56 得るべきもの
「俺の考えは以上だ」
一連の説明をユッタとアマーリアにしたのちに是非を問うヴィンセントだっただが、ふたりはあまり納得していないように見えた。
「念のために言っておくが、これは俺一人が考えたわけじゃない。あくまで軍で協議した結論を説明しているんだ」
「は、はぁ」
「・・・本当にそのような方針を取られるのですか?」
ユッタがまず不服を述べた。彼女はふくれっ面で異議を申し立てる。
「騎兵にそのような武器が果たして必要でしょうか・・・大体取り回しから考えたって必要ないように思えます」
「まさか、確かに新しい戦法だから不安があるのはわかる。しかし俺たちには『その武器』をそろえられる能力があるんだから使わないてはないだろう?」
ヴィンセントの構想では騎兵はかなり飛躍した活躍が期待できると考えていた。しかしアマーリアにはそうは思えないらしく不平不満を漏らす姿が散漫する。
「一番の不安は武器の選択にあるのではありません、防御の鎧を胸と兜に限定することにあるんです」
「それもしっかり考えてのことだ。今回騎士はより機動力を確保するために軽量化せざるを得ないんだ」
「それでは軽騎兵ではないですか!我々はお姉さまが領主であった時より維持してきた重騎兵の装備があるのにわざわざ取り外す必要があるんですか?」
ヴィンセントはなかなかユッタの了解を得れず頭を悩ませた。彼女の理想の騎士を再現しては数に勝る敵には適わないと知っているからだ。
「安心してくれ、俺は負け戦は今の今まで一回しかしていない。なにも負けるためにこんなことを言っているわけじゃないんだ。俺の言う通りにしてくれれば決して損はさせない。今回はいうことを聞いてくれ」
「・・・うーん」
ヴィンセントの嘆願にユッタは決して賛成しているわけではなさそうだが、最後は折れて了承せざるを得なくなった。彼女の了承を得たことにより安堵したヴィンセントは今度は自身の上司であるアマーリアに視線を向けた。彼女の了承が通れば正式に事を進めることが出来る。逆に得られなければいちから練り直さなければならない。いうなればここが正念場ということだ。
「しかし本当にユーヒリアからの援軍は呼ばなくていいのかい?」
今度はアマーリアから苦言が来た。
「資金援助だけ、確かにそれだけで済めばユーヒリアは喜んで了解するとは思う。しかし軍事同盟を結んでいる以上援軍を要請することは難しくないはずだよ?」
「いや、彼らは援軍は派遣しないはずだアマーリア、彼らにとって我々は有事の味方としてはありがたいが援軍を送るにしては依然として価値はない。だから資金援助まで引き出せば充分なんだ、何分我々の軍隊は相当な規模のものになるからな」
「だがその資金援助のほとんどが軍の編成に消えるなんて、そもそも動員する人間はそんなにいるのかな?」
「ウーダンカーク傭兵団を引き揚げさせればそれなりのの数になるがそれでも後3000は欲しい、いや、敵を考えれば余計に必要だ」
アマーリアは苦悩した。それではウーダンカークの、いや、この地域の住民の何割を兵員として動員しなければならないのかと不安に陥ったのである。あまりに数が多いと町や村、ひいては社会そのものの維持が困難になる。労働人口がそっくりそのまま減るのだから当たり前だ。
「だからアマーリア、どうかモンスターを兵士として呼び寄せてくれ、全能のガーディナルであるお前ならば難しい話ではないだろう?」
ヴィンセントは期待のまなざしでアマーリアを見る。
「アマーリア、このウーダンカークを占拠した時のようにもう一度モンスターの大軍を動員できるか?モンスターの力があれば大助かりなんだが」
「おいおいヴィンセント、私はグリーフラントで名高い全能のガーディナルでありこの国の国家元首だ。国の有事にただ座っているわけにはいかないだろう?」
「なら、協力してくれるんだな」
アマーリアは頷いた。ヴィンセントは安堵する。この国のトップであるアマーリアから了承を得られたという点でもそうだがガーディナルからの了承として考えたときにその期待の大きさはかなりのものになることだろう。
「えーっと、どこだったかな?」
