45 舞踏会
「ハルマ様のどは乾いてはいませんか?よければ果物を切りますが」
フェリシーは馬車の馬を操る晴馬にそう問いかけた、都市国家群へと続く道はウーダンカークから遠いほど整備が行き届いていない。そのため馬の速度も遅く馬車の耐久度が低ければ損傷、部品の脱落といったことが起こりそうだ。晴馬はフェリシーが切り分けた果物を取ろうとするが。手綱を持っているためなかなかうまくできない。
「それでしたら私が食べさせてあげましょうか?」
「え?い、いや大丈夫だよ」
「それで馬車がぬかるみにでもはまったら大変です。はい、あーん」
なんだかカロリーネにも同じようなことをされたような気がする、とりあえず口に含み前を見る。フェリシーは隣に座り。一緒に都市群の方向を探っていた。晴馬は正直長旅で嫌々していたがフェリシーにとってはそうでもなかったらしく、この数日とても楽しそうな顔をしていた。
「僕の知っている旅とは全く違うなぁ、なんたってこんなに時間がかかるんだ」
「「それだけでなく過酷ですからね、水は無いし宿はないし野盗はいるし。あなたの世界の旅行と違って命がけですよ」」
僕はてっきり長くても三日ぐらいでつくと踏んでいたが実際は一週間かけてもまだ街には入らない。ため息をつくとフェリシーはクスッと笑った。
「ハルマ様疲れてますね、少しそこの木陰で休憩しませんか?」
「いいや、もう少しで街が見えるはずだからそれまでは踏ん張るよ」
「無理は禁物ですよ?こういう時は余裕を持って行動しないと」
「それなら何で昨日は夜通しで話をするという荒行に出たのか疑問なんだけど、あれが僕に結構な負担を強いた諸悪の根源なんだけど」
晴馬は目にクマを作っていた。フェリシーはどこ吹く風とでも言わんばかりにただ前を見ていた。旅にフェリシーを連れていくのは総合的に見れば正解だった。彼女は身の回りの世話を一手に引き受けてこなしてくれるしあり合わせで作った料理なのに彼女の料理はとてもおいしい、ただ一つ欠点があるとすれば彼女の話好きなところであろう。朝から晩まで世間話や宗教、悪党の今後、晴馬の世界の日常などその気になれば何でも聞いてくる、最近では寝る時間も削る勢いだ。
「だってハルマ様ったらウーダンカークで私と話すことめったにないじゃないですか!こういう時に話さずにいつ話すっていうんですか?!」
鼻息荒くフェリシーは言ってくる。
「しかたないじゃないか、ウーダンカークではやることが多いんだ。今日こうやって行くのだって結局はアマーリアの要望をウーダンカークでは達成できないから来たわけだしプライベートで話すなんてほんのわずかな時間だけだよ」
「それでも少なすぎます!ハルマ様についてきたのはもっとお話ができると思ったから来たのにこのままじゃ意義を失いますよもっと話しましょう」
「ただ僕と話がしたいだけでついてくる君のガッツは認めるよ・・・」
話をしているとやがて街の外形が見えてくる。大きな街並みはいくつも点在するように現れ始めさしずめ都市国家群と呼ぶにふさわしい様相となっていた。間違いなく自由都市国家群が目の前に見えてきたあかしだ。
「さて、どの都市国家にはいればいいのやら」
「ジャンカレットはいかがでしょうハルマ様、あそこならたいていの機械は売っていますよ?」
「よし、まずはそこに・・・」
「幹部じゃな?幹部様がいらしたぞ!」
近衛兵のような男が叫び出す。びっくりしてみてみると男の仲間であろう兵隊が皆喜んだような顔でこちらに走り込んでいた。皆が馬車を囲み進行を妨げる。フェリシーは何が起きたのか全く分からず若干涙目になっていた。暗殺者か?布にかぶせてはいるがグングニールは手元にある。奴らを蒸発させるなど簡単なことだ。
「「よく見てください、恐らく我が国の傭兵かと」」
