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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
52/63

51.交渉

「一応言っておくが俺に人質の価値は無いぜ?」


「うるさい、先ほどの手筈通りに動くんだ」



船長は息苦しそうにつぶやく。が、カタリナはそれを聞かず甲板の中央中央へと船長を歩かせた。急なことに水夫達は動揺をしているが既に武器を手に戦闘態勢に移行していった。



「聞け海賊共!特使であるハルマ様から話がある!」


晴馬は少し呼吸を整える。準備が出来たと思い、大声で甲板を揺らした。



「お前たちを雇いたい!」



晴馬の渾身の叫びは嘆願にも聞こえる意見であった。つまり、雇用者と労働者の関係を築くための物ではなく命乞いとして聞こえてくるのだ。水夫たちはにやりと笑った。形勢逆転という状況がが心理的余裕を生んだのだ。連帯感を生み波のように伝搬した意識が彼らを前に前にとにじり寄らせたのだ。



「な?俺を盾にするなんて大した価値はないだろ?」


「随分薄情な部下を持ったものだな」


船長の言葉にため息交じりにカタリナは呟いた。


「だから海賊は強いんだ。連中は船長の握る給料明細ではなく、自身で勝ち取れる財産のために戦う。とはいえ、俺の価値は重要なことには変わりはないけどな」


「なら、再教育というわけか」


カタリナは船長を蹴飛ばし晴馬に渡すと、瞬時に消えた。刹那に見える彼女の姿は、一人の男のマスケットの火種を潰し、また一人の刀を甲板に突き刺した。再び元の場所に戻ってくるときには水夫たちに現状を再確認させることが出来たようで皆が戦意喪失、だれも動くことはなかった。


「さて、雇いたいのだが」


「な、舐めんじゃねぇ!」


一人の男が銃声と共に大声を上げる。水夫の群れから姿を現し、撃ったマスケットを捨てて抜刀し威厳を見せた。見たところひ弱そうな体をしているが、焼けた肌と締まった体から察するに決して知ろうというわけでもなさそうだ。


「一文無しにやとわれるほど、無謀な命令を聞くほど俺は馬鹿じゃねぇぞ!」


若干興奮気味な口調で男は言う。目はぎらつき、決死というよりはこの状況に不服なため起こっているようにも見える。つまりは晴馬たちに恐怖を抱いてはいないのだ。


「なら、さっきの続きをするか?」


「どうせ雇われたって殺されるだけなら、先も今も同じことだ!なら俺は刺し違えに賭ける」


男の鼓舞を受けて水夫たちもわめきだした。皆が暴徒のように初めは口で、次に武器で答えるようになる。マスケットの多くが晴馬たちに向けられ刃がきらめくと、甲板は形勢逆転という字にふさわしい形態となる。


「それに知ってるだろう?仮に俺たちを皆殺しにしたってこの船をお前たち程度の数じゃ操作はできねぇ!出来たとしても港も分からず飢え死にするだけだ!」


水夫の言葉に晴馬は会釈をするのみであった。冷静に考えれば暴力で解決することが出来るのはここまでの話で良くも悪くもこれ以上は存在しない。つまりは水夫たちを従わせるには家業をしのぐ利益を必要とするのだ。晴馬にはこのような第三者の視点が存在しているかはわからないが、慌てもせず、かといって安堵もしない神妙な表情をしていた。


「おかしな話だ、僕は今ただプレゼンをしているだけなのになぜ殺気立つ必要があるというんだ?」


「プレ・・・ゼン?」


聞いたこともない言葉に困惑するが、痩せたこめかみに青筋が立つのはそう時間がかからなかった。


「おい、会話の後に攻撃が来るのはここまでだ。いい加減にしねぇと本物の乱闘を見る羽目になるぜ?」


「だから、僕はこの状況は非常に非生産的だと言っている」


晴馬は船長をカタリナに預けると水夫たちの元に一歩歩いた。水夫たちの怒号とカタリナの呼ぶ声が聞こえるが、晴馬は誰にも干渉していないかのようにふるまう。それどころか何かを悟ったかのような顔をしているようにも見える。