アマーリアは戸棚の本を物色し始めた。やがて、一冊の黒魔術でもやるかというような異様な本を見つけ出し、ヴィンセントたちのところへ持ってくる。
「おいおい、いきなりなんだよ?」
「ヴィンセント、ガーディナルの仕事を見たことはあるかな?」
突然の質問ではあったが、ヴィンセントは横に首を振る。
「戦の時にモンスターを見たことはあるが、直接見たことはないな」
「うん、ガーディナルは戦の時モンスターの集団の中にいるから見えないんだ。だけど戦の時以外だったら仕事ぶりを見れる事がある。それはモンスターの集会の時さ」
「集会?」
ヴィンセントにわかるようアマーリアは版図に書かれた×印を指さした。
「君が最もわかりやすく、そして率直にモンスターの数を知りたいのなら集会に行くことをお勧めするよ、そうすれば大体の数も分かるだろうしね」
「待てよ、集会ってなんだ?」
「簡単に言えばその地域のモンスターの会議さ、彼らは他種族とテリトリーなどを決めるとき集まって種族間の交渉を行う、その時にすべてに審判を下すのはここでは私が執り行っているんだよ」
「お前がそんなことをしているのは見たことないぞ」
ヴィンセントの言葉を心外だと思ったのか、アマーリアは執務室にある鳥かごをヴィンセント見せた。鳥かごの中には蒼い炎をまとった鳥がヴィンセントの身上を見透かすかのように見つめていた。
「キューちゃん」
「きゅー」
「ヴィンセントの誤解を解いてくれ」
「ヴィンセントの誤解を解いてくれ」
燃える鳥はアマーリアの言った通りに言葉を紡いだ。また、その間に炎を数種類の色に変えてヴィンセントに何かをアピールしている。ヴィンセントには何を伝えたかったのかわからなかったが、少なくともこれはコミュニケーションなのだろうと理解した。
「この鳥はキューちゃん、モンスターが調停を求めるときに私のところに送られてくるんだ。私はキューちゃんに言葉を吹き込んで調停をするんだよ」
「はぁ、こいつがそんなことを?にわかには・・・信じるしかないみたいだけどよ」
「大丈夫さヴィンセント、今信じれなくても実際の集会を見ればすぐにわかる」
そう言ったのちにアマーリアは再びキューちゃんに何かを語り掛けていた。しかし今度はよくわからない、恐らくはモンスターの言葉を伝えると途端にキューちゃんはすぐさま飛び立って窓から出て行ってしまった。それをヴィンセントは不思議そうに見ながら再びアマーリアに視線を戻す。
「既に場所はわかっていることだし、集会に行くとしようじゃないか。今回はここに開催するよう伝えておいたよ」
「ここって、どこだよ?」
「ウーダンカークさ」
「おいおいここか?」
少し呆れたような口ぶりでヴィンセントは言った。アマーリアは不思議に思ったのか首をかしげる。
「何か都合の悪いことでもあるのかな?」
「大いにあるぞ、民が怯えるだろ?」
「ヴィンセント、これから戦う同胞を怯えるなんてあんまりだよ」
今度はアマーリアが呆れた声を出した。
「モンスターに善し悪しがあるのは人間と同じさ、君はモンスターを『利用』して戦おうと考えるからそう思うのであって『協力』して戦おうと思ったら相手の顔ぐらい見ようと思うはずだよ」
「利用するのは当たり前だろ?今回の作戦にも人間とモンスターが連携して戦う構想はない。モンスターは独自の指揮系統で行動して人間とは別に動くべきだ」
「私はそういう考え方じゃ嫌いなんだ、君たちとは話せないだけで彼らにも感情がある。絶対に嫌がるにきまっているじゃないか」
ヴィンセントはアマーリアの感性に混乱するが、再び地図を使ってアマーリアに説明をした。その説明には確かにモンスターの布陣は人間の場所から離されており敵の船の破壊や常に最前線においての過酷な場所を担当することで人間側の被害を最小限に抑えるようになっていた。
「だから、私はモンスターを利用するのは嫌いだと言っているじゃないか」
アマーリアがむすっとし始めヴィンセントは困惑した。まさかここまで来てそんなことを言い出すとは思っていなかった。それから再度のその作戦のモンスターの行動に対する有益性を論じても彼女は一度も首を縦には振らず、アマーリアはむしろ連携のとれた作戦を提言するようになった。
