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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
53/63

52 審議

静かな街がある。場所はユーギリア南部にある鉱山都市「カスターシュ」と呼ばれており古城を中心とした歴史ある交易都市だ。それ故に人の往来が多く、多種多様な荷物と異文化を街に引き入れてくれるのだ。だが、今日は雰囲気がおかしい。住民は皆怯えながら家にこもり草はなり、色彩豊かな花畑が街に流れ込もうとしているのだ。花は旗となり、幹は硬く、多くの人の足跡や蹄を生んでは移動する。


「王よ、地方の諸侯、小国の王、有力者、そして市民が貴方の元へ結集しております」


「うむ」


城からその花を見る男は、鬱憤交じりの会釈をした。


「全く、目の前のグリーフラントと戦う前にこうやって戦わねばならぬとはバカバカしい」


「今はそのようなことを言っている場合ではありません。戦争を終わらす戦争をこれからするのです」


「その先の戦争もまた同じことだ。やはり、今必要なのは『悪党』による支援のみか」


王は謁見の間に移動しながらも煮詰まらない感情をコントロールできないでいた。自分でもこの戦争のバカさ加減にはうんざりしているんだ。いついかなる時も国のために戦い、先の動乱により失墜した貴族たちにも職や所領を与え耐え抜いてきた。それなのにその先に待ち構えていた者はまさかの内乱。まさに愚の骨頂だと笑い飛ばしたくなる。


「これはこれは我らが領王、今日もご機嫌麗しく」


「はは、騎士王お前もよくぞここへ参った」


騎士王と呼ばれたこの男はこの連邦を形成する国の一つである騎士団領の代表である。いまや貴族の血統などは廃れ、残るのは力でのし上がった民衆や騎士と傭兵か、私のように力で守り抜いた貴族が国内をくいちらかそうとしているのだ。


謁見の間に人が集い始めた。これから何をしようとしているのか列が相対する列を睨むようにして見渡し始める。


「皆良く今日はいらしてくれた。我がユーギリアを希望でまばゆい未来へと導かんがために集まってくれたことに期待する」


「ふん、何が希望だ、ユーヒリアの危機に要らぬ危険をはびこませようと工作しておる分際でよく言えたものだ」


相対する席にふんぞり返るように並ぶ者たちはいかつい顔や傷、剛腕が目立つ者たちであった。彼らは皆この玉座に座る男に対する不信感と怒りに震えていたのだ。


「よいか、今日は誰であろうと関係なくあくまで中立に進行を務めさせていただくつもりだ。エイブラハム家の名に懸けてゴードン。エイブラハムが誓う」


連邦共和国になって以来騎士や傭兵果ては地方の豪族の今までの不満が爆発した。皆がそれぞれを所領として納めていたものを連邦共和国として独立させてしまったのである。結果は国内で内応による領土拡大を狙い、地位と領土回復を目指す『貴族派』と、それに対抗し現国力を維持しようとする有力な市民や軍人によるによる『軍閥』派の二大派閥が生まれているのだ。国を決するこの時期に最悪のタイミングだ。


「では、国家体制についての最後の議論をここに開催することを宣言する」


会議などといえば聞こえはいいがいつもと変わらない平行線。何とも味気のないものだ。それなのに、彼らの国という国が国境線に軍を配置しておりいつでも全面戦争が出来るように準備している。いや、戦争はこの議論が終わればすぐにでも始まることだろう。なぜなら軍閥はすでにその用意があり、その手はずも整っているからだ。となれば向こうも同じこと、連邦共和国となりお家取り潰しとなってもなお生き残った貴族たちをかき集めて最後の抵抗をするに違いない。


「今必要なのはグリーフラントとの戦いに対しての備えだ!国を一つにするのに共和国性は必要ない!すぐにでも中央集権を取るべきだ!」


「それで平和的に人事が決まるのであれば文句はないわ!共和国性は王を持ちはしない、だからこそ平和を享受し多くの者の同意のもとに国策を練ることが出来るのではないか!」


熱弁が飛び交うも妥協はない。もはや猿芝居を見ているようだとゴードンは思った。自身は結果として軍閥の派閥に取り込まれてしまったが、それでもこの国の紛争が止まるならどちらでもよいと考えていた。


「王よ」


議論のさなか、従者が玉座に近づき耳打ちを行った。


「なんだ?」


「どうやら貴族派に『悪党』を奪われたようです」


「っち」


思わず舌打ちが出た。湾岸の傭兵から討ち損じたとの報告があったがまさか生きていたとは、いったいどこの空軍を雇い入れたというんだ?それとも裏切りか?まずいな、それをここで話されたらここで形勢に乱れが出来る。今では五分五分で済んでいたはずの戦力差に乱れが出来れば明日にでも始まるぞ!?少しでも引き延ばそうとが策していたのが台無しだ!


