはいれなかった。これには理由がある。それは一度は気の迷いで受け入れてしまった農騎兵含む騎士団団長という職に就いたことをアマーリアに伝えたかったのだ。アマーリアは呼ばなくても必ず妹のユッタのところに訪れる。ならばこうやって対面で会話も可能なのだが・・・イレギュラーは憑き物だ。
「不公平、不公平よ!」
一歩も退かないローレに悪戦苦闘するユッタは冷汗をかいている気分だった。というのもローレにそれを伝えれば、それでまたひと悶着あると考えていたからだ。それにカロリーネが加われば、一夜ではどうすることもできない。
「いいじゃないかユッタ、何も姉妹積もる話をする訳じゃないんだから」
何も知らないアマーリアは暢気にローレを招待した。それを合図にローレは隙をついて部屋に押し入り、鎮座して不動の構えを見せる。
「こら!ローレ!」
「団長、これはアマーリア様から許可をいただいて入ったのだから正当な理由あってのことよ!」
「まったく・・・しょうがありません。貴方もよく聞きなさい」
「なんだいユッタ?何か相談かな?」
最後は騎士道を往くユッタの覚悟がそうしたのか、それとも切腹する覚悟で言ったのかはわからないがユッタは告白した。その結果は想像など遥かに超える壮絶なものだった。ローレは一瞬目を輝かせユッタ騎士団の復活を祝おうとした矢先、ただならない瘴気のようなまがまがしい雰囲気をアマーリアから感じ取った。
「・・・なんで、私にすぐ言わなかったんだい?」
「はうううう」
言うまでもないくアマーリアは怒っていた。ムカチャッカファイアーとかボルケーノとかという生易しい次元ではなく。ぐうの音の出ないユッタは息を漏らすような声しか出せなかった。
「ユッタ、こっちを見て話してよ」
「は、はいいい」
「だ、団長がこんなに大人しいなんて・・・」
初めて見るユッタの姿にローレは驚きを隠せなかったが、重い雰囲気に逃げ出すこともできないでいた。
「ユッタ、私があえて君に軍の役職を与えなかったのは認めよう。君を晴馬の警護のような役割にしたことも事実だ。そうすれば必要最小限の危険で済むだろうと思ったからね。少なくとも、君の能力下で事態を収拾できると思ったからだよ」
「は、はい」
髪を逆立てて怒るアマーリアにどう弁明すればいいか、ユッタは其ればかり考えて頭を下げていた。すると床にいくつかの水滴があるのに気が付き。頭を上げるとアマーリアがこぼしていた涙だとわかった。
「私は嫌なんだよ・・・もう一度、君を失うなんて」
アマーリアは悲痛の目でユッタを見つめている。それは遠い過去のユッタを投影しているように懐かしみ、この組織の誰にも見せたことも無い涙を惜しみなく零した。
「お、お姉さま」
「ごめん、柄でもないんだけど」
アマーリアは素直に謝った。
「君を私の陰謀に巻き込んだ時点で、いつかはこうなるだろうとは考えていたよ。ユッタは本当に忠義者だから」
忠義者。ユッタが騎士団にこだわるのは自分が過去に騎士団長だったからという理由だけではない。それ以外に姉であるアマーリアに尽くしたことがない。他の方法で奉公するやり方を一切知らないことも理由であった。
「わ、私は役に立ちたかったんです。晴馬やローレのように何か特別なものを作れるわけでもないですが。それでも騎士団であれば役に立てると・・・すいません、軽率でした」
言い訳がましいとユッタが感じているのをローレは悟り、立ち上がって抗議した。
「何をそんなに卑下しているの団長!貴方が役立たずだった時なんて一度だってなかったじゃない!」
「ローレ・・・」
「私は貴方と最初にあったときから一度だって不信を感じたことはないわ!腐れ病になろうが躰を失おうが私にはあなたが全てよ!」
ローレはきっとアマーリアを睨んだ。何を理由にそのようなことをしたのはわからないが、確かににらんだのである。
「アマーリア様、私からもお願いです。団長をもう一度騎士団長に任命してください!」
「・・・」
「今彼女の力が必要なのは間違いないがいないはずです!」
「・・・うるさいな」
アマーリアの意外な言葉は憤怒としか言えない、重苦しい雰囲気を殺気立たせたような言葉で青白い閃光を身にまとい始めた。ガーディナルであるアマーリアが起こした事態にユッタとローレは震撼した。何か、よからぬものを呼び寄せている気がしたからだ。それはすぐにわかった。どこからともなく巨大な魔法陣が部屋の床に現れ、アマーリアを沈ませるように引き入れたからである。