「待てよ!ウーダンカークを占拠するときみたいに行動すればいいんだぞ、それをなぜそこまで嫌がるんだ!?」
「あの時は街を占拠する都合上モンスターに包囲させるだけで終わったからいいい、でも今回は其れとは質の違う本当の戦場だよ?何で危険な場所ばかり選ばせるんだ!」
アマーリアがここまで怒るのは珍しい、だが何にそこまで怒っているのかヴィンセントは頭を悩ませる。いや、彼女が何に怒っているのかは分かっている。いうまでもなくモンスターの扱いについてだ。だがそれががわからない。なぜモンスターにそこまでかんじょうをいれるのかがわからないのだ。
「今迄見てきたどのガーディナルもモンスターをしもべとしてよく飼いならしていた。お前には難しいていうのか?いいや、それはないだろう。なのになぜそこまで拒否するんだ?」
「飼いならすのは主義じゃないんだよ私は、是非モンスターを知ってほしいんだ」
知ってほしいというのは理解してほしいということだろうか?それとも交流してありのまま姿を見てほしいのか。
「言葉も通じない、文化も違う、それなのにどうやって知れというんだ」
「それを知りたいならば今回の集会は有意義なものになる。ヴィンセント、なぜ彼らが自分たちとは無関係の戦いに参加するのか疑問に持つべきだ」
その日の晩のウーダンカーク程物騒な街はなかっただろう。市民の誰もが戸を閉じ、道は空き、明かりといえば兵士たちが持つ松明かアマーリアのいる砦の明かりのみというあたかもこれから魔女狩りを行うかのような様相だった。アマーリアは非常に不機嫌だった。せっかく呼んでやったのにまるで歓迎していないではないかと態度で表し、隣のヴィンセントの靴を蹴って抗議した。
「大抵こんなもんだろ、モンスターの大軍が来るっていえばだれでもそうする」
「しかしこれはオーバーだよ、私の能力を信用していないんじゃないか?」
「求心力の見せ所だな」
ヴィンセントはそう苦笑いするも、彼の秘書であるナゴに筆を持たせていることから高い期待をしていることが分かった。彼にとっては待ち焦がれた瞬間であった、実際にどれほどの軍勢をかき集められるのか分からなかった彼にとってはそれを分析する貴重な機会であったのだ。
「アマーリア、できるだけ派手にやらないように街の外に集めるんだ」
ただ、ヴィンセントは同時に懸念も抱いてはいた。町がパニックにならないかどうか怪しかったからだ。それは配下にも伝わっており街の所かしくに兵士という兵士が集められており市民を避難させ、いつ戦闘が起きてもいいように完全武装で警備につく。それでも足りないというところはウーダンカークの傭兵団がマスケットをもって戦に備えて土嚢を積ンでいるところもあった。
「何故だい?君だって数が知りたいと言っていたじゃないか」
「民衆が不安がっている、あまり困らせてはだめだ」
「そんなことはしないよ、それよりも今回はここら辺の半数の種族の代表が集まるはずだよ、一様言っておくけど彼らは決して野蛮ではない知性と格式ある種族だ。それ相応の礼儀を忘れなようにするんだ」
「はいはい、ま、連中の出方次第だがな」
その時だった、急に温かい風が街にふっと入ってきたのを誰もが感じた。決して嫌な不吉な風ではなく、どこか人為的で情緒を感じられるものであった。街や砦の門を警備していた近衛兵の誰もが槍先をどこに指すか迷い、街の外をパトロールしていた騎士団であったローレたちは敵意を感じないことに驚き、そしてアマーリアの隣でユッタは久しく会っていなかった友人に会うような高揚した気分になった。
「来ましたね、お姉さま」
「ここらの彼らも、前の領土の時のように人懐っこい奴らだ。非礼のないようにするんだよユッタ」
「ええ、そうするつもりです」
まず初めに起こった異変は街の地面からだった。凹っと、突起が現れたと思えばそこから手が現れ、たちまち数十に及ぶ爬虫類の鱗に覆われた者たちが姿を現した。皆そろってがたいがよく、大きく開けた黄色い目で当たりをきょろきょろしている。
「彼らはリーザードだ。トカゲ人間とでも呼ぶべきか」
やがて地響きが聞こえたかと思うと、まるで鉄塔を見るかのような高さの一つ目の種族が現れる。彼らは街を壊さぬよう器用に道を歩きながらアマーリアのところへと向かって来た。その数こそ少なかったが、あのような巨人が十数を超えて歩けば、街の石畳はひとたまりも無かっただろう。
