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悪党のすすめ  作者: と
悪党→政党編
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48 航海

大海原の旅を僕はしたことがない。きっと、それはとても素晴らしい景色が広がっていて、どこまでも美しい青く澄んだ空を眺めることができるのだろうとは思う。ただ、現実にどこまでも続く大空の旅をしてみると。旅客機でもない限り快適とは言えない。


「今高度はどれくらいなんだろうか?くそ、対気速度計や気圧高度計があれば・・・・」


当然そんなものはない。風を切りながら飛行帽をかぶる僕は。島龍と呼ばれる龍の背中で3日過ごしていた。背中といえども長旅に必要な装備はしっかりと詰んでいる。なんなら背中に小屋を持っているほどであった。案外地上にいるときとなんら変わらない生活を龍の背中で僕は体験していたが、不安を捨てきることはできなかった。


「アマーリアはこの龍ならばユーヒリアまで行けると言っていたがどこに向かっているのかすらわからん。六分儀を使って現在地を割り出しても雲の上という事しか変わらない」


草の生い茂る龍の背中でただひたすら寝そべっている晴馬は若干引き受けていたことを後悔していた。どうして自分がこんな危険な旅を引き受けたのだろう?もしつけなかったら?ユーヒリアと交渉が決裂したら?そもそも積乱雲の嵐に合ったら?そう考えると余計に不安にあおられる。


「「考え過ぎは毒ですよ晴馬」」


「ユッタ、なら僕はどのようにしてればいいっていうんだ?」


「「雲のように、風のように時が過ぎるのを見ていればいいのです」」


なんて暢気な奴なんだ。それとも状況が見えていないだけか?


「「状況など現時点では雲海を泳いでいるぐらいしかわかりません。それならばされるがまま流されるべきなのですよ」」


「はいはい、そうさせてもらいますよ」


「「感心感心、いつも通りいきましょう」」


晴馬は立ち上がり島龍の中央の木へと向かった。そこを拠点とし小屋を建てているのだ。外ではフェリシーが昼食ために鍋でシチューを、カロリーネは六分儀で現在地を割り出し。例の、カタリナは木の上で見張りをしている。皆それぞれやるべきことをしているようだ。ただ僕を除いて。


「ハルマ様、お帰りなさい!もうすぐでできますから」


「ああどうもフェリシー、しっかりやってる?」


「味見してみますか?」


晴馬にそっと混ぜ棒を差し出す。晴馬は試しにと食べてみたが、口の中に広がるのは腐りかけの塩付け肉と乾燥したリンゴの触感。あとはフェリシーの努力の成果であろうぎりぎり食える味のみだった。


「ぐおおお!自由都市国家に行く時食べた物よりよりかなり不味いじゃないか!」


「しょうがありません、船の上では水すら貴重で腐っても皿洗いや甲板掃除に使うようですし、料理ともなればこれが限界です」


自分が想像していたどこかのファンタジーのようには行かないようだ。航海の現実は照り付ける太陽。潮風で痛む髪、壊血病との戦いが待ち受けていた。まぁビタミン接収をすれば問題はないのだがビタミンを知らないこの世界の人間には教えるのに苦労したものだ。ごもっともすべてが最悪というわけではない。夜見る星空も、この陸地では体験できない環境、空を飛ぶ異界の生物たち。こんな体験は特使として派遣されない限りは体験できなかっただろう。


「ふう、こんな生活長く続くと思うとあまりいい気がしない」


「まぁまぁ、旅なんてこんなものですよ。ハルマ様に振りかかる負担に比べたらこんなものは軽いじゃないですか」


「ははぁ、フェリシーも皮肉を言うようになったんだねぇ」


「それが現実です。ハルマ様もしっかりとユーギリアの代表に無礼のないようにマナーを勉強していますか?」


晴馬はギクっと体を反応させた。なぜなら、それがハルマにとって最も不勉強で大の苦手であるものだったからだ。今の今までそんなことを学んだことも、興味を持ったこともない晴馬にとっては苦痛でしかないために理由を付けてさぼっていたのだ。


