54.反転
話は聞かせてもらったぞ」
ヴィンセントの顔は依然として怒りにみちみちていた。彼だけではない、恐らくこの砦にいる者は明らかに晴馬に対し不信感と怒りを感じているころだろう。晴馬はまるで尋問されるためかのようにアマーリアの部屋に呼ばれ、彼だけが、部屋の中央で椅子に座っていた。というよりは、鎖で縛られて拘束されているといった方がいいだろう。
「ハルマ、まずはユーヒリアとの同盟締結成功に感謝するよ」
「ありがとう」
「ふざけているのかな?」
アマーリアは余計に不機嫌な顔を見せる。両腕を組んでこの私設裁判を務めようと考えていた彼女にとって、この態度は弁護の価値なしと判断するいたり、余計に重罪判決を言い渡そうとするようになって言った。
「君が仲間を売ろうしたということはすでに分かっているんだ。カタリナからの日誌によれば、ヴィンセントの父であるゴードントとの会話でヴィンセントの生首を献上するといったそうだね、これに間違いは?」
「確かに僕はそう言った。間違いないよ」
大きくため息をつき、眉間を抑える。なぜそこまではきはきといえるのか最早よくわからない。
「現在、君が向こうで行った行為についてはごく一部の者しか知らない。こんなことが公に知られれば正統グリーフラントという組織の結束にかかわる。君は自分がしたことがわかっているのかい?」
「分かっているさ、だからと言ってユーヒリアとの同盟を得るのは急務だろう?だから手段を択ばなかっただけさ」
「おいハルマ、お前は俺が助けてやった恩をあだで返す気か?」
ヴィンセントは手持ちのクルミの殻を手の中で弄びながら訪ねる。
「仇、仇で返すつもりはなかった。ただ、あの場では結果として目的を遂行するにはそれが一番楽であっただけなんだ」
晴馬はまるで事務手続きをするかのような単調な言い方で子供じみた持論を展開していた。晴馬の顔には悪びれた顔もなく、だからと言ってせいせいとした顔であるわけでもなかったが絶対的な自身への忠誠を象徴しているように見えた。それが外部からはどう見えたにせよ、恐らく本人にはさした影響は無かっただろう。
「少なくとも重罪であると私は思う。だがわからない。君がなぜヴィンセントを売ったかがわからないんだ。おそらくこの組織の中で最も古い仲で、最も過酷な経験を共にしたものだと私は考えたいね」
「なりふり構ってられなかった。なにせ、ユーヒリアは非協力的だったし内紛状態だった。脅迫でもしない限り同盟にこぎつけるのは困難だと判断し、そういう発言をした」
「では、その言葉は本気で言っていたという可能性は?」
アマーリアは鋭い目つきで晴馬に問うた。言うまでもないがこれは一瞬で答えることが重要である。そして何より返答はひとつだけ、このどちらかを守らなければ晴馬は明日には絞首刑を執行されることになる。だから晴馬はすぐに答えた。真摯な顔で真剣に、そして何よりはきはきと。
「アマーリア、その言い方は間違っている。そんあ言い方じゃ『いいえ』としか言えないじゃないか」
「な!・・・」
場が戦慄した。というよりは凍てついたといった方がいい。これはアマーリアの一種の慈悲のようなものだ。形式手にこの場を納めさせ、その後の処分は再度執り行うことで向こう、つまりはあハルマに公平性を与えようとしているのだ。にもかかわらずそのようなことを言われては、真相を聞かずにはいられないではないか。
「つまりは、お前は有言実行、本当に俺を殺そうとしたのか?」
眉をひそめてヴィンセントは尋ねる。若干興奮しているようで動悸が高まっているし、顔は蒼白になりつつある。
「いや、殺そうとは思っていないよ、あれは出まかせだ」
「なぜ?」
「なぜって、仮に殺したとしてゴードンが我々との親睦を深めるとは思えない。むしろ逆効果でしょ?」
途端に晴馬は地面に突っ伏した。というよりはヴィンセントに椅子事倒されたのだ。彼は荒い息遣いでハルマを見下すように眺め、すぐにでも蹴り殺そうといったような様相だった。