「サイクロプス、ヴィンセントも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
「あ、ああ、騎士5名に相当する力を持つという奴らだな」
サイクロプスを初めてみたヴィンセントは開いた口がふさがらなかった。だが、それで終わりではない。ナゴの筆が落ちるのと同時にそれを拾うものが現れた。ナゴはその拾い主を見てぎょっとした。緑の皮膚、痩せた肩、そして何よりひどい匂いのするぼろい服。一見すればそれは子供の乞食をさらにひどくしたような様相だった。
「か、閣下!砦に侵入者が!」
「侵入者ではないよナゴ、ゴブリンは私が招いた客人だ」
「だ、そうだぞナゴ、丁重にもてなせ・・・うわー!なんだこの数!」
冷静に言ったヴィンセントだったがすぐに化けの皮が剥げて大層驚いた。小人達はなにもゴブリンだけではない。ノーム、グレムリンといった者から精霊に至るまで部屋に溢れて砦や街のあちこちで兵士や騎士の悲鳴が上がった。皆ここお化け屋敷のように見えたのか余計に気味悪がっていた。
「怯えなくてもいい、彼らに敵意はない。じゃなかったら私がここまで好き放題指せるわけがないじゃないか」
アマーリアが諭すもそれどころではないヴィンセントはただ硬直するほかなかった。
「アマーリア!俺は決めたぞ!今後この集会は絶対に都市や集落でやってはだめだ!人々の混乱につながるぞ!」
「それは理解力が足りていないだけだよ、邪険にせずしっかりと見つめなおせばそう悪いようには見えないさ。ユッタを見てごらん」
慌てるヴィンセントとは別にユッタはサイクロプスや他の種族ととても慣れた手つきで交流していた。いうまでもなく彼女はパラディンであって決してガーディナルではない、それ故にモンスターと話すことは決してできない。にもかかわらず隔たりを感じさせない凛とした対応をそつなくこなし、向こうにしてもそれが何一つ不快に感じない事が見て取れた。
「ユッタ、お前慣れてるな」
ただ、それは常人には酷く悪目立ちするもので、ヴィンセントは苦笑するだけだった。
「ええ、たいていこういう時はこうするものです」
こういう時と言われても、ヴィンセントには経験のないことであり苦心の表情を出す。現に顔の周りを妖精が舞っている今ですら満足に手を触れないほどに彼の中では緊迫していた。それは未知との遭遇と言って良いだろう。相手が知性的で、何を考え、何を求めているのかがわからないのではどうすることもできない。
「ヴィンセント、戦でモンスターと会ったことぐらいあるだろう?」
「ああ、だけど話したことは・・・」
「君の不安がモンスターにも伝わっている、もっとはにかんで」
アマーリアはヴィンセントにはにかんだ。会釈をしてヴィンセントは再び名も知れないゴブリンに視線を戻し、精いっぱいの努力ではにかんだ。
「よ、よお」
「イヒヒヒ」
不気味だ。ヴィンセントの顔はすぐに歪み、嫌悪感を隠すのに必死になりつつある。冷静に考えれば当然のことじゃないか、モンスターを戦に使うことはあっても主力部隊として使ったためしは一度だってない。その理由はこれだ、話が通じないからだ。彼らとは話が通じない。我ながらなんて馬鹿な事を考えたんだろうとヴィンセントは鼻で笑った。
「ヴィンセント」
アマーリアは少し悲しい顔をした。ヴィンセントは冷めた目付きでモンスターを見るとアマーリアの元に近寄る。
「無理だアマーリア、モンスターは利用はできても協力はできない」
「どうしてそう思う、ユッタはすでに仲良くしているじゃないか?」
「だが他の奴は?お前の騎士団ですら混乱しているんじゃないか。街の兵士たちを見てみろ、剣先や銃口を向けているやつがちらほらいるぞ」
図星と言わんばかりに馬の闊歩する音が聞こえた。騎士が網をもって小人たちを捕まえようとし、街から追い出そうとしている姿がちらほら見える。勿論、アマーリアがモンスターを呼び寄せることは事前に知っていたし敵意が無いと説明もうけた、だが彼らは耳から聞いても体にはしみ込ませてはいなかった。もっと言えばアマーリアの言葉を信じていなかった。
