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悪党のすすめ  作者: と
奴隷編
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3 行きつく果て

足を引きずられるように僕は奴隷の輸送馬車に揺られる、行き先も分からないこの馬車は、お世辞にも貴族とかいう奴の屋敷に行くようには見えず、むしろ荒れたスラムのようなところを走っている。


集中できない僕はいろいろ考えていた。それは今の気持ちだ。すがすがしいといっても過言ではない、なんだかゆっくりと地獄の窯を開けるような気分なのだ。その原因が心の整理がつかないせいなのかかはたまたもう希望を捨ててしまったのか、僕にはわからない。でも冷静な頭から感じ取れる現実味、それがある限り僕はどんな妄想や現実逃避を浸って必ず引き戻されるだろう。


「っつ~、いてぇ」


契約書が刻まられたとかあの男は説明していたが。これもその代償なのだろうか、先ほどに比べれば痛みも引いてきたし、ある程度なら触ることができるよになった、だが、それでも隠しきることができない屈辱が、これから来るであろう未知の恐怖が、少しずつ心臓をつかんでいく気がして、吐き気を催す。


「よぉ、おまさんも不運だな、よりにおよってこんなところに来ちまうなんてよ、ませいぜい慣れるこったな」


「・・・」


「おいおい、気を落とすなって、言いたいことはわからんでもないが、今は生きることが最優先だぜアウタースレーブ、見たぜ?お前が貴族相手に暴言はいたと思ったら、伯爵が男爵を叱咤して、お前は奇跡的に殺される運命を受託した」


「・・・」


「だけどだ、その成り上がり男爵と来たら支度金が少なすぎた、笑っちまうよな?持ってきたのは金貨60枚、商人からすれば大金かもしれないが、貴族にしてははした金だ、しかもアウタースレーブを買うってんならモンゴロイドだって最低価格は金貨150枚ときたもんだ、まったく貧乏人の貴族っていうのはどこも悲惨だねぇ、ま、貴族と名乗らず商人としてくりゃあそんなことにはならなかったのになぁ」


「・・・」

「金もねぇのに公の場で買うなんて言っちまったら貴族は買うしかねぇよなぁ、それもさっきまで誇りがどうとか言われた奴が買わないなんて貴族の、いやグリーフラント貴族の風格そのものに泥をつけるようなもんだもんなぁ、だがそのおかげで、お前は借金のカタに貴族から金貸しに売られ、こうして貴族に殺されずに事なきを得たってことだな」


よくしゃべる奴だ。今起こっている状況が理解できていないのか、狂ってしまったのか、どちらにしろ、かわいそうな馬車の同乗者が僕に話しかけてきた。見たところ市場にいたやつらと服装が似ているところがあるから裕福そうな出身なのだが、それにしては服が崩れていたり汚れている。何よりそんな高貴な奴がこの馬車に乗っているなんて到底考えられない話だ。しかしながら、こいつは『奴隷』じゃない、奴隷であったら俺や馬車の他の人たちのように顔が火傷でただれてたり、腫れたりしているはずだ。


「・・・貴族は泥遊びでもする趣味があるのかい?ひどい服のほころび方だ」


「っは、いってくれるな、それでこの馬車に乗ってるっていうんなら、俺もすぐに降りるんだけどねぇ、残念ながらおれはそうじゃない、貴族だったおれなら、その言葉を不敬罪とし、殺すだろうが、見た目通り、戦争捕虜さ、先の戦いで負けちまった」


そう言って彼は鎖を見せつける、ほう、戦争ねぇ、僕にはまったくみにおぼえのないものだけど。


「戦争捕虜?なら収容施設にでもいるんじゃないのかい?」


その言葉が傑作だったのか笑って返答した。


「確かに、普通ならそうだよな?戦争っていうのは普通雑兵や傭兵ならともかく、俺みたいな貴族は一度捕まえておいて、身代金を要求するほうが金になる、そんな金の卵は捨て置くにはもったいないし、奴隷にするのはもってのほかそれが一般的な回答さ」


そう言いつつも彼はから笑いし、話を続ける。


「それがこの国では通用しなかったのさ、見ての通り、俺は貴族だというのに、扱いはひどいし、もう2年も、こんな生活をしている」


「二年?そんなに捕虜をやっているのか?」


「いや、俺は実を言うと捕虜というには複雑すぎる、どちらかというと抑留とでもいうほうが適切かもしれねぇな、戦争自体は終わっちまったんだが、俺の国はユーヒリア連邦共和国になっちまってな」