「わかった、それで連中は今どこに?」


「それが、連中はもうすぐここに向かうのではないかと・・・」


そうかとだけ言い残すとゴードンはすっと立ち上がり議論を中断させた。皆が何をしたいのかよくわからずゴードンの行動に注目しているとゴードンは静まり返ったことを確認し発言する。


「どうやら、外部勢力がこちらに向かっているとのことです。今回の会議は中止しすぐに皆避難を」


「なんだと!?」


軍閥は皆が驚きを隠せない表情であった。なぜなら主君のいない自分の領土を危惧しているからだ。すぐにでも戻ろうと準備を急ぐが、貴族派の平静さに疑問を持ち始めていた。


「貴方方は自国に戻られないのですかな?」


ゴードンは怪訝そうな顔でそう告げた。


「ふん、そちらも知っていることだろう?これは外部勢力の奇襲ではない。賓客だ」


「賓客?この会議には外国の来賓は予定されないが?」


反吐が出るような芝居を打つと流れるように貴族派は立ち上がった。皆がにやけ顔であったらり勝ち誇った顔で軍閥を見渡していた。軍閥の者も何もかも知っているため、まさかと顔をしかめるようになっていました。


「分かり切ったものを、悪党との接触に成功したんですよ」


「ふん、自分たちの戦争を自分たちで何とかしようとは思わないのか?」


「グリーフラントとの戦争が待ち受けているのにそんな暢気なことを言ってる場合か裏切り者」


ゴードンの発言に杭を打つかのように怒鳴る、それに反故するかのように軍閥の者たちが騒ぎ出し批難のあらしを生んだ。最早今を持って平和的解決は無いと考えたゴードンは言論での解決を目指していた。


「それは自滅を速めるだけだとなぜわからない?戦争になればどちらも引き下がれんのだぞ?」


「黙れ黙れ!グリーフラントとの戦いに敗れた後に国を乱したのは軍閥だろう?王を滅ぼし、貴族の土地と名誉を奪った今に未来はない!貴族はどんな手段を使ってでも再び立ち上がらねばならないのだ!」


「暴論だ!いまするべきは国を変えることではない協力することだ!」


ゴードンのがいかに勇ましくとも状況はあまりよくはならなかった。ゴードンが無力と知ると多くの者が自らの領土へと帰るために謁見の間から一人また一人と去ろうとする。もはや水面下での工作は失敗に終わった。今から無尽蔵の血でできた川がこの国にできることをゴードンは悔やんでも悔やみきれず玉座に腕を叩きつけた。


「もはや、ここまでか・・・」


ゴードンが掠れるような声で言う。将棋の詰みのような意味合いがあるだろうこの局面において自分の無力さに強い憤慨を感じるばかりであった。


「グリーフラントに息子だけでなく国すら奪われるのか・・・」


「王よ・・・」


途端に砲声が聞こえた。例の貴族どもに呼ばれた外部勢力によるものだろう。連中はおそらく軍閥を叩き潰すためにこの城事討つようにとでも言われているのだろうか?まったく嘆かわしい。忌々しい、憎々しい侵略の音頭が聞こえてくるようだ。


「な、なんだあれは?」


しかし意外なことに貴族連中の方が驚いていた。これはどういうことなのだろうか?窓から様子を伺ってみると十数隻の浮揚艦がこちらに近づいているのが分かった。


「あれは貴様らの言う悪党か?」


「確かに、しかし船の数が多すぎる。確か数人だけが来たという話だったのになぜあれほどの数の船が?」


貴族たちの考えていた者とは差異があったものの恐らくあの中に悪党がいることは間違いない。するとゴードンの頭に閃光が光った、一本のか細い糸が降りてきたかのような感覚である。これは、下手をすると使えるか?この状況で、文字通り誰もが予想していなかった事態が起きているというのであれば間違いなくこれは利用する価値がある。まだ希望は残っているということである。