「あのなぁ、そういう時は普通。俺には殺せないとか、仲間だからとか、そういうふうにいうもんだぞ?」
ヴィンセントは半ば呆れるような顔をしてハルマに教えた。晴馬は少し会釈したものの肝心の理解には及んでいないようで首をかしげる。それが余計にヴィンセントを不安にさせたのだ。
「お前と俺は、それ相応の仲だと思ってたが、どうやら利害関係しかなかったみたいだな」
「そんなことはないよ、ヴィンセント、君には確かに感謝している」
「だが・・・」
「まて、それはまた別の時にしよう。ハルマが言っていることが本当かどうか重要参考人に聞くのが先だ」
アマーリアがそう言って部屋の隅にいるカタリナに視線を向ける。彼女はこの状況にも関わらず平静で、いつものように虚空を見つめるような顔で会釈すると、晴馬の元へ歩いて行った。
「さてカタリナ、まず初めにその時の状況はどのようなものだったのかな?」
「はい、その時はヴィンセント様の父上であるゴードン王が軍事同盟の条約締結を拒否したときです」
「なぜ晴馬はそのような発言を?」
アマーリアの質問にカタリナは少し考えるようなしぐさをした。小首をかしげて顎に手を当て眉を顰める。
「・・・おそらく、気が触れていた、としかいえません」
「気が触れていた?そら頭はおかしいだろ!俺を殺そうとしていたんだからな!」
「ええ、その通りです。ですがお考え下さい。なぜそのようなことをしたのか理解が出来ません」
「お前は何を言っているんだ?」
ヴィンセントは興奮と混乱で上手く処理できない頭を抱えていた。それを紐解くかのようにカタリナは話をつづける。
「お考え下さい、仮に交渉に成功しても組織における自分の立場をなくすような発言をするのは愚かしいにもほどがあるとは思いませんか?明らかに自殺行為です」
「自殺行為・・・」
参考人であるカタリナを帰した後、アマーリアはピンと人差し指を立て、何かを悟ったような顔をする。すぐにヴィンセントにちかよりみみうちすると、ヴィンセントは驚愕した。
「今更自殺未遂だ!?いくら何でも突拍子過ぎるぞ!」
「そうは思うんだけど、死にたくてやっているようにしか思えないだろう?私が思うに一種のトラウマによるものだと思うんだ」
「軟弱病というやつか、精神の弱いものに発症する病を晴馬が患っているということか?」
「ハルマの心の中にはユッタがいる。彼女に聞けばあるいは・・・」
「ユッタか、彼女は俺にも見えるのか?」
「ハルマの血を触ればね」
ヴィンセントはしばらく唸っていたが、そのあとに頭を掻いて何度か頷いた。
「よし分かった。確かに今の晴馬に聞くよりもユッタに聞いた方がいいのかもしれない」
ヴィンセントとアマーリアは別室で話しているわけではない。晴馬はのけ者にされて進行する話に少しばかり不満を感じたが、言わんとすることはわかった。
「つまり、流血しろというんだね」
「そうだねハルマ、ぜひとも始めてくれ」
観念したかのように晴馬は行った。この結果滴る血をアマーリアとヴィンセントは指先に付け、彼女の姿が現れるのを待った。
「おかしいな・・・」
アマーリアの予想とは違い、彼女の姿はすぐに表れない。本来であれば彼女の姿を見るのは血を触ればすぐに表れるのに、なかなか現れなかった。ただ、少したってもやのようなものがハルマの周りに現れた。まるでハエの大軍のように群がって晴馬を覆い始める。それが晴馬の全身を覆ってしまうころにはユッタの存在は間違いなくもみ消されてしまった。
「なんだこれは!?アマーリア、これがユッタなのか!?」
「・・・」
驚愕するヴィンセントの横で、アマーリアは混乱して言葉も出ず想定外の事態に足が震えた。
「ユッタ、私だアマーリアだ」
ユッタに呼び掛けても、ユッタの姿が現れることは無かった。途端に最悪のケースが頭を覆い汗が噴き出る。思わず叫びそうになるのをふっとこらえ思考に集中する。現状ではユッタとの交信は不可能、しかし今迄はできていたのだからできないはずはない。どうにかすればできるはずだ。それがどうすれば良いのかはわからないが解決策はきっとあるはずだ。