「何すかした顔をしてんだ!」


酒瓶が投げられ、晴馬の顔に当たると、大きな音で割れ、晴馬と水夫の関係を体現するかのように晴馬は流血する。


「うるせえな」


「あ!?もう一回言え小僧!」


「自覚がないのか!?僕と君たちは対等なんだよ!それを今酒瓶が照明している」


晴馬はそう言うと投げられた酒瓶を拾い上げ、掌で飴玉のように溶かし始めた。皆がそれを見て驚くも晴馬の言葉に耳を傾け始めている。理解が及ばず、世迷言を言っているようにも聞こえたが、先ほどから晴馬の様子がおかしいことを誰もが感じ取っていた。もしそれらの行動がただの虚無ではなく、何らかの根拠に基づいた行動なのだとしたらと誰もが考え出したのだ。


「僕はパラディンだ、そして彼女もそう。戦闘能力は君たち全員を遥かに凌駕している。僕がその気になれば甲板を焼き切ってしまうこともできるんだ」


「だから何だっていうんだ?馬鹿か?そしたら墜落してお前たちも死ぬだけだ」


「そう、だから平等なのさ。この場合僕たちは刺し違えをすることがもっとも不利益であることなんだよ、そして、それを君たちも潜在的にこの酒瓶で証明している」


晴馬は水夫たちが意識的に衝突を長引かせていることを指摘した。死者が出ることが陸地であるならともかく、この船の上ではすさまじい損害になることを彼らも知っていた。だから殺さなかった、そもそも殺すことは海賊にとって最も避けるべき損害である。資産価値に始まりその後の利益の全てがおじゃんとなるからだ。ともなれば彼らは殺すことより制圧することを優先するはずである。だから酒瓶が投げられたのだ。


「君たちの酒瓶は殺傷性を抑えて僕を鎮圧するために投げられたものだ。つまり、君たちは大きなミスを犯しているのさ。それは対等である集団をこの船に二つ存在させてしまったことだ」


「はーん、なんとも頭のいい野郎は意味不明なことをよくぺらぺらといえるもんだな、対等な集団だか何だか知らねぇが、お前たちの非戦闘員はその集団に入っているのか?」


痩せた水夫は細い目つきでフェリシーやカロリーネを一瞥した。視線を向けられた彼女たちは背筋を冷やしたが晴馬もカタリナも全く動じることはなくただ頷くだけであった。


「なぁ?俺は昔から気になることがあった。パラディンてやつは銃弾をはじくことが出来んのかねぇ?」


一触即発、水夫の言葉がこの四字熟語を最も体現している事は間違いないだろう。つまりは向こうにとってはこちらの意見は知ったことではないと言っているようだ。あくまで敵対するなら、従属ないしは降伏しない者には徹底抗戦あるのみというある種騎士より勇ましく蛮族並みの蛮勇に晴馬の脳裏に嫌な信号が伝搬される。


「交渉決裂か」



「おうよ、撃て」


何十丁というマスケットの火ぶたが切られ、引き金に指がかけられた。


「ユッタ、何とかできそうか?」



「「いいえ、未知数です」



晴馬はすぐにカタリナに視線を向ける。彼女は船長を盾にして死ぬ前に何人かを葬るつもりだ。ともなれば、僕は急いでフェリシー達を牢の会談に避難させるしかない。できるかどうかはわからないが、それでも感情の同化を頼りにするほか選択肢がないのだ。


「おい待て、会話の後に攻撃が来ることはもうないんだよな?なら俺に銃口むけんじゃねぇ、伏せろ!」


殺伐としたこの瞬間に暢気な声が広がった、もしそれが自身の生存を目的として発したとするのならば大間違いだった。反射的に緊張の糸が切れ、銃声という銃声があたり一帯にまき散らされた。晴馬達は含みのある船長の言葉である伏せろを聞くと、すぐさま腹ばいになり耳元から聞こえる弾丸のかな切り音に感覚と現実の時間のずれを錯覚させた。