「馬鹿が!お前たちは利用されたのだ!」


状況が見えず混沌としている部屋の中でその発言の強さはあまりにも刺激的な内容であった。貴族自身は自らに置かれる環境を自分で推測するとこをやめ、都合よく出たす論に身を傾けるほど動揺によって思考回路が低下していた。その顔からは生気が抜け、自身の過失や醜悪さが露見することを恐れているように見え、ゴードンは眉間を抑えた。


「どういう意味だ?」


「貴様らのことだ大方拉致でもしてきたのだろう?向うとてバカではない。それも見越して追従の艦隊を向かわしてきたのではないか!」


何とも適当なことを言っていると自分でも思う。だが信憑性に欠けているとしても情報源はこの環境にはどこにもない。つまりは動揺さえ起こすことが出来れば良いのだ、反応は?よし、皆顔が引きつつりはじめてきた。ここで止めを刺さすことが出来ればまだ挽回のチャンスがある。


「衛兵破城を固めよ!誰一人として城の中に入れるな!」


「何を!彼らは使者であって・・・」


「まだぬかすか!艦隊の戦列砲がこちらに向いたらおしまいだ!騎士王殿!すぐにパラディンを配備してほしい!」


「はい」


議論の余地などそこには存在すらしていなかった。あるとすればそこには連帯感と服従のみである。貴族派の服従は案外あっけなかった。艦隊がこちらに来ているというのに自身たちは伝令の馬も満足に出せやしない。自身の領土に戻り自軍の指揮を執ることもできなかったからである。


「これでうやむやになるとは思えないが・・・」


だが少なくとも外部からの介入はなくなる。ここで悪党どもがこの城を攻撃してくれば国が一体化することが出来る。簡単な話だ少なくとも今までの悲痛の努力を昇華するかのような結果になる。たとえここで我々が死んだとしてもそれによって国が一つになるというのであれば喜んで受け入れよう。それがこの国の貴族の務めというものだ。


「艦隊から飛来物!砲撃です!」


衛兵が叫ぶ、確かに豆粒ほどでしか見えないが何かが飛んでくるのが見える。砲撃だろうか?それにしては白煙も少ないではないか、他の可能性は?何か注目するべきところはないか?ある!飛来物にロープのようなものが見える。しかも飛来物と共にやってきている!


「皆の者!すぐに窓から離れよ!衛兵はすぐさま並べ!」


ゴードンの叫びむなしく飛来物はすぐに日差し窓を突き破り落ちてきた。それは錨、小さな錨が窓の格子に引っ掛かり、浮揚艦が反転すると窓の近くのレンガや彫刻を容赦なく引きはがした。そこに再びロープが現れたと思えばどこからともなく何人かのグループが現れたではないか。


「貴様!ここがユーヒリアの城歳っての狼藉か!?」


衛兵の雄たけびに連中は目もくれず、気品と格式高い正装に身を包んだ者に囲まれていることを確認した。


「良かった、どうやら海賊の話は本当だったらしいな」


「でなくては困りますりょ、ハルマ様」


「でもやばくないですか?なんだか歓迎ムードではありませんよ?」


「そりゃあ正門閉じているからってこんな方法で入ってきたら誰だって怒りますよカタリナさん」


彼らは何か身内で話し合うばかりでちっともこちらに反応しない。ゴードンは呆れかえり、むしろ強い憤慨を感じるようになった。怒りに体を震わして晴馬たちに腹から怒号を叩きつけた。


「名を名のれぇ!」


晴馬ははっとし、ぎくしゃくとお辞儀をする。何とも焼き付け刃のようなマナーは滑稽であったがそのの顔には恐怖など片鱗もなくただ無表情に敬意だけを表すような様相であった。


「これは失礼致しました。私は高野晴馬、正統グリーフラントより同盟を結んでいただきたく・・・」


「なんと、君は悪党の使者か?」


貴族派の男が駆け寄る。それにこたえ晴馬は頷いた。


「ええ、ただその呼び名はあまり・・・」


「おお、おお!よくぞ参られた!」


息を吹き返すかのように貴族派の連中は笑顔で彼らに向かった。熱く抱擁をし、笑顔で語り掛ける者もいる。握手を求め歓迎の意思を示した。そして何より、衛兵たちの槍の先に立ち肉の壁を作り始めたのだ。この瞬間より軍閥との衝突を再開するかのように生気を取り戻した貴族派は強い感情と自身の正当性をわめき散らかしたのだ。