「とにかくローレだ!ローレを呼んで対処策を練る!」
数十分後、伝令を話を聞いたローレはウサギが如く飛び込んできた。彼女の顔からは、不安と焦燥が感じられているが決して手と思考は止まっていなかった。すぐさまありとあらゆる魔法や道具で意識を呼び起こそうと躍起になり、見るからにやばい薬の入ったフラスコをいじろうとした時点で制止が入った。
「やめろローレ!ハルマが死んじまう!」
必死で押さえるヴィンセントに対してローレは狂乱気味だった。
「だ、大丈夫・・・ちょっとだけ、ちょっとだけなら・・・」
「絶対ダメな奴だろう!すぐに捨てて来い!」
「団長!私ですローレです!お願いだから返事をしてください!」
揺さぶるも応答がない、しかしそれからさらに深刻な事態が確認できた。なすがままにされているハルマも全く反応していないことに気づいたのである。
アマーリアが訪ねるも、ローレは首を横に振った。
「こんな事象初めて見ました。伝説にもこのような事は書いてなかったし」
「なら、ずっとこのままなのか?ユッタやハルマは?」
「ハルマだけなら・・・すぐに元に戻れます、今の彼はただ団長と意識を統合させているだけですから、本人の意識に戻せばいいだけです」
その含みのある言い方から察するに、最悪のパターンを呼び起こした。つまり今外に出ているのはユッタの感情、今まさに今ハエの大軍として表れている物になる。これがユッタだと理解したときアマーリアは思わずへたり込んでしまった。
「嘘だ・・・何が一体」
か細い声と、混乱した状況が脳の思考範囲を狭めていく。しかしヴィンセントは何か本能的に何かを察したような神妙な顔もちになった。
「これが原因なんじゃないか」
ヴィンセントにアマーリアやローレの視線が集中した。それを察してか、大きな咳払いをする。
「俺が思うに、これがハルマの心象世界の一部だとする。つまりはユッタの世界を侵食するほどのものがハルマの感情の中に渦巻いているということになる、これが、先の狂言を誘発させた根源なんじゃないのか?」
「それが、なんだと?」
アマーリアは若干怒っているように唸った、それがたとえ本当だろうと今気にすべきではないと訴える。だがヴィンセントはそれに表情を変えることはなく、そこからは私怨で言ってるわけではないことが分かった。
「ハルマを精神を病んでいる物体がこれだとすれば・・・、これを消せばハルマは治るんじゃないか」
ヴィンセントの見つめる闇に皆が視線を配るも、だれもがそれが外部からできるものではないということを理解する。もはや、この現状を打破しうることが出来るのはのは彼女、ユッタのみだと、その場にいる誰もが察した。
「糞!なぜ体の自由が利かないんだ!」
晴馬は緊迫した心理状況を理解した。感情の同化を行って以来全く反応しない四肢と、それとは無関係に清浄な精神の中で晴馬は夢を見ているのだ。でもここにはまた一つ異変がある。夢を見ているのであればユッタが現れてもおかしくないはずなのに今は気配すら感じることが出来ない。彼女の姿を探そうと晴馬は躍起でそこらかしこにわめき散らす。
「ユッタ、返事をしてくれ!」
せめて姿だけでもと走り回るが、どこまでも続く闇に戦慄するばかりであった。まるで自分が一人になってしまったと不安がる子供のように、晴馬はひたすら自身の半身の喪失に戸惑うばかりだった。
「なんだ?何故姿も声も何もかもが消えてしまったんだ!」
全てが異常事態なのは十分晴馬自身も理解できていた。だからこそ、現状を再確認する必要がある。感情の同化とは晴馬が勝手に名付けたユッタの精神との統合によって、ユッタの行動を外的世界に反映させる方法である。この行動を起こしている間は晴馬自身はユッタであり、ユッタ自身も晴馬なのである。つまりは晴馬の意識が失われることはないのだ。
「たとえ感情の同化をしたとしても僕が体の制御を失うことはない。だとすると体の自由を失った理由はユッタの精神が失われたことが起因するのか?」