「お前ら何をやってる!すぐに装填しろ、ほかの連中は俺に続いて・・・!」



黒色火薬による硝煙の霧から、一人の足音が聞こえる。煙たい空気に咳払いし、じゃらんじゃらんと船長の帽子をかぶった男だ。


「ゲホゲホ!お前らなぁ・・・」


「せ、船長か、ということは連中は?」


船長は後ろを指さす、硝煙の中はいまだ人影すら映らなかった。音もなく、まるで反応がないようだ。


「へ、俺たちの銃撃には、さすがのパラディン様もかなわなかったか」


「らしいな、抗弁垂れても人は人か」


「何勘違いしてんだ?後ろだよ後ろ、後お前ら、すぐに水を用意しろ」


船長の言葉に水夫たちは疑問を抱かざるにはいられなかった。


「何でですかい船長?」


「略奪品が燃やされる」


その言葉を聞いた瞬間血相を変えて硝煙の中に水夫たちが駆けだす。まさか、先ほどからのこの煙は、銃口から出た硝煙ではなく火災によるものか!馬鹿な、あのパラディンがやったのか!?誰もが船長を抜けて一人またひとりと駆けて行った。


「水は下に積んだ樽にある!急げ!火災ダ!」


「なんでもいい近くにあるものはぶっ壊せ!火元の燃えそうなものを壊しに行くぞ!」


下甲板の扉になだれ込むように水夫たちは消えていった。消えたというのはけむに巻かれてということだ。扉に向かう際、火元の方へと行く必要があり、結果として煙に巻かれる形となったのだ。不思議なことに、煙に巻かれてからは誰の声も聞こえることはなかった。


「これでいいんだよな?大将?」


「ああ、上等だ」


沈黙の続く煙の中から一人の男の声が響いた。ハルマは何やら曇り顔でボヤの中から姿を現すと船長の肩を叩いた。


「できれば言論で解決したかったんだが難しいな、君は降伏するかい?」


「焼き殺されるくらいならな、にしてもやってくれたな。こんな大穴作りやがって」


靄が消えた途端にあたりに映った光景は焼き焦げて大穴の空いた甲板だった。焼き焦げ、大口を開けた中身には、下の階に雪崩るように落ちて行った水夫達の姿だった。フェリシーやカタリナ達は焼き残った甲板の橋を通り晴馬たちの方へと駆け寄った。


「連中は無事か?」


「はいハルマ様、皆伸びているだけのようです」


「よし、連中もこれで言うことを聞くことだろう」


問題はこれでマストが折れないかどうかだが、船長の顔をいる限り折れそうにはないようだ。




かくして奪われた船はハルマを船主として航行を再開する。武器は回収され皆空へ捨てられたので渋々と従っているが、だれも不信感を感じ雰囲気は最悪だ。それでも従うのは、今彼らが武器を持っているからだ。それもそれぞれが持っていた最も使い込まれ、そして強力な伝説の武器を持っているのもがいるからだ。


「目的地である場所はどういうところだっけ?」


「ああ?だから悪党と友好的な場所だとしか言えん。というか、俺はすごく不満なところがある」


船長は腹立たしさを感じ指をはじいていた。


「何故だ?なぜ行く場所が同じであるならば大人しくしていられなかった?何もしなくても十分ついた場所じゃねぇか」


「そりゃあ、こっちも外交できているからね、捕虜としてきているわけじゃないんだから対等であるとわからせるためさ」


「あのねぇちゃんが俺にケンカをけしかけなくても仕掛けるつもりだったのか?」


「まぁ、アプローチは確かに強引だったと思うけど、似たようなことをしたと思うよ」


晴馬は何でもないようなように言った。結局は檻の中はこりごりだということだ。しかしながらその発言を聞いてもなお、船長は不思議がるばかりであった。


「わからない、お前は俺たちと戦うことを拒んでいたようにさえ見えたが」


「事実拒んださ、あそこでけが人が出るかどうか、前もって説明していたように甲板を燃やして大穴が出来るかどうか、それは未知数だったからね」


船長との平行線の話し合いの中、カタリナがこの会話を忌み嫌うような表情で見ていた。少しイライラしているのか指をかみながら聞いている。


「りょ、ハルマ様、そんなことを話している必要があるのでしょうか?」


「どうしたんだカタリナ?」


「私には非生産的かつ下卑た会話に聞こえてなりません」


カタリナはそう言うと強引に晴馬の手を掴み船首の方へと連れて行った。そこにはフェリシーとカロリーネの姿があり何か現状に対する意見交換をしているようにも見えた。


「ハルマ様、なぜあのような輩とつるむのですか?」


「雇い主だから」


「いや、そうであっても親しいにもほどがあります。我々は使者としてこの国にやってきたのですよ?それを虜囚の如く扱われた現状をもっと重視する必要があります」


「社長、それには私も同意です、もっと緊張感を持ってください!」


誰もが不安に煽られたような顔で晴馬に群がっている。その時晴馬は少し違和感を覚えた。なぜかその中で自分だけがまったく感情の変化が生まれていない。抑揚が存在していない自分にいったい何があったというのか?こんな状況下でいったいなぜここまで落ち着いていられるというのだろうか?