「傭兵?このワッペンは赤い布地にひびの入った銃の影絵・・・本当だ、ウーダンカーク傭兵団の連中か!」
よく見れば皆銃で武装しているし中にはライフリングの入った銃を持つ狙撃兵の姿も見受けられる。どうやら以前に傭兵として派遣された者たちが僕の顔を知っていて喜んだだけらしい。
「ようこそぞ自由都市国家群へ!ここは平和ないい場所ですじゃ!」
「それは良かった、ジャンカレットという街を知らないか?そこに行きたいんだけど」
「ああ、それでしたらこちらですじゃ。我々が案内しましょう、おいお前たち、幹部様を護送するのじゃ!」
傭兵団の行進と共に案内されるとなんだか大名にでもなったような気分だ、道行く人々がそれを見て異様な光景に思えているだろうが気分がいい、余計な時間をかけずに街に入ることが出来ればなおよしといった塩梅だ。
「ここでの生活はどれくらいだ?」
「はぁ、もうすぐ4か月ほどになります。ここいらの都市は軍備が小さく、我々のような傭兵を導入するのが常でマスケット部隊はとても重宝されてますよ」
「戦闘はあったのか?」
「野党が来たら撃つ、それだけですね」
「楽観的だな、赤霧の教会の件は聞かなかったの?」
その言葉に傭兵はすごい関心を見せた。やはりこの遠い自由都市国家群でも交易という耳で聞くことがあったらしい。傭兵で老兵な彼の目には若干の曇り顔の僕が見える。
「ええ、耳に入っておりますよ、この件で同盟関係となっているこの国は赤霧陣営と現在敵対関係に陥り国境を越えたキャラバンの来訪が激減しました。早いとこ片づけてくれないとこの都市群も傾く危険性があり弱体化を図って王国が攻めてくる危険性もあります」
「そのために我が国はユーヒリアと同盟を結び赤霧・グリーフラントと全面の構えを見せるつもりだ。戦争は避けられないが国家の柱である自由と民主主義の継続のためには仕方ない」
「しかし勝てるので?連中が連合軍なんか出した暁は我々の総力でも勝てるかどうか・・・」
「気にするな、数は武器と地の利でなんとかするとヴィンセントが言っていた。それよりも呼ばれればいつでも戻ってこれるように準備だけはしておいてくれ」
「はい」
老兵との話を横で聞いているフェリシーはふくれっ面になっていた。自分だけ蚊帳の外においてかれたのがきに食わなかったらしく先ほどから指で頬をつついてくる。
「だーれか忘れているんじゃないですかー?」
「いや、そういうわけじゃないよ。こういう話には興味ないかなって思って」
「隙あらばのけ者にして!この旅では積極的に私にもかまってくださいよー!」
「はは、まぁ検討するよ」
苦笑いで終わった晴馬であったが、街に入ると目を光らせてあたりを見回しフェリシーと喜び合い語り合うことになった。晴馬にとって二つ目の訪れた都市であるジャンカレットは非常に特徴的であった。防壁に囲まれた都市は文字通り都市国家というにふさわしく孤独というよりは確固たる誇りと文化を持つ都市に見受けられた。気候が温帯であるがためかウーダンカークよりも涼しく感じるこの街にはウーダンカークを凌駕する人口密度である。
「この狭い面積にこんなに人が棲んでいるなんて、古代都市のようだ」
「待ちゆく人々のほとんどが旅人か商人です、交易都市であるがゆえに人の往来が途絶えることがなく多くの物資が運ばれるんですよ」
「建物もすごく大きい、狭いがゆえに階数を増やして居住地を増やしてい要るのか?」
晴馬は建築についての見識がないがそれでも五階建ての建築物を見ればまるで現代の、地球の都市じゃないかと考えられた。人が集中している、道を整備する、橋を架ける。そして建築物の身長は高くなる。これらは普通に考えれば当たり前のことであるがどうしたってそこに到達するには人間が必要だ。その人たちが生活できるほどのシステムと流通が存在するのであるから地球とどう違うのだろうか?