「貴様らは使者を攻撃するというのであればいっそここで我らも殺すがいい!そして自身の行った咎もわからず混沌の中で蹲っていろ!」


「何を言うか!貴様らは騙され・・・」


「ならばとっくに死んでいる!貴様らが我らを騙そうとしても無駄だ!それよりよこの場にかけ参じて貰った我が盟友への謝罪はどうした!恥を知れ」


劇熱と佳境を迎えるところをただ見ているだけの晴馬は何が起きているのかわからないでいた。ただ、自身を囲む衛兵の中に重武装の鎧をした者たちが現れた。晴馬がまだパラディンの学校にいたころに見た騎兵用のアーマーにとても似た服装であった。それが一人二人、最後は十数名にまで登り晴馬たちへ明らかな敵意を向きだして構えていた。


「ユッタ、連中は?」


「「おそらくパラディンとみて間違いないでしょう。あの上質な鎧、全身を覆った鎧の中でも最高なもので間違いありません。近衛騎士団か、それとも・・・」」


歓迎されてない、当然だ。あの船長の話では最後の戦いを起こす下準備をしていると言っていた。つまりはここで交渉決裂の演劇が行われているということになる。つまり刃を向けているここの連中は僕たちを襲った軍閥の連中に違いないのだから。


「ゴードン卿!いい加減兵を下げさせよ!騎士王もだ!」


ゴードンは舌打ちをしたのちに脱力するように玉座に座り込んだ。それを合図に衛兵が、最後に騎士王の配下が下がるように包囲を解いていく。それを見た貴族派の者たちは勝ち誇るかのように整列し、一人の髭を蓄えた男が裁判所の弁護士かのような振る舞いで演説を始めた。


「使者殿、まずは遠路はるばる起こしいただいたことに感謝を、そして、連中の横暴な行動に対しての謝罪を申し上げる」


「はぁ、どうも」


「軍閥共、もはや論はここでは通用しないようだな。武力で差し迫った貴様らをまねて、我らも誇りを取り戻すべく剣を取ろう。この会議はもはや無駄だ!」


貴族派は一方的に蹄を帰すように去り始めていた。だが、ゴードンはそれをよしとしなかった。いや、軍閥はこの状況をよく思っていなかったという方がいいかもしれない。大義名分を与えては行けないとゴードンが叫ぶ。


「待て、非礼を詫びておらん。使者殿はそこで待たれよ」


「何を言う!先ほどまで侵略者とののしっていた貴様らにそのような権利はない」


「そうまでして争いを起こしたいのであれば一向にかまわんが、使者殿はどうかな?」


ゴードンはそう言ってハルマに顔を向ける。晴馬はなんとなくではあるがゴードンがいいたいことを察した。


「内乱はよろしくありませんね、まずは話し合いをすべきでは?」


貴族派の者に晴馬は言い放った。


「ありがとう、そう言っていただけると助かる」


「助かるではない!悪党の使者よ、連中はあなた方を殺そうとしたのですぞ?それでも話が通じる相手であるとお思いか?」


「はぁ、しかし僕はあくまで国家間の外交について交渉に来たのであって内政についてはいちいち興味がありませんので」


晴馬はそう言うとわざとらしく頭を掻いた。条件反射でフェリシーのチョップが頭にささる。


「とにかく我々は同盟の締結に来たのです。内乱は国家の能力を大きく制限しますし何より兵力、又は生産力の人的資源を劇的に減らしてしまう。ぜひとも早急にかつ平和的に解決していただきたい」


「それは良かった、今そのための最後の議会会議を行っているところだ」


歩調を合わせるようにゴードンは招集の旨を伝えた。晴馬は全容を詳細に理解したのち、対立した者たちの存在を事細かに理解することが出来た。貴族派の者たちは酷く苛立っていた。とにかく時間が彼らにはもったいなかった。これから話すべきことは和平会議ではなく領土と地位回復を目的とした紛争に対する援助についての相談を持ち掛けたかったからである。しかし現にそう踏み出すことが出来ない環境下におかれ自分のペースに持ち込めないことを不満に思っていた。