「うん、そうだね。僕も何故友好と言われている軍閥に会いに行くはずなのにここまでの扱いを受けるのかあまり理解できないよ。だげど少しだけ分かったことがある、僕たちは遣隋使なのさ」


「ケンズイシ?」


「そう、僕達はこの国と対等にあると考えている。だけど、向こうにとってはそうでないのかもしれない」


遣隋使とは、かつての日本が隋に派遣した使節団のことである。これは隋と倭国が対等であることを倭国が求めたところ、時の皇帝がブチギレタ事でも有名なものである。晴馬が言っていることはつまるところユーギリアは正統グリーフラントを同等の国家であると考えてはいないということである。つまりは平等な条約や同盟はかなり難しいということを示唆している。


「それは当然でしょう!?」


「ええ、領主様、それは当然のことです」


「ハルマ様、馬鹿なんですか?」


晴馬の考えとは裏腹にカタリナ、フェリシー、カロリーネは何を当たり前のことを言い出すんだと言わんばかりに吠えた。晴馬には余計な混乱が生まれており、なぜ皆は当たり前のように知っているんだと愕然とした。だが当たり前の話である。由緒ある王家も、国力も文化もない国を国と呼べるような時代ではない。


「ですから我々はここで表向きにだけでも対等であるためにユーギリアに国家承認と同盟を得ようとやって来たのではないですか」


「いや、そうだけど軍事同盟が主な理由だろ?」


晴馬の言葉にカロリーネは頭を抱えた。頭の上に疑問符を浮かべる晴馬にフェリシーがさも子供に語り掛けるように説明を始めた。


「ですからハルマ様、我々は対等とは思われていないのです。軍事同盟は国同士が執り行うもの、つまりは我々はここで国として認めてもらって対等にやり取りができるように交渉に来たのです」


「つまり、僕たちの主な目的は軍事同盟の前段階である国家承認に?ええ!?」


「何でそこで驚くんですか・・・」


「ええええ、だってアマーリアはそんなこと一回も言ってなかったよ?」


「普通は言われなくても分かるでしょう?貴方は正統グリーフラントをどのような立ち位置で見ていたのですか?」


「一国家、じゃないの?」


晴馬の言葉にフェリシーは落胆するように肩を落とした。駄目だ何も分かっていないというようなそぶりを見せ、カロリーネにバトンタッチをした。


「我々にとってはね、ですが周りから見ればただのグリーフラントに対する反乱分子ですよ。これを国呼ばわりする国が現れたらグリーフラントにケンカを売るようなもんです」


「お、おう」


「だからこそこの軍事同盟には重要性がかかっているんですよ。そのリスクを踏まえて向うが乗ってくるかどうかという交渉が必要なんです。だから国家の使者らしい振る舞いが出来るか再三貴方に問い詰めたのー!」


「あ、はい」


「だからマナーがどう足らっていったのー!使者の振る舞いが国家の品を表すのー!」


今しがたなぜ自分があんなに落ち着いているのかが遅れて理解できた。まったく現状を理解していなかったからだ。


「そうなんだ、でも、たとえ反乱分子だとしてもユーギリアの連中の牢にぶち込んで連れてこいはひどくない?」


「だ・か・ら、それで困ってるんですこのバカチン!」


容赦ない拳骨がハルマを襲った。ハルマはいろんな意味で頭を抱えた。つまりは僕たちは国の使者とも思われていないのである。当たり前だろう。


「やべー、品はユッタに何とかしてもらうにしてもどうすれば同盟なんてできるんだ?対等じゃないんだろ?」


「「ちょっと、何人を道具扱いしているんですか?」」


現時点では理解不能であったこの旅路の現実味というものを今となっては有難迷惑なまでに肌で感じることが出来る。アマーリアが確かに僕にこの旅路の目的を教えてくれた。それは言葉としては僕の心に焼き付いた、だがそれをどうすれば遂行するかという思考の段階に入った途端に警報が鳴り響いた。経験も知識もない緊急事態であるとよくわかったのだ。


