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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
51/63

50 変貌

龍は気付けば自らの周りに艦隊が出来ていることに気がついた。きょろきょろと周りを舐めまわすように見ては敵ではないかと確認するも、そのあまりにも遅い気づきに晴馬はため息をついた。こいつ、相当ぼけた龍なんだな。


「周りは商船を改造した即席戦艦、こっちはぼけた龍に乗って竜宮城にってか?」


「なんです社長竜宮城って?」


「タイやヒラメの舞を見て、乙姫?とかいうやつの暇つぶしに付き合う場所さ」


目の前に見える巨大な港、もとい空港は竜宮城とは言えないが少なくとも退屈はしなさそうだ。身よあの人だかりを。僕たちを歓迎しているのか、武装した多くの兵が集まり、それを囲むように民衆が集まっている。


「ハルマ様、私生きて帰れる自信がないのですが」


「なあに、使者だって伝えれば向うも下手に手を出したりはしないでしょう」


陸についた晴馬達の前に一人の兵士が現れる。その男だけ兜に立派な赤いとさかがあるところを見ると恐らくは僕たちを囲っている兵士たちの指揮官で間違いないだろう。


「私はここの沿岸の警備隊長だ。お前たちが悪党から送られてきたという特使か?」


「ああ、その通りだ」


確認を取った男はほかの兵士に馬車を持ってこさせた。


「護送する。指示に従いついてくるように」


晴馬の予想は的中した。あの港にいた大量の兵士たちは誰一人として剣を交えることはなく晴馬一団を馬車で護送してくれた。それもただの馬車ではない。揺れを感じないような内部にはふかふかの座席。天井には何かはわからないが繊細な絵画がちりばめられるように描かれている明らかに貴族用の馬車だ。


「ああ、あの龍の背中に比べればなんて快適なんだろう」


「この調子だとこの地帯の領主の館に運ばれるんですかね?」


カロリーネはきょろきょろと状況を分析するようにあたりを見回した。


「かもしれないな、どのみち僕たちの身の安全は保障されそうだ」


晴馬は完全に緊張を解いているらしく脱力して座席にもたれかかる。しかし、カタリナだけは警戒を続けてなにか不信感を隠せないでいた。曇った表情でハルマに顔を向けた。


「・・・りょ」


「違うから、なに?」


反射でハルマは反応した。他意はない。


「おかしいと思いませんか?この馬車に来るまでの間、位の高い者に会いもしないし文官の姿も見えません、どこに行くかも説明を受けていないしまるで囚人のような扱い・・・」


「というと?」


「ユーヒリアの外交措置が不十分であるといいたいのです。ここにいる者たちにしたって様相からして傭兵のみ、本来であれば何らかの騎士や衛兵のような正規軍との接触があってもおかしくはないはずです。明らかに歓迎ムードと呼ばれるような状況とは言えません」


考え過ぎだと思った。しかし、少し時間がたつと晴馬も不信がるようになった。過行く道はどんどん町から外れ、森の方に過ぎていくし武器は馬車の後ろにある道具箱に保管しているためもしもの時に応戦もできない。何か良からぬことになりつつあるように感じるも対応のしようがない。


「社長、私とあることを思い出しましたよ」


カロリーネは顔を蒼白にしつつ言った。晴馬はそれを静かに聞くことにし。フェリシーに顔を向けた。


「あの海賊の船長の話ですよ、ユーヒリアには確か、私たちに友好的な派閥とそうでない派閥があるって」


「ああ、そんなことを言っていたな」


「もしかして、ここは歓迎していない派閥なんじゃないですかね?」


晴馬は顔をしかめた。腕を組んで少し考える。


「それは考え過ぎじゃないか?第一それならあの海賊がここに連れてくること自体がおかしいじゃないか。彼は友好的だったぞ?」


「だから、私たちは勘違いしているんじゃないですか?彼の口からは自分が、どちらの派閥の所属であるか一言も言ってはないではないですか、それに友好に装って陸地に連れてきたら私たちは空に逃げられない分殺しやすい。龍は今やユーヒリアが制圧しているんですよ?」


「ええ・・・」


話の最中に馬車は停止した。暗い馬車の雰囲気は、これにより余計に拍車をかけることとなる。


「なんだついたのか」


晴馬は周りを見回すもそこはただの原っぱであった。あたりには何か特別な施設は見えないしおそらく人も我々意外いない。


「降りろ」


警備隊長が馬車のドアを開けてぶっきらぼうに言い放った。外には警備隊長の部下であろう人々が馬車を囲むように整列していた。皆薄汚れたフードをかぶっておりどことなく不気味な雰囲気を醸し出している。フードにマントのその様相はとある特使がウーダンカークで悪事を働こうとしていた時に連れてきた僧兵に酷似している。