「ハルマ様はジャンカレットは初めてですか?とても楽しそうですね」
「僕は初めてだね、フェリシーは来たことがあるの?」
「はい、私はマティネスに来る前はその・・・旅人というかそういったものをしておりましたので」
フェリシーは少し曇った顔をした。晴馬が不思議そうに見つめるとはっと我に返りまたいつもの笑顔を向けてくる。
「私のことよりもまずは宿の方を確保しましょう。先ほど言ったようにここは旅人の多い街、早く確保しないと夕方にはあっという間に満員になりますよ?」
「じゃあ馬車の駐車場を確保しないとね」
宿は何とも簡素なものであった。ビジネスホテルというものがどれほど偉大であったかを彷彿とさせるような内容に晴馬はげんなりしたが遊びに来たわけではないと気をしっかりと引き締めて部屋を出る。
「どうしたのフェリシー?」
フェリシーは何やら少々困ったような嬉しいような顔で晴馬の部屋の前で待っていた。手には旅の荷物を抱えており、まだ部屋に運んでいないような様相だ。
「あ、あのハルマ様、先ほど宿の人から大人数の団体予約が入ったと・・・」
もじもじとした感じで言うがフェリシーはちらちらと部屋の中を見ていた。
「は、はぁ」
「それで、どうか部屋を譲ってほしいと宿の人に言われまして私の部屋を明け渡したんです」
「えぇ、じゃあ今日はどこで寝るのさ?」
フェリシーはもじもじと晴馬の部屋を指さした。
「まじで?マジで?」
「そうですね、ベットはひとつしかないですからハルマ様が使っていただければ・・・」
「それよりも男の部屋に入る警戒心を備えたほうがいいと思うんだけど」
「でも、部屋はもう使われてしまって・・・」
なんだかはめられたような内容に聞こえてしょうがないが、部屋がないから馬車で寝ろなんて言えないし仕方ない。フェリシーに風邪をひいてもあっても困るしね。
「僕は馬車で寝るから部屋は自由に使ってもいいよ?」
「だ、だめです!そんな晴馬様が風邪でも引いたら、というかわたしのさくせ・・・ゴホン!今日は非常の策として一緒に寝ましょう!いいですね?!」
「あ、はい」
すごみのある表情でフェリシーは言うと晴馬と彼女自身の荷物を部屋で整理し始めた。整理が終わるころには無理やり部屋から出されていよいよ四分儀を探すことになる。店を練り歩き、道行く人に聞いて回るために店に寄りながら話を聞いていく。
「わからないなぁ、うちで取り扱っているのはワインだけだ、御覧の通り酒樽はよく届けられているが四分儀がきたためしはないよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「というか航海に使う道具ってすごい高価だろ?そんなに売れるってわけでもないし大量には作られないんじゃないか?大抵輸入は香辛料や食料、絹や宝石がメインで、そんな機械が運ばれるなんて聞いたことがない」
「船で運ぶのはそういった食料や衣類が多いのか?」
「大抵の場合機械とかはどこの国も同じような奴を持っているからな、ああでも、格安ネジは飛ぶように売れたなぁ、あれは最高の商品だったぜ」
店主は苦笑いを浮かべて答えた。フェリシーは先ほどから店員にワインの試飲をすすめられあれはあれで楽しんでいるようだがそれを見たくて来たわけじゃないので早々に立ち去ることにした。
「フェリシー、行くよ」
「ぷはあ、分かりました!すぐに行きます、けふ」
「嬢ちゃん一番搾りを飲めてすっかりべろんべろんだねぇ、どうだい?一本買っとくかい?」
次は工房の通りに向かった。技師はそこらじゅうにいるはずだがどこに行けばいいのかいまいちわからない。そもそも何屋さんとかあるのだろうか?一つの工房を見てみれば鍛冶屋があったり、それらしい店はあっても専門で作っているかは怪しい。この街ならばあると思って入ってみたのに大きな誤算である。
「とりあえず聞き込みをするほかないということか」