「その様子だとあまりしていらっしゃらないようですね」


「ふ、ふんまぁ僕はその・・・ね?」


「ごまかせていませんよ?どうしてもできないなら私が指導しましょうか?」


フェリシーがにやにやと笑いながら提案して来た。晴馬はぐぬぬと言いながら歯ぎしりするが、このままユーヒリアの人間に笑われては特使としても僕という人間としても問題となる。この際恥ずかしとか言っている場合ではない。身に着けるべきことはすぐにでも身につけなければ。


「そ、そうだね。頼んでみようか?」


「ふふ、しっかりと出来たら頭を撫でてあげますね」


そういいながらフェリシーは晴馬を撫でた。子ども扱いをされたような気がした晴馬はひどく腹立たしくフェリシーを見た。いつからこんなことが出来るようになったんだ?


「随分と楽しそうにしてますねぇ~社長?」


カロリーネは晴馬とフェリシーの前に仁王立ちしピクピクと眉を動かしている。


「や、やぁカロリーネ、今日はどうして不機嫌なんだ?」


「ほお?聞きたいですか?何ででしょうねぇ?」


「生ブフォォ!」


「現在位置を空図に書いておいたので確認してくださいセ・ク・ハ・ラ社長」


顔に空図を押し付けられ、息も絶え絶えの晴馬は会釈して意思表示した。


「それにしても社長は礼儀正しくないですねぇ?これではユーヒリアの王族たちに笑われてしまいますよ?わ・た・しが指導しましょうか社長?」


「いや、すでに指導は間に合って」


「これでも王宮で文官をしていたのでそこは完全にマスターしてますからこれ以上の適任はいませんよ?今の指導者は解任してもらいましょう」


「カロリーネさん?」


カロリーネは何か素っ頓狂な考えを言い始めた。晴馬は困惑しフェリシーは目をパチパチとしていた。


「いいですか?これからあなたが社会で活躍しようと思えば必ず必要になることです。拒もうと嫌おうとこれを否定して先に行くことはできないッ!覚えるなら早いうちからしっかりと理解してもらわないと困るんですよ!」


「お、おう」


「そんな時にうまくできたら頭なでなでとかいう甘っちょろいことをしていたらいつまでたっても礼儀が骨に染みないでしょう!?ということで私が指導者になったら・・・私の頭をなでてもいい!」


「何だって?最近耳が遠いからもう一回言ってくれ」


「ちゃんと習得出来たら私の頭を撫でてもいいですよ!」


はぁ、こいつは何を意味の分からないことを言っているんだ。どんだけ自分の頭に需要があると思っているんだよ・・・。


「ふ、ふーん。カロリーネさんは随分と子供っぽいといううか、子供っぽいですね」


「ん?どうしたフェリシー」


今度はフェリシーが話し始めた。心なしか鍋のかき混ぜ棒をより高速に混ぜ始めているように見える。


「まぁ、私はそうですね。抱きしめてあげますよ。嬉しいでしょうハルマ様」


「いや、そんなに」


「嬉しいでしょう!?」


どうかしたのかと言わざるを得ない。というかなんでそんな話になったんだ。


「ふふふ、フェリシー、どうやら私の提案の方が価値があるみたいですね~?どうですか?負けを認めますか?」


「いや、お前の頭皮もさして興味はないから」


「え!?」


目を丸くしてカロリーネは驚いた。当たり前だよなぁ?むしろこの世に自身の頭皮の価値の是非を聞いたら多くの人がないと答えるだろ?むしろ人の頭なでて何がいいんだ。僕だったら警戒心マックスで絶対落ち着けないぞ。


「な、なるほどー。社長は欲張りですねー」


「いやーそうでもないですよ僕は」


「そ、そうですか。まぁそこまで要求されてはしょうがないですね。なら私は、パフパフ!パフパフしてあげましょう!」


「え!?」


パフパフとはあのパフパフだろうか?カロリーネはあのパフパフを言っているんだろうか?