「状況を整理しよう。使者として僕はこの国へきたが向うにとっては反乱分子の下っ端程度にしか見られていない。それを僕たちにわからせるために拉致まがいの行動をとったという事か?」


「それが一番合点がいきます。または、『お前達がいなくても問題ない』という意思をアピールするために行った可能性もあります」


極端に過激であるとは言い切れない。過去の日本もチンギス・ハンで有名な元からの使者に対し斬首を行い元への威嚇とした例がある。つまりは力の誇示を言い表したかったのかもしれないということだ。まったく、それを行う側は良いかもしれないがこちらのような受ける側はたまったものじゃない。さて、どうするか。


「どうするかなー」


「人のおでこなんだと思っているんですか!」


カロリーネのデコをつんつんとつつきながら晴馬は思考する。ユーギリアの紛争が勃発する前に短期的に解決し国家承認並びに軍事同盟を求める。こんなはことが出来るには・・・。


「やっぱこいつらを使うほかないな」


晴馬はそのまま海賊連中を見渡す。復讐法というわけにはいかないがつまるところ力の誇示には力の誇示というわけだ。


「海賊を味方につけることが重要だろう、船長に話を聞いてもらおうじゃないか、フェリシー」


「は、はい」


「今から船長と話し合いを着けてもらいたいんだけど」


「ええ!?」


フェリシーの驚愕した顔とは裏腹に晴馬は若干苛立ちに近いものを覚えていた。予想ドりすぎる反応だからだ。


「頼むよ、僕やカタリナが言ったら警戒される、そう言う意味では君が適任だと思うんだ」


「無理ですよ!だって私そういう大事なことできる質じゃないです!マスケットの時だってそうじゃないですか!」


「あれは怖かった・・・じゃなく、分かるだろ?あの船長は人の行動を読み取る能力がある。一歩先がわかるんだよ。だから君が必要なんだ。大丈夫だよ台本は僕が用意しておくからさ」


晴馬による説得もむなしくフェリシーはなかなか首を縦に振らない。しまいには赤面して涙目になるときもあった。


「それならカロリーネさんがいるじゃないですか彼女じゃダメなんですか!」


「駄目だ、文官であった彼女には少々仕事があるんだ」


「むううう」


周りを囲まれるようにくるみ込まれたフェリシーは苦しい声を出した。渋々という感じで最後は首を縦に振り、晴馬は安堵する。


「ただし、一つお願いがあります」


「何?」


「ギュって!抱きしめてください!」


「こ、ここで?」


人の目があるというか、なんでそんなお願いがいいのかわからないというのが本音だった。カタリナなんて先ほどから口を開けて驚ているしカロリーネに関してはぎょっと目を見日らいている。明らかにすんごい恥ずかしいことをやろうとしていることが見て取れた。


「他にどこでするというんですか!ここですよここ!」


「まぁ、それで事が済むのなら」


考えてみればこんなシチュエーションは人生で一度だってなかった。そう考えると余計に緊張してしまい体がカチコチになって行った。う、訴えられないよね?触っていいんだよね?これセクハラだよね?


「じゃあ遠慮なく・・・!」


晴馬がフェリシーに接した際、明らかに震えているのが分かった。恐怖から来るものか、それとも事の重大さから来るものかはわからないがそれでもわかることは本来であれば『それ』は自分が請け負わなければならないという事だ。


「フェリシー、ごめん」


「・・・」


自分がこのメンバーの中でどういう立場なのかを再度理解した。それは感情的な部分でもそうであるが歴史という観点、特に使者の記録という観点から見れば尚更のことである。


「僕が、もっとしっかりしていれば・・・」


一度晴馬の境遇がどれほどの危険と波乱に満ちたものなのかを説明するために使者というものをおさらいしよう。使者とは他の勢力に対し情報を渡しに行く人のことである。このような時代における使者というものは厳密にいえば現在には存在しえない、理由としては通信技術の発達により必要性がなくなったことにあり太平洋戦争における日本の宣戦布告にしても人づてではなく通信を使ったことからも明白だろう。