試しに適当繁な工房に入って聞いてみた。そこでは職人が対応してくれたが依然として芳しくない返答をもらうこととなる。
「さあねぇ、四分儀なんて作ってないよ?そう言ったもんは職人街じゃなくて技師の町に行くべきじゃないのか?」
「技師の町?技師ってどこにいるの?」
「どこにいるかというよりも四分儀を作る町を探すべきじゃないか?」
晴馬は職人の言っている意味ががいまいちわからなかった。それを察した職人は簡単に説明をした。ネジやマスケットの時もそうだが複雑な道具を作るときは一人の職人では作らない、決まって部品や装置を作る専門の技師や職人が組み立ての職人・技師が協力して一つの道具を作るのだ。しかし一つの工房がそれを作るのであれば手作りで作る以上時間が必要で生産量が落ちる。そこで町ぐるみで作ることにより生産量と知名度を上げるというのが中世では一般的なものだった。これが職人の言う「四分儀の作る町」という意味である。
「つまり技師をしらみつぶしに探すよりも生産地を特定する方が早いということか、その町はどこにあるんだ?」
「それを知ってたら苦労はない、職人街のように繁盛しているわけでもないし買いに来る商人は決まった連中だけでそいつらに聞かないとわからないだろうなぁ」
「っち、予想以上にめんどくさいことになったなぁ」
晴馬は舌打ちをした、難航する四分儀探しに不安を隠せなくなってきた。このままではアマーリア達との約束を守れそうもないし、会社の皆を助けることさえ難しい。というか最悪の場合ここに来た理由すらなくなってしまうじゃないか。
「じー」
ふとフェリシーがとあるものを見ていることに気づく、それはこの工房の商品であろう鋳型だ。特徴的な鋳型であったがないかはわからない、職人はフェリシーが興味を示していることを知ると笑って対応した。
「お嬢ちゃん鋳型じゃなくてそれで作られる商品の方が気になるんだろ?」
「え!?いや、そんなことは」
職人はそう言うと工房の奥にある冷気の放つ箱から鋳型を取り出して見せた。晴馬はその正体がよくわからなかったがフェリシーは知っているようで喜んでぴょんぴょん跳ねている。
「俺は鋳型だけでなく菓子職人でもあるんでね、チョコレートってその点よくできているよ」
「この芳醇な香り、これがうわさに聞くチョコレートですか!」
彼は冷凍した鋳型にはまったチョコレートを持ってきたのである。その時晴馬はあれはチョコレートの形を作るための鋳型だったのかと関心した。鋳型は確かに形を成形するのも生産量を上げるにも効率の良いものであり、金属を選定すれば害はない。
「ハルマ様!これ買ってください!」
「えぇえ、フェリシーさっき一番搾りの高級ワインを買ったばかりじゃないか」
「何言っているんですか固形チョコレートですよ!?しかもこの街のチョコレートは苦くないこ甘いチョコレートで有名なんです!買うことすら難しいチョコレートが今ここにあるんですよ!?」
「あのさぁ、カカオとか砂糖の原材料はうちの(正統グリーフラントは熱帯気候)ほうにいくらでもあるんだから作ろうと思えばすぐにできるんだよ?」
「だってハルマ様の手料理糞不味くて皆嘔吐するじゃないですか、そんなの食べたくないですよ」
「僕は添加物で育ったからああいう味しか知らないの!」
フェリシーがいかにお菓子好きかをその後数十分にわたり説明さるが晴馬にはいまいち響かない。晴馬はチョコレート自体そこまで好きでもないし旅費を浪費することに抵抗を感じていたしそれよりも早く例の物品を探しに行きたいという考えがあったからだ。
「「私も食べてみたいですけどねぇ」」
今度はユッタが言い始めた。
「ユッタ、君まで何を言い出すんだ」
「「チョコレートって贅沢品で食べたことがないんですよ、フェリシーさんも食べてみたいみたいですし一度くらいいいんじゃないですか?」」