「まぁ私はスタイルもいいですし、自慢ではないですけど胸もそれ相応の物を持っているんでねぇ、自慢じゃないですけど!」


「おお、パフパフ、パフパフ」


晴馬は何か取り付けれたかのように一単語を繰り返し口走っていた。カロリーネはその度赤面するが、何かを獲得したかのようにガッツポーズをとる。


「はわわ、ハルマ様!ハルマ様!」


フェリシーは晴馬の正気を正そうとゆするが、本人は妄想にうつつを抜かしていた。


「わ、私にも胸があれば!」


別に発育が悪いわけではない。まぁ良くもないのだが彼女はスレンダーな若干筋肉質の肢体を持っているというだけなのである。だが、フェリシーはこの時だけその自分が憎くてしょうがなかった。


「どうですか社長?私に指導してほしいでしょう?」


「おお、パフパフ」


「若干馬鹿になってますけど肯定でいいんですかね?」


「ぐうう!それなら、それなら私は!」


フェリシー悩み抜き、絞り出すかのように頭を押さえ始めた。暴走した思考は頭から湯けむりを作り出すほどのオーバーヒートを引き起こしていた。目はぐるぐるとよく読み取れていないようにも見える。


「二人ともそこまで」


カタリナはそう言うと二人に飛行帽をかぶせ、水筒を差し出した。さっきの騒ぎを聞いて木からおりてきたのだ。


「顔がすごく熱いように見える、日射病の傾向があるからしばらく小屋で休んでなさい」


「ふええ、そうさせてもらいます」


「え、は!わ、私は何を口走って!」


二人は素直にカタリナの言うことに従い小屋の中に避難した。一方日射病ではないがある種の病気にかかっているような晴馬は、パフパフと連呼していた。ここまで来たら滑稽でカタリナの冷たい視線を生んだ。


「・・・」


「ぱ、パフパフ」


カタリナは隻眼でその腑抜け具合というか骨抜きの状態を観察するように見ていた。若干晴馬も意識を取り戻してきており、何か自分が非常にバカバカしいことをしているような気がしてきていた。


「えい」


「ん!?」


カタリナは晴馬をパフパフした。パフパフしたのだ。彼女は秘書課の人間のため、制服越しではあるが肌に何とも言えないやわらかさと温かみを感じた。そのけしからん乳に慌てて暴れる始める晴馬だがカタリナの怪力ぶりで全く身動きができない。


「どうですか?お望み通りパスパフしてあげましたよ?気持ちいでしょう領主様」


「ムムムゴ!」


「ああ、やっぱり相思相愛ならば以心伝心!領主様の嬉しい感情がじかに伝わってきます!」


残念ながらカタリナ感じているのは晴馬の過呼吸で、晴馬の桃源郷は瞬間で通り過ぎ、今はコスキュートの手前で右往左往していた。


「今一つに、あの時かなわなかった思いをここで達成する時!」


「ムゴォ!?」


今度は服を脱ぎ始めている、まさかと思いカタリナの目に視線を送る。暴走して我を忘れている、こいつも暴走し始めている!


「待て待て待て!落ち着けカタリナ僕は領主じゃない!」


「まぁまぁ、恥ずかしいんですか?でも大丈夫私も初めてなんです。だから優しくしてあげますね」


「うおおおお!感情の同化ァ!」


途端晴馬は意識をなくしたかのようにうなだれ、意識を取り戻すと表情の違うハルマになった。


「ん?どうしてこうなった、何事ですか?」


ユッタは状況を理解することが出来なかったが、目前で同業の騎士であるカタリナが服を脱いでいるところを見て淑女として見逃すわけにはいかないと思い。服を掴んで制止する。