「ここはどこなんだ、こんなところに用はない」


晴馬がそう言い放つと警備隊長はニヤッと笑った。


「当たり前だ、お前たちを議会に連れて行っては俺たちの親分が困り果てるんでな」


その言葉はまさしく、カロリーネの予想通りの結果を導いているようだった。晴馬は即座に警備隊長に殴りかかろうとしたが無意味と言わんばかりにはたき倒される。


「な、なんだ体に力が・・・」


「おいおい、随分と弱いパンチだなぁ。手本を見せてやろう」


腹部に鈍痛を感じる。防護をしようにも体がうまく動かない。馬車に視線を向ける。すでにフェリシーやカロリーネはこと切れたかのように眠り付き、カタリナは呻きながらも抵抗していたが。やはり、晴馬同様に意識を取り持つことが精いっぱいだった。


「まぁ、全てを語るまでもないよな?ちゃんとこの森に埋葬してやるから安心しろ」


「お前・・・いったい」


「そんなことを知ってどうする?それよりもお前たちは誰にこんな目に合っているかの方が重要なんじゃないか?」


「言われなくても、分かってる、どうせ・・・悪党を気に入っていない連中だろ?」


警備隊長は失笑した。咳ばらいを済ませるとパイプをくわえて一服する。


「確かに、全ては軍閥によって統治されている連合国家の派閥争いによるものだ、それを理解できればもう大丈夫だろう」


「軍…閥?」


「つまりは血が全ての階級を示していた過去とは違う、強いものだけが支配する世界だ。俺たち軍人は準貴族として苦しめられてきたがそれもここで終わりだ!軍人こそが力で国を興す時代なのだ!」


警備隊長は剣を引き抜き。晴馬の首筋に刃を押し付けた。晴馬は消えゆく意識の中に強い怒りを感じていた。混濁とした意識の中にある確かな感情。だが、それは自分のものではないことにすぐに気が付いた。おそらくそれは、ユッタものものだった。今、彼女に託すことが先決か?賭けになるが彼女なら何とかしてくれるかもしれない。


「はは、感情の・・・同化」


ついに消失する意識の中、僕は最後の望みをかけて眠りについた。




目が覚めると何とも湿っぽく薄暗い部屋に寝かされていることに気が付く、けだるい体を起こしてあたりを見るとフェリシー達も同じ部屋に寝かされていることにに気が付く。


「起きましたか?」


カタリナが不安そうに僕に語りかけてきた。僕は頷くと安堵したが、同時に顔をぐしゃぐしゃにして床を叩いた。


「私がいながらこのようなことに・・・面目次第もありません」


「ま、まぁまぁ生きていただけよかったとしようじゃないか」


「いいえ、仮にも騎士であった私が貴方を守れずこのようにな場所に一緒にいるなど騎士道不覚悟です。なんとお詫びをすればいいか」


「騎士を止めたのに騎士道は不滅なんだ、難儀だねぇ・・・」


ある程度頭がすっきりした晴馬はあたりを見回す、どうやらここは牢屋のようだ。となると死んではいないようだ。


「ここはどこだ?あれからどうなった」


「分かりません、私もすぐに倒れてしまって・・・その傷は?」


カタリナはそういって僕の腕を指さした。見てみると服が破けて軽いやけどを負ってしまったらしい。武器もないのに炎は使えないとするとユッタの仕業でもない。どうしてこうなったのだろう?


「ああ、うーん痛くないから大丈夫・・・かな?」


「いいえ、それは深いやけどという事。手当てをさせてください」


「ああ、うん」


手当とは言えないほどの簡単な治療だった。布で覆うだけで軟膏を塗るわけでも何でもない。ただ、なんとなく心が落ちついたような気がした。冷静さを十分に取り戻し今後の計画を考える。逃げることはまず考えない方がいいだろう。となれば誰に連れてこられたかを考えることが重要だ。恐らくあの馬車の集団ではない。彼らならとっくに僕たちを殺しているだろうし生かす理由がない。ともなれば誰かが助けてくれたとでもいうのだろうか?あそこに味方になるような人物が突如現れて我々を助けたのか?