晴馬はユッタの精神が晴馬の体の制御を妨害し、それを望んでいるていると結論付けた。
「ありえない、ユッタがそんなことをするとは信じがたいことだ」
頭を振って一度頭をからにする。そして、ユッタを除いた理由で何がそのような原因を作っているかを考え始めた。今迄の経歴や能力などありとあらゆる変化に対して常に考える。
「・・・そういえば、一度意識を失ったような。あれが今原因となっているのか?」
それは決して古い記憶ではない。ユーヒリアにいたときに一度経験した事実である。ゴードンとの会話の中で弾けた何かが心情で飛散し、その際に感じた麻の如く酔狂な倒錯と、今迄体感したことのない常軌を逸した興奮、そのさなかにかすかにユッタの気配が消えたような記憶がかすかに残っていた。
「あの時、確かにユッタは僕を呼びかけていた、だがなぜだろう?そのあとの記憶と全く適合しない」
晴馬は自分の一部の記憶がないことに気付いた。その際にユッタに何かが起こったのだとしたら現状起きている原因の究明につながるかもしれないと考えた。しかし今までのようにやみくもに探したところでみつけることはできない。それはわかかっていた。根本的な改善が必要だ。
「何か、具体的に探す方法は・・・」
心象世界でのみで進行する現実など、晴馬には経験したことのない環境だった。だが、それ故に自由度が高いと思った。今いる世界は自意識の中にあり外界からの影響のない思い通りの世界であると仮定すると、おのずと目の前に広がる暗闇が明るくなった気がした。というより認識できたのだ。なぜなら闇は結局は晴馬が作り出したものであるからだ。晴馬は闇に触れてユッタの時のように『感情の同化」を行う。
「これは、赤い地平線を見るときに感じる物だ・・・」
本当に自分の感情なのかと疑いたくなるような禍々しさを感じた。清浄な心のみが意識に染みついている晴馬にとって、それは間違いなく自身の心に渦巻いている何かだとしても、自分ではない誰かの思いのように感じているのだ。
「・・・」
まるでカーテンをめくるように、晴馬はその闇を振り払った。途端闇はめくれ、突風にあたったかのように乱れ始めては晴馬にまとわりつく、まるで寄生生物のように体にまとわりつき晴馬は不快感を感じたが、その闇の先にあるものを見たときには払拭されてしまった。十字架に貼り付けられているかのような格好で何かに埋まっている彼女は蒼白な顔をしておりすでに生気がないようにさえ思った。
「ユッタ!」
重いマントのような感情をまといながら、すり足で近寄った晴馬は必死でユッタに呼び掛けるも彼女からは返事どころか眉一つも動かないでいた。
「一体どうして・・・」
晴馬は言葉を失った。
「死んでは駄目だ!」
果たして心臓もないものが死ぬとはどのような状態を指すのだろうか?それはおそらく消滅するということだろう。今、ユッタという存在が晴馬にとって怒りや悲しみなら喜びの感情が得られた瞬間にでも消えてしまうだろう。晴馬にはそれが一番恐ろしかった。なぜなら今の体の持ち主は晴馬であり、主導権も晴馬が握っている。つまり意図せずとも、晴馬の心の中に住み着いているユッタを消すことは、維持するよりも簡単なことなのだ。
「まさか、彼女は」
晴馬はユッタを侵食する何かを理解した。それは自分の中の負の感情だった。あの時、強烈な憎しみがこみ上げた後の記憶を思い出したのだ。精神の全てが晴馬の物になろうとしており、必死にユッタは逃げた、だが、有限である地平線に逃げ場などなく呆気なく飲み込まれてしまったのだ。それを証明するかのように晴馬に重くのしかかっていた晴馬の負の感情は、ユッタを侵食している根幹と物理的にくっついていた。
「あ、ああ・・・」
なすすべがない、それが晴馬の純粋な気持であった。自分が悲しい時に、どうやって喜びを感じることが出来るだろうか?感情は制御できるものではなく流動で気まぐれなものだ。だが、それが身近な人を巻き込んで果ては存在すら抹消しうる時に何もできない無力さは、どうにかしてでも食い止めたいと思うのが普通なのではないだろうか?