つまりは通信ができる時代に生まれた晴馬にはその立ち位置というものが理解できないものなのだ。携帯電話でどうとでもできる世の中で生まれればなお現実味がないことだろう。ましてや、妨害を受けたり自身の生命を保証できぬような内容を伝えるとあらば文字通り必死の覚悟で行わなければならないのだが、そこまでを瞬時に理解することがどれほど困難かを、晴馬は身をもって知った。


「ハルマ様、もっと体を密着して・・・」


フェリシーにねだられ、否応なく受け入れる。今更ながら沸き起こる罪悪感に苦悶するもそれとは別に変な温かさというかぬくもりを感じ、ひどく生を意識したような気がした。自分とほんの一握りの者を除いてここは敵しかいない地なのだと自覚することによる一種の危機管理能力のようなものが働いたのだろう。そう思えば思うほど、手の力が強くなった。


「ありがとうございますハルマ様、それで、その台本というのは?」


「うん、でもその前に言わせてもらいたいことがあるんだ」


フェリシーの先ほどまでとは打って変わった気丈な振る舞いを見た晴馬は真剣な表情でフェリシーや皆に顔を合わせた。


「絶対にここで死なせたりなんかしない。約束するよ」




船長は舵を握って遥か遠方を見渡していた。その表情は不満などは感じられるがよく自身の境遇を理解しているようで従順に行動しているようだ。


「あの、すみません」


フェリシーの存在に気づきその方向を見ると船長は困惑した。カクカクの身体でこちらに向かってくるので何か悪だくみでも考えているのではないかと思ったのだ。


「おいおい。ずいぶんといいたい事を駆でいい表してくるな、なんだ?」


「あの、貴方たちを雇いたいと言っていたじゃないですか」


「だから言われた通り都合のいい軍閥へと向かっているんだが?何か不満か?」


「いえ、その特使様は雇ったからには報酬がほしいだろうと言っておりまして」


船長は舌打ちした。想像するに生命の保証程度の儲けにもならん無駄骨を報酬と位置付けるに違いないと苦渋の顔になる。それを察してか、目撃していた水夫たちも似たように肩を落とした。


「報酬はお金がよろしかったんですよね?」


「お、おう?」


予想外の話であった。まさか彼女の口からそのような話が出てくるとは思わなかったのだ。


「そうだ、俺たちは金でしか雇われないからな」


「なら、いくらでもお払いしましょう、金庫に入っているならいくらでも」


「ほお」


なんだかきな臭くなったと船長は考えた。どう考えても言動と行動が合い過ぎる。


「その代わり、その報酬に見合う働きをしてください」


「だから向かってる」


「いいえ、向かっているだけではなりません。いう通りに向かってください、一隻では足りません。艦隊を招集してください」


「はぁ!?」


「これからこの国を脅迫しにいきまーす」


船長の読みは当たった。あまりにも予定調和が合い過ぎて頭痛を起こしかける程だった。


「ふざけるのも体外にしろ!雇い主を敵にしてどこに逃げろというんだ俺はたとえここで殺されたってしないぞ!」


「我が国にでも来ればいいじゃないですか、歓迎しますよ?」


「そりゃ浮揚艦を保有していなければそうだろうな!」


余計な舌打ちが増えた船長は妄言にはしらふでは付き合えないと言わんばかりにラム酒を持ってこさせすすり始めた。


「だいたい、艦隊を雇う金どこにあるんだよ?持ってんのか?」


「海賊ならこの国から奪えばいいじゃないですか、私たちが交渉しているすきにでも奪ってください」


「か~、バカも休み休みに」


「できるでしょう?だってここにはパラディンが二人いますから」


フェリシーはそう言うと晴馬たちを指さした、晴馬は得意そうにグングニールを構えた。カタリナはわざわざ見せるものはないと言わんばかりに鼻で笑う。


「特使がパラディンなんて考える人はいないはず、奇襲作戦でお互いに利益を生みませんか?」


「へ、そらいい考えだ。だがお嬢ちゃんは少し海賊を勘違いしている」


「というと?」


かくかくな演技に飽き飽きした船長は口に詰めたラム酒を一気に飲み干してフェリシーにげっぷを馳走した。


「リスクだ!海賊稼業で儲けるにはリスク軽減は鉄則なんだよ!なのにリスクを抑えるはずが自分から高める馬鹿がいるか!」


「そんな極論は通じませんよ、だってリスクを省くなら初めから海賊なんてしないはずです」


「するね!リスクしかない仕事だから許容値を決めて戦う、儲ける。そして商売にするんだ!」


平行線に続く議論は不穏な臭いを発していた。つまりは交渉決裂のにおいがプンプンしたのだ。船長はかたくなに断るし、フェリシーは強烈に魅力的な提案を提示できないでいる。フェリシーの額に汗が流れた。