「アマーリア、怖いんだよ。だれだってモンスターが怖い。だから戦争で役に立つんじゃないか」
ヴィンセントが訴えかける恐怖は潜在意識の中にある事象だ。人が闇を踊れるように得体のしれないものは怖い、そう訴えかけるようだった。それはヴィンセントだけの話ではない。町中の人々が思っていることであり、だれもがモンスターを歓迎せず笑ってなどいなかった。アマーリアもそれを一瞥すると、余計に悲しい顔になった。
「ふう、怖いか。ならヴィンセント、不思議に思わない?」
「何がだ?」
「モンスターが人を恐れているように見えるかい?いや、もっと言えば敵意を向けているように見えるのかな」
そう言ってアマーリアが指さす精霊を見てみた。精霊の顔は困惑していて、時折おどおどと飛び跳ねている。ゴブリンたちも少しづつ距離を取りはじめ、少し不思議そうな顔でヴィンセントを見ていた。
「彼らは本当に私たちと仲良くできると思っている。それは私がこの街に呼び寄せたからそう思っているのではなく、純粋に君たちを敵としてではなく新しい友と見ているからだよ」
「だが、実際に人を襲うことだってある」
「だから言っているじゃないか、それは人でも同じ。少なくともここにいる者たちは決して人を襲わない」
その言葉を聞いたとき、街から笑い声が聞こえた。それは晴馬が建てさせた大聖堂の方からだ。遠くてよくは見えないがカンビオン達が喜びながら和気あいあいとサイクロプスと交流している姿だった。初めヴィンセントはその光景を見て同族の血がそうさせたのかと思ったが、次第にお互いがしゃべっていないところを見るとそうではないことに気づく。それは、お互いに尊敬しあっているということだ。
「あそこの都市大司教やカンビオンはガーディナルに近いものを感じるよ、初めからヴィンセントもそうすればいいんだ」
「あいつらは特別だろう?」
「特別なんかじゃない。嘘だと思うなら、まずは仲良くするする努力をしてみるんだ」
ヴィンセントの顔からは疑念が払しょくされてはいないが、彼女の言うことを理解するためブリンと再び対峙した。
「・・・」
「・・・」
ヴィンセントは頭を掻きむしり知恵の限りを絞り出そうとした。やがて、何かを思いついたかのようにゴブリンに手を差し出した。
「・・・」
「・・・クンクン」
ゴブリンがヴィンセントの手を嗅ぎ、それが終わるともう片方の手、体を嗅ぎ始めた。ヴィンセントはそれを確認すると首にかけている小袋を差し出した。
「さっき嗅いだからわかると思うが毒は持っていない」
小袋の中身は何という事はない金貨だった。ゴブリンは興味深そうに金貨を一枚掴み、それを眺める。
「ふふ、ゴブリンがそれがお守なのか聞いてきているよ」
「金貨だろ、ま、そうだよな。わかんねぇよな」
ヴィンセントがクスっと笑うと、釣られるようにゴブリンもにやけた。その顔を合図にノームやほかの小さな者たちが近寄り始める。誰もがヴィンセントの手のにおいをかぎ始めた。彼らが何を考えているのかはわからない。だが、少なくともそれがヴィンセントにとっての友好の証であり挨拶のつもりであった。それが伝わったかのようにお互いのわだかまりがほぐれ再び距離が近くなる
「ね、特別なんかじゃないんだよヴィンセント」
「・・・」
「私たちと同じさ、初めは挨拶から次に行動に移す。モンスターもそれは変わりないのさ、さぁヴィンセント、街に繰り出してみんなの誤解を解こう」
混乱を極める街の者たちにとって、その光景はさぞ異質に見えていたことだろう。兵士も、民も騎士も。誰からもそれは不思議な光景だった。それを彷彿とさせるように誰の手も行動も止まっていたのだ。
「よし、リザードは鱗の皮膚病があると聞いた。これをもっていってくれ」
ヴィンセントは塗り薬の容器を開けると自身に塗った。それを見たリザードも見様見真似でそれを塗り患部の変化に気づく。風にさらされないため痛みが引いたのだ。
「ヴぃ、ヴィンセント。あんたどうしたの?」
ローレが不思議そうな顔でヴィンセントに言った。
「いや、俺もうまくは説明できなぇんだが、しいて言えばこうするべきだと思ったんだ」
「モンスターと仲良く?」
「ああ」