「ああ!剥がすのが好みですか、いい、むしろいい!」


「いえ、胸が見えてますし隠しておいた方がいいかと思いまして。できれば拘束を解いてくださると私も動きやすくなって楽になるのですが」


「まぁ積極的!私そういうのあこがれていたんです!」


「酔っているんですか?そんなこと言ってるから領主の母親に目玉くりぬかれるんですよ」


カタリナの暴走加減を察したユッタは制止をしながらもテクニシャンに事の幕引きを始めた。カタリナやフェリシーとカロリーネが正気に戻ったのはそれから15分ほど後のことであった。彼女たちは記憶が飛んでおり自分が今まで何をしていたか全く覚えてはいなかったが晴馬の食事に対する悲鳴を聞いて目を醒まし、とにかく自分の持ち場につこうと移動した。


「社長、何か遠くに船を見たとカタリナさんが呼んでいます」


晴馬が小屋で日誌を書いているとカロリーネが晴馬に呼び掛けた。すぐに木に寄り添って作られた見張り小屋に行きカタリナに合流する。


「どうした、どこに船があるんだ?」


「向こうの雲の裾から上昇した船を確認しました。あまり大きくはないですが遅い速度で私たちに並行しています」


まさかとは思うが敵か?ここはユーヒリアとグリーフラントの国境間に当たる空域よりは遠いが沿岸艦が来てもおかしくない距離だ。この空に僕たちの味方がいない以上、見えるものは皆的であると考える方が賢明だ。


「何か特徴は?」


「恐らくではありますが民間の船ではなく軍関係の浮揚艦だと思います。望遠鏡で確認したところ砲門の数が普通よりも多かったのを確認しています」


「ばれたらまずいな・・・こっちの武装は?」


「マスケット数丁、戦闘員が私とあなた、以上です。ですがこの龍であればまず仮に浮揚艦が来ても破壊できるでしょう」


何とも乏しい武装だ。危険な旅が現実味になってきた。


「問題はそれでも衝突が起きたときだよ、向うがどこの軍籍かもわからないなら手の出しようがない、ユーヒリアだったらどうするんだ」


「まぁ、様子見するほかありませんね」


晴馬はじっとカタリナの見た方向を見る。確かに雲に見え隠れはするもののそこには船のようなものが見える。ゆっくりと並行しているが確実に近づこうとしているようだ。


「もしかすると民間の輸送船か?せめて何か見えればいいんだが」


マストを見ても、国旗のような物は見当たらない。だがやがて肉眼で見えるような距離にまで迫ってきた。連中が速度を上げたというわけだ。


「どうしますか、マスケットでもぶっ放して」


「下手に応戦して連中がこちらに飛び移ってきたらそれこそ問題だ。ここはむしろ僕とカタリナが向うに飛び移って対処したほうがいいかもしれない」


「近づいたら勝負ということですね」


息をのんで近づく船を見るがやがて鮮明に見えるマストに掲げられている旗。国旗で間違いないだろう。


「あれは・・・ユーヒリアの旗です!係留を求めています」


「何が目的だ?」


晴馬は船乗りでも何でもないので理解できないだろうが、解説することこの行為は何一つおかしいことはない。係留を求めている場合は大抵海域の情報交換、社交辞令、救助要請ないしは物資の要求にある。当時は民間船の間でもよくあったことでいわば常識の範囲内ということだ。この長ったらしい解説をカタリナがすると、晴馬は余計に冷汗をかいた。


「だとしてこっちはマストに旗を掲げていないんだぞ?国籍不明の艦というか龍に対してそんあことを望むのはおかしいんじゃないか?」


「そうですね、引き離しましょう。一応彼女たちにマスケットの準備をさせておきましょう」


カタリナはそう言うとすぐさま小屋の方に戻って行った。晴馬は自前の望遠鏡を使って除き、相手の浮揚艦の甲板に上がっている連中を除く。


「なぁ、商船と軍艦って何が違うんだ?」


「「そうですね、一般的には船の速さと砲門の数が違います、あの船は見た目は砲門が多いですが形は商船そのものです。現にあの船が遅いのは貨物を運んでいる可能性が見られますからね」」


「それじゃあ、あの船が雲に下している縄はなんだ?」


晴馬は望遠鏡で後甲板あたりから雲の中に垂れさがっている縄を見た。何かをひっあのかけているのかもしれない。とにかく普通あのようなことをするのだろうか?