少し複雑でわからない。


「・・・何が言いたい?」


「話し相手がほしいのさ、アウタースレーブは政治の勉強だってするんだろ?ほらさっきの話、お前はどう思った?」


暇人に付き合うほど余裕もないが、これほど文明的なこともまた、ほかにない。ここはひとつ話して平静を保つか。


「・・・話が見えてこないな、ようは君主がいない国家になったってこと?それともそれで『知らない人ですね』って言われたってことか?」


「ほぉ、わかってるじゃねぇか、そうさ、連邦共和国、国家の集合した、貴族による議会国家の一員となった我が国は過去の戦争は新国家により一切関係ありませんって言い始めやがったのさ、そのおかげでおれの伯爵家もいまやどうなっていることやら」


「でもおかしいじゃなあいか、連邦共和国は干渉する理由はないけど、その一国家だったら十二分に君を保護する理由があるだろう?」


そういうと彼は目頭をグッと抑え溜息交じりに説明してくれた。


「だから連邦なんだって言っただろ?一国の独断で動くことってのは連邦じゃあできねーんだよ、じゃなきゃ、わざわざ議会を作る意味がねーだろ?それにそんなことしたらグリーフラントが絶対に共和国の主張だってだって言い始めて、何かの大義名分に侵略する危険性がある」


「ふうん」


「ま、ようは助けてはくれなかったってことさ」


そう彼は言うともう慣れたとでも言わんばかりに、よそを見ながら会話を続ける。


「な、俺が思うにお前はこの世界に来てそんなに立ってたない、違うか?」


「ああ、そうだよ」


「やっぱりな、お前さん、きれいな身なりしているものな、何か聞きたい事、あるか?よかったら何でも聞くぜ」


まぁ、聞きたいことだらけで逆に何から話したらいいかわからないくらいだが。聞けることから質問しよう。


「僕、なんか自分の名前がわからないんだけど」


「ああ、契約の時に奪われちまったんだろう、奴隷は名前をなくす魔法によって交渉できるんだ」

さも当たり前のように言ったが魔法、こいつ今魔法って言ったか?


「なんだ、お前も疑うのかよ、まいったなアウタースレーブってのはみんな疑り深いな、まぁでも何度でも言ってやる、あるんだよこの世界には魔法ってやつが、お前も見たろ?あの魔法陣を、こう、光が行き交うような光景が、蛍みたいのが飛んだと思ったら、自分の顔が火傷したろ?」


そう言われれば、確かにそんな気もする。でおだからって本当にそうなんだろうか。あり得るのか?


「まーだ疑ってやがるな?」


「信じろっていうほうが難しい話だろ」


「まぁ、どのみちこの世界から帰る方法はないし、しっかりと見るんだな」


青の一言に、俺のすべての希望が詰まっていることを、この男は知っているのか、知らないのかわからないが、築けば俺はその男の胸倉を掴み、息を切っていた。


「おい・・・もう一遍行ってみろ」


「だ、だから帰れねぇって、お前、見たんじゃねぇのかよ、空賊に襲われたときのこと思い出してみろ」


男に言われ、必死で記憶を思い返す。


「・・・落雷?」


「そう!そいつだ、あれは一代目のこの国の王が遺した亡骸から放出するエネルギーが、時空にゆがみを生んでおこる現象なんだ、そこに船を出して拉致をする・・・これが奴隷狩りの方法だ!離してくれ!見つかったらことだぞ!」


僕は、自分が思っている以上にショックだったようで、彼の首を締めあげるようにつかんでいたようだ、すかさず手を放すと、彼は水を飲むような口で肺に息を入れ、呼吸を整えていた。


「でも、ならもう一回起こしたときにやれば」


息を整えながらも煮え立つような顔で返答する。


「だ~か~ら~、無理だって、あれは百年に一回なの、今日は王位継承式典の日、その日だけ放出されるの!だから次はまた百年後まで、王の亡骸が魔力を温存しない限りはできないの!」


「・・・じゃあ僕はこのまま一生ここにいるってことか?」


「まぁ、そうなるわな」


さも当たり前のように言われ、あっけを取られた、しかし僕はその言葉をうのみにはできなかった。至極当然のことだ。理由は言うまでもない、これから僕は自らの目標に向かって進もうとした矢先にこのような世界に飛ばされた混乱を帳消しにするような一言、その時の僕を表現するならば、一番近い言葉は『発狂』次に『憤怒』それでも表せなければ『理不尽にかられた人間』といったほうが的確なのかもしれない。


瞬間、どこからともなく体をめぐる赤血球の中に怒りと絶望とありとあらゆる負の力が流入し全身を支配するような感覚に襲われた、その時の僕たるや、当てのない力が暴走に近い怒りを放出するので体が精いっぱいだったように、わめき散らし、吐き散らし、そこまでたどり着く人生を紹介するように語りだした。