「しかし、それなら牢屋に入れる理由が・・・」


「知らないのか?監獄は要塞として防御施設としてはすこぶる優秀なんだぞ?人を守るには持ってこいだ」


見知らぬ人声が牢の外から聞こえた。視線を向けると汚い服装の例の男が立っていた。


「お前はいつぞやの海賊・・・」


カタリナは彼を睨みつぶそうに見た。彼はおおこわこわと茶化した態度をとった。


「いや、空軍は軍閥としてはとても弱くて軍閥として存在するには綱渡りで他勢力とつながる必要があるんだよ、つまりは傭兵・海賊家業が最も性に合うってわけだな」


「それで使者を売り渡した事を納得するとでも?」


カタリナは檻を力いっぱい殴る。共鳴して金属特有のキーンという音があたりに共鳴する。フェリシー達はそれで目を醒ましあたり驚いて一帯を見回すが、余計に混乱してぼうっとしてしまった。


「そういうだろうと思って助けたじゃないか、浮揚艦による砲撃で連中を全滅させあんたらをさらったのは俺たちだ」


「それが使者に行うことか!特使であるハルマ殿はそれで怪我を負ったのだぞ!?」


そう言うとカタリナは晴馬の傷に指さした。船長はそれを見て一礼し、何食わぬ顔でカタリナと対峙した。


「特使であろうと関係ないね、俺にとって一番重要なのは依頼主さ。依頼主が最も偉くて金を持っている」


「つまり、僕を助けたというのも、また別の依頼者か?」


「話が速くて助かる、今度はさっきの連中とは違う親悪党の軍閥だ」


晴馬は少し混乱を覚えたがこれが価値観の違いなのだろうかと思い考えることをやめた。しかしこの男の言うことに気がかりなこともあったので聞くことは聞くことにした。


「あんたの話は矛盾している。弱い勢力であるあんたが僕たちを他勢力の軍閥に送り付けることはわかる。それにより多種多様なリスク軽減を謀っているんだろう。だが、僕たちを再び奪い返すことで報復を受けリスクが増大することは明らかなはずじゃないか、なぜそんなことをしたんだ?」


「それは俺たちが海賊であり、又、傭兵であるからだ。つまりはお前たちを奪還しろととある勢力に依頼されてきたのさ」


船長は説明を続ける。結果的に言えば晴馬たちを近くの勢力に渡したのは晴馬の言う通りリスク軽減を目的にしていることは間違いない。しかしながら傭兵として考えれば、それをまた別の他勢力が欲しがり、奪うように依頼するのであればそれをこなすまでであると彼は語った。晴馬には余計な混乱を生むだけの説明であったが、それを悟った船長は晴馬の勘違いを指摘した。


「お前は俺が所属する軍閥が空軍の総戦力であると考えているんだろう?そうであれば陣営をまたいで両勢力の依頼を全面的に受け入れてしまえば恨みを買って両陣営から一発で仕留められてしまうだろうと、だが、実際は空軍の一艦隊が軍閥として活動しているだけなんだ」


「つまり?」


「空軍はそれぞれ右にも左にも依頼があれば雇われるし皆が統一した思考を持っているわけではない。また、協会、議会のような組織もないから勢力として敵対するよりも飼いならした方がいいというのがこの国の陸の軍閥の考え方ってことだ」


晴馬はなくうなずいた。船長の言うことは難しいが、傭兵を殺しても雇っている陸の軍閥に被害が及ばないことを考えれば納得できる話だ。


「末端であるあんたたちを潰しても根本である陸の軍閥の損害がないから意味がないと?」


「そういう事、な?俺たちを雇った方が賢いだろ?」


落胆に近い感情であった。軍閥として活動しているというこの男は金のためなら何でもする連中だった。つまり、この国は内乱状態にありとてもではないが我々の力にはなりそうもない。というか絶賛戦国時代じゃないか。これではアマーリアに無理を言ってまでここまで来た意味がなくなってしまう。何のためにここまでやってきたのか、赤霧の教会との戦いはどうするのか、頭を抱えて悩むほかない。


「聞いてあきれるよ、僕の友人から聞くにユーヒリアはお隣の強国に大敗しているというにもかかわらず国の地盤も満足にないのか」


「へ、まぁあんたの言いたいことも分かる。だからあんたたちの接触を期待していたんだ。この状況を打開するにはそうするほかないからな」


船長は期待に満ちた顔で晴馬を見つめていた。晴馬は怪訝そうに眺めるがまさかとはっと目を見びらいた。


「そう、もうすぐこの国も最後の戦いが起こる。その勝利条件並びに国の舵を握る条件はバックに悪党を付けるか排除することが出来るかどうかだ」


船長は檻に大きな地図を突っ込んだ。中身を見てみると大きな攻勢のラインや各勢力の配置などが書き込まれているのがわかる。


「結論から言おう、俺はこの戦争には参加するがどっちの陣営につくかは金で決める。悪党がつこうがつかなかろうが関係はない」


「それは、恐らくこの戦いが終わるまでは本国に帰るどころか支援も受けられない僕に言っているのか?」


「ああ、しかしながらあんた達が何の土産もなく来ていないことぐらいはわかる。何かの条約、または軍事同盟、またはこいつかな?」


船長は小包みをそっと檻の中に入れた。晴馬は急いで確認する。六分儀は損傷なくおかしなところもなかった。ひとまずといった感じで晴馬は安堵する。馬車の一件以来見なかったそれを無事に確認したことと、この男の頭がしっかりと詰まっていることを確認できたからだ。