「「変ですね、あの船装飾や楼甲板がない。というかなんであんなに人が乗っているんですか?」」


船はこれでもかと接近を始める。やがて甲板にいるひとがみえてきた。屈強な戦士の群れは100人を超す異常な配置で逢った。本来であれば入れもせいぜい30人が限度というのになぜここまでいるというのだろうか?


「あ!垂れ下げてた縄が外れたぞ!」


後甲板から解かれた縄は途端に乱れ狂うように暴れ、雲の中の物を引っ張り出すかのように落ちて行った。それはパラシュート、減速のために使っていたかのようにそれは外れ。ぐんと船の速度は速くなる。


「クソ、あれは商船に見立てるための減速凧か、このままじゃ追い付かれる」


すぐさま晴馬は見張り台から降りて小屋に入ってグングニールを手にする。フェリシーも事の次第をしっているのかマスケットを既に用意していた。


「ハルマ様、この状況は・・・」


「こんな事大したことないよ、君は小屋から出ないでおくんだ」


「でも、少しでも戦わないと」


「普通に考えて船を襲う連中にしてみたら龍を襲うメリットなんかない。おそらく誰かの指金できたに違いないよ。君は安全な場所にいるべきだ」


そう、そう思わざるを得ない。確かにマストには海賊の旗がかかっていたが、ならば商船を襲うことを優先するはずだ。なのになぜこんな偏屈な船というのも難しい龍を襲うのか。それを考えれば事の異様さが見えてくる。


「カタリナやカロリーネはどうした?」


「カタリナさんは鉤縄もっていきました。カロリーネさんは龍の操作に」


「ならカロリーネは戻ったら小屋から出るなと伝えておくように」


晴馬はそうとだけ伝えると小屋のドアを開ける。そこにはカロリーネがいた。


「社長、龍がいう事を聞きません、このままでは引き返すことも・・・」


「ううん、ガーディナルでないと操作は難しいかもしれないな。君も小屋に入るんだ」


「いえ、もう少し頑張ってみます!もしかしたら私でも引き返せるかもしれませんし」


「いや、それで君が誤って戦闘に巻き込まれたらどうするんだ、もっと緊張感を持って行動するんだ」


カロリーネには晴馬は少々余裕がないように見えた。彼の顔からはいつもの温厚な顔は消え、少しだが恐ろしい嬉々だった顔をしている。目は殺気だって開き、唇を閉じて荒い呼吸をしている。