「起きろ!起きるんだユッタ!」
必死に彼女の肩を揺らして意識を取り戻そうと必死になる。しかし彼女はやはり動かなかった。その間もユッタの体を蝕み、侵食する晴馬の感情はより濃いものとなって渦巻いている。晴馬は自分の無力さに思わず泣きわめいた。その時初めて自分の行動に対する結果というものを理解した。自分は一人ではない。自分の行動がどのような結果であったとしても、それに多くの人が巻き込まれる。
「起きろ!頼むから起きてくれ!」
「・・・」
「君がいなくなったらアマーリアは一人になってしまうんだぞ!?それでもいいのか!」
「・・・」
「僕を・・・僕を一人にする気なのか?」
晴馬の涙があふれ、ユッタの頬を伝って流れる。止めることのできない時間に後悔することは愚の骨頂である。ともなれば、ユッタを手放す覚悟を持たなければならないが、本当にそれでいいのだろうか?そんな選択が果たして正しいと誰が言えよう。
「ユッタ、君は変な奴だよ。ある日僕の心に入り込んできて、最後は僕に殺されようとしているんだよ?何か文句の一つでも言ったらどうなんだい?」
「・・・」
「君は本当はどう生きたかったんだ?僕の生の苗床として生きる事がなかったら。どんな人生を歩みたかったんだい?」
何故だろう。僕は彼女のことを何も知らないことに後悔している。彼女の過去は少し知っているが、それ以外はなにも知らない。彼女は何を望み、何を考え、何を思っていたのなんて考えたためしもない。今初めて彼女に対しての無知さを思い知った気がする。失う直前に気付くなどという愚行には笑みさえ浮かんだが、彼女の喪失を考えた途端に強い悲しみとなって吹き返した。
「せめて、この心が君のものなら。こんなことにはならなかったであろうに・・・」
ふっと、そんなことを言ったときに晴馬はひらめいた。だが、その案は性交するかどうかも怪しい事だ。たとえできたとして、それがこの躰にどう影響するかわかったものではない。もしかしたら今よりも最悪な結果になる可能性すらあるのだ。
「それでも」
戸惑いを隠せない顔の晴馬であったが、ユッタの眠った顔を見て覚悟した。
「それでも君を救えるのなら・・・僕の手で殺さずに済むのなら」
晴馬は、恐る恐る怯えながらも、確実に、行動に移していった。ユッタの唇に接吻した。だがそれは視覚的に言える情報を伝えたまでであって、それが晴馬の心理世界で何を意味するのかを象徴するのは、その行動の後に起こることにある。
「一つ、頼みがあるんだ。鈴谷さんを、どうか救ってくれ」
「・・・?」
かすかな息を吐いたユッタは、途端に目を醒ました。彼女の想像が正しければ、そこには晴馬の姿か彼の心象世界が見えるはずだが、その時見えたのは仰天したアマーリア、ヴィンセント、そしてローレの姿だった。
「ユッタ、なのかい?」
「え、ええそうですお姉さま」
驚いたことに、自分の声が出せる。何が起こったかよくわからなくなってきた。
「団長、団長!」
ローレはユッタに飛び移り、あちこちを舐めまわすように見て異常がないか見ていた。そういえば、確かに体に異変があるような気がする。恐る恐る触ると胸のふくらみや、華奢な腕という晴馬とは違う体になっていることにに気づく。ということは、もしや!
「主人格が反転した?」
「「どうやら、そうみたいだ」」
その日、ユッタは自分の体を取り戻したが、晴馬の体は失われてしまった。数か月たった今でもだ。
これからはユッタが主人格として描かれる新章へと突入します。前章の題目はあくまで悪党と呼ばれていた組織が国家を相手に承認をもらったことによって政治組織としての成り立ちが出来ただけで、大筋的には展開か変わることはありません。