「ふざけるな!この世界で一生なんて、僕は反対だ!もうすぐ僕は大学に入る予定だったんだ!日頃から勉強してやっと航空関係につけるような大学に合格したんだ!僕は工業高校だったから舐められないように!バカにされないように!必死に」くらいついて勉強してきたのに意味がないっていうのか!」


そういうと、何やら疑問を抱いた顔で男は返答する。


「は、はぁ、お前大学に行きたかったのか、聖職者にでもなるつもりか?」


「違う!飛行機の作る人間になりたかったんだ!」


「お、おう」


気迫迫る迫力で、思わず圧倒されたようだが、その後すぐにしかめっ面になる。


「おい、おめぇちっとうるせぇぞゴラァ!」


途端に後頭部に強烈な痛みが襲い、馬車の中で伏せる。


「ふざけやがって、おめぇ奴隷のくせにうるせぇんだよクズが!少しは自分の立場ってもんがわかんねぇのか?あぁん?」


どうやら僕はこの馬車の馬主に思いっきり殴られたらしい。どうしていいかわからないが、抵抗するべきなのかもしれない。


「ふざけやがって、オラ!オラ!」


迫りくる暴行、蹴られ、罵られ、殴られた。


混乱する頭脳、原因は自分におこったことがわからないからだろう。その代償は、口を切り、あざを生み、涙腺を潤わせる。苦痛?なぜ抵抗しないのか、俺でもわからない。



「謝れや!オラ!」


俺は亀のように体を丸めることしかできず、言葉を出そうにも、肺に空気を入れるのが精いっぱいで、それ以上にできることがない。


痛い、とにかく痛い、苦しい、誰か、誰か助けてくれ!


「け、ようやく静かになりやがったな」


そう言って馬の操縦に戻った、残ったのはまた、現実を直視できない自分だった。市場のときもそうだったが、この感覚は何だろう、夢見心地、そういうべきなのだが、痛み、屈辱、どれをとっても今起こったことに変わりはない。それなのにも関わらず、僕は今、自分には起こってないことだと思ってしまう。


これが現実逃避?僕が体験した中でも経験のない逃避行の例、現実ではない。これは夢、決して今起こっているのは現実であるはずがない。


余韻と反芻の繰り返し、それが僕を最後まで黙らせた。


馬車は気づけば止まっていた。うつ伏せでたいれていたままの僕は、戦争捕虜の貴族につかまりながら、まだ見ぬ恐怖に立ち向かいいつつ降車した。


「ここがお前達の働くとこだ、肝に銘じておけ!」


馬主はそういうと馬をもって、どこかに行ってしまった。ここはどこか、それとなく見舞わす。


「どこだここ、なんか養豚場みたいだな」


「っち、よりにとってここかよ」


男は不穏な物言いで、ひきつった口を使って言う。


「くそ、みたいじゃねぇ、養豚場だよ、捕まりたてのころ、拷問で一回お世話になった」


イラつくように、いや、焦るように貴族は話した。


「ほう、じゃあ、なんで豚がいねぇんだ?ひょっとして放し飼いとか?」


「いや、俺たちが豚になるのさ、いいか、俺は二年間のうち一回ここに送られたことがある、ここは奴隷の中でも最下層の奴が行くところだ、覚悟して挑まねぇと狂って廃人になるぞ!」


豚・・・ついに人間ですらなくなったのか、いやはや、人間っていうのは堕ちるときはとことんっていうけど昨日今日でここまで堕ちるのは僕ぐらいなものなのではないだろうか。


「ふ、具体的には何をするっていうんだ?」



それを言ったとたん男は哀れみの顔で俺に視線を向ける、よもやこれから受ける辱めを前に、何も知らぬものがいようとはといった感じではあったが、当然のことながら、僕が知るはずもなく、その顔からくる感情は、余計に不安にさせるだけだった。


「何を?決まってんだろ?【魔法実験体】、モルモットだよ、ほらこっちに向かってくる奴らが見えるか?あいつらには俺たちは人としては見えない、タダノゴキブリだ、よく見とけ、あれが魔法を使う魔法使い、セージって種類の魔法研究の魔法使いさ」


施設から人が来るのが見えた。彼らはみな特徴的なトンガリ帽子を着用し、ローブを着た人たちだった。男の話を聞いて僕には一つ思うことがあった。先ほどから極度の緊張、徒労、恐怖で混乱はしているものの、戦闘の中にいる兵士のように、僕は冷静だった。いや、先ほどまで現実逃避と呼んでいたんのの本省が出てきたというべきかもしれない。それは【受容】だ。少しづつこのわずかな短期間のうちに心の中でそういう感情が芽生えていたのだ。