「そうですか、ではこういうのはいかがでしょう?」


「今度はなんだ?」


「報酬と言っては何ですが、交易を与えましょう」


「つまりなんだ?」


「我が国における自由都市国家群などに対する空輸事業の権利の一部を貸与します。つまりはこの依頼を完遂したのちに穴なたたちは商人として、軍人としての人生を提供しましょう」


船長の眉がピクリと動いた。興味をわずかながら持っている証であるが、同時に疑問を抱いた証拠でもある。


「まず言っておくが俺たちは今でも軍人だ。そして軍閥でもある」


「存じております。しかしながら弱い軍閥であるのですよね?ほかの派閥に従属しなければいけないほどに」


「それがどうした?」


「良いんですか?軍閥が潰されて吸収されても?」


とげのように指す言葉に場が凍り付いた。それはつまりは脅しているのかと言わんばかりに船長はが鳴る。


「風前の灯みたいな国に言われたくはねぇよ!」


「でも、皆嫌々やってはいませんよ?だってそこには強権を打ち砕く理想と平等を目的にしていますから、貴方もそれがほしくて軍閥なったのでは?」


含みのある言葉に船長はフェリシーを見る。まさかというような顔で見つめる船長にフェリシーはニッと笑って見せた。だが、話を確信には持って行かずあえてじらすように話を進める。


「変だと思いました。浮揚艦というものを持っておきながらなぜそこまで軍閥として弱いのか、それは自身で保有する領土がないからじゃないですか?」


「へ、安易だな」


「だけど的確ではないですか?造船所や港を確保していなければ補給も船も確保できない。つまりは弱体化せざるを得ないんですよ」


痛いまでの適格な物言いにここはたじろくべきであろうが、船長はため息一つで済ませた。


「それとこれとは関係が内容に聞こえるが?そもそも船は略奪して来たものだ」


「関係は大いにありますよ?だってあなたの言うリスク、軍閥が解散するリスク軽減の策には私たちと共に来ることが適任であると思いますので」


「つまりはなんだ?軍閥から軍の組織になれと?」


「もっと残酷ですね、一部は商船の会社に、もう片方は軍組織に二分化されるのですから。でも、貴方たちが軍閥になってまで守ろうとしたものはきっと守れると思いますよ」


フェリシーの真意に迫る言葉に船長は驚いた。気付けばフェリシーは今までのような演技臭い動きもなく、リラックスした本意を伝えるようだった。


「お前、なぜそれを?」


「カマかけです!」


船長は盛大にこけた。だが、その言葉の真意が相手にはわからなかろうと、軍閥にまでなって維持したい理念が守られるなら、そう言った思いがこみ上げてきた。


「俺たちは、元をただせば普通の国の商船だの軍船だので務めていたんだ。だけどよ、給料も安いし何より」


「何より?」


「労働環境がひどかった、給料のピンハネ、過酷な労働への強要。暴力体罰犯罪それが全て合法で、取り締まりもなく船のオーナーとそいつが採用した船長がやらせたんだ。だから解放されようと思って国中の水夫や士官が蜂起して生まれた軍閥なのさ」


熱のこもった言葉に彼らの憎悪を感じ取る。彼らの言葉を察するに皆が復讐の側面もあって動いていることがうかがえた。つまりはその船長やオーナー、そういった者たちに対する報復が略奪であり、その過程で必要であるならば殺人がおきる。そういう構図が生まれていたのかもしれないというのだ。そしてそれはフェリシーの推測でありながら信憑性が大いに高かった。


「やはり、貴方たちは地方の騎士や志士からなる存在ではないのですね」


「だったら領土くらい持ってるだろう、やれやれ。ここを見抜かれると痛いものだなぁ」


「でもそのおかげで交渉の種になってくれそうですね。どうです?今の船のルールで生活を享受できる場所は一か所しかありませんが」


船長はうなだれるが、しばらくして海賊たちを呼び寄せた。どうやら交渉は最終段階に突入したようだ。






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