「そいつが砲撃の際に転がっていた。その価値で空軍は大きく動くことを忘れるな」


船長は静かに牢屋から去っていった。晴馬はしばらく沈黙するも行動は早かった。


「とにかく状況確認だ」


現時点の状況をおさらいするとどうやらこの国は軍閥が貴族の代用として存在するらしいが、それぞれの国家ないしは領土を保持している連邦国家のようなものなのだろう。あの船長の話からするに議会が存在する共和制国家でかつ水面下、または現在進行形で内乱状態である。内乱の原因たる派閥は大きく二つで悪党につくか排除するかのどちらかだ。


「問題はいかにして連中に戦争を解決してもらうかだが・・・」


「あの、社長」


カロリーネは少し困惑気味だがしっかりとした状況把握が出来ているようですり寄りながら端的に説明した。


「恐らくですが内乱は可能な限り武力行使による全面戦争は避けるべきです。一元国家におけるクーデターならともかく連邦国家の中で繰り広げられれば紛争に発展しかねません」


「紛争になると、どうなるんだ?」


「かなりの長期戦争になるでしょう。そうなればユーヒリアの介入を余儀なく受ける可能性があるどころか国力の衰退により我々の味方になったところで駒としての価値がなくなります。そうなれば我々の来た意味そのものがなくなります」


「待ってよカロリーネ、君の話には憶測が入り過ぎている。君は大規模な武力衝突が起きていないように話しているけどすでに起きている可能性が高いじゃないか」


「それならさっきの船長の話をもとにすれば我々がこの国に来るときに空域での戦闘を見ていなくてはおかしいじゃないですか。陸に上がったときもそう。正規軍が岸の空港に存在しないのは防衛上の指揮系統に支障をきたします。なのに、あそこは傭兵しか存在しませんでした」


晴馬は顎に手を当てて少し考えた。確かに正規軍との接触もなければ戦闘も見ていない、港にいた野次馬の住民たちも誰一人として怯えた顔をしていなかった。いや、そもそも集まること自体がおかしいのだ。龍が現れればドラグーンと勘違いして逃げることも充分にありえただろうにそれがなかった。つまりは戦闘が始まっていない証拠だ。


「つまり、小規模な小競り合いは起きていてもまだ戦いは・・・」


「起きていないでしょう、となれば私たちはそれを水面下で押さえさせ、なおかつ我々の同胞として迎え入れる、これがここでの任務であると思います」


ため息交じりにカロリーネは話すとハルマもまたため息をついた。ともなれば少なくとも穏健派の、特に悪党に味方をしてくれそうなところにこれから行くというのはむしろ好都合ではないか、この男の話に乗って行くというのは腑に落ちないが少なくとも身の安全は保障してくれそうだし何としてでもついていくしかないと確信した。


「お話は決まりかな?なら俺と一緒に甲板に出て・・・」


「待て、私との話が終わっていない」


カタリナは凄まじい熱気と荒らしい息遣いをしながら船長を凝視していた、ただ、先ほどと状況が違うのは檻をひん曲げて船長と対峙していたということだ。


「特使であるハルマ様に非礼を詫びろ!」


「なぜ?あの状況から助けた俺にむしろ感謝の念を感じてほしいぐらいなのに」


船長はひょうきんな態度を止めて戦闘態勢になった。お互い時の間合いが徐々に狭まるにつれ緊張が増していく。


「ハルマ様!」


だいぶ状況を理解することが出来なのであろうフェリシーは心配そうに晴馬を伺う。ハルマは眉一つ動かさず様子を観察していた。しかしながら、彼の様子がいつもと様子が違う。どうやら既に彼女がそこにいるらしい。