「駄目、アマーリア様!」
それを防ぐようにローレが沈むアマーリアを引き出す。一瞬の気のゆるみが起きようものならばまた引きずられそうなほど強力だ。
「ローレ、これは!」
「モンスターじゃない何かを呼び出そうとしている!このままでは危険です!アマーリア様は命を差し出して禁忌を起こそうとしているわ!」
「お、お姉さまおやめ下さい!」
魔法陣に引き込まれるアマーリアを食い止めるべく力の限りを持って引っ張るも上手くいかない。ついにはアマーリアの腰までが沈んでしまい。取り返しのつかない段階に入るのは時間の問題だった。
「なんて力、このままでは・・・」
「団長!すぐに戻るから持ちこたえてください!何か道具を持ってきます」
ローレはそう言うと部屋を出た。それを境により重みを増すアマーリアの体をちからいっぱい支えるユッタはひどく疲労していた。
「お、お姉さま、そこまでお怒りだったのですか?」
「・・・」
「私の行動がそれほどまでに追い詰めてしまったのでしょうか?」
ユッタは自責の念を感じ自分を恥じた。アマーリアを悲しませたこともそうなのが、なぜアマーリアが強く悲しんでいるのがわからなかった。それは、彼女が。
「私は、お姉さまのためだったら死ねるのに、そうやって今迄覚悟して戦ってきたんですよ?いまさら何を戸惑っているのですか」
イカレテいたからかもしれない。
「・・・ユッタのそういうところが、私にはたまらなく嫌なんだよ」
「・・・え」
ローレがひっかえ棒を持ってくるころにはすでに事は終わっていた。アマーリアは自らが発生させた魔法陣を閉じ疲弊した体でユッタに体を預けていた。それがまるでユッタが引き出すのに成功したかのように見えて勘違いしたローレは称賛した。
「さすが団長ね!」
ただ、ユッタの顔を見たときにその異変に気付いた。ユッタはひどい動悸と困惑した顔でアマーリアを見ていたからだ。それがあまりにも迫真だったのでアマーリアが息を引き取ったのかと思いローレが確認するほどだった。勿論死んでなどいない。となればいったい何がユッタを苦しめているのか、ローレは思考回路を可能な限り働かせるが答えが出ない。
「だ、団長どうかしたんですか?」
「・・・いえ、とりあえずお姉さまを寝かせましょう」
気を失ったアマーリアを寝かした後もユッタの目は半分死んでいた。そのまま椅子に座って打ちひしがれているユッタの状況を見かねたローレはユッタに尋ねた。
「何か、嫌なことでもあったんですか?」
「・・・私には分かりません。なぜお姉さまが私の行動を否定したのか」
強いストレスを感じているユッタを分析したローレは何度か頷く。
「何かアマーリア様に言われましたか?私が相談に乗ります」
少し間をおいてユッタは首を横に振った。話すことなんかないと言いたいようだがそれで引き下がるローレではない。あの手この手でユッタから聞き出そうと努力をし、聞き出そうと必死になったが、最後に非常に簡単な方法を思いついた。
「私これでもパラディンよ?能力ぐらいわかりますよね」
「・・・!無理やり言わせるつもりですか!?」
「勘違いしないでください。私だっていやよ、でも団長のそんな顔はもっといや。だからせめて何か聞かせてください」
ローレの真摯なまなざしがユッタに響いたのか。表情を少し変えイラついたような顔で渋々ユッタは口を開いた。
「お姉さまが、私がお姉さまのためならば死ねるといったら否定なさって・・・」
「何故?団長は今までずっとアマーリア様のために戦って来たのになぜ今になって」
「私にはよく・・・ただ、最後に私の何かを拒否していた、それだけはわかりました」
ユッタのうつむく表情にローレはアマーリアに疑問を感じた。なぜここまでできた妹に対して拒否をするのだろうか?ユッタのどこが気に入らないのか。過去のユッタの功績からしてもアマーリアに何か汚点になるような事は一切していない。それでもいやということは何か姉妹間の問題なのではないかと感じるような気がした。
「嫌われてしまったらどうしよう・・・」
「な、何を弱気なことを言っているの団長、アマーリア様が団長を嫌う理由はないわ」
「いいえ、私は此度の農騎兵騎士団の件でもあまりうまくいっていないし、お姉さまはその失態を責めているのかもしれません」
「それはさっき知ったことだし関係ない気が・・・」