ユッタが食欲にここまで興味を示すのは初めてだ。そもそも彼女は食べるという行為自体難しい話ではないだろうか?彼女の躰は僕が使っている以上彼女の意思で動かすことはできない。彼女にそれを要求することもまた難しい。つまり彼女の意見は僕が採用しない限り思い通りにいかないということだ。うーん、僕としてはできるだけくみ取りたいところだが、何かフェリシーのためにユッタが一芝居打っているような気さえする。一度探っているか。
「ユッタって甘いもの好きだっけ?」
「「まぁ、私ももとをただせば乙女ですし、それなりには」」
「例えばどんな菓子が好きなの?」
「「え、うーん。昔食べたクッキーは最高においしかったですけどね。軍事行動中の貴重な糖分ですし」」
「小さいころに菓子とか食べなかったの?貴族なのに?」
「「貴族というか、お姉さまの手助けのために軍事教練と勉学をひたすらやっていましたのでそこまで食べてはいないですね」」
ユッタからはあまり良い返事は帰ってこなかった。どうやらそこまで好きではないらしい。やはりフェリシーのために一芝居打ってるということか。まったく、なんでそんなことをするのかわからない。
「ふう、仕方ないな。一つ買うとするか」
「やった!」
フェリシーは両手を上げて喜んだ。晴馬は職人に銀貨を渡そうとするが職人は苦笑いして返事した。
「い、いやぁ、見せれば満足するかと思って持ってきた手前申し訳ないんだがこれを売ることはできないんだよ」
「え!?何でですか?!」
「実はこれは舞踏会のために用意したものでね、売ってあげたいんだがこれで品切れといったところなんだ」
フェリシーは先ほどまでの笑顔が嘘で逢ったかのようにガーンと憎そうにチョコレートを拝んだが、晴馬は舞踏会という言葉に反応した。
「舞踏会って誰が集まるの?」
「誰がって、ここいらの支配している諸侯や上流階級の奴らかな?最近独立したばっかの小国だが貴族というか支配層はいち早く組織したらしいぜ?まったくご苦労なことだ、各都市の代表で構成された議会の連中が今晩舞踏会を開くんだ」
「ふうん、じゃあそこの連中に手配してもらえば四分儀なんてすぐに見つかるってわけだ」
「え?まさか行くつもりなのか?」
職人は冗談だろうと言わんばかりに苦笑いを見せる。どうやら非常識に思われたらしく顔をひきつらせたまま晴馬を見つける。
「「いいですか晴馬、舞踏会は飛び入り参加できるような催しものではないのです。普通は招待状か、それ相応の身分の者が行くところなんですよ?」」
「しかしここに参加できれば一発で見つかるぜ?」
「「参加できればって、では聞きますが舞踏会で踊ることが出来るんですか?その服装で行くんですか?あなたが中世のコスプレの類のものを着せられて男のパートを貴婦人相手に踊ることが出来るとは思えないのですが?」」
「一様僕は幹部だし行かない手はない気も・・・」
「「幹部って言っても大臣や軍人ではないでしょう?生産顧問がいかに国で重要であっても知名度の観点から言って社公場で見向きもされませんよ」」
その発想はなかった、そういえば舞踏会って踊るから舞踏会なんだよな。話をしたいならば会談でも開けばいいのだろうがそれも難しい話だ。悪党の指導者であるアマーリアや、軍の最高指導者であるヴィンセントや大臣たちのような人が行けば話は別かも知れないが僕は生産顧問というあいまいなポジションのしがない幹部だ。この世界の人々ならば家柄も不詳ならば舞踏会など夢のまた夢であることは間違いない。招待状か、どうしたら手に入る者か。
「今回は舞踏会と言っても国内だけじゃない、国外の隣国マーズ王国からも貴族が参加しているって噂だ」
「ん?今なんと?」
「マーズ王国だ、悪党との同盟関係により最近外交がぎくしゃくしてな、関係修繕のためにこの舞踏会はかなり重要な物なんだ」
「ふーん」
マーズ王国、そういえばマティネスにいたころにそこの王立騎士団に在籍していた人がいたな。結構彼女のことは助けたしもし参加していれば・・・まさかね?そんなうまくいかないよね?