これが新しい生活、割り切って行こう、言葉にすれば簡単だが、その感情たるや、本能に従うように従順で、驚きを隠せない。


「ふう、信じられないよ、日本じゃないところに来ただけでも信じられないっているのに、僕は今、現状に慣れ始めている。【狂っちまった】、環境に【慣れる】っていうのは【狂う】ってことだったんだ」


「なら、お前は幸福かもしれないな、見ろ、他の馬車の同乗者を、奴らみんな、いつもひどい事ばかりされて、最後にここに来るのにまだおびえている、奴らが何十年で覚える従順さを、お前は短期間で覚えたんだ、これはすごいことだよ」


まもなく、セージが到着した。施設のセージたちは互いに話し合いながらこちらに来て、一人、赤い帽子をした立派な白いひげを生やした老人がが大きな声で、俺たちに説明した。


「やぁ、よくここまで来た、ここでは食事も睡眠も、ゆっくりとできる、君たちを拘束する時間など、せいぜい一日15分といったところだ、ワシは研究主任のルッツ・ツェンダーという、皆よろしく頼むよ、」


「は?」


その言葉に僕は驚愕した。それはほかの者も同じだったようで、奴隷の一人が質問した


「そ、それは本当ですか魔導士様?でも、その間に痛い目にあったりはしないんですか?」


するとルッツはにこやかに笑い、返答した。


「ああ、ああ、もちろんだよ、君達は15分、15分だけ我々に時間を貸してくれればいいそのあとは、この施設で好きにすごすといい、ここには何でもそろっておる、ここにいる限りは休みの間何もしなくていい、趣味があるなら言っておくれ、道具を用意しよう、服がほしいなら教えておくれ、生地の相談からしなくてはな、本を読みたければ文字を教えよう」


そういうと、ルッツはどこからとももなく紙と筆を出し、一人の奴隷に信じられない程丁寧に渡して皆にこういった。


「諸君の好物、なんでもいい、好きなものを書きなさい、すぐにでももってこよう、ちょうど歓迎会をする気であったのだ。諸君らが『仕事』を終わらせるまでには用意しておこう」


何だ、あの男の話を聞いたところさぞ恐ろしいと処だと思ってはいたが、そうでもないじゃないか。


ルッツは奴隷とできるだけ話し、他の魔導士も気軽に話しかけ、自己紹介のような雰囲気となり和気あいあいとしながら笑顔で振る舞う、そんな中ルッツは僕を見つけると興味深そうに近寄ってきた。


「ははぁ、君は見受けるに昨日の奴隷狩りで捕獲されたアウタースレーブかね?」


「え?あ、はい、すいません言葉遣いがわからないので、あまり話したくないんですが」


ずいぶんとぶっきらぼう話した音を後悔し、すぐさまかがんで攻撃に備えた。


すると笑い声が聞こえてきた。


「ははは、こっちの世界がきみたちとは価値観が違うことは心得ているよ、大丈夫、暴行なんてしない、君が、君の席アデノ非礼をワシにするようには思えないし、そうだ、友好のしるしに何か願い事を教えてくれ、むろんできる範囲の事じゃが」


「え?え?なんでそんなことを言うんですか」


「ふむ、ま、ワシは諸君らアウタースレーブを、知識人としてとらえているということもあるし、失礼な話、人としては見ていないから、人より数倍、慈悲がわくということじゃ、いうなれば雨の日の子犬、といったところかな?ははは」


なるほど、そういう感覚なのか、僕は人間としては見られていないにもかかわらず、比較的有効な老人に少し警戒したのでさらに質問する。


「じゃあ、僕の契約書、消してくれますか?」


すると老人はきょとんとした顔でこういった。


「それは無理、わきまえろ馬鹿者」


「す、すいません」


「うむ、しかしま、権利的なものはすでに金貸しから買っておるから、その火傷ぐらいは直してやる、」


「本当ですか!?」


「ふふ、痛みなど感じないから安心せぇ、すぐに腫れも直してやる」


老人はそう言うと、施設に仲間とともに戻っていった。


僕はこの世界で初めて友好的な異人との会話に喜びと安堵をし、いびった男に腹を立て始めた。なかばあきれた顔で、男に顔を向け文句を垂らした。


「それで、その次はなんというつもりだい?ここが最後に来る肥溜めみたいなことを言っていたけど、次はどんなことを言うのかたのしみだな」

憎たらしい質問に男は

訪ねてみると男はあきれ顔で、脱力した顔で、ガスを抜くようなため息をした。


「これは最後の晩餐、だな、俺たち死ぬぜ?」


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