「いいかい、フェリシーを頼んだよ」


晴馬はすぐに見張り台に駆け上がり、カタリナと合流する。カタリナはすでに鉤縄を相手の船のマストにかけており、飛び移ろうとしていた。


「りょ、ハルマ様、私は向こうに飛び乗りますからここを任せました」


「いいや、そっちの方が危険だ。僕が飛び移るから君はここで守るんだ」


「ふふふ、面白いことを言いますね?特使を守るためにここまで来たのに余計に危険な方へ足を運ばせるなんて考えられません」


そう言うとカタリナはウィンクをする。大丈夫だと言わんばかりの自信を言い表しているかのようだった。


「任せてください、これでも私は花冠の騎士団、これしきの事ではやられはしません」


そう言うと抜刀し、片腕に縄を巻き付けて向うへと飛び移る。ひゅうと風を切りながらマストについた彼女に、船員たちは下卑た笑いをする。


「へへ、龍の背中にこんな上物がいたとはな」


「持ち帰って売り飛ばしてはもったいない。ここで味見すんべ」


野郎たちは皆、数多くのマスケットで武装していたが、捕獲を考え舶刀に構えなおす。


「死ぬ前に答えろ下郎共、お前らの親玉は誰だ?」


「ああん?そんなこと教えて何になる?」


船員は聞く耳を持たず、ポンポンと肩を刀で叩く。


「ふう、痛い目を見ないとわからんか」


観念したかのような口調でカタリナはサーベルを振り、瞬間的にマストから降り立った。


「な、なんだぁ?」


「私は忘失のパラディン、あなた方がどう目を凝らしても私をとらえることはできない」


カタリナがそう告げると先ほどまで話していた男の場所にいた。


「ひ、ひい!」


先ほどまでそこにいた男は、パンという破裂音と共に砕け散り。おびただしい血と贓物を噴き出して甲板を汚した。


「て、てめぇ!野郎共!遠慮はいらねえなぶり殺しにしろ!」


一斉に多くの男たちがマスケットを発砲した。おびただしい黒色火薬の硝煙と鉛球は凄まじい破裂音と共に男たちに襲い掛かる。誰もが倒れ。そこに立っている者は誰もいなかった。カタリナただ一人を残して。


「次は誰だ・・・次に死にたいものだ誰かと聞いている!」


「うおおおお!」


一人の男が舶刀を振り落としカタリナを襲うも、カタリナはふっと消える。


「ちょこまかと!どこに行きやがった。」


「ここにいるぞ?何を言っているんだ」


声のする方はまさしくさっき舶刀を振り落とした場所であった。しかも、振りかざしたはずの刀が、しっかりとカタリナの腹部に刺さっているではないか。にもかかわらずカタリナは苦しむようなそぶりも見せず。また腹部には出血らしいものは見当たらない。


「う、うわああああ!なんだお前気持ちわりい!」


「そうか、なら死ね」


男はサーベルに切断された。世辞の句にしては何とも後味の悪い言葉だった。カタリナはゆっくりと舶刀を腹部から抜く、そこは空間が出来ており。空洞となっていた。


「次は?次は誰だ!」


カタリナの言葉を返答するものはいなかった。誰もが殺気立つもわからない状況に混乱をしている。だが、彼らも直ぐに考え出す。船の側面に大きな板を持っていき、気づけば目と鼻の先ほどの距離にまで近づいた龍に飛び移ろうとしているのだ。結果、多くの者がなだれ込むかのように板をわたって向こうになだれ込もうとする。


「人質だ!人質をとれ!」


誰もがそう叫んで行くが、龍にいる一人の男が通せんぼをするかのように槍を持って仁王立ちしている。


「邪魔だどけ死にたいのか!」


「邪魔・・・私のことを言っているのですか?」


「なんだオカマ野郎、引っ込んでぐ、うわああああ!」


先頭に立つ男が空に落ちる。グングニールが屠ったのだ。


「古今無双の将や兵ならいざ知らず、お前たちのような雑魚にそのようないわれをされる筋合いはない!ここを通りたくば私を討ち取ってからにしなさい!」


槍を構えた。誰もがその刃先に群がるが。まるで風に舞う花弁のように消え、そして散った。やがて男たちの戦意は少し、また少しとそがれていった。


「ふん!」


「ぐ、こいつら強い!船長!どうするんだ!」


船員の一人がそう叫ぶ。誰もが甲板にいる一人の男へと注目していった。無精ひげを生やし。汚れた蒼い服に焦げた肌の男が現れた。執拗に帽子を触って状況を確認していた。


「そうだな、この戦いはこれ以上は不要かもしれねぇなぁ」


「なんだと!?お前が襲えって言ったんじゃねぇか!」


「まぁな、だが状況は最悪であるしこれ以上の損失は防ぎたい。一度和平交渉と行こうじゃないか」


まるで他人事かのようにふるまう船長は白いハンカチを振った。


「降参だ。これ以上の戦闘はしたくない」


「な、何をふざけたことを!」


カタリナの逆鱗に触れたのか、彼女は手元に転がっている舶刀を船長に投げつける、だが、それに対して船長は何ら表情を変えずにそのまま続けた。


「いや、これはお詫び申し上げる。私どもはユーヒリアの私掠船でね、つまりは国家容認の海賊というわけでグリーフラントの商船や不審船を襲って稼ぎにしているわけですよ。そんな日に、龍に乗った人間がユーヒリアめがけて飛んできて人数も少なくて襲いやすそうだったもんですから」