「ともかく我々は身内の戦いを好まない。それを理解してほしいのだ」


「だから我々を殺しかけたと言われても死に切れませんが理解はしました」


晴馬は第三者の視点を持って話をすることで自我を抑えることにしていた。本心は非常に荒ぶるばかりだが仕方がないと思うほかない。ゴードンにもこの確執は十分に伝わっており、曇った顔で議会を見渡すばかりだった。


「ところで、悪党は同盟の暁にはどのような恩恵を我らに与えてくださるのか教えてくださらんか?」


意外にも貴族派が友好的に話しかける。ただ、その媚びた笑いの裏はやはり陣営に引き込むメリットを根ふみしているに過ぎない。軍閥も当然耳を傾けた。これが敵対勢力としてどれほどの能力を身に着けるのかを理解するためである。まず彼らが自分たちになびくことはない、であるならばその脅威をいち早く知る必要があるということだ。


「君主であるアマーリア様は軍事同盟と通商同盟、さらには・・・マスケットも取引する予定であります」


晴馬は自信をできるだけ押し殺しポーカーフェイスを装って話す。これが垂涎か、それとも無用の長物か、議会の者たちの表情を恐る恐る覗く。


「マスケットねぇ・・・」


貴族は決して喜びはしなかった。同時に軍閥の者たちも安どの表情を浮かべる。それどころか笑い飛ばすものもあらわれる始末であった。


「確かに、欲しいには欲しいが今は必要ない」


「な、何故?」


「我々には兵力が必要なのだよ、君はマスケット一丁買うのにどれほどの値段と時間が掛かるか知っているかね?」


貴族派の言葉に晴馬はさぁ・・・としか答えることが出来なかった。この反応が余計に失望させてしまった。


「農家の収入半年分と数か月の期間だよ、これほどの価格の物を大量に購入しないと満足に戦いもできない。となればねぇ・・・」


「ああ、でしたら量産モゴモゴ・・・」


晴馬はとっさに後ろにいたカロリーネに手で口を覆われ話を中断する。彼女の方を見るとシーとジェスチャーし、すぐに彼女が耳打ちで晴馬に語り掛けた。


「これはチャンスですよ、どうやらこの国には我が国の産業技術の情報は余り知られていません。ここは私にお任せを」


「大丈夫かよ・・・」


「私、これでも元は文官ですよ?ただ一つお願いが」


その後に続く彼女の耳打ちに晴馬はぎょっとした。


「そんな莫大な数を提供するのは無理だ!生産技術の限界からも工場の数からしても乗り越えられる数じゃない!だいたいアマーリアからの許可もなしにそんなこと」


「アマーリア様には事後確認で押し通しましょう、大丈夫。軍事同盟の締結のためなら条件の内容は寛容にすると言っておりました」


「それにしたって内需が高騰しているんだよ?どうやって・・・」


「任せてください!」


不安がる晴馬を差し置き、フェリシーがバトンタッチで躍り出た。彼女は敬意の礼をしたのちに晴馬のように貴族派にこたえるのではなく皆に聞こえるように、公を意識した発声で答えた。


「我が国のマスケットは無尽蔵にあります!皆さまがご購入したいというのであれば相談に乗りますが恐らく高価でなかなか買えないというのが現状でしょう!そこでわが国はレンドリースにより皆様にマスケットを提供したいと考えております!」


「レンドリース?」


カロリーネは説明した。レンドリースとは武器貸与を指している。自国の武器を他国にレンタルしてもらうシステムで他国の軍事強化の際や兵站における武器の不足時などに効果を示す。またレンタルという性質も価格を下げることに適しており非常に経済的であると説明すると、そのメリットに誰もが驚いた。ただ、それでも彼らはひとつ問題点を考えていた。


「だがそれでも莫大な数を提供することは難しいだろう?あれは職人の手で長い期間かけて作るものだぞ?」


「その疑問はごもっともです、しかしながら我が国は技術革新によりそれらの問題をクリアしています」


「にわかには信じがたいが・・・」


懐疑的な意見が広がるも、カロリーネの自信はそれで失われるようなことはなった。


「我々が命を投げうってまでこの国に来て嘘を言うリスクを考えれば信憑性も増えましょう、それでも疑う余地があるというのなら実際に我が国の技術を御覧に入れましょうか?」