「あくまでも依頼主は生きたまま連れてこいと言っているからな、武器はなしだ」


船長は舶刀を床に置いた。それを見たカタリナは鼻で笑う。


「武器も仲間も呼ばないでこの私に勝てるのか?」


「言っておくが、俺は相手の不意を付ければ強いぜ?仲間がいるとやりずらいし今が一番やりやすいんだ」


「「それを拍子抜けというんですよ」」


鞘が二人を分断した、瞬間、相手が射程圏内に入ったと錯覚した二人が鞘を叩き落した。だがそれもつかの間二人は途端に冷静さを取り戻し始める。当然だ、中にある刃が二人の腕や足を斬ってしまったのだ。第三者がこの刹那にこのような芸当をされては手も足も出ない。


「う!」


「あ、あぁ領主様・・・」


「あまり、過激にならない方がよいかと」


鞘は船長の持っていた舶刀の鞘で間違いなかった。晴馬は隙をついてそれを引き込み檻の中から突き出したのだ。船長は驚愕より先に武器を取られたという失態を悔いた。形勢逆転。自身は安全であるはずなのにもはやこの環境で一番の弱者になってしまったのだ。人質、または殺害と好きされることだろうと汗を滴らせた。


「驚いた、あの時といい今といい特使様はおねぇ口調のオカマになると強くなるのか」


「わ、私は女・・・ではもうないんでしたね」


「領主様!今です殺しましょう!」


「いや、こいつは利用した方がよさそうだ」




夜の甲板には多くの下卑た笑い声が飛び交っていた。それはこれから分配が行われるからである。海賊は民間船と違うところがある。雰囲気はもちろんのこと給料も大きく違うところだ。ここでは士官と水夫では確かに給料は違うが民間船ほど不平等ではない。それどころか社会保障のようなもののあり負傷したものは其れにあやかって船を降りることが出来るのだ。それがなぜ可能なのか?それはこの後の進行を見ると見えてくる。


「ああ、ではこれより分配を始める」


一人の男が甲板中央で一人机に座って話し始めた。この男はクォーターマン、分配を平等にやる係で海賊特有の役職だ。民間船では船長が決めるため不平等や不払いもお手の物だが、海賊船ではこの役職がきっちりと行うためそれが少ない。


「このひと月で私掠した輸送船の武器や食料、繊維については前と同じ比率だが、今回は特別オプションだ。人間もついてくるぞ」


あたりに歓声が上がる。高値で売れるか、だれがもらうか、どこに売り払うかの議論が騒ぎ出しハンマーの轟音ですべてが静寂に戻った。クォーターマンは咳払いをしたのちに一枚の紙をひろげた。


「あー、前回の負傷兵諸君の保障がまだ未払いだった。重傷者から支払いを始める」


「イヨ!待ってました」


片腕をなくした水夫が前に出る。つづいてほかの者が、一番槍を飾ったもの、嵐の中仲間を鼓舞したもの、熟練の者、だれもが平等に略奪品を売りさばいた。


「さてさて、次はお待ちかねの人間の商品だ!」


多くの者が歓声を上げて喜んだ。興奮やまずマスケットの銃声が聞こえるところもあれば舶刀を振る者もあらわれる。それほど人間の利用価値は高いのだ。


「今回は国の要人だ、どんな売り方も可能だぞ!分け前は今回は平等だ!」


捕らえた人間個人に価値はあるが水夫にとっては価値がない。国にやとわれた私掠船なら船全体で価値を見出すことが最も高い利益を生むのだ。母国である正統グリーフラントへ高額な身代金要求をするもよし、自国の勢力に売り渡すもよし、有益な情報を聞き出して飼い殺しにしたって良い。ただ返すだけでも十分に意味がある、勿論無傷では返さないが、この私掠船の恐ろしさを周りに言い渡す良い伝道師となるだろう。そうすれば次に襲われる民間船はさぞ簡単に降伏するに違いない。


「身代金を取る方向で考えているんだが、お前たちはどうだ?」


「異議なし」


口をそろえて皆が言った。ただ、一人の水夫がきょろきょろとあたりを見回して不思議がった。


「なぁ、大事な分配をするって時に何で船長がいないんだ?」


クウォータマンにそう説明した。するとさも当たり前といった感じで言い返した。


「なんでも根ふみをしているらしい。どれぐらいの身代金が取れるのか、それとも軍がやってきて奪い返しに来るのかのな」


「軍つったって新興国の兵士なんざ怖くもねぇ」


「バカ、連中は銃をあほみたいに持っているんだぜ?下手をして殺されては困る。だからその意味でも値踏みをだな」


「にしても遅すぎねぇか?」


そうこう話しているとしたの甲板の扉が開いた。皆が船長の遅い登場だと注目するも様子がおかしかった。


「抵抗するな、さもないと船長の命はない」







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