「我々は特使だ!このような扱いを受けるいわれはない!」


「おや?特使?」


カタリナのその言葉を聞いてピクッと眉を動かす。


「特使ってあの特使ですか?」


「そうだ、僕たちは正統グリーフラントからの使者だ、ユーギリアの王に用がある」


「ほお、なら、なおさら白旗を上げとかなければならないな」


船長は晴馬の元へと歩みより。握手を求めてきた。


「私から中央議会にに、特使が来たと言っておく、言っておくがこれは助命行為に値する。どうだ?」


「こういうのはどうでしょう?貴方の船の海図を奪いユーヒリアへ、我々を襲った代償として貴方たちを皆殺しにするというのは?」


「おいおい、頼むよ」


冷汗をかく船長には、船員からの視線にもさらされていた。だれもが敵意を示すような表情で見ており。あまり良い印象を得ることはなかった。


「船長!これはあんたの責任だ。出来なかったらあんたは投票で処刑される」


「そうだ、島流し、島流しの刑にする!」


船員たちは豹変したかのように船長に批難を浴びせた。あまりの出来事に晴馬たちも驚愕する。


「というわけだ、どうか哀れなこの男に多少なりとも慈悲を」


「ええ?っち、しょうがない、まずは船長室へ」


「ありがとう」


船長は顔を伏せて敬服の意思を見せた。船長とはここまで権力のない人間なのだろうか?そうユッタは考えたが、事を荒立てるよりは降伏を選んだ船長に慈悲を見せ、早急にユーヒリアに行くことを決断した。戦闘が終わったことを見計らい、意識を晴馬にバトンタッチして、カタリナに龍から遠ざかるように誘導させた。


「降伏することは感心だけど、船長室で奇襲しようったって上手くいかないことだからあきらめるんだね」


「そんなことは考えてもない。どうやったってパラディン二人に勝とうとすることは不可能だ」


船長室にて晴馬をもてなした。席に座らせてラム酒を渡した。


「昼間っからこれ?」


「腐った水で淹れた紅茶が望みならふるまうがね」


「それは、ちょといやだなぁ。ところでさっきの部下からの信頼のなさは一体なんだ?」


「ははぁ、船長は投票で船員から選ばれるからな、俺は元士官で投票でなったのさ」


「ははぁ、だから失敗すれば支持率も下がりあんな島流しとか言われるのか」


「前の船長はそれで島流しあったしな、さて話をまじめな方向に直そう、お前は特使らしいが悪党なのか?」


船長はそう言うととある書面を持ってきた。


「見る前に答えろ、悪党なんだな?」


「ああ、間違いなく悪党だよ」


書面を受け取り、中を確認すると刻印の入った書面だった。


「ユーヒリア国家の議会命令?」


「悪党との接触を頼まれている。我々も、お前たちとたもとを分かちたいのだ、ごもっともそれも一部の者だけだがな」


一部のものとという言葉に晴馬は反応した。船長に顔を向けると、彼は頭を掻きむしりながらパイプをくわえる。


「議会は分かれているのだよ、それも小国が徒党を組んでいる我が国だとそれも複雑化している。つまりはお前たちを受け入れる国家と受け入れない国家が多くいるということだ」


「遠路はるばる来てそんなセリフはかれるとは思わなかったよ」


どうやら旅路の終着はさらに遅れそうである。






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