「ねぇ、そこには武官が参加するとかっていう噂はないの?例えばベル・・・王立騎士団の人間とか」
「おお、よく知っているなぁ、今日はえらい別嬪さんが来ることになっている、最近ようやく剣礼が終わってマーズの騎士団幹部に就任したとかいう女の初の社交デビューだ」
「マティネス学院に在籍している?」
「ん?さぁな?というかやけに詳しいな。ゆうじんでもいる・・・わけないよな?」
晴馬は薄ら笑いを浮かべる、ニヤッとした笑い方には何か含んでいるような笑みであった。いる、確かにいるさ一人王立騎士団に在籍して美人で幹部になりそうなやつが一人いる。
「ハルマ様、ひょっとして頼みにの綱の人はあの人じゃ」
「まあね」
「考えてくださいよハルマ様!向こうはマーズ貴族として出席するんですよ!?赤霧の教会を国教としている国の人間に会いに行くのが何を意味するのかわかっているんですか!?」
「勿論知っているさ、それを知ってでも四分儀を早期発見する」
フェリシーは表情が強張る、晴馬はどういう心理状態であったのかは知らないが相変わらず無表情というか日本人独特の興味のなさそうな顔で職人に向き合った。
「職人、外賓の宿泊施設を教えてくれ」
「おいおい、まさかほんとうにいくのかい!?」
「いくほかないだろう?そこに行けば四分儀を見つけることだってできるしね」
晴馬はそう言うと職人に情報量と言わんばかりに職人に金貨を一枚渡して工房を出た。職人はめったに見ない金貨に驚いた。普通に考えれば路銀にこんなものを持ち歩く奴なんていない。職人はその時初めてこの男が只者ではない人間であると知ることになる。さっきまではただの商人程度にしか考えていなかったその男のバックには何があるのか職人にはもはやわからないでいた。
「お兄さん、参考までに聞くけどあんたの肩書って何だい?称号とか勲章とか、いろいろあるだろ?」
職人は呆れ半分に聞いた。平民では到底参加できないということを晴馬にわからせたかったのだろう。
「聞いて巻き込まれるのも困るでしょ?こう言うのは知らぬが仏ってね」
「それでも知りたいのが人間じゃないか」
「そう、カロリーネ曰く悪党高級幹部、生産顧問の高野晴馬だ」
「悪党!?じゃあマーズの人間と会うなんて絶対にやめとけって連中にとっては異端の人間だぞ!?」
「異端だろうが関係ないね、僕だってここには遊びに来ているわけじゃない悪党の未来のためにきているんだ。それにベルダだったらわかってくれる、きっといい感じに紛れることもできるさ」
「嫌そうかもしれないけど・・・あ~、俺にはもうよくわからん」
「なら、いいじゃないか、これ以上巻き込まれることもないだろう」
晴馬はそういって工房をさった。今思えば自由都市国家群の代表と会うという手もあったがマーズの人間が来ているのに悪党がいるとなれば大問題になるだろうからまず言って国外退去を余儀なくされる危険性があるだろう。そうなれば四分儀を特定することは余計難しい。もはやこれが最善の策で、最悪の策なんだろうと自覚する。
「まずは衣装かな?それとも踊りの練習か?マナーか?いいやまずはいるかもわからないベルダに会いに行くことが最重要だろうなぁ」
「ハルマ様暢気な事を言っている場合じゃありません!こんな最悪の再開ベルダ様も望んでいないはずですよ!」
「ならいつ再開すれば良いっていうのさ。フェリシー、いつあったって最悪だよ。赤霧の教会を敵に回した時点で遅かれ早かれそういう事はわかりきっていることじゃないか」
「それでも、今じゃないはずです」
フェリシーは何かを隠している。ベルダの感情をくみ取ってあえてその本心を言わないで僕に話しかけていることが伝わってくる。
「フェリシー」
晴馬は止まってフェリシーに顔を向ける。その表情には何とも言えない悲しい顔がうかがえた。フェリシーは晴馬がなにがいいたいのかはわからなかったがそれでも本人が本意であるわけではないことがうかがえた。晴馬にとってはわずかな期間であったとしてもベルダは戦友なのだ。そんなベルダとの再会をこんなふうにして合うことも晴馬は望んではいないようだ。が、それでも晴馬はあえて発言した。
「しょうがないじゃないか」
「どうぞ、こちらです」
案内された会場は晴馬が嫌いそうな美術の時間にでも出てきそうな絵画や天井が存在し、装飾に彩られた照明、洗練された家具、そして人々が語る話し声が所狭しと聞こえてきた。