余計な想像が不安を生みどんどん意気消沈していくユッタにローレは余計に焦った。もはや彼女の言葉は参考にならないと判断し自分で考え始めた。そして非常にそれが功を奏してか非常に簡単な回答が出た。というよりも、何故今迄自分は気づけなかったか不思議に思うような回答だ。
「単純に団長には死んでほしくないからそう言ったんじゃないかしら?」
「・・・え?」
確かにユッタは言った。姉のためなら死ねると、そしてその言葉を聞いた後に拒否の行動をしたというならば死んでほしくないという酷く単純な理屈だった。しかしそれはユッタにとっては禁句に近い文言だったようで、何かに刺されたかと思うほどショックを受けていた。あまりのショックに椅子からコケ落ちてしまい。慌ててローレが起こし上げる。
「わ、私は命をささげるといっただけで、何も他意で自殺するとは言っていません」
「そ、そうだと思うけど。それでもアマーリア様は命を差し出しても嬉しくないから嫌がったわけだし・・・」
「騎士道に生きる者がそんなこといまさら言われても、何故?お姉さまは私の武功が気に入らないのでしょうか?」
武功とは戦績のことであり戦闘のみならず行動その他を含めることが出来る。つまるところ総合評価を指しているわけだが。武功となる背景、つまり過去を分かっていないと理解することが出来ない。それを知ってかローレはすぐに首を振った、つまり悪い評価ではないということだ。
「だ、だからそういうのじゃなくて。なんというか、その、アマーリア様は団長を騎士である前に妹として見ているってことよ!」
なかなか踏ん切りのつかない言い方でローレは言った。それは、階級を主軸として考えたときに困惑するような主観だったからだ。幼少期ならまだしも成人して家の人間として働くというのであれば、その役職を全うするのは半ば当たり前であるという感情がローレにもユッタにも根付いていた。だからこそアマーリアの考えが少しばかり「子供じみている」と思ったのだ。
「そんな私は確かにアマーリア・ブルクスラー家の次女ではありますがもう大人なのに・・・」
「そうね、そんな風に見ているのはアマーリア様かハルマくらいなものよ」
ハルマ、ユッタは反応した。晴馬は確かにkの世界の住人ではないため変わったことを言う男だった。食事にはフォークとナイフであったしカロリーネのたばこを嫌っていた。学は多少あるにも関わらず教養や礼儀が足りず、同じ年代の人間よりも酷く幼く見えた印象がある。そんな彼がアマーリアに何か良からぬことを吹き込んだのではないか。
「でもね、団長。信じられないけど私も最近そう考えるときがあるの」
「何を言っているのですかローレ?ではあなたは私のために死を賭して戦えと言われたら拒否するというのですか?」
「そ、それはありません団長!でも、騎士団長の命だから従うのではなく貴方だから従うの!理屈はわからないけど、最近そう考える自分がいるのよ」
ローレは半ば混乱したような言い方で釈明した。彼女たちの混乱の原因は今まで信じてきたものと、新しく生まれた『何か』に挟まれた感情であった。それがうまく表現できないローレは頭を抱えてしまった。
「理屈はわかっているの、この国、アマーリア様が行った身分階級の撤廃によって信じる者。そして国という組織の成り立ちは大きく変わったでしょ?それが影響を及ぼしているのよ」
「つまり、貴方は何を言いたいのですか?」
「私たちは、戦う理由を改めなければならないのよ。誰かのためではない、自分の信じる何かのために」
ローレはその時、何かが瓦解するのを感じていた。それが何だったのかはわからないが確かに今までどこの世界、国、そしてその中で細分化されていた意識であることがはっきりと分かった。しがらみなのか、それとも違う何かなのか。それを理解するのはまだ未来の話なのだろう。だからこそ、ユッタは余計に混乱したのだ。
「・・・農騎兵も同じ気持ちだったのでしょうか?我々のように戦う理由を失って、昔気質の性質が抜け出せなかったのでしょうか?」
彼女達の言う昔とは封建制の時代の産物で間違いないだろう。主君のために戦い、そして主君の褒美で生かす。冷静に考えればそれはどこでも充分に見渡すことのできる事だ。ただ、現在と過去で違うのは祖の忠義する相手である。彼女たちが真に忠義を働くべき相手は国家であり、中央集権化した主権国家という理想像だ。それは人ではなく機能というものを信じなければならないというもので、それが過去とかけ離れすぎていて不安でたまらないのだろう。