「おお、それは助かる」


満を持すかのように晴馬の手元から六分儀を取り出した。誰もがその機械に注目し、その精巧な機械に驚嘆した。均等な歯並びの歯車や晴馬の説明する四分儀と比べた精度の高さ、渡来の観測機よりも高い性能、それだけでなく量産可能であるという事実も彼らにとっては信じがたい事実であり、その反面利用価値の高い存在であることを再確認させる。


「素晴らしい・・・君たちは本当に用意できるんだね?」


未来の勝利に感動すら覚えた貴族派の男は涙交じりの言葉でそう伝えた。


「はい!軍事同盟の暁には義勇軍として我が国の兵も必ずや連携して戦うことでしょう!」


「ブラボー!諸君、我々は勝利したぞ!」


貴族派の高らかにあげられる歓喜に満ちた声と共に軍閥の暗い顔は一転し怒り交じりな声を上げるようになった。連中がそこまで戦争をしたいというのなら、お望み通りやってやろうじゃないかと言わんばかりの狂乱ぶりである。これにゴードンは納得せず、慌ててすぐに議会全体に静粛にするよう呼びかけた。


「静かに!皆忘れてはならん!戦いをしないためにこうやって議論を持ち掛けているのだ!」


「そのような事、これ以上必要はない!そこまで従わせたいというのであれば力づくでかかってくるがよい!」


「お待ちください」


崩れそうになる議会を晴馬が止める。虱まみれの頭を掻きむしった後、晴馬は一呼吸して二つの陣営を見据えた。


「先ほども述べたように、僕はこの国と同盟を結びにやってきたのです。決して内乱に加担するつもりはありません」


「な、に?」


先ほどまで晴馬たちを持ち上げていた貴族たちの顔は固まった。それを一瞥した晴馬は続けるように言った。


「もし、この国で内乱が起こるようなことがあったら。僕は空軍を連れて本国に帰ります」


「ほお、あれは貴公の軍ではないのか?」


ゴードンは日差し窓から見得る艦隊を怪訝な顔で見た。それは彼ら空軍の選択に驚きを覚えたからである。それもイワシ雲のように教え寄せていることを見ると空軍の総意による選択であることが見て取れた。


「空軍は我々にとっては巨大な軍事力であり、傭兵だ。よく連中を屈服させることが出来たな」


「金を積めばすぐにでも寝返る連中です。金より良いものを教えれば簡単に寝返りますよ」


「ふ、ふざけるな!」


貴族は激昂し、晴馬の胸倉をつかんだ。


「貴様のせいで、今後の戦争がより悲惨なものになった。本軍同士の殴り合いになるのだぞ?それを理解しているのか!」


貴族の焦りは切実なものである。それは軍の編成に問題があることを示している。中世や近世の初め、軍の編成は国民軍という概念がなかったことから多くの兵力を傭兵に依存している事が多かった。つまり、空軍という巨大な軍事力を有する傭兵を取り上げれば数少ない兵士による殴り合いに発展する可能性が高い。それはっ文字通り甚大な被害を与えるものとなる。


「嫌なら、戦を起こさないことです」


晴馬が冷静に返すと貴族は余計に怒り狂い晴馬を殴りつける。カタリナが倒れた晴馬を抱きかかえると晴馬はにやりと笑った。


「空軍は傭兵としておくにはもったいない。そもそもそれにはあまりにも連中は力を持ちすぎているのではないですか?」


「なにぃ!」


晴馬の失言をカバーするようにカロリーネが慌てて晴馬の前に出る。貴族の荒い鼻息を交わしながらウィンクする。


「特使様は長旅で疲れているので、失言を撤回します。特使様が言いたいのはこのまま血で血を洗う内乱ををするならば交渉決裂である。そうおっしゃっています!」


「ならばどうすれば交渉を続けることが出来るのだ?」


ゴードンは合いの手を入れるように質問する。まるで次にカロリーネが言う言葉を知っているかのような言い方であった。


「内乱にならないよう、話し合ってください!では!話が決まるまで我々は退室します!」


カロリーネは強引に晴馬たちを連れて大広間から出て行った。彼らがいなくなった会議は、ゴードンの一声で体現された。


「空軍を取られてしまえば最早お互いに武力に打って出ることは自殺行為である。諸君、結論を出そうか」

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