舞踏会は一見見たところとても豊かで華やかな催しものである。だが、その裏には誰もが予想できないほどの駆け引きが存在していた、相手の値踏、外交、家柄、こういったものをここぞばかりに展開されてワルツの旋律と共に進行している。ただまぁ「会議は踊るされど進まず」なんていうウィーン会議もあるように何もそれが大多数ではないごくわずか?な話題だ。楽しめない舞踏会なんて無言の同窓会のようなものだ。つまり楽しめるだけの教養が必要になる。
「まぁ、不思議な方がいらっしゃるわ!」
一人の貴婦人がとある男い近寄ってきた。一人すっとんきょな男が入って来たので珍しがったのだ。無作法だからとかではなく不思議な礼装をしている男がいたのだ。本人は平安貴族の礼服だといった。ユッタは其れで踊るのかと苦笑を感じる。束帯と呼ばれる礼装を身にまとった男は急ごしらえの服に悪戦苦闘しながら貴婦人と話をつづける。
「お初にお目に掛かりますがどちらからいらしたんですの?」
「はは、ここから遥か東方にある国から遠路はるばるといったところですかね。ここに来たのは奇跡のようなもので」
「まぁ!大陸の遠くからこの隅っこにいらしたの、ということはさぞ苦しい航海でしでしょうに。それで見慣れない衣装をまとっていらしたのね」
「ええ、浮揚艦が流れ着いたのがここで、でも、こんな美しい貴婦人に合えるとわかっていたらいの一番に来たのに」
勿論晴馬がしゃべっているわけではない。これはユッタがとりあえずしゃべっているのだ。社公場を経験するユッタの方が間違いなく有利であろうという考えからしたまでである。ユッタは言葉だ巧みに貴婦人と話すがいつかはボロが出る。そうなる前にサポートする人間が必要だ。
「貴方、こんなお美しい貴婦人との会話を独占してはいけませんわ、私たちはあくまでも特別に自由都市国家群に招待されて参加した身、この舞踏会はマーズ王国との交友を目的にした舞踏会なのよ?主役に任せて私たちは見届けましょう」
スレンダーな彼女は肢体を余すことなく魅力的にするドレスに身を包み晴馬の元に現れた。生娘のような初々しさはあれど落ち着いた態度と言葉遣いからも他の追随を許さない気品が感じられる。まぁ簡単に言えば晴馬には到底手に入らないものだということだ。工業高校には女子も少ないから普通高に比べて見栄もないので着飾ろうという意識がない。
「すまないフェリシー、確かにその通りだ」
フェリシーのサポートを受け踊りにはいかずに退避する。フェリシーは行き届いた礼儀作法や凛とした態度、そういった気風を感じさせる態度をもって他を圧倒し失言や無礼、落ち度を作らせまいと他の人間が近寄らないようにする。もしこれで近寄ろうとするものならば一蹴して小ばかにするまでだ。出ないと踊ることもできない晴馬が逆に馬鹿にされて浮いてしまう。
「助かりましたフェリシー、まさかあなたが舞踏会を経験済みであったなんて」
「え?ま、まぁ私はマティネスで見た物を見よう見まねでやってるだけですよ、それにしても様になっていますねぇ。あんな短時間でよく覚えられたと感心しますよハルマ様、仕立て屋に急ピッチで作らせたその衣装も異国情緒あふれてかなりいいですよ?」
フェリシーはユッタの存在を知らないためまるで晴馬が自分で体得したかのように思っていた。現実は晴馬が踊っているわけではないのだが・・・。
「話はつけました、四分儀は間違いなく手に入るでしょう」
「目的は成功ですか、ならば早々に帰りましょう。それが『約束』でしたから」
「もちろんです、が、どうやらそれはあなただけに向けられた言葉らしいですよ?」
そういって向けられた視線には間違いなく今日の主役と言わんばかりに踊る一人の武官がいた、彼女は身分は決して高くはないが来賓のマーズ貴族の警護、身の回りの世話をする侍女としてここに派遣された彼女の舞踏会での輝かしさは目を見張るものがあった。しかしながら王族より目立つということはあまりいい判断ではない。敵に回せば本国での生活にも関わる行為だ。それを狙ってか、武官は一通り目立った後に立ち去って陰に努めるという引き立て役をはたした。つまりもう踊る必要はないということだ。
「言い踊りでしたよベルダ、私とぜひ一曲踊りませんか?」
「あら、ありがとう隊長。でもそれじゃあ戦争になるわ」
ベルダは笑顔で晴馬の誘いを断った。お互いの距離は決して遠くはないが、表には出せない感情がうごめいてとても遠い関係を表している。どちらも見つめ合い無言であったが夢中なほかの人々には目にも止まらなかった。
「この館のバルコニーに出ましょう?話はそこでするわ」
投降ペースを落とします、詳しくは活動報告書に書いてあるので読んでください