「・・・やれやれ、君たちはまだそんなことでうだうだしているのかな?」
アマーリアの突発的な声にユッタたちは驚いた。彼女は今だ蒼白な顔つきであったが意識をもうろうとしながらも気は確かなようだ。
「お姉さま!目覚めておられたのですか」
「君たちの討論あたりからね、でも、おかげでいい感じに聞こえてきたよ」
アマーリアの声はいつになく透き通った感じだった。というよりも気弱なくこうであったと言っても過言ではないだろう。今だベットで横たわっている彼女の姿は病床の者その者で、それ故に余計臆病に見える。
「お姉さま、どうか教えてください。貴方はなぜ私を否定なさったのですか?」
ユッタは悲痛の限りをぶつけていたが、それは今迄のものとは違い。理解に苦しむ、もっと言えばよくわからないことをどうにか表現しようとしていた結果であることは明白であった。
「う~ん、それはこの国を好きになってほしいからかな」
アマーリアはニマリと笑って答えた。
「アマーリア様、それはどういう意味ですか?」
「愛国心だよ、君たちは何か、人のために戦っているように思えてならないけどここではもう違うんだ。ここではこの土地を守るために、文化を法をそして自分たちが住みやすくするために戦うんだ」
アマーリアの言うことはかなりの難題であり、ローレもユッタもよくはわからなかった。
「?」
「?」
「かなり混乱しているね、それならこう考えるのはどうだろう?ユッタ、君は今迄何のために戦ってきたんだい?」
「それはもちろんお姉さまのためです!」
「それは私が領主であったからかい?」
「いいえ、一重にお姉様についていこうと思ったからです!」
「なら私が平民なら、君はどうするつもりかな?」
勿論ついていく、そう言おうとしたユッタの口が突然止まった。平民が騎士を雇う理由がないからである。というよりも貴族でも無いのに雇う事は原則不可能だ。
「その時は・・・」
「君知っているかい?今君を部下にしている私はこの国では平民なんだよ?」
「ええ!?」
「そりゃあそうさ、私は身分制度の撤廃をしたんだから皆等しく平民なのは当たり前のことさ」
「でも、お姉さまはこの国の指導者ではありませんか」
「でも貴族じゃない、貴族じゃないからこの国の指導者は世襲しないし誰でもなれる。いいや、指導者だけではなくこの国の役職という役職は皆誰がなってもいいんだよ。それだけでじゃない、もし私が汚職を働いた場合、この国ではすぐにクビになる。それはこの国の議会は弾劾裁判を行う権利を得ているからさ」
「な、ななななな!」
「それが民主政治というものさ、つまり、私はもし国民から信用を得られなくなった時点で首になるということだね」
アマーリアはうんうんと頷いて納得しているようだが、それはユッタには驚愕していた。それは何がどうあってもあり得ない事であった。それもそのはずだ、貴族であった時のアマーリアは国が亡ぶか、それともアマーリアが死ぬかのどちらかが絡まない限りは貴族として領主としての地位は保障されていた。それが今となっては真反対ではないか。
「君が感じているような私はもういない。だから改めて問いたいんだユッタ、君は本当に私についていくのか、過去の私と決別して今の私を信じることが出来るのか」
その時、アマーリアが否定した意味がユッタにもようやくわかった。貴族として今までふるまっていたアマーリアはもういない。今までの過去でいたアマーリアはどこの隅々を探してももういないのだ。しかも、貴族でないということは没落、否、反乱軍の首謀者のアマーリアならばさらに不名誉に見て取ることもできた。それが何か、ユッタの信じてきたものに対して違和感を生んだのだ。
「しかし今の私は、過去の私と違って君に良いものを渡せるよ、それは自由だ」
「自由?」
アマーリアは頷いた。
「信教の自由、教育の自由、結婚の自由、住居、職業、選挙・・・・保障するものは決して多くはないが、それでも広げている。君たちは感じないか?」
「な、何をですか?」
「過去の風習から解き放たれたいまの瞬間をだよ、君たちは今まで何に縛られてきた?この世になぜ結婚できない王がいる、重い重税を払っているはずなのに何故それらで町は発展しない?なぜ狩りをする事が貴族の特権なんだ?誰が決めた、何故決めたそんなことを言われる筋合いはあるのか?無い!王が人を虐げる正統性も市民が常に口を閉ざす必要もどこにもないんだよ!」
アマーリアは大きく手を広げてアピールする。
「神はなぜ必要以上に我々を制約するのか、それを言い放ったのは神ではなく人間だというのに不合理だ!どこの世界に人の不幸を喜ぶ神がいる?それはすべて特権階級の作りだした言いがかりだ!」
アマーリアは大きくこぶしを掲げた。それをユッタたちはただ茫然と眺めているとアマーリアからのウィンクが来た。
「君たちも謳うんだ、自由の咆哮を」
「へ?」
ローレの抜けた声が出る。
「君たちも世の不道理を上げてみるんだ!大丈夫、ここではそれをとがめる者はいないよ。科学者のローレ!君からも言ってみなよ」
ローレはアマーリアに指名され、あたふたとしながらも必死に考えた。
「え、えーと。な、何で研究と宗教が関係あるのよ!知識探求に神は必要ないわ!」
「他には?」
「え、ええいヤケよ!何で科学者は王様の命の物を作らなきゃ殺されるわけ!?そんなの作れるかどうかなんてやって見なきゃわかんないでしょ!あと学会、何で王様メインで物事決めてんのよ、土俵が違うくせに茶々をいれるんじゃないわよ!」
半ば雄叫びじみた不平不満が噴火するようにローレの口から出てきた。その声が大きく、またユッタの部屋の窓が開いていることが災いしてか、外のものにもよく聞こえた。それを聞いてかたまたま通りがかっていた科学者や共通の不満を感じる者たちが砦に集まりだした。
「その通りですぞローレ所長!我々の探求に仇なすものは道理のみと相場が決まっていますぞー!」
「え?えええええ!何で窓があいてるのよ!っていうか、聞かれたの?あぁ~大声出しちゃった。」
事を知ったローレは赤面したが、それよりも不満を持った者たちの数に驚愕していた。まるでアリの行進かと思うような数で城を囲っている市民たちはすぐにでもデモに移行しようものならば悪党は今日で店じまいだと思うような圧巻さである。そのうえ巻き上がる声たるや誰が何を言っているのかわからないお祭り騒ぎとなって混乱を招く危険性があった。しかも聞けば何も国だけではない、アマーリアたちに対する不満も論争の種として吹き出ているのだ。
「ちょちょちょ、何よこの数!いくらなんでも集まり過ぎよ!」
窓から見ているローレは放心状態
「それほど皆不満で満ち足りていたという事さ。ユッタ、君はどうだい?」
街の大騒ぎを見ながらアマーリアはユッタに問いかけた。ユッタは先ほどから酒に酔っているかのようにくらくらしていた。
「わ、私はありません」
「貴族でもない私に騎士としてついていくのにかい?」
まるでユッタの心内を知っているかのようにアマーリアはしたり顔を見せた。それにユッタは悶えて答える。
「わわわ、私はお姉さまについていくことが至上の歓びなのです!ほかには必要・・・う~!」
何かのどに小骨を詰まらせたような反応にアマーリアは笑った。ユッタは自分が確かにアマーリアに不満を感じているが、そのことを自分で恥じて悶えているのだと知っているからだ。本当によくできた妹だと頭をなでる。
「大丈夫さ、人間なら不満を持つことは当り前さ」
「で、でも・・・」
「おいおい、君はひょっとしてまだ伯爵であった私を見ているのかな?もう身分も何も無いただの姉妹なんだから心配しなくて良いんだよ?」
その時に、同じ人間でったアマーリアを別人であるかのようにユッタは感じた。アマーリアを主君であり伯爵家の当主として見ていた過去がほころび、なんでもない幼少期から一緒のアマーリアの姿が浮かんだのだ。ローレが言った騎士団長のユッタの話も、この時はっきりくわかった。
「私は、お、お姉ちゃんといられればそれで十分幸せです」
「・・・キュン!」
「だから急にそういうふうに言われるのは心外です!」
「きゅ~~~~~ん!そうかユッタ!なら一緒にどこまでもいるからね!」
頬から汗が流れるほど真剣に言ったユッタの告白にアマーリアは人目も憚らずほおずりした。はたからみればカオスな状況だった。ヴィンセントが駆けつけて片づけるまでの間この謎めいた宴は続き、熱が冷めたころには夜明けが近づいていた。
「俺からは以上だ。いいかアマーリア、金輪際こんな国家指導者としてあるまじき行為は二度と行わないように」
「う、うん。わかったよ」
「ハイだろうがァ!」
「ハイ!」
夜明けと共に終わったヴィンセントの怒号の心身ともに疲れたアマーリア、ローレ、ユッタは皆寝床へと足を運んだ。ユッタはひどい目にあったと思う反面、農騎兵への手土産を確かに手に入れたと確信した、




